トリオンモンスターって呼ばないで!   作:わー

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8話目

『戦闘体活動限界。神崎、緊急脱出』

 

 ベイルアウトの光が空に舞う。

 

 ごく普通の住宅街を模した仮想空間。しかしその空間は今や見るも無残な事になっていた。瓦礫の山と化し、焦土以外の何物にも見えなくなってしまったその場所で、無傷で一人残る男、二宮は無表情のまま、踵を返した。

 

 

 

 

 その日、神崎はまだシフトの連絡が来ていないことに疑問を感じつつも、腕を衰えさせないためにランク戦に赴いていた。B級に上がりトリガーも訓練用から脱却し、装着数も増えた。そのためのトリガー構成の構築、調整もかねての事だった。

 

 研究室でトリガーの編成をしてもらった後、個人ブースに入り、さて戦うかと腕をまくっていると、そんな神崎のブースに対戦が申し込まれていた。ちょうどいい、いっちょやってやろうと神崎はそれを承諾。

 

 この時、神崎は相手のポイントをよく見ずに承諾したことをずっと後悔することになる。

 

 勝負は以前と同じ10本勝負。弥生にしては珍しく意気揚々と普通の街を模したステージに降り立ち、そして対戦相手を確認する。

 

 果たして、そこにいたのはスーツを着た長身の男だった。

 

 どうしてホストがボーダーに? と抱きかけた疑問をすぐに胸にしまい、弥生はいつも通り先手必勝とばかりにアステロイドを放つ。

 

 瞬間、弥生の目の前のありとあらゆるものが弾幕の暴力にさらされた。トリオン消費度外視の一撃必殺のアステロイドの雨。これは弥生にとっての必殺技となっていた。第二次大規模侵攻時、この技で敵の近界民を押さえつけ、特級戦功を与えられたのだ。それだけこの戦法は効果的であり、敵にとって脅威になりえるのだと理解していた。

 

「―――アステロイド」

 

 故に、土煙から現れた無傷の相手が返し手に放つアステロイドに身体を射貫かれた時、弥生は驚愕しながら緊急脱出した。

 

 

 

 それからは酷い有様だった。

 

「何のための訓練だと思っている。守るべき街や住民ごとトリオン兵を破壊して、それで依頼完了か?貴様もボーダーの一員であるならば本質を間違えるな。今度街を焦土に変えたらまた全身に風穴を開けるからな」

「なんだそのアステロイドの扱い方は。基本のきもなっちゃいない。本当にB級なのか?放った後もいちいち立ち止まって様子を伺うな。常にまだ生き残っているかもしれないという前提で動け」

「やたらと弾幕を作ろうとするが、自分よりも動ける奴相手に眼前の視界をふさぐのは自殺行為だと何故まだ理解できない。特級戦功だったか?運が良かったな。下手な奴が相手だとお前はもう殺されていたぞ」

「泣くな。走れ」

 

 奴の正体はスーツを着た鬼だった。操作画面に表示される二宮匡貴という名前を見ながら、弥生は涙目になりながらこの今日会ったばかりの男の罵声に晒され続けていた。

 

 10本勝負だったが、一本が終わるごとにまるで品評会の如く二宮の口撃が火を噴く。無意味に街を壊すな、弾幕張るな、棒立ちするな、戦略的に考えろ、などなど、言っていることは完全に正論だが、弥生の柔い心は二宮の鋭い指摘に晒され続け少しずつ色を失い風化しようとしている。

 

「アステロイド…っ」

 

 10本目。弥生が二宮がいる場所にアステロイドを放つが当然のごとく避けられ、二宮からもアステロイドが放たれる。それを避けようとシールドを張りながら後ろに飛んだ弥生を、アステロイドの弾道に隠されるように走ったハウンドが貫いた。

 

『神崎、緊急脱出』

 

「うっ」

 

 ベッドにぽてりと落ち、弥生はがくがく震える。怖い、なにこれ、怖い。

 

 なぜこうなっているのか。それは偏に街を破壊することを禁止されたからだった。この条件では恐らく弥生は空閑と戦っても負け越す。彼我の経験の差を破壊とごり押しによって埋めていたのだから、当然の結果だった。

 

 辛い…どうしてこんな目に…誰か助けて…と弥生は青ざめながらのろのろと起き上がる。

 

「…神崎とか言ったか。確か、サイドエフェクトがあるらしいな」

「…ぁ…はぃ…」

 

 弥生は首をすくめながら恐る恐る頷く。先日…第二次大規模侵攻が終わって数日が経過した頃、弥生は本部に呼び出されて診断を受け、そのようなことを言われた。

 

 サイドエフェクトは、トリオン量が多い人間が稀に持つ超能力の事らしい。弥生はその中でも『危機感知』と呼ばれる超感覚にジャンルされるサイドエフェクトを持っていた。

 

「危機感知…だがおかしな点がある。個人戦において、神崎。お前が点を取られた相手は一人だけ。ソイツは一回目は奇襲、二回目、三回目は速攻でもってお前に対処したらしいな」

 

 空閑の事だった。弥生は脳裏に前回の空閑との戦闘を思い浮かばせる。

 

「大規模侵攻時に、お前は敵トリオン兵の攻撃や脅威度を感知し対処したどころか、人型近界民が現れる前に、それを感知し先手を取ったと聞いている。高精度のサイドエフェクトだ…何故、ランク戦では使わない?」

 

 いや知らんよ。怖いよ。お家に返して…弥生は地面を見つめる。

 

「それは、お前がこの訓練に本気で取り組んでいないからだ。どうせ命は取られないからと、どうせたかが訓練だと侮っている」

「…それは…」

「それは? …なんだ、何が不味い? 言ってみろ」

「…」

 

 弥生はぷるぷると涙目になってうつむいた。上から見ると、赤いほっぺと突き出した上唇が良く見える。

 

「神崎。お前はサイドエフェクトを使いこなせ。そうすればできることの幅が増える。そして、射手としてやっていくのならばもっと射手用トリガーの特徴を知り、使い方を身に付けた方が良い」

「…は、はぃ…」

 

 …お、終わった…?弥生は恐る恐る画面を見上げる。

 

「…時間だな」

「…?」

「これから防衛任務だ」

 

 弥生はその言葉に安堵の吐息を漏らした。

 

「お前もついてこい。そこで射手のイロハをそこで教えてやる」

 

 …え?

 

「それから、防衛任務の時は他のチームとも組ませる方針のようだ。まあ、俺も時間が合えばこうしてお前に付き合ってやる」

 

 ひょ?

 

「後、この訓練は来週、同じ時間にまた行う。強くなりたければ一撃俺に入れて見せろ、神崎弥生」

 

 …ひゅい!?

 

 その日、弥生は理解した。自分が舞い上がっていたと。珍しく特級戦功だとか言われて褒められて調子に乗っていたと。実は自分って少し強いんじゃないかと、そんな勘違いをしていたんだと。その所為で運命の女神様の怒りを買い、こんな仕打ちに晒されているのだと思った。

 

 ブースの外に出て、待ち構えていた二宮とのろのろと歩きだす。その気分はもはやドナドナである。

 

 この後滅茶苦茶仕事した弥生だった。

 

 

 

 

 

 その後、初の防衛任務のお祝いを兼ねて焼き肉をおごってもらった弥生は一瞬で二宮に懐いた。弥生は普段厳しい人間にやさしくされると、なんだか特別扱いを受けている気分になって逆に懐いてしまう系少女だった




見てくれてる人が予想以上に増えて恐縮と緊張の限りでしたが、吹っ切れて好き勝手にやろうという境地に至ったのでこれからもよろしくお願いします。

後ワートリ二期最高
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