より良いハッピーエンドの導き方 作:後藤さん
――それはとある日の任務中の出来事だった。
「村田、鬼がそっちにいったから頼む!」
「了解! こっちは任せろ竹内!」
鬼が出た……と聞いて出動したのはもう三時間程前になる。
それこそ鬼の量は数体、強さもそこまで無い様な連中だが階級が下から数えた方が早い様な俺達にしてみたら命懸けの重労働。
一時の油断すらままならない。
特に俺達は十段階ある内の下から二番目の位である『壬』だから多分油断なんてしようもんなら即座に殺されるだろうな……俺なんてもう鬼殺隊に入って四年目も佳境だって言うのにこの地位だ、自分の才能の無さに泣きたくなる。
それでも任されたからには泣き言なんて言ってられないんだ、畜生め!
俺だって鬼に天涯孤独の身にされてるんだ、弱くてもやれる事はやれるだけやってやる!
「ケッ、ちょこまかとぉ!」
「やっと追いついたぞ! さあさっさと観念するんだな!」
「果たして観念するのはどちらかなァ?」
「……はい?」
……周りを見渡す。
あ、ダメだ深追いしすぎた、どこだこの真っ暗な森。
逃がすもんかと他の鬼が劣勢なのを都合良しと突っ込んだのが失着だった……しかもコイツ、他の鬼よりは多少腕に実力があるか……
参考までににはなるが俺の得意とする戦法を挙げるなら、相手の実力と得意属性を的確に見極め集団で攻撃し討ち取る堅実さと数の利を活かしたゴリ押し、俺自身の力は階級の通り低い。
「お前、もしかして馬鹿か?」
「……な、な訳無いでしょう!! もし合ってもアンタを殺せば証拠隠滅だから!! 先手必勝!!」
「ええい! 雑魚は雑魚らしく死に晒せ! 血鬼術・凍風!」
「のわぁっ!」
この通り先手で不意打ちをしたとしてもまともに水の呼吸の型すら操れない俺単独では中々に厳しい立ち回りを強いられてしまうのが常。
何としてでも倒さねばならないが……生存率を上げるには仕方ないけどここは一旦引くしか……
「行かせるかよ! 凍風!」
「二度も同じものに引っ掛かって……あ」
退路妨害の為か鬼が氷の血鬼術で攻撃、それを飛び上がって避けた瞬間俺の脳みそが警報を鳴らしていた。
それもそのはず、血鬼術にしては単調が過ぎると思っていたがそもそも直接当てるのが目的では無かったからだ。
そう。下をチラッと見れば暗いながらも月夜に照らされキラキラと光る銀世界が直下に見える。
そして人間というのはいくら数メートルの飛び上がりであっても飛び上がっている間体勢はそうそう変えられない。
それが意味する末路というのは……
「足が滑っへぶぅ!?」
次の瞬間には俺の意識は凍らされた地面によって足を取られた、という何とも間抜けな事により飛ばされていた。
「ど、どこだここ……」
次に目を覚ました時には、何も無い空間にいた。
死んだのかとも思ったが強打した顔面がまだ痛むという事は生きているのだと何故か冷静になっていたが、流石に何一つ無い空間がおかしい事くらい気付かない訳が無かった。
「お、やあやあ起きたか」
「なっ……誰だ!」
しかし冷静になったのも束の間、暗闇に響く声がした。
周りを見渡すが何も無いし見えない、それでいて近くにいる様で遠くにいる様な不気味な声が響く。
それが不安を駆り立てる。
「そう警戒するなよ。君は俺を知っているはずさ。俺も君を知っているけどね。ゆっくり思い出してみな……ああそうそうここは君の深層心理世界だからどれだけ体感時間で考えても起きた時には一瞬も時間経ってないくらいだから」
「な、なんだと……?」
不安には駆り立てられたものの何故か声には説得力があった。
そして何故かその声には確かに聞き覚えがある様な気がしている、根拠なんてものは無いのに。
「……取り敢えず考えるしか無いか? いつもの俺ならこんなおかしな事になったら気が動転しても良いのにしないし何よりさっきまで戦闘してたのに全く違うこんなところにいる事自体現実離れしてるし。……しかも偶然とは思えないんだよな、これ。多分このまま目が覚めても殺られるだけ、だったら何かこれが手掛かりになる……かも知れない。やってみるだけやってやる、家の家訓だったもんな」
死んだ両親が掲げていた家訓を胸に生きてきた。
やれるかやれないかではない、とにかくやってみる事から始めろと常日頃から言われてきた。
だから日輪刀を握った時に、基本流派適性が低いと言われても諦めなかった。
最終選抜だってそうだった。
死んだ同期に託されたものが二つもある、大切なものを二つも。
だからここでやれる事は全部やってやるさ。
生きる為に、勝つ為に。
そう決心したからか、心が落ち着くのが分かった。
そう言えばあの声はどこか聞き覚えがあるとさっきふと思ったんだったな。
………………いや、聞き覚えがある?
違う、確かに聞いた事のある声だが、少なくとも『俺が俺になった』時点では聞いた事は無い。
この声は……そうか、そうだったんだ。
あまりに早く辿り着いてしまいつい苦笑が零れるが、それもそうと言いたくなるくらいなんで今まで忘れていたのかと呆れる程だ。
「どうやら答えは出たみたいだね」
「ああ……そうだな、『俺』」
そう、答えは自分自身だった。
しかしそれは大正に生きる俺という『村田鋼一郎』ではなく、別世界の、令和に生きていた、とある男。
『鬼滅の刃』という、俺が今生きているこの世界が一つの作品として存在する世界で、その成り行きを見てきた男。
俺の前世だったんだ。
「全く……漸く起きてくれたのか」
「ああ、ごめん……でももっと早く起こしたかったな……もっと早ければ錆兎は……ッ!」
握り拳を作り行き場の無い怒りが漏れる。
自分の無力さに、後悔に、悲しみに。
どうしようも無かったあの日が。
「馬鹿言え。現代と原作の知識が多少あったからと言って元一般人の知識じゃ錆兎は救えなかったさ。……だが原作とは違って、俺には救えたものがあった、そうだろう?」
「救えたもの……そうだ、俺は錆兎に託されたんだ。義勇と、『真菰』を。原作より多くのものを託されたんだ」
自然と現代と『原作』の知識、両方が頭に流れ込んでくる。
膨大な量の割に水の様に吸収出来るのは、魂の同じ人間のものだからだろうか。
それはまあ良いんだが、既に原作とは違うムーブをかましていた事に行き着く。
それが『真菰』だった。
まず真菰は本来俺や錆兎、義勇とは違う最終選抜の時に鬼に殺されていたはずだが何故か同じ選抜のメンバーとして参加していた。
そして情けなくも錆兎から義勇を託された直後、真菰を助けてやってくれと言われ命からがらにあの『因縁の鬼』から救出し逃げ切った……真菰はその違う最終選抜時、錆兎をも殺したその鬼に殺されていたのが正史だったのにも関わらずだ。
「そーいうこった。『俺』が居なくても既に俺は本来救えなかった命を救った、だったらこれからは錆兎の遺志を受け継ぐ……アイツもそれを願ってるはずだ」
「分かってる……でも、このままじゃ俺は……!」
だが一番の問題は片付いていない。
目の前の氷の血鬼術を使う鬼をどう倒すか、今のままでは起きてもリスキルが関の山だ。
「なーに心配すんなって。そこは俺お得意のアレ、あるじゃん?」
「アレ? ……なあ、まさかとは思うがそのノート……」
そこも把握済みと言わんばかりに俺はニヤつく。
お得意の、と同時にどこからか出てくる一冊のノート。
『鬼滅の刃 オリジナル流派・血鬼術辞典』
「その通りさ☆」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
成人してから書いてしまった厨二病を拗らせたそれを見て、まだ前世の記憶が馴染みきってない俺はクソ程にも汚い叫び声を上げる事しか出来なかった
村田の下の名前と家訓はオリジナル設定