―“怒り”を継ぐ者―   作:サクランボーイ

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解き放たれる怒り

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の地下にある倉庫は今は、ファントムによって壊された上の酒場の代わりとして使用されている。

 そこにギルドのほぼ全員が集まっているのだが、誰一人として言葉を発することなく皆一様にあるモノを見つめていた。

 

 妖精の尻尾の魔導士、レビィ・マクガーデン。

 シャドウギアのリーダーである彼女の腕には、血に塗れたボロボロの黒いジャケット。その持ち主はここにはいない()()のものであり、その誰かが問題だということ。

 唯一の手掛かりとなるのはジャケットに張り付けられた紙。そこにはこう書き記されている。

 

 “そちらのギルドメンバーの一人を預かっている。

 こちらに()()を傷つける意思はない。故に彼女と邂逅することを条件とした親睦会、並びに今回の非礼のお詫びも兼ねてギルド間の交流を深めたい。諸君等の来訪心よりお待ちしている。

 幽鬼の支配者(ファントムロード)ギルドマスター  ──ジョゼ・ポーラ──”

 

「これは、どういう事だよ……ッ!」

 

 あり余る悔しさや怒りを震える体で訴えるナツはまるで理解できない、したくないと歯を食いしばりここにいる全員に叫ぶ。

 

「なあ!! 一体どういうことなんだよッ!!」

 

 昨日に引き続きまたもファントムからの宣戦布告とも取れる行いに、我慢の限界をとうに超えて溢れる激情を吐露する。

 この手紙の内容にではない。問題はここにあるジャケットがリィリスのもので、当の本人がここにいないということだ。

 

「……私たちがファントムに襲われている所にリィリスが助けてくれたの……それでなんとかジェットとドロイを安全なところまで避難させた後、彼女を探していたんだけど……」

「そこでこれを見つけたってわけか」

 

 グレイの続けた内容にこくりと力なく頷くレビィ。その表情には疲労の色が濃く、泣き腫らした目には隈があり彼女が一睡もしていないと伺わせるに十分な顔色の悪さだった。

 昨日の夜、レビィとジェットにドロイの三人は外を出て回っていた所に背後から襲われジェットとドロイが彼女を庇い怪我を負ったのだ。幸い二人とも命の危険はないそうで、今は病院で安静にしている。

 

「レビィ、その時の事をもう少し詳しく話してくれないか?」

 

 こんな時こそ冷静に話を進めるようという姿勢を見せるエルザの言葉に今度は強く、そしてはっきりと頷いた。

 

 

 

 

 

 夜に包まれ静まる街の中、広い路地をレビィ、ドロイ、ジェットの三人チーム“シャドウギア”が歩く。

 

「いいのかレビィ?」

「ラキ達と女子寮にいた方がいいんじゃねえか?」

「いいのいいの。私たちチームじゃん?」

「「レビィ~~!! ──ッ!」」

 

 語尾にハートでも付いてそうな間の抜けた声でリーダー(意中の相手)の名を口にする二人にまっすぐな笑顔を向けていたレビィは、彼らが何かに気づいた素振りを見せた後、焦った様子でこちらを突き飛ばしたことに驚きの声を上げる。

 

「ち、ちょっと!?」

 

 いきなり何をするんだと、尻もちをついた大勢で二人に抗議しようとしたが。

 

「ぐうっ!?」

「れ、ビィ……ッ」

 

 柔らかいものを叩きつける鈍く嫌な音がすぐそこから鳴り渡った。

 

「ジェット、ドロイ!? くっ、誰!!」

 

 彼女はすぐさま状況を理解する。

 ──自分たちは何者かに襲撃された。

 

 倒れこむ二人を気にする隙さえ与えてはならぬと警戒を露にする。

 

 (いくら気が抜けていたとは言え、二人が一撃で倒されるなんてッ)

 

 そんな芸当ができるのは魔導士、それもナツやグレイ。下手をすればそれ以上の、もしかすると──

 その先のさらなる可能性。その最悪を否定したくて、レビィは襲撃者を視界に収める。

 

「──そんなっ!?」

「ギヒッ」

 

 (最悪だッ、よりによってコイツ!?)

 

 鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

 “鉄竜(くろがね)のガジル”の異名を持つファントムきっての魔導士。

 レビィの頭の中で、この者と真っ向から立ち向かえるのはそれこそナツやグレイ、エルザといった実力者しか思い浮かばなかった。そんな彼らでさえ苦戦し得る強さを持っているのだ。

 こんな相手、ましてや自分一人で敵うわけ。

 

「おい、ボーッとしてっと潰しちまうぞ?」

「しま──ッ!」

 

 暗く沈む思考に気を取られたほんの一瞬、意識を戻せばすぐそこに凶悪な顔をした鉄竜のガジル。

 レビィは何も出来ずに倒れゆく自分の姿を幻視し、来たる激痛に恐怖を堪えて待つしかできなかった。

 硬く握りしめられた拳が彼女に届く。

 

「──ごッ!?」

 

 刹那、ガジルの顔面にブーツがめり込んでいた。

 

「えっ!?」

「っりゃあァァッ!!」

 

 何者かがそのままガジルを蹴り抜いたことで猛スピードですぐ隣の建物に衝突し、瓦礫の破片を飛び散らせながら大きく崩れた瓦礫に埋もれた。

 

「はっ、はッ、ギリギリセーフ。いや、ハッ、アウト、かな……これはッ」

 

 色素の抜けた紫色の髪を風に揺らし自分よりも小さい体で力強く、それでいて頼もしさを与えてくれる立ち姿でギルドで見る時以上に心から安心させてくれる彼女は──

 

「り、リィリス!? なんでここに!」

 

 今頃ルーシィの家でお泊まり会をしている筈の少女がどうしてかここにいた。

 

「はー、はーっ…… アタシはただ、汚いクソ野郎の気配を感じたから、そのまま洗い流そうと思って、直感でここまで来ただけ」

 

(直感って。ルーちゃんの所からここまでの距離はだいぶ離れているのに……でも、嘘をつく娘じゃないし。それに息を荒げてるってことはここに来るのに走ってきたってこと……!?)

 

 そんな本当か嘘なのか分からないことを口にするリィリスは、ガジルの飛んでいった方を睨み続けている。

 

「これも惚れた弱みってやつ? 二人して庇っちゃってさ。カッコつけちゃって、まったく。

 でも、こいつらのおかげでアンタだけはこうして守れた」

 

 まさにギリギリのタイミングでリィリスはレビィの身を守ったのだ。二人の漢を代償として──。

 彼女がここに着いた時には既にガジルによってシャドウギアが襲撃される直前であったのだから。

 

 その言葉にハッとしたレビィは倒れているジェットとドロイに駆け寄り、意識が混濁している二人の顔が辛そうに歪むのを唇を噛み、『この二人のおかげで私は無事でいるんだッ。なら、二人の為になにかしないと!』そう強く決意を固めた。

 

「視界の悪い夜に背後からの不意打ちなんて。随分と妖精がお怖いようで、亡霊さん?」

「あァ……? 舐めたこと言ってくれんじゃねえか、クソガキ。何者だ、テメェ」

 

 あれだけの勢いで壁に激突したのにも関わらず、瓦礫を掻き分けて出てきたガジルは信じられない事にどこにも傷を負っていなかった。

 

 (あんな強い一撃を受けたのにまったくダメージがないなんて……! やっぱり、リィリスじゃこいつ相手になんて勝てないよッ)

 

 内心諦めかけるレビィとは対照に、ガジルの健在さを見てもまったく動じることのないリィリスは、そんなこと分かっていたと言いたげな冷めた瞳を威嚇をしながら問い詰めるガジルに向ける。

 

「アタシは……」

 

 一度その瞳を閉した後、もう一度見開き今度は熱く燃える眼で真っ直ぐ見据える。

 そしてこれから吐き出す想いを前に、息を大きく吸い込み堂々と名乗りを上げた。

 

「アタシは妖精の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士──リィリス。

 今からアンタをぶちのめす!!」

 

 右腕をガジルに向け掌を見せつける彼女の振る舞いは、(ここ)に刻まれた赤色のギルドマークをしかとその目に焼き付けろと言っているかのようだ。

 そう、これこそが自分の誇りであり戦う意義だと言うように。

 

「ハッ、なるほどね。てめェ、妖精の尻尾(けつ)のモンか。それでギルド荒らされた腹いせしに来たって訳か」

「その通り。ギルド壊したのアンタだろ? あの時は本気で怒り狂いそうで久々に()()()()()()()

「ギヒッ! そうかい!!」

 

 (食いまくったって、まさか食べ物を?)

 

 大量の食べ物をやけ食いするリィリスを想像したレビィが、結構しっくりくるかも。なんて思ってしまったのはここだけの話。

 

 一方、短くも簡潔に交わされていた二人の会話は、ガジルの突進によって終わりを告げた。

 砂塵を巻き上げ獰猛な笑み──肉食獣のそれを思わせる彼の気迫は離れているレビィさえ怯むほど。そんなものを真正面から、しかも目で追うのもやっとなスピードで振るわれる拳を前にしても、リィリスは引く姿勢を見せはしなかった。

 

 響く打撃音。

 

 (ガジルが放った拳を自分の拳で相殺したッ!?)

 

 なんと鉄竜の名を持つガジルの拳をリィリスは避けるでもカウンターをするでもなく、自らも繰り出した左拳でガジルの右ストレートに合わせ二つの拳を組み付かせていたのだ。

 どう見ても二人の体格差は歴然としている。だと言うのに打ち合わされた拳は拮抗していた。

 彼女の予想外の動きにまさかと目を見開くガジルだったが、徐々に押し返される自身の拳にさらなる衝撃を受ける。

 

 力負けしているのだ、まだ子供と言える少女に。

 

 その事実にとてつもない怒りと恥辱で反射的にガジルは魔法を使い、右腕を鉄に変質させると同時に強化された身体能力に物言わせ、少女の小さな身体ごと突き出す。

 鉄に変化した彼の拳はそのまま猛スピードで伸長し、リィリスを拳ごと弾き返した。

 

 “鉄竜棍(てつりゅうこん)

 

 彼の得意とする攻撃魔法。自身の体質を鉄に変化させる滅竜魔法で繰り出されるその一撃は、並の魔導士であっても大ダメージは確実。

 それを証明するかのように、弾かれたリィリスの拳には血が滲み早くも赤く腫れ始めていた。

 

 この機を逃すものかとすぐさま追撃を仕掛る。

 圧縮される時間の中、獲物(リィリス)に向かう捕食者(ガジル)の目には、あまりの威力に後方へ飛ばされながら宙に浮き体制を崩したリィリスが無防備を晒す姿が映っていた。

 ニ撃目の鉄竜棍を左腕で放ち勝負を決めに行く。

 女子供がどうしたと、容赦なく伸び進む致命の鉄撃は彼女の中心を捉える。

 だが──

 

「なにッ!?」

 

 リィリスは後ろに引かれる慣性に抗わず、上半身の捻りだけで体を反転させ鉄竜棍を回避してみせたのだ。それだけに留まらず、ガジルの伸ばされた左腕を無傷の右腕と胴を使う事で拘束。それと同時に地に足がつき、そして。

 

「っらああァァアッ!!」

「ぅぎガァッ!!?」

 

 渾身の背負い投げ。

 とても少女の出せるとは思えない力で投げられたことで、伸び切った鉄腕を起点に人間ハンマーさながらのガジルは受け身も取れず、なすすべもないまま轟音と共に地面に沈む。直後、意識の霞む衝撃が全身を等しく襲う。

 

 こんな隙を見せてしまえばつけ込まれる。体に染み付いた闘争の動作によりすぐに体を起こし、鉄竜棍を解除する。それにともない拘束されていた左腕が自由になった事で反撃に移れる姿勢となった。

 

 焦りと憤怒の混じった眼差しを背後にいるリィリスに向けようとしたガジルは不意に横からくる不自然な風の動きに再び体を地に伏せる。

 頭上を駆け抜ける疾風、それがリィリスによる蹴りである事は視界の端に映る彼女のブーツが語っていた。

 

 身体能力向上の魔法。

 

 これがガジルの導き出したリィリスの使う魔法の正体。

 であれば圧倒的な体格差を埋める力、スピード、運動能力にも納得できるからだ。

 なればこそ、勝利は我にありと確信する──ガジルから発せられる空気が変化した事に気づき、息を飲んだリィリスは後ろに大きく跳躍し距離を取る。

 

「どうした。ビビっちまったか?」

「な、なに……あれ」

「竜の鱗、それも鉄……」

 

 ガジルの身体を覆う鋼鉄の鱗。

 それはガジルの奥の手であり全ての攻撃を無力化させる無敵の鎧。しかも厄介なことに鉄の鱗には攻撃力を底上げする効果もあるのだ。

 こうなれば最早どう足掻こうと生身で傷つけることは叶わない。いや、武器や魔法だろうとこの鉄竜の鱗の前では驚異足りえない。

 

「ギヒヒッ、終わりだ。クソガキ」

 

 一方的な勝利宣言。

 時間にすれば戦いが始まって一分と経っていないだろう。しかし、当事者達からすれば時間以上の濃密すぎる戦いの前に、レビィは逃げるでも加勢するでもなく只々唖然とするしかなかった。

 

(正直……リィリスがあそこまで強かったなんて予想もつかなかった。もしかしたらナツ達とも渡り合えるかも。でも、相手はあのガジルで、しかも本気で来ようとしている……)

 

 勝てるのだろうか、彼に。

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)において、リィリスの実力はナツより一歩劣るというのが総評だ。

 と言うのも、ナツ恒例の勝負のふっかけに何度も嬉々として応じ、毎回それなりにいい勝負はするもののたまに勝つくらいで負けてしまう事が多いからだ。それでもギルドの中での強さでいうと真ん中より少し上に位置する。

 

 使う魔法は彼女いわく身体能力強化とのことだが果たして本当だろうか?

 ただの身体能力強化の魔法でファントムのトップの一人であるガジルとここまで均衡するものなのか。長年修練を積んできたベテランの魔導士ならいざしらず、彼女の使う魔法がそれ以上の力に見えるのは贔屓目で見ているからなのか。

 

「レビィ。ジェットとドロイを連れて早くここから離れろ」

 

 それなのに彼女から飛び出した言葉はあまりにも無謀なものだった。

 

「そ、そんなことできるわけッ──」

「邪魔だって言ってんの。それとこの事はギルドのみんなには言わないこと。余計収集つかなくなるから」

 

 確かにレビィは近距離での戦闘に向いていないし、遠距離からの魔法での支援をするにしても今のガジルに通用するかどうか怪しい所。

 

 (たしかに二人を早く病院に連れていきたい……! でも、それで仲間を見捨てて逃げるだなんて出来ない!!)

 

 そんな想いを伝えようとレビィが口を開いたところで、リィリスが深く息を吐く。

 

「分かんないかなー。アタシがアンタ達を傷つけるかもしれないってこと」

「え? ──ッ、危ない!!」

 

 俯き何かを堪えるように肩を震わせ始めるリィリスに出来た隙を見計らったのだろう、何かを叫びながらガジルが彼女に向かい腕を剣のような形に変えて突進してきた。

 しかし、それを見ずにして彼女は鉄の剣をあっさりと躱してすぐ近くまで来ていたガジルの下顎を殴り上げた。だが鉄竜の鱗の効果で全く堪えていない。むしろ殴った側の彼女の拳にダメージが刻まれた。さらにお返しにと、今度は脚を鉄に変質させてリィリスの横っ面を蹴り抜く。

 鮮血が彼女の口から舞った事でガジルの顔に笑みが浮かぶ。

 

「ギヒッ、もろに入ったな。今ので脳が揺さぶられただろ」

「── (ギルド)を壊されて、目の前で仲間(家族)までも傷つけられた」

「あァ?」

 

 不自然なくらい、リィリスの声だけが妙に響いていた。まるで彼女の声に何か目に見えない力が宿っているような、それでいてとてつもなく強く恐ろしい何かが見え隠れしているようだ。

 

 なぜ忘れていたのだろう、彼女が一度だけ見せた規格外の力。これはそう、まるであの日と同じ。

 

「痛みと怖さで震えてんのか? 」

 

 全身を震わせる彼女に容赦なくガジルは殴り、蹴り抜き痛め付けていく。鋼鉄の鱗により強化された攻撃は一撃一撃が身体の芯まで届くもので、そんなものを少女の体が食らい続ければひとたまりもない。

 このままではリィリスが危ない。仲間がすぐそこで傷つけられているのに、しかしレビィは目を離せずにいた。

 

 いつもギルドで馬鹿騒ぎをしてナツ達とケンカする時に見せる時とは違う、本当の怒り。

 今の彼女に水を差してはいけないと無意識の下した判断ゆえだ。

 リィリスがいつもなら考えられないくらい低く唸りに似た声で言葉を紡ぎ続ける。

 

「ぐっ──ガ! ッ、アタシはねレビィ! コイツ等にも、そして──」

 

 自分にも怒ってんだよ。

 

「ッ!?」

「なっ──てめェ、一体……!?」

 

 リィリスの髪が僅かに逆立ったと同時に、これまで感じたことのないレベル、もしかするとエルザさえ上回るかもしれない魔力がその場を支配する。

 空気が震えるレベルの魔力の渦の中で漠然と思ったこと。それは、本気で怒っている者を見ると怖いとか逃げ出したいと思うのではなく、頭が真っ白になるのだ。レビィが抱いたものは、そんな当たり前のものだった。

 

 これは怒り。

 

 決して本気で怒らせてはいけない、触れてはならない怒りが詰め込まれた禁忌の箱はとうの昔から開いていたのだ。それが目に見える形になっただけ。

 勝者の笑みを崩さなかったガジルが一転、一瞬で焦りを多分に含んだ表情へと変え、怯むように後ろへ一歩下がろうとする──それが合図になる事とも知らずに。

 

怒竜(どりゅう)の──」

 

 一歩()を踏み出す。

 それだけでガジルとの距離が詰まる。リィリスは僅かに跳躍したこちらへ驚きに満ちた顔を向けるガジルを眼下に捉える。

 その後の地の底より轟く怒れる竜の言葉は最後まで聞こえることはなかった。なぜなら……

 

 耳をつんざく鈍くも遠くまで響く打撃音の直後、ガジルは顔面から地面に埋まっていたのだから────。

 

 

 

 

 

「リィリスが……」

「あいつそんな強かったのかよ……ッ」

 

 話に出たリィリスの実力はみんなの知る彼女より数段も上の強さを持ち合わせており、それはつまり今まで本当の実力を見せていなかったという他ない。

 ナツやグレイの心になぜそんな大事な事を隠していたのだという憤りが生まれるも、しかし今はそんなことを考えている場合ではなく、彼女の安否を確かめることを優先すべきと頭を冷やす。

 

「しかしガジルを撃退したというなら、何故リィリスはここにいない?」

 

 他にも驚いたり戸惑っている者がいる中、エルザだけは淡々と話を進めていく。レビィもここからが大事な場面だとさらに真剣な表情で話の続きを語り始めた。

 

「……リィリスは間違いなくガジルを倒したよ。ほんとに凄かった。

 でも、喜んでる暇なんてなかったの。もっとヤバイ奴がそのあと現れたから……」

「そ、そんなぶっとんだ奴がいるなんて……」

 

 そんな悪夢がある訳ないと祈るように呟くルーシィに容赦なく現実を突き付けたのは、ギルドの者達をかきわけ一番前に出る一人の老人──マスターマカロフ。

 

「マスタージョゼ。そうなんじゃろ? レビィ」

 

 ジョゼ・ポーラ。

 その人物は幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスターであり、マカロフと同じ聖十大魔道に名を連ねる正真正銘の強者。

 数いる魔導士の中からたった十人しか得ることの出来ない称号── “聖十大魔道”。

 それこそが並外れた力を持っている事をなによりも証明するもの。

 

 震える身体を両手で抑え、昨晩レビィが目にした出来事の最後の一端を語りだす。

 

 

 

 

 

「お見事ですよ。まさかガジルさんをたった一撃で敗るとは」

 

 相手を小バカにする拍手を鳴らし、芝居がかった話し方で夜闇から溶け出すように現れた人物。

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)ギルドマスター、ジョゼ・ポーラ。

 

 リィリスを誉める言葉とは裏腹にジョゼから発せられるのは仄暗い魔力。それも彼からしたら挨拶にすらならない魔力の揺らめき。

 そんな魔力の一端を感じたレビィの心は、たったそれだけで震え上がった。

 

 ──格が違う。

 

 あのガジルさえ遥かにマシと思えてしまうレベルの禍々しく暴力を孕んだジョゼの魔力に、頭から流れる一筋の血を気にもせず真っ直ぐ見据えるリィリスの魔力も凄まじく、ガジルとの対決を経ても戦意に欠片ほどの乱れもない。

 

 やはりルーシィの家から感じた特大の悪意はこいつからだったか──そう確信したリィリスは脅えているだろう仲間に鼓舞する。

 

「レビィ!! 走れェッ!!!」

 

 この場においてただ一人、ジョゼに立ち向かう闘志を燃やすリィリスの叫声で、反射的にレヴィはジェットとドロイの首根っこを掴み全力でその場から離れる。

 

 彼女の言葉が恐怖で身動きが取れなかったレビィを突き動かしたのだ。

 それを受けて仕方ない状況だとは言え、リィリスを置き去りにしてしまったと心が張り裂ける想いを胸に彼女はひたすら走り続けた。背後で魔力同士のぶつかる大爆発を受け背中を押される形となったレビィの足は速く、恐怖や不安を降りきる勢いで前に進み続けた──。

 

 その後、なんとかドロイとジェットを魔導士の受け入れ対応をしてくれる病院まで連れ急ぎ、一秒と休まず再びリーリスのいた路地に向かったが、そこには血に濡れた彼女のジャケットと一枚の紙があるのみだった。

 

「最低だよ、私ッ! リーリスを見捨てて逃げて……怖くて後ろも振り向けなくてッ」

「お前は悪くない……そうすることが最善だったんだ」

 

 リィリスのジャケットを抱きしめ、あふれ出す涙が零れるレビィ、そんな彼女の肩に手を置きエルザが優しく言葉をかける。

 もしも、レビィがいなければ今頃どうなっていたか、ジェットとドロイを病院に送り届けることも、こうしてギルドのみんなに何があったかを伝えることもできなかったのだから。

 

「私が……私がいけないんだッ! あの時もっとあいつの事を気にかけていればこんなことには……!」

 

 昨日の楽観視していた自分に情けなさ以上に腹立たしさを覚えるエルザの心境に口を出す者はいない。そんなのはなんの慰めにもなりはしない、今することは一つとここにいる全員が分かっているからだ。

 

 ボロボロとなったリーリスのジャケットを無言で見つめるマカロフはなにを思うか。

 そんな聞かなくても分かる(こたえ)にフェアリーテイルの魔導士達は自分達がなすべきことを明確に理解していた。

 後悔していても何も始まらない。それを深く理解しているエルザは、頭を冷やしこれより先の行動を促す。

 

「律儀にこんなものを残すとは、挑発のつもりか誘い込んで罠に嵌めるつもりなのか──いずれにしても」

「罠がどうしたよ……ッ」

「全部まとめてブッ飛ばす!!」

 

 エルザの言葉を引き継ぎグレイとナツが吼える。それに続きエルフマンやカナ、ロキにマカオにワカバ、アルザック、ヴィスカ。あのナブすらも声を上げていき、次々と妖精の尻尾(家族みんな)が一人の娘の為、立ち上がり闘志を滾らせる。

 ルーシィは初めて目にするギルドみんなの並々ならぬ圧力に圧倒される。

 これが“フェアリーテイル”。

 

「ボロ酒場までならガマンできたんじゃがな……」

 

 満を持して族長が口を開く。

 

「ガキの血みて黙ってる親はいねぇんだよ──ッ!」

 

 目覚めさせてはいけない巨人が血走った目を、己たちが倒す相手“幽鬼の支配者(ファントムロード)”のある方角へ向け、ついに──

 

 戦争じゃ。

 

 ギルド同士による戦いの火蓋が切られた。

 

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