「デカパイちゃん!?」
思いもよらない
「でかぱ──? やはりお知り合いのようですね」
ひび割れた床に降ろされたルーシィは力なくそのまま横たわる。どうやら意識がない事と彼女も両手を縄で拘束されている事から無理やり連れてこられたらしい。
一体何が目的でこんな真似をしたのか、そう訴えるリィリスの瞳を受けるジョゼは薄ら笑いを浮かべ見下した視線を送り返す。
「まさかご存じでない? いけませんねえ、すぐそこに大金が転がっているのに気づかないなど」
「は? 大金……? もしかしてその
待ってましたと言わんばかりの声音でジョゼはルーシィに手のひらを向けて彼女の
「そう、この方こそルーシィ・ハートフィリア嬢その人です」
「ハートフィリア……?」
ジョゼの芝居がかった物言いに眉を潜めて不快さを表に出すリィリスであったが、徐々に眉のシワを深くしていき合点がいったと鼻で嗤った。
「ふんっ、なるほどな。超大金持ちの娘を拐って身代金せしめようなんて、随分しょっぱいことしてんじゃん」
“ハートフィリア
この国を代表する資産家であり、ハートフィリア鉄道の経営者たるジュード・ハートフィリアの娘であるルーシィを使い、金を巻き上げようという魂胆なのだろうと目星をつける。
「誤解しないで頂きたい。私はただルーシィお嬢様を連れ戻せと、他ならぬ彼女の父上に依頼されただけなのですから」
連れ戻せということは家出か、もしかすると駆け落ちでもしていたのかもしれない。
ルーシィが資産家の令嬢という事実に内心驚いていたリィリスはしかし、
半日にも満たない彼女との交流の中にあっても、リィリスはルーシィという少女の強さと
だからこそ、何故この場に自分とルーシィが囚われているのかをはっきりと理解することとなる。
「アタシは人質の人質って訳か」
「察しが良いようで。そう、ギルドの仲間が目の前でいたぶられるのを見せられては、箱入り育ちのお嬢様も家に帰ると頷くことでしょう」
まったくもって予想通りの下衆な企てに、恐怖よりも先に呆れてしまうと二度目の嘲笑が飛び出す。
「はッ、どうかな。だってその娘と会ったの昨日が初めてだし──しかも初対面でおっぱい揉みまくっちゃったし……」
「昨日会ったばかりで、し、しかも胸を揉みしだいた……!? そんな関係なら尚更彼女は頷くに決まっているでしょう!!」
「いや、そんなんじゃないって。変な考えすんのやめてくれない?」
誤解の生まれる言い方をしたリィリスもリィリスだが、勝手に話を変な方に膨らませたジョゼも大概である。そりゃ引かれるだろう。
やれ、最近の娘どもはけしからん。やれ、はしたない奴らだの。果てには、いやでもそれも良いかもなど色々な
彼女が誰かに対してここまで不快感を表すのは非常に珍しいことで、ギルドの皆が見たなら怒る以外で彼女にここまで疎まれる事があるのかと、逆に感心することだろう。
さっきまでのシリアスな空気はどこへやら。
しかしチャンスでもある。今の内にリィリスは自身の状態を細かく分析し始めた。
まずは背中の怪我だが、傷の方は既に塞がっているので問題ない──後で開く可能性が高いが考えないこととする。
一番問題なのは魔力不足。酷い頭痛が常に纏わりつき最悪な気分だ。それでも微量ではあるが回復してきている魔力だが、使えても普段の二割程度の威力しかない魔法一発が精々か。
ルーシィはまだ起きそうにもないが、この際その方が良いだろう。下手に起きてもらっても話が進んでしまうのでむしろ困る。
どうにかして、せめて鉄枷だけでも外せないかと音を立てぬよう脱出を試みるリィリスをジョゼの冷たい声が止めた。
「足掻いても無駄ですよ、あなたに魔法を使うほどの余力は残っていない。アリアさんの魔法で念入りに魔力を散らしておきましたからね」
まあ、例え魔法を使えたとしてもここから逃げるのは無理でしょうがね。そう言葉を付け加えるのは、妄想を終え落ち着き払った態度でいるジョゼだ。しかしさっきのアレな一面を見せてしまっているので威厳も何もない。
「アリア……あの時アタシから魔力を奪った奴か。なら、考えておかないといけないな。アンタをぶっ飛ばした後にするお礼を」
「そう慌てないでも、考える時間はたっぷりありますよ──あなたの命が続くまでね」
あの夜に感じた以上の、吐き気を催す邪気がリィリスにのみ襲いかかる。一点に集中し凝縮されたジョゼの魔力は凄まじく、リィリスでさえ怯み畏れを抱いてしまうほど。
「正直、昨日まであなたという人物にそこまで興味はなかったのですよ、私。
しかしね──」
床と靴を打ち鳴らす音が木霊し、淡々と語りだすジョゼに言い知れぬ不安を抱く。
「最近
「報復? 妖精を狩る……まさかっ」
何故昨日あんな時間にあんな場所でレヴィ達が襲われたのか、その疑問が氷解していく。
「張り切っていたガジルさんは獲物を見つけるや否や飛び出してしまって、成り行きとは言え彼の犠牲となる
なにかが変わりだす予兆にリィリスの頬を冷や汗が伝う。
「しかしまあ、せっかくだからと見学することにしたその時、ガジルさんを蹴飛ばし想定外の強さを見せる少女が現れた──」
リィリスさん、あなたがね。
「ッ!!」
「ラクサスでもミストガンでもギルダーツでも、ましてやエルザでもなく、名のある魔導士でもないクソガキがッ、ウチのエースをぶっ潰してくれやがった……!!」
目の敵にしていたギルドの魔導士で無名のリィリスに、ファントムにおいて実質トップとも言える魔導士を倒された事実に激情を吐露する。
気に食わない、こんな隠し球を用意してやがったのかあのギルドはッ。
怒りすら踏み越えた殺意が多分に含まれた魔力が一瞬周りに噴き出す。その余波を受けルーシィが苦しそうに身じろぐ。
あれではもう少しすれば起きてしまうだろう。それまでなんとか時間を稼がねばと、リィリスは信じる仲間を想い口を開く。
「他人の街に来ていきなり襲っておきながら、ちょっと抵抗しただけで逆ギレなんて大人気なくない?」
「ちよっとした抵抗……? テメェがやった事はそれだけじゃねぇだろ。オレの顔をぶん殴り、あまつさえウチのギルドの名を
紳士的態度から豹変したジョゼは隠し抱いていた怨恨を暴言に乗せリィリスにぶつける。
先にちょっかいだしてきたのはそっちだろうといつもの彼女であれば言い返しただろう。事実、その言葉が喉元まで出かけていた所を口をつぐみ抑え込んでいる訳だが、今は魔力がほとんどなくこうも無防備を
こんな悪意の満ちた“怒り”を向けられたのは初めてかもしれないと内心危機感を覚えるリィリスは、この状態でジョゼの魔法をぶつけられれば只では済まないと、喉元にナイフを突きつけられているような恐怖の中、それでも虚勢を張るため逸らしてしまいそうになる瞳を真っ直ぐ向け続ける。
こんな男に弱みを見せてはならないという一心で。
「テメェをここに押し込んだのはハートフィリアの娘を脅すためだけじゃねぇ。テメェを痛めつけて二度とふざけた真似できねぇよう殺してやるためだ」
ついにジョゼの本心が姿を現しリィリスへと牙を剥く。
「やってみろよ。亡霊ごときに殺されるようじゃ妖精は務まらないんだよ」
だが、例え誰からであろうと売られた喧嘩は意地でも買う。それがどんな厳しい状況に置かれていても。
リィリスはジョゼの怒りが昂るのを全身で感じながら、これはタダじゃ済まないだろうと他人事のように考えながら薄く笑うのだった──。
水滴の滴る音が耳をつき、鉄錆のような嫌なニオイが鼻に纏わり不快な目覚めを強制されたルーシィは、弾けるように飛び起きた。
「えっ、な、なに!? ここどこッ!?」
「遅いお目覚めですね。ルーシィ・ハートフィリア様」
「だれッ!?」
すぐそこから聞こえてきた男の声に警戒を露わに反応する。
「
「ファントム……!!」
そうだ、たしか自分はあの後リィリスを助けに行こうと準備している間にみんなに置いていかれ、今更自分一人が行ったところで変わりはしないと拗ねながらギルドに残ったのだ。
そのあと疲労と緊張で疲れ眠ってしまったレヴィの様子をしばらく見た後、ジェットとドロイに見舞いの品を届けようと買い物に行く途中でファントムのトップに君臨する魔導士、エレメント
「よくもレヴィちゃん達をッ、リィリスを攫ったわね……! 許せないッ!!」
「そう仰らずに、あなたの態度次第ではそのリィリスさんの解放を約束する事も可能なのですよ?」
「っ、本当でしょうね?」
思いがけない提案に訝しみながらも、どこか期待する様子を見せたルーシィにジョゼの口元がいやらしく弧を描く。
出入り口でもなんでもない壁しかない所でなにかを遮るように陣取っていた彼は、ゆっくりとルーシィに隠していた
「──え……?」
壁に打ち付けられた鉄枷で両腕を拘束され、身動きも取れない状態で血塗れとなり、今も全身から流れる血液が床を赤く染め血溜まりを作り出している。
呼吸は浅く今にでも生き絶えそうなほどか細い。
力の抜けきった小さな身体のあちこちに切り傷や青アザが刻まれ、無事な所を探す方が難しいほど。
あまりの痛々しさに目を背けたくなったルーシィだが、どこか見覚えがあると踏みとどまり、見てはいけないと直感が囁くのも無視してその人物を見た。見てしまった。
力なく俯く血塗れの彼女は──
「……リィリス?」
ファントムに攫われていたリィリスだった。
そう認識したと同時にルーシィの頭は真っ白になり、身体中からは熱が引いていく。
よく見てみればジョゼの顔や服、床や壁の至るところに血痕が付着していることから、リィリスの受けた仕打ちがどれだけ凄惨なものだったかを物語っている。
決して長い時間一緒に過ごした仲ではないけれど、その短い時間の中でも不躾なくらいグイグイと距離を詰めてきて、でも今まで出会ってきたどの娘よりも生き生きしていて、それでいてナツ達と同じ温かいなにかを与えてくれた彼女に少なからず仲良くなれそうだと好感を抱いていたのだ。
奇しくもそれは、リィリスがルーシィに向けて抱いていた想いと同質のものだった。
「これ以上彼女が苦しむのを見たくはないでしょう? 私としても心苦しいのですよ、何の抵抗もできない少女を痛めつけるのは」
「心苦しい、ですって……ッ、よくもそんな──!」
どう聞いても本心ではないジョゼの戯言にかつてない怒りが沸き起こる。こんな非道な事を行なっている時点でこの男は断罪されるべきだ。
だが今の拘束され鍵すらない星霊も呼べない自分ではなにも出来ない。
いいや──たとえ星霊を呼び寄せたとしても、この男には歯が立たない。
ジョゼのあまりに邪悪で暴力的な魔力が滲み出ているのを目にした率直な答え。
例えそうだとしてもこいつだけは許せないと、只々感情に任せ叫んでやる。
ふざけるな。
そう言ってやろうと目の前の外道に吠えようとした所で、彼女にとって最も触れてほしくない話題を持ち出された。
「あなたがご実家に戻られるのであれば、彼女を解放しましょう」
「ッ!! 嘘……まさか……」
「そう、あなたの父上からの依頼ですよ。娘を連れ戻して欲しいとね。ルーシィ・ハートフィリア様?」
一年もの間なんのアクションも見せなかった父親の突然の帰宅命令。
こんなやり方で連れ戻そうとする父、ジュード・ハートフィリアに黙って従いたくないと憤りを覚える。自分はあの人の操り人形なんかじゃない。
しかし、そうした場合リィリスはどうなる? 今以上に傷つけられ、下手したら死んでしまうかもしれない。
「さあ、家出など止めて大人しく家に帰りましょう、ルーシィ様」
明らかに作られた声、作られた台詞を吐くジョゼに強い嫌悪感が生まれる。
ここでもし、拒否でもしたものなら、リィリスがどうなるか……。
自身の選択に人の、仲間の命がかかっている。そう理解したルーシィは躊躇いなく首を縦に振ろうとする。
「頷くなァ!! 絶対、頷くんじゃ、ないぞ……デカパイ……!」
「リィリス──!」
意識を失っていたかに見えたリィリスの叫びに、ルーシィは肩を跳ねさせた。
何度も言葉が途切れ辛そうな声を絞り出すリィリスに、安堵や心配の入り混じった声音を漏らしたルーシィが彼女に目を向ければ、身体中がボロボロでありながら強い意志の灯った瞳で、ルーシィに心配するなと気持ちを込めた視線を送っていた。
「アタシは大丈夫だ……変態ヒゲオヤジが、なんだってんだよ……ぅぐッ!」
「サンドバッグが喋るんじゃねェよ」
「やめて!!」
容赦なくリィリスの横腹を蹴りつけるジョゼはそれだけでは済まさず、
暴力の音、痛みに呻く少女の声、鉄枷が激しく揺れる耳障りな音。
耳を塞ぎたくなる音が場を支配する。
目の前で起きている残虐な光景に非現実感に襲われながら恐怖に震えるルーシィは、仲間の傷つく所をこれ以上見たくない。そう覚悟を決めてジョゼの言う通りにするからと訴えた。
だが止まらない。
いくら叫んでも止まらない。
幽兵の暴力に晒されるリィリスから血が迸り牢を赤く彩っていく。
そこでルーシィは気づいた。ジョゼは彼女を痛めつけることしか眼中にないのだ。
なぜここまでリィリスに執着するのかは分からない。けれど、このままでは彼女が死んでしまう。
それを唯一止める事ができるのは自分だけだ、自分がやらなければいけないんだ。
リィリスを傷つけるのに夢中なジョゼはそれに気づかず闇に染まった笑顔を浮かべ、悦に浸っていた。
やるしかないと、ルーシィはありったけの力を込めて体当たりをした。
彼女の体を張った静止にジョゼの気が逸れ、魔法が解かれた。
──止まった。
「フッフッ、ルーシィ様は仲間思いのようで。
まあ、これでこの娘も少しは静かになるでしょう」
さっきまでの狂った様子から一転、邪魔された事に苛立ちを表すでもなく紳士然とした態度を見せる。
「それで、さっきの私の言う通りにすると言う発言に偽りはありませんね?」
やはりルーシィの声が聞こえていながら、暴力を続けていたのだ。
そのことに歯が軋むほどに食いしばり、腹のそこから爆発しそうになる怒りを堪える──ルーシィの怒りに呼応して微かにリィリスの呼吸が深くなる。
どうせ家に連れ戻されるなら、最後にとルーシィはこれまで抱いていた疑念を晴らす為、ジョゼに質問をする。
「一つだけ聞かせて。なんで私達のギルドを壊して、レヴィちゃん達に、リィリスをこんな目に合わせたのッ。パパにそうしろって言われたから?」
「なんで? ──ついでですよ。つ、い、で」
「なッ!!?」
「きっかけはなんでも良かったんですよ。
依頼達成の要であるあなたが、今回たまたまあのギルドにいて、たまたま私がそのギルドを潰したいと思っていた。それだけの話です」
なんだそれは。なんなのだその理由はッ。
そんな理由でこの騒動が引き起こされたのかッ。
事の始まりに自分が深く関わっていた事を知った時以上にルーシィは驚かされた。
しかしそこでさらなる疑問が浮上する。
例の手紙の内容だ。たしかあれには彼女、リィリスを傷つけないこと、ギルド間の交流を行いたいと。そのような内容だったはず。
ならばなんで自分とリィリスは捕らわれ、彼女をこんなになるまで痛め付けたのか。
その事について言及すると予想だにしない答えを送ってきた。
「手紙? ああ、彼女というのは──あなたのことですよルーシィ様。あなたと邂逅を果たすのに想いを巡らせていたばかりに
それは騙す事を目的とした内容の書き方だった。
手紙にある
そしてギルド間での交流。これはそのままの意味だったが、自分のギルドの者達に伝えるのを
「いやァ、まさか
「どの口が言ってんのよ……!」
わざと妖精の尻尾に攻めさせるようしたくせに、それを仲間にも伝えなかったというのは何か裏があるのか。もしかするとこの男の場合、仲間達の事はどうでも良いと考えているかもしれない。
ルーシィの発言にさらに笑みを深めるジョゼは話は終わったと彼女の腕を掴みあげ無理やり立たせられたことで思考が中断された。
「お話は終わりです。行きますよルーシィ様」
「ち、ちょっと──ッ、え?」
まだリィリスを解放していないではないかと抗議しようと口を開くも、腕を引かれ鉄扉の前まで連れられ、ジョゼが扉を開け放った事で絶句した。
下から吹き上げる風が髪を躍らせ体の内側から冷やされていく。
“空の牢獄”
出ることも入ることも困難なここは、目に写る景色からでも地上100メートルを超える高さにある場所だったのだと理解した。
足がすくみそうになる彼女は、こんなところからどう移動するのか、誰がリィリスを連れ出すのか、先の見えない不安と恐怖が彼女の体を震わせる。
「……待て、よ……」
今にも消えありそうな掠れた声で呼び止めたのは、またしてもリィリスだった。
ジョゼによってあれだけ痛めつけた少女は、それこそ死んでもおかしくない状態だというのに、意識を失わずにいるのだ。
ここに来て初めてジョゼの顔に驚愕の色が浮かぶ。
「まだ……アタシはピンピン、してるぞ……来ない、のか……? この、クサレ髭オヤジ」
ジョゼは顔中の血管を浮き上がらせ瞳孔を開きリィリスに殺意の眼差しを向ける。
──本気だ。
本気で彼女を殺す気なのだ。
ルーシィを乱暴に突き放したジョゼは拳に魔力を籠め、ゆっくりと死を刻むようにリィリスへ歩みを進めていく。
「何か言い遺すことは?」
鉄枷に繋がれたリィリスを見下ろし、聞いた者に底冷えさせる声で、今際の言葉を聞いてやるとせめてもの慈悲を見せる。
「そう、だな……今度からは──」
魔封石でも持ってくるんだな。
一瞬だけ、リィリスの魔力が高まったと同時に、魔力の伴った両腕で鉄枷を壊した。
そして。
「ゴポォウゥッ!!?」
油断しきっていたジョゼは彼女の全力の右ストレートをもろにくらった──男の急所、股間に。
しかし幸か不幸か、彼の股間に命中する寸前でリィリスの魔力が切れ、ただの全力パンチ程度の威力で済んだ。それでも耐え難い痛みである事に変わりはないと奇声を発し悶えるジョゼ。
最後の力を振り絞っての抵抗だったのだろう、震える脚で立ち上がり、ふらふらと体を揺らしながら肩で息をするリィリスは傍目から見てもこれ以上激しく動くのは困難だろうと分かるほど。
「リィリスッ、大丈夫!?」
「はっ、はッ、これで……っ、大丈夫そうに、見えるなら……ハァッ、揉みたおす……!」
軽口を叩いてはいるものの、どこからどう見ても重症を負っている彼女に心配の念は尽きない。
そんなルーシィの視線を振り切るように、リィリスは血で汚れた顔を腕で拭い向き合う。
「ハッ、ハァ、
今度は彼女がルーシィに向かって、おぼつかない足取りで近づいていく。殴られ切りつけられた少女の柔肌にはいくつもの傷が刻まれ、その痛々しさに、リィリスの受けた仕打ちにルーシィは嘆かずにはいられなかった。
しかし仲間を酷い目に遭わせた張本人が後ろで内股になりながら立ち上がるのを確認したルーシィは口に手を当てあわあわとリィリスの背後で憤怒の表情を浮かべる男へと指を指す。
「アンタが道を選ぶんだ。誰に決められるでもない、アンタの道だ……!」
そんなルーシィの様子に構わずリィリスは、お互い触れあえる距離まで近づき震える彼女の肩に手を置き言葉を続ける。
「その先には必ず待ってくれている奴がいる──だから」
でっかい声で呼んでやれ──ルーシィ。
穏やかな表情を見せた彼女は、立ち尽くしていたルーシィを突き飛ばした。