そんな出会いもあったのでしょう。   作:≒=≠

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第1話

コーヒーは?

 

と、荒野で見つけた、珍しい文明的な移動喫茶のような、全く関係なさそうな、一台の軽トラックに声をかける。

幌で覆った荷台から、高いよ?という声が聞こえてくる。

 

配下の傭兵を展開する先の調査で、たまにはとコソコソ一人でやってきた先で出会ったのは、出会える機会がほぼないと、その筋では有名なトランスポーターだった。

 

そういえばこいつも新しくなった古巣と契約を結んでいるのだっけか。と、探らせている内情の情報を思い浮かべる。

 

それはそれとして。

 

 

「龍門幣換算で1000は随分と足元を見てくるのね」

 

と文句をつける。

龍門の市街は、ほとんど訪れたことはないが、聞いたことのある相場と比べれば、5倍は硬い。

当然戦場でなにが一番高価かは知っている。知っているが、それとこれとは別の話。

 

「私が淹れたんだから。それくらいは当然さ」

 

と、ちょうど、自分の分も淹れていたのだろうか。

 

ひょっこり顔を出して差し出してくるカップにつられて、軽トラックの荷台から、芳醇な香りが漂ってくる。

 

曰く、昨日焙煎したばかりだというコーヒーは、戦場の代用品とは全く異なる味をしている。

 

景気付け、というか、それを飲んだところで、特別な思い入れがあるわけでもない。

 

別に味の風味を効き分ける趣味もなければ、それは自分にとって大して理由のない差異だ。

 

ただ、ふと。

 

自分の記憶の中にいるあの人は、こんな高級なものを、過去には嗜んでいたりしたのかしら。という、それだけの感傷でしかない。

 

 

「こんなところで出会うなんてね」

 

と、自分のことを向こうも知っている前提で話を進める。

 

「私は、求められればどこへでも。さ」

 

と、他に誰かの姿も見えず、つまりは自分が依頼した配送物はトランスポーターの間をめぐり巡って、この堕天使が受け持つことになったらしい。

 

「で、頼んでいたものは持ってきてくれたの」

 

「ちゃんと持ってきたさ。とはいえ、せめてその飲みかけのものを、しっかり味わってからにして欲しいね」

 

言ってしまえば、ちゃんと注文の品さえ届けば、自分に文句はない。

それよりも、高い対価を支払って自分の口に入ったのが泥水だと思うと、イマイチいい気はしない。

 

「あいにく違いなんてわからないの。悪魔には不要なものよ」

 

ズズッと、ほろ苦いそれの残りを流し込む。

ここからは仕事の話。

 

「まぁ、いいけど」

 

と、仕事の話に切り替える。

 

「あと、これの整備もお願いできる?あなたには懐かしいものでしょ?」

 

ごと、と荷台に置いたのは、自分の愛用の改造銃。

 

「遠慮がないなぁ」

 

と、細めた目には、どろっとした色が一瞬浮かんで消えた。

 

「まぁ、私は使えないだけで、整備できないってわけじゃないし」

 

と、青髪の堕天使は、複雑な思いで違法改造されたグレネードランチャーを手に取る。

 

戦場にあったその銃は、各部が激しく磨耗している。

 

付け焼き刃の知識でどれだけ手入れをしたとて、本職の整備が施されない限りは、どんどん痛みは積み重なっていく。

 

「あなたも、もっと堕ちてくればいいのに」

 

と、元天使にこぼす。底にいる者からすれば、遥か高みでキラキラ輝いていたそいつは、一歩降ったところで、随分と高いとこにいることには変わりない。

 

「君にはわからないよ」

 

と、堕天使はいうけれど。

 

「あら、そう?私は自分が底にいるっていう自覚はあるけれど」

 

「あいにく生まれも育ちも良くてね。まだ一歩踏み外しただけさ」

 

そのまま底まで転がり落ちる趣味はないよ。

 

と、堕天使はいう。

 

「二度目はないよ」

 

それは、強い拒絶の言葉だ。

 

「はいはい」

 

白髪の悪魔は、両手を上げて肩を竦める。。

 

「じゃ、邪魔にならないように離れているわ」

 

悪魔が離れたところで、堕天使は小さくひとりごちる。

 

「そうさ。私は後にも先にもあれっきりで終わりなんだ」

 

 

 

 

 

「長生きできないよ」

 

と、納品を終えたそいつが言う。

 

「生きながらえる趣味はないもの」

 

これは本心。と、ふと、願掛けのような発想が浮かぶ。

 

「ねぇ、トランスポーターさん」

 

「なんだい?」

 

「こんなお願いも運んでくれるのかしら」

 

「代金さえもらえたらね」

 

「じゃあ、未来の。ロドス・アイランドのWへ」

 

「受け取り人がいなけちゃ届けられないよ?」

 

「まぁありえないけど。持ってきてくれたら上乗せで報酬を払ってあげる」

 

「オッケー。サービスしよう。後払いでいいよ」

 

「あら珍しいのね」

 

「受け取りの時はチップを上乗せで頼むよ」

 

「いいわ。相場の倍は乗せてあげる」

 

「踏み倒さないようにせいぜい手持ちを残しておくんだね」

 

「手持ちは自分の命だけ。まぁ、せいぜい気をつけておくわ」

 

そういって別れたのは、どこの荒野だったか。

 

きっと来ないだろうそんな未来。

 

もしまた笑えたら。なんて、そんな希望を詰め込んで、自分から切り離す。

 

心に、余計な重りは不要だ。

 

最初の熱さえ残っていればそれでいい。

 

心の信管に火花を飛ばす。

 

私は一人の傭兵、W。

それ以外の感傷は不要だ。

 

 

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