トリオンモンスターって呼ばないで! 作:わー
普通に授業を受けていたら、めっちゃ警報が鳴り響きだしたんですけど。
いったいなんだと思って街の方を見たら、向こうの方に物凄い量のトリオン兵が湧き出していて引いた。弥生は集合体恐怖症なのでああいった粒粒は大嫌いだった。
「きゃー、何アレ!?」
「おいおいおい、マジかよ、何が起きてんだよ!」
「皆、落ち着いて!とにかく落ち着いて、避難の準備!」
騒がしくなる教室。教師が慌ててそう言った。その言葉に従う生徒はあまりおらず、窓の方へと集まって何事かと見物し始めていた。
弥生はとりあえず携帯…はないので、どうしたものかとぽっけの中の訓練用トリガーを転がす。C級隊員たちに、有事の際は救助活動においてのみ訓練用トリガーを使用して良しと言う許可が出たのはつい先日の事だった。逆に今までは救助活動ですら使っちゃダメだったの?むしろなんで持たせてたのじゃあ。と疑問に思った弥生だったが、早速使う場面が来たらしい。
あの数は恐らくマジヤバい。入隊試験に出た第一次大規模侵攻…その内容を彷彿とさせる規模だ。見れば、周りの生徒の中にも顔を青ざめさせる人間も多い。
一先ず他の隊員と一度集合したいな。そう思っていたら、中庭の方に眼鏡とショタとロリ二人が集まっているのが見えた。自分も一応行くか、と「トリガーオン」と唱えてトリオン体に換装させつつ、窓から飛び降りる。
「え!?飛び降り自殺!?」
「いや、アレ…もしかしてボーダーの…!?」
しゅた、と着地、とてとてと近づく。
「き、君は!」
「お、昨日の。どーも」
「…」
手を上げてきたショタに、少しだけ恥ずかしそうに小さく手を上げる弥生。眼鏡を見て首をかしげる。これからどうするの、と。
「…僕と空閑は、向こうから来るトリオン兵を食い止める!千佳と夏目さんは避難の誘導。神崎さん…君には、皆の事を頼む。何かあったらトリガーを使ってでも守ってほしい」
「…」
守る?
…え?自分が?
「夏目さんも、千佳のことをよろしく頼む」
「はいっす!」
「千佳、お前にミニレプリカを預けとく。何かあったら絶対に俺か修が助けに行くから、危なくなったら呼んでくれ」
「うん!」
「よし、それじゃあ行くぞ空閑!」
「おう、修」
二人はトリガーを構えて、同時に叫ぶ。
「「トリガー、オン!」」
かっこよく変身し、生徒たちからの声援を背中に受けながら走り去っていったのだった。
えー、何アレ、主人公かよ。いや多分主人公なんだろうけど…まだあれで15歳なんだよね?一体どれだけの覚悟決まってたらこの非常事態時にあんな風に誰かに指示出せるんだろう。
ぱっさぱさに乾いた白米みたいな人だよね、と言われていた前世。そして今世ではコミュ障になって人と碌に話せない。弥生には絶対にできない事だった。
っていうか、ここからどうすればいいの?皆を守れって言われても、何をしたらいいのだろう…。そもそも、話したことないロリ二人と自分だけ残されて非常に気不味い。いたたまれない。
こんなんだから友達もできないし、個人戦のブースでも誰も対戦してくれないのだ、と眦が熱くなる。
そんな時だった。弥生の手が誰かに引っ張られた。
「そ、それじゃあこっちも頑張ろう!神崎さん…でいいんだよね?避難誘導、手伝って!」
「…」
猫目のロリに手をつながれたらしい。え?何この子。どうしてこんなに簡単に知らない人の手を握れるのだろうか。もう一方のロリもこっちを見て頷いてくるし、もしかしてこの二人とは友達になれるのではないだろうか…?どことなく体格も似てるし…。
弥生は何故かかすかに頬を赤くしながら、二人の後をついていくのだった。
救助を続けていると、本部から連絡があった。どうやら手ごわいトリオン兵が現れたので各個撃破することに決めたらしい。避難が一番進んでいるところは後回しになるということで、今弥生が担当しているこの区域が一番最後に回されることになったのだという。
え、マジヤバくね。と弥生が戦々恐々としていると、後ろからトリオン兵のバムスターが現れて、それと同時に颯爽と現れた三人のC級隊員に顔を切り刻まれて倒されていた。
「こんな状況で戦闘禁止とか、いってらんないっしょ!」
「一流は無名の時期から伝説を作り出すものさ…」
「流石リーダーだぜ!」
もうここまでトリオン兵が来ていたのか、と子犬を抱きながら思っていると、バムスターの破片から何かがのそりと起き上がってきた。
何だあれ…その姿を見た瞬間、弥生の頭の中を警報が鳴り響く。
「アステロイド」
先手必勝。弥生のアステロイドが火を噴いた。光る弾が三人のC級の顔すれすれを通り過ぎ、謎のトリオン兵にぶち当たり一瞬のうちに粉々になった。一応手加減はしておいたので、周囲の地形破壊はそんなにない。
「う、うおおお!?あぶねえ!」
「神崎さん!」
上から眼鏡と美少女が降ってきたので、弥生はかすかに目を丸くする。
「嘘…新型を一撃で…!?」
「やっぱり、凄いな…」
美少女は何やら驚愕していて、眼鏡は冷や汗をかく。サンバカが後ろで、「大丈夫かリーダー!?」「泣くなリーダー!」と喚いている。誰なんだろうこの人たち。
「A級の木虎だ!」
「嵐山隊の…!これで勝った!」
何やら知らないが戦力は増えたらしい。が、弥生は目を細める。
「神崎さん…!大丈夫…!?」
近づいてこようとした雨取を、弥生は手で制した。
「下がって…」
「え?で、でも…」
まだ頭の中の警報は鳴りやんでいない。それどころか、これは――――。
次の瞬間、空間を切り裂く音が響き、虚空から三つの黒い球が出現した。
「これは…」
「新型が、三体!?」
現れたのは先ほどの謎のトリオン兵の色違いだった。紫色が地面に腕を突き刺すのを見て、弥生は目の前の木虎の腕を引いた。木虎の足が地面から生えてきた刺にやられる。
「木虎!」
「皆、逃げなさい!」
その言葉に、アステロイドを出そうとしていた弥生の手が止まる。A級隊員の命令は従った方がいいかもしれない、そんな思考が弥生の行動を止めた。
次の瞬間、弥生の視界がぶれた。
一体の新型が、助走もなしに、まるで弾丸の如く猛スピードで弥生を捕らえたのだ。新型は弥生を鷲掴んだまま、適当な民家をいくつもぶち抜いて弥生に衝撃を与えた。
「神崎さん!」
「っ…!こいつらの狙いは…C級隊員ね!?」
木虎が銃を抜くが、地面から生えた刺に胸を貫かれた。眼鏡は適当に金色の奴に吹っ飛ばされた。
「逃げろ…皆、早く逃げろおおお!」
トリオンキューブと化した木虎が飲み込まれ、辛うじて生きていた眼鏡が叫ぶ。
そんな絶望的な風景の中、雨取は目の前に迫る新型に足をすくめていたのだった。
新型マジヤバくね。
アステロイドの散弾を食らって穴だらけになった新型の残骸から何とかはい出しつつ、弥生は恐怖していた。こんなに怖かったのは、ジェットコースターに乗った時に、後から実はネジがいくつか抜けていて非常に危険な状態だったと知った時以来だった。
「…」
彼らは無事だろうか。振り返ると、轟音と共に眩い光の線が空へと消えていくのが見えた。あれは一体何だろう。何が起きているんだろう。首をかしげていると、ふと危機感を覚えてアステロイドを勘の赴くままぶっ飛ばす。
「ギッ…ギ…」
おや新型だ。穴だらけになった新型に目を丸くしていると、黒い球体がいくつも現れて、中からトリオン兵がどんどんと現れてくるではないか。
弥生が慌ててアステロイドでトリオン兵たちを吹っ飛ばしていると、後ろから車の音が近づいてくることに気が付く。
「あれ、拾うか」
「よし来た」
なんか拾われた。ぽいと放り込まれるように空いた席に座らせられたので、大人しくそこに座る。
「周囲のは任せたぞ、小南」
「分かってるわよ!」
そう言ったと同時に、誰かが後ろへと飛び降りた。そして一息の間に一瞬で切り刻まれるトリオン兵たち。
「よいしょっと。あんなの楽勝ね!」
緑色の服を着た美少女がぴょんと飛び乗ってくる。隣に来たのでふわりといい匂いが漂った。
え、なにこれ。何この人たち。怖い、誰か助けて…。