原作に設定が無かったと思います。
無いですよね?
ですが、夏紀には弟がいます。
オリキャラです。
昨日も利用した大津インターチェンジから名神高速に入る。
インターチェンジ(IC)とサービスエリア(SA)が一緒になっているが、ICからSAには入れない。
車内の会話は、自然と吹奏楽部のことになっていた。
「実は私、高校時代の吹部で、あすか先輩……田中あすか先輩と、二年間一緒にユーフォやってたんですね。まあ、最初の一年はロクに練習してないんですが……。あすか先輩知ってますか?」
田中あすか。音楽関係者であれば、知らない訳がない。
吹奏楽の楽器の中では知らない人も多かった『ユーフォニアム』の知名度を、トランペットやフルートと同等に知らしめた伝説のユーフォニアム奏者。
律も放課後ティータイムだった頃に一回か二回、大学生だった彼女と顔を合わせたことがある。
「有名なユーフォ奏者じゃないですか。もちろん知ってますよ」
そういえば、ムギと意気投合していた気もする。
「あすか先輩かなり自由な人ですから、時々行方不明になるんですよね。吹部のメンバーに聞いても、誰も住んでいる場所さえ知らないし」
常に世界各地を飛び回っているらしい。
「結婚式の招待状を送るときに困って、実家に送ってみたんですよ。住所は知ってるので」
大学卒業以前の経歴は、一切謎である。
「そしたら先輩のお母さんから電話があって、居所どころか連絡先さえ知らなかったんですね。テレビ取材が来るけど、本人がいないから困るって」
ここ数年は田中あすかをテレビで見かけた記憶はない。
もともと音楽番組を含め、生放送には一切出演しないことで有名ではあるが……。
今も行方不明のままなのだろう。
「でも、結婚式当日に祝電が届いたんですね。しかも式場に」
そういえば、夏紀は去年結婚したと言っていた。
「あれはとても嬉しかったですね……」
そう。
あまりにも公に姿を見せないので、死亡したのではないかと噂されている。
しかし、この話が本当ならば、去年の時点で生存が確認できた。
大袈裟かもしれないが、それほどなのだ。
「あの自由っぷりは高校の頃からですか?」
「流石に。三年の時は副部長でしたから」
新情報 田中あすか、高校時代は副部長。
「とにかく練習時間が削られることを嫌ってましたからね。後輩が失恋したとき、練習に身が入らなくて、めちゃくちゃ怒ってました」
怒る?
「田中さんって怒るんですか? 怒鳴るようなイメージ無いですけど」
「怒鳴りませんよ。顔は物凄く恐かったです」
「そういうタイプの 怒る ですか。なるほど……。あ、ハイウェイラジオ付けますね」
渋滞情報があるらしいので、律はラジオを付けた。
『ハイウェイラジオ。金勝山トンネル上りより、お伝えしました』
『はい! お待たせしました~』
ハイウェイラジオを切るとき、手が滑って普通のラジオに切り替えてしまった。
『今日のこのコーナー。物申す! のお時間です。今日は、岐阜県
切ろうと思ったが、同じ岐阜県(と言っても滅茶苦茶遠いが……)在住の人の話らしいので、気になってそのままにした。
『嫁に言いたい』
嫁。
ここにいるのは、嫁と元嫁。二人とも続きが気になっている。
『結婚して大分経つ。いくら高校時代からの付き合いとはいえ。いい加減止めて欲しい。初めて会ったあの日からずっと、俺のことを苗字にさん付けで呼ぶのを……』
苗字にさん付け。律ならば、中山さん。夏紀は、芳川さん。
『俺は婿養子だから、その苗字は旧姓なんだ……』
のろけかよ……。
律は苦笑い。
顔は見れないけれど、夏紀も同じ様に苦笑いしているのだろう。
「
律にはきつい質問が……。
「バツイチです」
「あ……」
夏紀は触れてはいけないところに触れてしまったと思い、冷や汗が垂れる。
「気にしないでください。夫が嫌いになったりDVがあって離婚した訳じゃないんで」
普段なら、『触れてほしくないところに触れられた』や『ほっとけ』などと思う。
しかし、いつもと違って不思議と嫌だとは思わなかった。
のろけラジオの影響もあるだろう。
でも、この人には言っておきたい みたいな感じだろうか。夏紀には、律にそう思わせる何かがあるようだ。
そこで再び、夏紀の携帯が鳴った。
さっきのガラケーではなく、今度はスマートホンだ。
「げ……」
着信相手は誰だろうか。確認するなり、あかるさまに嫌そうな声を出した。
でも応答した。
「もしもし
相手は酔っ払いか……。
「知らないよ。ってか、ハルは? 今日休みでしょ。えっ? 今家にいないの? じゃあ、今どこにいるの?」
関わらない方が良いか?
とはいえ、盗み聞くつもりがなくても、狭い車内では嫌でも聞こえてくる。
それに、夏紀も通話を聞かれたくない素振りは見せない。
仕方なく、律はそのまま聞くことにした。
「は? 誰があんたのことお姉ちゃんと呼ぶか。いや、確かにあんたの方が2ヶ月だけ年上だろうけど」
2ヶ月だけ に力を込めて……。
「それだけの用で電話してきたんなら切るよ。えっ? お土産なら買ったから。待ってな」
土産……? 夏紀の荷物にそれらしいものは見当たらないが。
「はい。それじゃあ……」
電話を切った。
「はあ……」
電話をしまうのと同時に大きな溜息。
「すみません。お恥ずかしいところを……」
夏紀が口を開く。
「
悪まで、聞こえていた感を装う。それも、あながち間違ってはいない。
「弟の嫁からです」
弟の嫁……。
律にも弟と弟の嫁がいるので、何となく気になった。
「仲良いんですか?」
「高校の頃からの付き合いですからね。仲良いというか、腐れ縁というか……」
高校の頃から……もしかして。
「吹部も同じだったとか?」
「その通りです。よく分かりましたね」
律は運転中なので直視できないが、夏紀の顔はとっても嬉しそう。
「彼女が部長で私は副部長。私たちの代は関西でダメ金だったんですね。でも、
全国で金賞。今久美子は28歳……。
「
律に思い当たる節があり、そう言ってみた。
「えっ」
またも、顔色は窺えない。
でも、驚いている様子。
「あの二人から聞きました?」
「いえ。黄前さん達からは何も……」
「中山さん本当に凄いですね。私たちの出身校が北宇治だって分かったし、ユーフォニアムも知ってた……。中山さん、何者ですか?」
しまった、言い過ぎた。律はそう思った。
しかも、昨夜も同じ会話をしている。今度こそ気づかれたのだろうか?
しかし、夏紀の声色は
上手く誤魔化せるだろう……。
「ちょっと音楽に詳しいだけです。私も高校時代軽音楽部で部長やってましたから……」
「なるほど。道理で詳しいんですね」
誤魔化せたか?
あまり登場キャラクターを増やしても、うまく操れない(?)ので、抑えています。
察しの良い方はお気づきかもしれませんが、今回ラジオで登場した、とある作品のキャラはこの一回のみの登場予定です。