トリオンモンスターって呼ばないで!   作:わー

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1話目

 金がねえ。

 

 転生者、神崎弥生の頭の中はただひたすらにその事でいっぱいだった。

 

 仲が悪い両親と喧嘩し、半ば追い出されるような形で一人暮らしを始めたのが数カ月前の事。なけなしの貯金で何とか乗り切ろうとしていた弥生を嘲笑うかの如く、金は湯水のごとく消えていく。当然中学生の財力で長い間生きていけるはずもなく、弥生はあっけない程簡単に窮地に立たされていた。

 

 これからどうしよう、と肩を落とす弥生だったが、ふと机の上に何かのパンフレットがある事に気が付いて、それを手に取った。

 

「界境防衛組織ボーダーへの入隊…」

 

 弥生はそれを読んで、苦虫の如く顔をしかめた。

 

 弥生は転生者だ。当然この世界がワールドトリガーの世界であることは既に知っていた。4年前の第一次大規模侵攻やボーダーの設立で世界が揺れ動く中、それらを三門市とは全く何のゆかりもない遠い街から眺めていたのだから、気づくなと言う方がおかしな話だ。

 

 とはいえ、弥生はワールドトリガーの知識はあまりない。それに十数年前の記憶を掘り起こそうにも限界はあった。ありていに言ってしまえば、全くと言っていい程覚えていない。

 

 当然原作の舞台でもあるボーダーへの入隊は、自分というイレギュラーがいることで原作が変わってしまうという可能性ができるということだ。当然、弥生は自分がそんな影響力のある人物であるなどと己惚れるつもりはない。しかし、縁や繋がりが時に大きな変化を与えてしまうことになるということは、元社会人として知っているのだった。

 

 故に、この三門市に送り込まれた際も弥生はそのボーダー入隊への案を蹴った。中学生でも働ける環境であるというにも関わらずだ。しり込みしてしまうのも仕方のない事だと、今でも思う。

 

 だが、やはりそれはそれとして金がねえ。

 

「くっ…仕方ない、やるか…」

 

 弥生は決意を固め、パンフレットを握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ボーダー正式入隊の日。当然の如く試験に合格していた弥生は、目の前の光景に疑問を感じざるを得なかった。

 

 スナイパーなんてできる気がしなかったので、アタッカーとガンナー組を選んだ弥生。訓練の内容は訓練用トリオン兵を時間制限内に倒すというもの。正直、訓練とは名ばかりで、実質今の実力と才能の確認がメインのこの訓練で、弥生は自分の番がくるのを今か今かと緊張しながら待っていた。

 

 それなのに、目の前では何故か風間と呼ばれる偉い人っぽい人が眼鏡をかけた…あれ?あの人主人公じゃね?的な人に「実力を見てやる」とか言いだしたのだ。指揮していた嵐山とかいうイケメンもそれに対して文句を言い始め、他のC級隊員たちも物珍しいイベントの方に首ったけ。

 

 その直前も空閑とか言うあれ?こいつ確か主人公じゃね?的な人が1秒未満とか言うすさまじい結果を出してめっちゃ騒がれていたのに、自分の番が近づいて来たと思ったらこれか。もう何なんだよ。一人緊張してたこっちが馬鹿みたいだ。弥生は正直もう切実に帰りたくなっていた。

 

「次、神崎弥生、2号室」

「…はい」

 

 弥生の番が来た。当たり前の如く誰にも見られていない。ため息をつきそうになりつつ指定された部屋の中に入り、目の前に現れる巨大なトリオン兵を見据える。

 

 もうとっとと終わらせてとっとと帰ろう。そう思っていた。

 

『2号室。用意…開始』

「アステロイド」

 

 弥生は数ある武器の中から、一番使いやすそうだったアステロイドを選んだ。理由はなんかかっこいいから、それと近距離で戦うとか神経使いそうで面倒そうだから。

 

 取り合えず目いっぱいの大きさのトリオンキューブを生成して、そして目の前のトリオン兵にぶち当てる。すると、轟音が響き渡り、トリオン兵はまるで風船が割れたかのように一瞬にして消し飛ばされてしまった。それでもアステロイドの弾は止まらず、そのまま訓練室の壁を貫通、基地の壁をぶち抜いて空へと消えていった。

 

 あ、やっべ。そう思った時には時すでにお寿司。周囲を静寂が包み込み、時間を止める。

 

『記録、1秒23』

 

 おー、二番だ。って、嫌今はそれどころではない。え?壁ぶち抜いちゃったんだけど、これ大丈夫?修理費とか出せないけど?

 

「…」

 

 えっと…と困惑しながら振り向いてみると、多数の視線が突き刺さってきた。やめて見ないで、コミュ障は見られると死ぬ生き物だってお母さんから教わらなかったのだろうか。

 

 とりあえず、終わった人はご飯だって言ってたし、とっととラウンジに向かおう。そっと部屋を出て、弥生は小さい身体をさらに小さくしながらその場から即座に緊急離脱したのだった。

 

 

 

 

「神崎さん、この後時間あるかな?」

 

 逃げられなかった。

 

 すべての訓練が終わり、意気揚々と帰ろうとしていた弥生を、C級隊員を指揮していた嵐山が即座に捕まえた。その後ろには太い中年男性が一人、物凄い形相でこちらを睨みつけてきている。

 

「わしは鬼怒田。このボーダーで開発室長をやらせてもらっている者だ」

 

 開発室長。それってつまりお偉いさんってことですか?あ、ダメ、吐きそう。

 

「で?君が壁をぶち抜いたのか…?」

「…」

 

 ヤバい、やっぱり慰謝料請求されるんだ!もう終わりだ!と、心の中で絶望が噴き出す中。

 

「そうかそうか!いやぁ、素晴らしい才能を持って生まれてきたんだねぇ。ご両親に感謝せんといかんよ?」

 

 物凄い良い笑顔で頭をなでられた。え?何この人ロリコン…?

 

「壁のことは心配せんで良いぞぉ。あの壁はトリオンでできておる。すぐに治すことができるからのう」

「そ、そうなんですか…」

 

 ほっとした。今、弥生の頭の中で安堵成分が大量分泌された。もはやその場で崩れ落ちそうなくらいの安心感だった。

 

「それにしても、これだけのトリオン性能を持っておきながら、ポイントは1000丁度か…」

 

 弥生の手の甲に示された数字を見て、怪訝そうにつぶやく鬼怒田。弥生は首をかしげる。

 

「鬼怒田さん、俺もそのことが気になって、彼女のトリオン計測結果を見てみたんです。それがこれなんですが…」

「トリオンの平均数値とドンピシャか。ふん、莫大なトリオン量に、計測器がエラーを吐き出しおったな」

「やっぱり鬼怒田さんもそう思いますか」

 

 何やら話が嫌な方向へと進んでいるのを感じとり、ゆっくりと後退していた弥生に、鬼怒田は優しく話しかける。

 

「この後時間あるかな?もし暇なら、わしについてきて、トリオン量…トリガーを使う才能の再計測をしてもらいたいんだが…」

「…」

 

 生憎、この後の用事はない。断るだけの度胸も話術も持っていない。弥生は小さくうなずきつつ、内心ため息を吐き出したのだった。

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