―“怒り”を継ぐ者―   作:サクランボーイ

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ストックがそろそろ尽きそうなので、次回から更新は遅めになるかと思います。


新たなる火種

 

 “でっかい声で呼んでやれ、()()()()

 今まで変な呼び方しかしてこなかったのに、なんであのタイミングで初めて名前を呼んだのか。

 

 それじゃまるで──

 そこから先は考えてはダメだと、遠ざかる牢獄──塔の一番上にあったのかと目にし、逆さで落ち続ける刹那の間に考えた最悪な可能性を切って捨てる。

 リィリスも言っていたではないか。

 仲間を信じろ、自分を信じろと。

 

 今回の騒動のきっかけとなってしまい、それに責任を感じていたルーシィにとって、その言葉は重くなっていた心を軽くしてくれたのだ。

 おそらく自分よりも先に目を覚まし、ジョゼからもルーシィの正体や彼の目的も聞いたがゆえにそう伝えてくれたのだろう。

 

 だから信じるのだ、あそこに残った彼女を。

 そして。

 

「ナツーー!!!」

 

 思い込みかもしれない、ここに来ていないかもしれない。でもたしかに、聞こえたのだ。

 絶対──いるッ。

 

「ぬおああァァアアッ!!」

 

 地面に激突するぎりぎりで、必死の形相で飛び込んできたナツがルーシィをキャッチ。全力疾走で来たナツの勢いは止まらず、ルーシィを抱き抱えたまま転げ続け、激しく壁にぶつかり止まった。

 

「ルーシィが降ってきたー!!」

 

 まさか上からルーシィが落ちてくるとは思っていなかったと、ハッピーが驚きの声を上げる。

 

「メチャクチャだなオイ!!」

「やっぱり来てくれてた! ッ、お願いナツ!! リィリスが、リィリスがまだ上に残ってるの!!」

「なにッ!!?」

 

 家に帰ることを決意させられたルーシィは、もう会えないと思っていた仲間とこうして再開できるなんて思っていなかったと内心で喜ぶのもつかの間、両手の縄を引き千切ってくれるナツに焦りを見せてまだリィリスが塔の最上階にある牢獄にいると、涙を滲ませて訴える。それを聞いてすぐにナツは塔を昇ろうとした、が──

 

『オオオアアァァアアアア゛ッ!!!』

 

 直後、ここまで届く大音響が轟く。

 それは、はるか上。まさにリィリスのいるであろう牢獄から響いていた。

 これは怒り。とてつもなく強大な、例えるならそう。怒れる竜の雄叫びはこうなのだろうと、見たことのない(ドラゴン)をルーシィは見上げる先に幻視する。

 

「──っ、リィリスだッ!! ハッピー!!!」

「あい!!」

 

 無条件に声の主がリィリスだと断言したナツは、あいつを頼んだと相棒(ハッピー)に呼び掛ける。それに応じたハッピーは猛スピードで飛翔。向かうは塔の最上階、リィリスの元へ。

 どうかリィリスが無事であるように、そして彼女を助けてと遠ざかるハッピーに願いを託しルーシィは両手を組む。

 

「心配ねえよ。あいつは無事だ」

 

 彼女の想いを感じ取ったのか、大大丈夫だあいつは強い。そう真っ直ぐ笑うナツに彼女は力なく頷くしかなかった。

 リィリスは重傷だ。それも魔力がほとんどない状態で。

 立っているのもやっとだった彼女はそれでも仲間(ルーシィ)を優先しナツの元へ送り出してくれたのだ。怒り狂うファントムのマスターの脅威に曝される中で。どれだけの覚悟で自分を逃してくれたのか、それを思うだけでも胸が苦しい。

 両手を強く握り合いひたすら祈る。

 

「ナツぅーー!! ルーシィーーッ!!」

 

 願いが通じたのか、ハッピーが誰かを抱えて急いだ様子で降下してきた。

 二人に明るい空気が流れる。

 しかしハッピーが連れてきた彼女の姿を見た瞬間時間が止まった。

 

 血だらけでボロボロな少女の体は無事なところを探すほうが困難で、浅く小さな呼吸で辛そうにする彼女に放心していたナツが叫ぶ。

 

「魔力が──ッ、おい! しっかりしろ!! 何があったんだッ!!」

「オイラが行った時はリィリスともう一人知らない奴が倒れてたんだ。たぶんそいつがリィリスを……ッ」

 

 ファントムでのマカロフのように、彼女から魔力が感じられない。ましてやこんな大怪我、いつ生き絶えてもおかしくない状態にナツは焦りを見せる。

 ナツ達がここに向かっている中、リィリスの魔力が一瞬大きく高まった後すぐに消えてしまったのを感じ取っていたナツは、直前の魔力の位置を頼りに塔まで迷わず来たからこそ分かる。あれが彼女のなけなしの魔力による救援要請だったのだと。

 

 多くの血と魔力を失った少女の体は冷たく、体は小さく震え、血糊の付いている肌は死人のように青白い。

 重く閉ざされた目蓋の奥にはいつもの快活な瞳が隠され、より幼くさらに痛ましさが増している。

 

 誰がこんなことをしやがったッ。

 

 ナツはこれ以上増すことのないと思っていた怒りが、凄まじい速さで膨れ上がるのを感じていた。

 

「……ファントムのマスター」

「ルーシィ、今なんて言った……ッ」

「あいつが……ジョゼってやつが、リィリスを……!」

 

 先程の事を思い出してしまったルーシィは、口をつぐみ恐怖と憤りで震える体を自分で抱くように抑える。

 この果てしない怒りの矛先をどこに向ければいいかを、残り少ない理性で探していたナツにとって、ルーシィの呟きは飢えた獣に餌をチラつかせるのと同義。

 

 再び、今度は明確な敵意を抱いて塔を登ろうとリィリスから離れようとしたナツは、なにかに腕を触れられている感覚を覚える。注意しなければ感じられない弱々しい力に気づけたのは、すぐ近くにいる仲間によってのものだったからなのか。

 

「リィリス……?」

 

 意識が戻ったのかと憤怒の表情をほんの少しだけ和らげ、自分の腕を掴む彼女に目を向ける。

 しかしリィリスは気絶したまま。

 それでもナツの腕を弱々しい力で握り、まるで行ってはいけないと伝えたいかのように放さなかった。

 

「ナツ、ギルドに戻ろう!」

「けどリィリスの仇を取らなきゃいけねえだろ!!」

 

 たとえ誰に止められようと止まらない、我慢ならないと怒りを吐露するナツをハッピーが負けじと止めようと現実を突きつける。

 

「ナツじゃ無理だよ!!」

「やってみなきゃ分かんねえだろ!?」

「早くリィリスを手当てしないと!」

「うぐっ……そ、それでもオレは行くぞ!!」

 

 平行線を辿る二人の言い合いの中で出てくるギルドの仲間達の負傷、マスターが重体という話に、リィリスを助け出せたことに安心していたルーシィの心に申し訳なさが襲う。

 

 自分のせいでこんなことになっているんだ。

 

 たしかに、少なからず今回の一件にルーシィが関係していることは事実、そして何よりもその事が彼女の心を締め付ける。

 

「ごめんね……全部、あたしのせいなんだ……」

 

 今にでも泣き出してしまいそうな声でギルドの、仲間の傷みを引き起こしたのは自分なのだと告げる。

 自分があの冷たい家に戻れば解決するのだろうか、そうすればギルドのみんなはこれ以上傷つくことはないのだろうか。

 そうなればどれだけいいか。

 

 既に大きな被害と争いが巻き起こり、両ギルドとももう止まれないところまで来てしまっている。もしかすると大事なギルドそのものを潰されてしまうかもしれない。だったら今からでもジョゼの元に行って家に戻ればいい。

 でも──

 

「それでもあたし、ギルドにいたい……!」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)が大好きッ。

 

「お、オイどうしたッ! なんの事だ!?」

「ルーシィ、何か嫌な事があったの? ギルドに好きなだけいればいいよ!」

 

 溢れだした感情が涙となって溢れる一人の少女に、ナツとハッピーはたじろぐ。もはや言葉を紡ぐこともできない程にルーシィの嗚咽が止まらない。

 唯一本人の他にこの事を知っているリィリスは意識のない中、ナツの腕をほんの少しだけ強く握るだけだった。

 

 

 

 

 

 ルーシィの涙に毒気を抜かれたナツが少しだけ冷静になったことで急ぎ、ギルドに帰ることにしたのだが、やはり心配なのはリィリスだった。

 道中何度も苦しそうに声を漏らし、痛みに顔を歪める彼女をただ見ている事しかできない自分達に無力感に苛まれ、せめて回復魔法が使えたならと思わずにはいられなかった。

 

 さらに悪いことは続き、途中でルーシィから鍵がないとの衝撃発言。

 その中には彼女の所有する黄道十二門の鍵も含まれていた。世界でも非常に希少であるその鍵を五本も所持していての鍵の紛失に、ただでさえ重苦しい空気が物理的に重く感じる、精神的にも身体的にも辛い時間だった。

 

 それからファントムからの追っ手もなく無事、ギルドに到着した。

 地下の仮酒場ではみんな、これからファントムに仕掛けに行こうと様々な案を出している最中だったが、ナツ達が帰ってきたのに気づき、ナツにおぶさるリィリスを見ると驚愕や歓声の声を上げる。

 

「ナツ! お前今までどこに、って! リィリスぅ!?」

「なに!? まさか連れ戻してきのか!」

「みんなァーー!! リィリスが戻ったぞぉぉッ!!」

「でもちょっと待て、なんか怪我してねえか……?」

 

 しかし彼女の様子を正しく認識した事で喜びの声はどよめきに変わった。

 とても少女が受けていいものではない暴力の跡、どこもかしこも血に汚れた痛々しい傷だらけのリィリスに、ギルドの者達の心の内にファントムの影がチラつく。

 ウチの仲間にこんな仕打ちをしてタダで済ませるものかと彼らの憎悪と憤怒が燃える。

 

 ナツもそんなこと説明するまでもないと黙ってリィリスをミラとカナ、そして簡易ベッドに眠るレビィのいる奥の部屋へ運び込んだ。静かな場所で安静にさせようという考えなのだろう。

 

 当然、重傷の彼女を見た二人は驚き、怒りに震えた。何も言わず戻ろうとするナツにミラが問いかける。

 

「ナツ、何処へ行くの? 誰よりもあなたが彼女の近くにいてあげなきゃいけないでしょ」

「ミラ──オレはこれ以上怒りを抑えるなんてできねェッ……!そんなオレがコイツの近くに居たら、毒にしかならねえだろうがッ!」

 

 歯を軋ませ煮えたぎらせるナツの怒りの形相にミラだけでなくカナすらも息をのむ。

 

 こんなナツは初めてだ。

 

 そして彼は、もう一人の少女の崩れ行く心を救うために漏れ出す怒りの闘志を抑え込んで歩みを進めるのだった。

 振り返らず消えていくナツに二人は何も言えず見送る事しかできなかった。

 

「みんな悔しい思いしてるってのに、ミストガンにラクサス達は何やってんだよッ」

 

 居場所を特定しようとカードで占うも何の結果も出ないミストガン。

 通信用魔水晶(ラクリマ)に反応も返さないラクサス。彼に至っては、何度も今回の騒動の事が通信で伝わっている筈なのに、何の連絡も来ないまま。

 

 どちらも妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の一角であるS級魔導士。彼らは今どこで何をしているのだと憤りを見せるカナに、ミラも彼らの帰還を願わずにはいられなかった。

 

 

 その後、ルーシィによる告白──ファントムの狙いは財閥令嬢である自分の身柄の確保であること、それが彼女の父親からの依頼によって起きてしまったこと。この騒動はファントムが故意的に起こしたこと。牢でのリィリスへの残酷な仕打ち。

 ジョゼの明かした目的を明瞭にする一方、牢屋で見た光景。それをそのまま伝えるにはあまりにも危険だと、爆発寸前の時限爆弾に火を放つに等しいと理解しているからこそ、そこだけは曖昧に伝えた。

 

 爆発しそうになる怒気を胸に押し込む一方、ルーシィがお嬢様だったことにはほとんどの者が驚きを露わにした。それだけ彼女がこのギルドに馴染んでいた証拠でもある。

 かたや、ファントムの目的が彼女だと知った事で、俄然戦意を滾らせる彼らを目にしたルーシィは自分のためにここまで親身になってくれる事に目頭が熱くなる。

 自分が原因とも言えるのに、それを責められる所か立ち向かってくれると言う嬉しさと、そんな素晴らしい人達がさらに傷付き、リィリスのように大怪我をしてしまうかもしれないと言う怖さの背反する思いに揺さぶられ、実家に帰るんだと固めかけていた決意が揺らぐ。

 

「あたし……どうすれば」

 

 もっとみんなと一緒にいたい。もっと色々な思い出を作って冒険したい。けれどそれには多くの人が危険に晒される。

 あたしは、あたしは──

 

「親に邪魔されようがファントムに攻められようが、決めんのはルーシィだ」

 

 彼女の本心にナツの声だけがクリアに届く。

 

 決めるのはあたし──

 

「お嬢様とか金持ちとか、そんなの関係なくこのボロ酒場で騒いで楽しそうにしてんのがルーシィだ」

 

 立場とか関係なく、()()()()()()するのがあたし──

 

「お前の居場所は()()じゃねーの?

 だって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィなんだろ?」

 

 あたしの居場所は、ここ──

 

 そうか、あたしここにいてもいいんだ。

 フェアリーテイルのルーシィでいていいんだッ。

 

 自分が本当にギルドの一員なのか疑っていたのは、他ならぬ自分だったのだ。

 はじめからここ(フェアリーテイル)は自分を一人の人間として受け入れてくれていたのだ。

 ナツの不器用な激励が心に染みていき、冷え切っていたルーシィの心と体を温め胸いっぱいの嬉しさによる涙が溢れる。

 

「泣くなよ、らしくねえ」

「そ、そうだ。漢は涙に弱い!!」

「だ、だってぇ……ッ」

 

 グレイとエルフマンの言葉に、涙声で何も言い返せないルーシィはみんなから送られる陽の光のような優しい視線に、次から次へと涙が溢れ止まらなくなってしまった。

 

 彼女はもう大丈夫だ。

 そう感じ取ったナツは地上に続く階段を昇っていき、内で暴れる様々な感情を解き放つ。

 

『うおおぉぉォォオオッ!!!』

 

 ナツの雄叫びは地下にまで響き渡り、全員の鼓膜にその声を刻む。

 それは単に気持ちの発散だけでなく、本当の仲間として産声を上げたルーシィを喜ぶ為に発したものだったのかもしれない。

 

 

「ったく、あのバカ。眠ってる二人を起こすつもりかっての」

 

 酒を片手に文句を呟くカナだったが、どことなく嬉しそうな表情をしている。

 応急処置を受けたリィリスの顔色は幾分か良くなっているが、依然として魔力は回復せず、熱も出始めていることから状態は芳しくない。

 一方これまで眠っていたレビィだったが、ナツの叫ぶ声により意識が戻ったようでゆっくりと目蓋を開いた。

 

「ここは……」

「レビィ? 目が覚めたのね」

「私、寝ちゃってたんだ……ッ、リィリスは!!?」

 

 目を覚ましたばかりで上手く働かなかった思考が、現在の状況を把握する為に覚醒したことで、心配し続ける彼女の名を呼び飛び起きた。

 そして近くに包帯で手当された傷だらけのリィリスが横になっているのを目にしたレビィは酷く取り乱し、何があったのかと矢継ぎ早に質問する彼女の勢いに押され気味のカナはこれまでの経緯を語る。

 

 最初こそまったく把握できない現状に戸惑いを見せていたが、リィリスがマカロフと同じ状態にあると知る否や、自分がポーリュシカの所へ連れていくと言いだしたのだ。

 どちらにせよ、ここでは満足に治療も出来ないと元々ポーリュシカの元に連れていく予定だったのだが、手の空いている者が限られている中で誰が連れ出すか決めあぐねていた所にレビィの申し出に願ったり叶ったりだと話が纏まる。

 

「念のためもう一人付いていった方がいいと思うの。途中なにがあるか分からないし……」

「なら私がいくよ。すぐに帰るようにするからさ」

「カナ、ありがとう! ちょっと待ってて、すぐ支度するから!」

 

 ミラの助言を受け、それならばとカナも加わる事となった。

 一刻も早くリィリスを助けたいレビィはすぐに向かおうと、最低限の準備だけ終え彼女を背負おうとした時、さっきまでなんの反応もなかった通信用魔水晶の通知音が鳴り出した。

 

 それはマカロフ不在であるこの事態における福音となるか。

 水晶に映し出されたのは、この状況を覆せるであろう人物。

 

「ラクサス!」

「あんた、今どこにいるの!! こっちは大変なことになってんのよ! 早く戻ってきてッ!!」

『あァ? はッ、呼び出されたからなんだと思えば。

 じじいが始めた戦争になんでオレたちが参加しなきゃなんねえんだ?』

 

 ミラとカナの呼び掛けに不遜な態度で要請を突き返すラクサスに、それでも仲間(ルーシィ)が狙われているとミラが伝えた。しかし──

 

『ルーシィ? 誰だそいつ。あァ、あの乳のでけェ新人か。オレの女になるなら助けてやってもいいと伝えとけ。それとぶっ倒れてるじじいにはこう伝えろ』

 

 ──とっとと引退してオレにマスターの座をよこせとな。

 

「あんたって人はッ」

 

 あまりに自分本位な要求に、カナはこの男は本当に自分達のギルドの一員なのかと険しい眼差しをラクサスへ向ける。

 たしかに、順当に行けばマカロフの孫である彼が次期ギルドマスターになる可能性が高い。しかし、ラクサスはここのギルドマスターになる為に必要とされる資質が備わっていない。

 

 人を想いやり向き合い、家族同然に接するという気持ちが欠如しているのだ。

 昔はそんなんじゃなかったのに、一体いつからそうなってしまったのか。あなたはそんな酷い事を言う人なんかじゃなく、本当は誰よりも仲間を想うことができるはずなのに。

 自分がいくらそう伝えても、今のラクサスには届かない。悔しさと無力感に苛まれるミラの瞳に涙が浮かぶ。

 

『そもそもオレでなくても、そっちにはリィリスがいんだろうが。あいつはどうしたよ』

 

 そう。ラクサスは前からリィリスの事を高く買っている。

 それには“怒りの日”が関係していることはみんなが分かっていることなのだが、それを含めてどうしても自身を最強と謳う彼が、あの日から彼女に拘るのか不思議でならなかった。

 

「リィリスもやられたの……」

 

 レビィの沈痛な呟きがやけに響いたのは、誰も言葉を発せなかったからであり、つまりラクサスも含めてこの空気に呑まれているということ。

 

『オイ、そりゃ何の冗談だ……あいつがやられただァ……ッ?』

「そうだよ、ファントムにやられたのさ! あんたが気に掛けてたリィリスがこんなに酷い目に合わされたんだよ!?」

 

 水晶越しから映された彼女の姿に目を見開いたラクサスは、ゆっくりと俯いていき肩を戦慄かせ始める。

 

 直後、向こう側の水晶から送られる特大の破裂音。

 その音に三人は反射的に耳を塞ぎ目をつむった。恐る恐る目を開け見返すと、そこには何も映し出されていない沈黙を宿した水晶があるのみ。それだけが、相手側が一方的に通信を切ったという事実を雄弁に語っていた。

 彼の取った行動は果たしてこの波乱に参加するものだったのか、或いは──

 

 

 

 

 吹き出す煙に包まれる小型通信用魔水晶(ラクリマ)を無骨な手が握り潰す。

 

「お、おいッ、ラクサス……!」

 

 雷神衆の一人であるフリードの呼びかけに答えるでもないラクサスは肩をぶるぶると震わせ、彼から発せられる雷の孕んだ魔力が辺りにまき散らされる。

 

「もうあのギルドはお終いだ……」

 

 唯一、自身の認めていた少女が敗れた。

 誰よりも凄烈で強大な力を過去に見せた彼女は、今の腑抜けきったギルドに染まり()()()力すら出せなくなった。その事がなによりも、ギルドを壊された事よりもラクサスの心を荒立てる。

 

 あいつだけは──

 

 あいつだけは違うと思っていたのにッ。

 ()()()に見せた純粋な力、それが目覚めるのをラクサスは今日という日まで待ち続けた。

 しかし今回の戦争を経ても、リィリスは目覚めるどころかあんな無様を晒すまでに弱く堕ちた。

 

 変えなければならない。

 

「オレが……」 

 

 ──このオレが創り変えてやる。

 

 それはこれより先に始まる新たなる波乱の幕開けでもあった。

 

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