トリオンモンスターって呼ばないで!   作:わー

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6話目

「レプリカ!」

「豆粒!」

 

 

「「敵の位置を教えろ!」」

 

 

 未来の分岐点まで、後数秒。

 

 修が基地に走り、それをハイレインが追う。そして、今まさにミラが修の足を縫い付けんとブラックトリガーを起動しようとした――――その瞬間だった。

 

「バイパー+メテオラ…トマホーク!」

「!?」

 

 空中で、ミラの身体が爆発したのだ。爆炎に包み込まれる仲間に気を取られ、ハイレインは足を止める。

 

「―――!? ミラ…!」

「やっと追いついたぜ」

 

 声のする方向に目を向け、ハイレインはここに来て変化が少なかった表情を露骨に露わにする。苦虫を噛んだような顔…その先には、出水を背負った金のひな鳥が無表情でこちらを睨みつけていた。

 

(撃たれた…私が!? というか何なのあの珍妙なものは!?)

(!? どうして出水先輩はあの子に背負われているんだ!?)

「豆粒!俺の射線に変なものが現れた!なんだアイツは!新手のトリオン兵か!?」

「違う、ボーダー所属の出水公平がC級隊員の神崎という少女に背負われている姿だ」

 

 その場にいるほぼ全員が、その光景に一瞬思考を支配される。最初に動き出したのは、ハイレインだった。

 

 状況はひっ迫していた。

 

「ミラ!」

 

 ミラは生身の状態と化し自由落下を始める。上空30m以上の高さにいたミラは確実に死亡する。ハイレインは方向転換を余儀なくされた。今ここでミラを失うのはハイレインの計画の中にはない。彼女は優れた駒であり、戦況を調整する鍵でもある。

 

 トリオン体である彼の身体は、余裕でミラの元まで届く。

 

 だが、それを遠くから狙撃する遊真と風刃を構えた三輪が邪魔をした。上空から届く狙撃に気を取られ、足元から伸びた無数の斬撃はハイレインを切り裂いた。だがこの瞬間の勝負はハイレインの勝ちだった。よろめきながらも、ハイレインはぎりぎりの所でミラを回収する。

 

「申し訳ありません…ハイレイン様」

「いや――――」

 

 言葉は続かなかった。アステロイドの雨が二人に向かって放たれて、ハイレインは後退させられる。その犯人を睨みつけた。

 

「そんな怖い顔で見なくても、俺たちのトリガーには安全装置がある…生身の人間なら、めっちゃ痛いだけで済むだろうぜ!」

 

 出水が吠えた。だが、その瞬間出水の顔がぶれる。弥生が動いたのだ。お返しと言わんばかりに放たれた大量の蜂共が迫ってきていた。

 

「だー、くそ!」

 

 当たり判定が小さく機敏に動く蜂を撃ち落とすのは、出水をもってしても難しい。その隙を縫って、ハイレインは状況を判断する。

 

 背後には修とワープゲート。しかしワープゲートはミラのブラックトリガーによるものだ。今まさに崩壊し、崩れ落ちようとしていた。加えて今修と小さい自立型トリオン兵がそのワープゲートの中から出てこようとしていた。何の用事もなく中に入り、そして出てきただけとは考え辛い。

 

 ―――何かをされたと、ハイレインは理解し歯噛みする。

 

 加えて狙撃はまだ続き、風刃による刃はまだ届く。特に風刃の威力はすさまじい。遠くから地面や壁を伝って縦横無尽に迫ってくる音のない刃は、その特性上ハイレインのブラックトリガーと相性が悪いように思えた。

 

 状況は、完全に詰みだった。ハイレインは数秒の思考にそう結論付け、急加速。今まさに出てきた修の肩を掴んだ。生身の修の肩がみしりと軋み顔が歪む。

 

「…それは」

 

 修が抱えたトリオンキューブ…金のひな鳥を見て、ハイレインは、またもや修にやられた事を理解する。それは金のひな鳥などではない、ただのトリオンキューブだった。いつの間にかすり替えていたのだ。

 

 ミラ、ランバネイン、ヴィザ。並み居る歴戦の同士が敗れた。未熟な戦術家には一歩先を行かれた。他のひな鳥達の回収は、神崎の手により完全に阻止された。持ってきたトリオン兵も、すっからかんだ。

 

 本来の目的は全て達成したとは言え――――これでは。ハイレインの心情にマグマのように熱い激憤が沸き立つ。

 

「っ…!?」

『修、逃げろ!』

 

 修はハイレインの表情を見た。見てしまった。冷徹に怒り狂う敵の首領は、表情を変えず、ただただ静かに憤怒していた。修の身体が怯み、足を止めてしまう程に。

 

「ぐぁっ!?」

 

 そして、修の視界がぶれた。トリオン体によるすさまじい膂力により、掴まれた肩を万力の如き力で押し込まれ、後方へと投げ飛ばされたのだ。生身の身体がしていい様な投げられ方ではない。頭から地面に激突し、そのままゴロゴロと回転しながら停止した。意識を飛ばしたのか、ぐったりとその場に倒れ伏す。

 

「―――金のひな鳥は放棄する。ミラ、ヴィザをワープ型ラービットで回収させろ」

「はい、了解しました」

 

 輪郭が淡くなり、徐々に崩れ落ちていくワープゲートへと入りながら、ハイレインはミラにも表情を見せないまま、その姿を消した。

 

「眼鏡君!」

「…」

 

 出水と神崎が修の元へ駆け寄り、その容態を見る。頭から血が流れ、全身擦り傷だらけだ。加えて、手もかすかに曲がっていた。

 

「本部の医療室に運び込もう。そっちのが病院行くより早い!」

 

 こくこくと頷く神崎は、本部へと連絡した出水と協力して応急処置に努める。

 

「…ま、ってください…その前に―――」

 

 修が激痛に顔をゆがめながら、ゆっくりと目を開いてたどたどしく言葉を紡ぐ。

 

 まだトリオン兵は大量にこの街にいる。キューブと化した隊員たちも多い。だが、敵将が撤退を宣言しその姿をくらませたのは事実だ。

 

 第二次大規模侵攻――――後にそう呼ばれることになる、招かれざる客との戦争は、こうして一応の幕引きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後日、特級戦功に数えられ、大量のお金を手に入れた神崎は泣きながら小躍りしてスーパーにモヤシを買いに行った。

 

 君はできるかな!?調味料無し、強制七草がゆ(街にある野草+米抜き)三食一カ月チャレンジをはじめ、早一カ月が過ぎた頃の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、さくっと用件だけ済ませちゃうね。今回の戦闘での論功行賞があったから、その報告」

 

 目を覚ました修の前に現れた宇佐美は、目の下に大きなクマができていた。修はそのことに疑問を思いながらも、口を開く。

 

「論功行賞…つまり、働きに応じて賞がもらえたりする奴ですか?」

「そうそう。特級、一級、二級って感じでね。まず特級なんだけど――――」

 

 三輪、太刀川、天羽、出水…出水さんも特級戦功なのか、と修は思う。そして。

 

「空閑遊真君。ブラックトリガー持ちの人型近界民を撃破、その後本部基地前の攻防を射撃で援護、敵撃退に貢献。ラービット撃破数3。神崎弥生ちゃん。C級隊員の避難を援護、新型近界民を多数撃破、途中から出水隊員とも協力して敵戦力低減に貢献。その後本部基地前の攻防で、ブラックトリガー持ちの撃破に貢献。ラービット撃破数16」

「空閑が…いや、神崎さんまで!?それに撃破数16って…」

「新型撃破数ナンバーワンだよ。凄いよねぇ~」

 

 寝不足なのかふにゃふにゃする先輩。だが修は驚愕を隠せなかった。

 

「そして次。一級戦功なんだけど…まず修君ね。C級隊員の撤退を支援、敵近界民基地に侵入しハッキング、撃退に大きく貢献する。ラービット撃破数3。うんうん、おめでとう」

「え!?ぼ、僕!?」

「貰って当然だと思うよ。敵撤退の決め手になったんだもの」

「そ、そうですか…あ、そう言えば…!」

 

 そこで修が思い返すのは、レプリカの事だった。身体を真っ二つにされたレプリカを見て、頭の血がさあっと落ちていったあの感覚はまだ記憶に新しい。

 

 彼の、修にとって最大の恩人であり、戦友であるレプリカの事を宇佐美に聞こうとして、しかしその言葉は寸前に扉が開け放たれる音でかき消された。

 

「よ、修」

「空閑!?」

 

 ==の目と3の口を携えてやってきた友人の登場に、修は腰が持ち上がりかける。だが、猛烈な痛みに襲われてその場でうずくまってしまった。

 

「うぅ…」

「ちょいちょい、まだ治ってないんだから、無茶しないの」

「す、すみません…空閑!レプリカは…レプリカはどうなった…!?」

 

 激痛よりも先に確認しなければ。修の祈るような問いに、空閑は手を頭の後ろに組みながら平然と返した。

 

「レプリカな…無事、とは言わないけど、本人はぴんぴんしてるよ」

「…そう…か…」

 

 空閑の言葉に、修は安堵の吐息を漏らす。

 

「ただ、もう半分が見つからなくて、連日徹夜で捜索中。半分だけだと色々と機能も制限されてて、今は一日のうちの大半を寝てる状態…今後は多分玉狛の支部の中から出られなくなっちゃうんじゃないかな」

「その捜索で宇佐美さんは寝不足なのでした…でも、出来るだけのことはしますよー」

 

 むんと力ない様子で力こぶを見せる宇佐美に、修は視線を下に向けて悔しさを顔ににじませた。

 

「ごめん、空閑…僕の所為でレプリカは…」

「―――違うぞ、修」

 

 断固とした響きを持った空閑の言葉に、修は思わずその目を見た。

 

「俺が言ったんだ。そんでレプリカは『修と千佳を守ってくれ』っていう俺の言葉に、100%答えてくれた。うん、流石は俺の相棒だ――――だから、修が謝ることはない…むしろ、褒めてやるべきだろ」

 

 涙で修の視界が滲んだ。何とか泣き顔に変わろうとする自分の顔を、無理やり押しとどめようとして変な顔になってしまう。

 

「それにさ、今はまだ無理でも、アフトクラトルとか、技術の進んだ大国に行けば治せるかもしれない。A級目指す理由が増えたな、修」

 

 その言葉に、涙があふれた。それと同時に胸に灯る熱い決意。修はその決意を、そのまま言葉にする。

 

「…っ僕は…、僕は、もっと強くなるよ、空閑…!」

「…知ってる。泣くなよ、相棒」

 

 こうして、長い間眠りについていた修の中で、やっと修にとっての戦いは幕を下ろす。苦い無力感と後悔、そして次の挑戦への熱い思い、絶対に強くなるという誓を胸に、修は前を向く。

 

 こうして本当の意味で、やっと戦いは終わったのだった。




お気に入り数が増えてる…拙作にお付き合いいただきありがとうございます。本当にありがとう…ありがとう…

書き忘れてた箇所を加筆修正しました。
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