トリオンモンスターって呼ばないで!   作:わー

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5話目

 ほんの数秒。それこそ瞬きの間に、数人のC級隊員が鳥に触れてキューブへと変わっていった。鳥の群れは戦場の上空を悠々と舞い、まるで冷徹な無人機の如くトリオンが形作る全てのものへと被害を与えていく。

 

 新たに現れた敵の戦術を前にして、経験のないC級は瞬く間にその姿を減らす。普段からランク戦に出場し、数多の強敵たちと渡り歩いてきたA級でさえその毒牙からは免れられなかった。まず最初に緑川が腕を落され、そして続くように米屋が足を片方失った。

 

 緑川はまだしも、片足が無くなりバランスが取りづらくなった米屋は戦いにくそうにしている。新型と渡り合うことは、もはやできない状態だった。

 

 不味い状況になった。弥生は肌に感じる危ない気配がそこら中に湧き出している事を理解し、うへえ最悪だと内心毒を吐く。空から来る鳥や虫は辛うじてアステロイドで撃ち落とせるものの、なんとも厭らしいことに地面やら壁やらから虫やトカゲがひっきりなしに襲ってくるのだ。無論これは姿かたちこそ違えど青白い発光と輪郭を持つことは鳥と共通で、触れた者がどのような結末を迎えるかは火を見るよりも明らかだった。

 

 その上、どうやら相手は弥生にご執心らしい。まるで密度が違う。弾幕濃ゆすぎ何やってんの!?と半泣きになりながら徐々に端に追い込まれ孤立させられた弥生は見るからに混乱していた。その上無事だったもう片方の腕に虫がくっついたお陰で何やらところてんのように輪郭があやふやになってしまったのだ。もはや万策尽きたと心が挫けかける。

 

 確実に狙われていることに多大なる焦燥感を感じながら必死こいてアステロイドを飛ばしていると、唐突に、ふとした思い付きが弥生の頭に浮かんだ。

 

「トリガーオフ」

 

 弥生はおもむろに生身に転身し、密度の高いその危険地帯からするりと抜け出した。トリオン体でなければ被害はないようで、生身の弥生に当たってもまるで霧のように溶けて消えるだけで何もない。周囲のトリオン兵は直前に片付けたことは確認済みだった弥生は、離れた場所でまたトリオン体に身体を変換させて体勢を立て直し、C級達の援護に回る。

 

 鳥を潰しトリオン兵をぶっ壊しと縦横無尽に戦場を駆けていると、ふと道路の真ん中に出る。そこでは出水と謎の男が睨み合っており、出水を守るように弥生が飛び降りてきた形だった。あ、なんか場違いなところに出ちゃった。大丈夫かなこれ、と場違い感に固まる。

 

「むかつくぜ…って、お前はトリオンモンスター!?」

「金のひな鳥…!」

 

 トリオンモンスターって呼ばないで!声に出して叫びたくなったが今はそんな状況ではない。右手には出水。左手には角の生えた男…一目見て分かった。こいつは不味いと。そもそもあの魚や虫はこの角男から湧いて出てきているらしく、戦場の様子を一変させる程のボス級の戦力の持ち主であることは間違いない。

 

 もしあの魚が全部こっちに向かってきたら、防ぐ前にやられる。故に弥生が選んだ行動は見敵必殺だった。いつものアレである。あの防御を抜いて、確実に息の根を止める。

 

「――――アステロイド」

 

 生成されたトリオンキューブが分割され、一つ一つが一筋の光と化して前方へ向かって駆け巡った。しかし。

 

「やはり、もう片方のひな鳥に並んで驚異的なトリオン量だ…お前には、私と共に来てもらうぞ!」

 

 全てを生き物を象った弾丸で撃ち落とされ、色を変えたトリオンキューブは失速して地に落ちていく。

 

 あ、ヤバいコレ。完全に格上じゃねえか。どうしようコレーーーー弥生がその光景に怯んだ、その瞬間だった。

 

「――――ミラ、ラービットを」

 

 そんな言葉と共に、弥生の真横に穴が開いた。

 

 しまった、そう思った時には、弥生はその穴から出てきた新型に吹き飛ばされていた。

 

 砲弾と化して家をぶち抜いて瓦礫に埋もれていく弥生を見て、出水は歯がゆい思いと共にバイパーを発生させ、男の追撃を阻止せんと放つ。

 

「お前は後回しだ」

 

 だがハイレインは悠々と、出水の方を見もせずにその全てを弾幕で撃ち落とした。もはや眼中にないと言った様子に、出水は臍を噛む。

 

「くそっ!」

 

 悔しさをにじみ出す出水。目の前でC級が、しかも将来を有望視されているトリオンモンスターの片割れがさらわれようとしているのだ。その上でのコレ。無力感に苛まれる。

 

「――――アステロイド」

 

 だが、瓦礫の中から聞こえたその言葉に、はっと視線を向けた。

 

 視線は瓦礫から、徐々に空へと上がっていく。しかしそこに青空は見えなかった。巨大なアステロイドの塊が浮かび上がり、それがまるで霧散するかの如く細かく分割され、霧の如く周囲を漂っているのだ。

 

 波紋が波打つように発光するアステロイドの弾の巨大な塊。それが一体どれだけの量のトリオン量でなせるのか、つい最近までトリオン量トップに近い男だった出水にも、それは分からない。

 

 ただ一つだけ分かる事は、あのトリオンモンスターは、ガチの意味でのモンスターなのだということだけだった。

 

「アステロイドの雲…」

 

 その光景を見て、出水は頭の中にそんな単語が思い浮かんだ。

 

「―――これほどとは…!」

 

 ハイレインが目を見張る。

 

 出水が思わずと言った風に呟き、唸るようにハイレインが眼前を睨みつける。奇しくも、そのタイミングはほぼ同時だった―――その直後、膨大な量の小さな光源が、ハイレインに向けて動き出した。

 

 次の瞬間訪れたのは、発光と爆音、そして爆風だった。膨大なエネルギーの霧は地面を舐るように撫でまわし爆炎へと変ずる。ハイレインはその過程で防御用の弾丸を根こそぎ奪われ、大規模すぎる爆発にその身を晒された。

 

「くっ…!」

 

 爆煙の中から辛うじて退避したハイレインの身体は、悲惨な状況だった。身体中のいたるところに穴が開いていた。片目を潰され、片足は跡形もなく消し飛んだ。すぐに修復されるとはいえ、あまりのダメージの深さに戦慄する。

 

 とはいえ、先ほどの弾幕で色を変えたトリオンキューブが大量に転がっている。それも高密度なソレだ。再生はすぐに終わる。

 

 だが、やはりハイレインは焦りを隠せないでいた。

 

 そう短い間に二度目はないはず。ならば次はどう来る!?ハイレインは思考を回転させる。

 

「ひな鳥は…!?」

 

 あの少女は…敵はどこだ。ハイレインは視線を素早く滑らせる。

 

 瓦礫の方にはいない。周囲には、どこにも。そして違和感を感じてある一方向に目を向け、愕然とした。

 

「射手の男がいない…!? どこに――――っ」

「アステロイド!」

 

 直後、巨大なアステロイドの弾丸に貫かれ、ハイレインのわき腹から再生しかけていた腕が食い潰された。

 

「―――とっさの判断としちゃ上出来だ。後で焼き肉奢ってやるよ、神崎弥生!」

「…」

 

 背後を見る。そこには、トリオン体を半壊させた弥生と、出水がいた。

 

『トリガー、臨時接続』

 

 冷たい人工音声が響く。瞬く間に周囲の空間をトリオンキューブで埋め尽くし、犬歯を見せる弾バカ出水に、化け物トリオンを無言で貸し与え続ける弥生。

 

 混ぜたら危険すぎるヤバい存在がこの世に生まれ落ちた瞬間だった。

 

「――――ミラ」

 

 一瞬の思考。ハイレインは即座に判断を下した。

 

『いかがなさいましたか、ハイレイン様』

「こちらのひな鳥は放置し、もう片方の金のひな鳥を集中して狙う。今私がいる座標に、残りのトリオン兵を全てぶつけて足止めしてくれ」

『了解しました』

 

 浮かび上がり、ハイレインはボーダー基地へと向けてスピードを上げる。それに出水が吠えた。

 

「逃がすとでも思ってんのか!バイパー!」

 

 大量のバイパーが駆け上がり、ハイレイン目掛けて突き進んだ。が、すぐにハイレインの姿は魚の群れに隠れて見えなくなり、多数の弾も群れに当たっては地に落ちていった。

 

「追いかけるぞ!」

「…」

 

 半壊したとはいえ形は保っている。弥生はその言葉にうなずき、出水を背におぶった。がきーん、と合体する音が響いた気がした。

 

 出水はあまりの事態に固まっていた。

 

「…いや、まあいいや。緊急事態だしな!よし行けトリオンモンスター二号!」

「…!」

 

 合点招致、と力強くうなずき弥生は地を駆ける…駆けようとして、その場に足を縫い付けた。

 

 周囲を囲む黒い球体。中からは数えきれないほどのトリオン兵がまろび出てはこちらを睨みつける。

 

「ちっ…とっとと片付けるぞ!」

 

 出水の言葉に弥生は再度頷き、前方を見据えて感覚を研ぎ澄ました。

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