繋ぎ目の光陰   作:蛙野 心

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はい、唐突に始まる学園モノパロディ。基本設定は以下の通り

先生▶マスター、ミト博士、神尾先生
学生▶梨香、チャド、佑也、芹奈、ネクロ、モニア、セツ、ヨツバ、天使くん

と言うことで多少の年齢操作が含まれますよ、お気を付けて。まぁ今回出てくるのはほぼチャドリカゆうせりです。恋愛回です。


閑話 バレンタイン 前編

 今朝も、教室の中は誰かが話す声でざわざわと騒がしかった。時計の針はそろそろ八時半を過ぎそうで、教室のドアはひっきりなしに開いたり閉じたりしている。その度に、芹奈は誰が入って来たのかを確認しているのだが、目的の人物はまだ来そうになかった。

 

 また、引き戸が勢い良く引かれる音がして、芹奈はスマホから顔を上げた。見れば、教室に入って来たのは佑也だ。教室を真っ直ぐ横切って芹奈の後ろの席まで歩いてきた幼馴染は、芹奈が何か言う前に口を開いた。

 

「行きに一個、下駄箱に二個、ロッカーに三個」

 

 言いながら、佑也は自分の机の上に手に持った箱やら何やらを纏めて置いた。そのぞんざいな手付きとは裏腹に、それらはどれも可愛らしくラッピングされている。店で買ったような高級そうなものから、手作りらしい素朴なものまで、よりどりみどりだ。

 

「そんで、机の中に——二個」

 

 そして言葉の通りに、机の中から似たような二つの包みが出て来る。心なしか、それを机の上に置く佑也の顔はうんざりだと言っている様に見える。それに少し苦笑しながら、芹奈も自分の鞄の中から小さなラッピングバッグを取り出した。

 

「で、私からのも合わせたら全部で8個と。いやぁ、今年も大量だね」

 

 そして、それも山になった包みの上に載せる。思わずと言った様に、佑也は溜息を吐いた。

 まぁ、致し方ない。なんて言ったって今日は、バレンタインデーなのだから。日本全国津々浦々の女子が、思いの丈を意中の男子に伝える、例のお菓子会社の策略がドンピシャで成功した忌まわしき日である。

 

 なんてことを佑也は思っていそうだなと、芹奈は冗談交じりに考えた。佑也が女子にモテるのは、幼馴染の芹奈からしたら今に始まった事ではない。バレンタインデーが大変な事になるのも、最早毎年の事なのだ。佑也も面倒臭がるような事を言うが、あれで毎年断り切れずに貰ってしまっているのだから、恐らくもう色々諦めているのだろう。

 

 また、教室のドアが開く。見れば、チャドと梨香が一緒に入ってくる所だった。途中でばったり会ったのだろうか。

 

「お、2人ともおはよう」

 

「おはよ、芹奈」

 

「はよー……って、何だよその量」

 

 早速、チャドが佑也の机の上の山に反応した。それに佑也が何かを返し、2人がじゃれあい混じりに会話し出す。それを横目に、芹奈は梨香をそっと肘でつついた。

 

「ねぇ、あれ、ちゃんと持ってきたよね?」

 

「そりゃあ、まぁ……」

 

 あれ、と言うのは例に漏れずバレンタインチョコレートの事だ。持ってきた、とは言いながらも、梨香は何とも言えない微妙な表情で視線を逸らした。どうやら、いざとなって決心が揺れているらしい。

 

「ちょっとちょっと、昨日あんなに頑張ったじゃない」

 

 実を言えば、今年は芹奈と梨香の二人で作ったのだ。作ったのは、フォンダンショコラ。ハプニングは色々あったけれど、なかなかいい物が出来たと芹奈は自負している。しかし、梨香はどうも自信なさげにこう言った。

 

「で、でも、ちょっと焦げちゃったし、美味しいかも分かんないし」

 

「もー、作っちゃったんだから覚悟決めなって。私だってちゃんと佑也に渡したんだから」

 

 優柔不断なのは相変わらずだと、芹奈は苦笑する。それに、梨香はちょっとムキになって言い返した。

 

「そりゃあ、あんた達は幼馴染なんだから簡単でしょ。でも、私、料理得意じゃないし、それに——」

 

 梨香が更に続けようとした時、チャイムの音が鳴った。教室に担任の先生が入ってきたのを見て、芹奈も慌てて自分の席へと向かう。

 それにしても、幼馴染なんだから簡単でしょ、ね。そりゃあ、何度も繰り返してきたのだから今更ドキドキも何も出来ないけれど。

 

 でも、毎年期待してガッカリするというのも、これはこれでしんどいのだ。

 

 

 

「で、いつ渡すの?」

 

 それから数時間たった昼食時。昼食を食べていた梨香は、芹奈にズバリ突っ込まれて気まずげに目を逸らした。

 

「後でよ、後で」

 

「それもう聞いたってばー」

 

 芹奈は二つ目の菓子パンの袋を開けながら、やれやれと大袈裟な動作で首を振る。それに思わずと言った様に梨香が反論しようとした。

 

「だ、だって……」

 

 しかし、何を言おうとしたのか梨香はそこで言い淀む。芹奈が菓子パンを頬張ったまま続きを促すと、ようやく梨香はぼそぼそと理由を言った。

 

「……だって、断られるの嫌なんだもん」

 

 ぎりぎり聞き取れた微かな声に、芹奈は思わず吹き出してしまった。そしてツボに入ったのか、そのままけらけらと笑いだす。梨香はちょっと頬を赤くして、それに抗議するような声を上げた。

 

「な、なによぉ」

 

「ごめんごめん。だって、あんまりにも可愛い事言うから……フフッ」

 

 言いながらも、芹奈はまだ肩を小刻みに震わせている。それに不満そうな顔をした梨香は、手早くお弁当の箱を片付けると、ぴしゃりと言った。

 

「はい、この話おしまい! 次の授業——」

 

「ダメでーす」

 

 同じように菓子パンの袋をコンビニの袋に突っ込んだ芹奈は、その梨香の台詞を遮る。そして面食らった表情をする梨香が反論を思いつく前に、勢いよく立ち上がり、こう言い放った。

 

「よし、今から渡しに行こ!」

 

「……はぁ!?」

 

 何を言っているんだと言わんばかりの声を上げる梨香の机にかかったスクールバッグを、ぱっと掴んで持っていく。このバッグの中に、例のフォンダンショコラが入っているのだ。

 

「ほらほら、渡さないなら私が渡しちゃうからね~」

 

「ちょ、芹奈! 待ってよ!」

 

 こうなってしまえば、流石の梨香も立ち上がるしかないのであった。

 

 

 

 チャドはいつも、佑也やネクロと昼食を中庭で食べている。そんな訳で、芹奈は中庭に向かった。

 

「ちょ……せり、芹奈……待って……」

 

 そして、その後ろをついて来た梨香はぜぇぜぇと息が上がっている様子だ。ちょっと早く走り過ぎただろうか。しかし、急がないと昼休みが終わってしまう。

 

 早足で中庭に繋がる渡り廊下に出ると、丁度三人が見つかった。予想通り、この寒い時期に中庭に居るのは三人だけ……じゃない。予想外の四人目が居る事に、芹奈は思わず目を見開く。

 その四人目は、モニアだった。いつも本を読んでいるイメージのある、大人しい女子。確か、佑也と同じ図書委員会に入っているのだっただろうか。それぐらいしかあの三人との接点は思い当たらない。

 

 そんなモニアが、どうしてこんな所に居るんだろう。何となく嫌な予感がして、芹奈は訝しげな顔をしながらその場で様子を見守った。

 

「芹奈? 行くんじゃなかったの?」

 

 そう言って不思議そうな顔をする梨香を、人差し指を立てて合図する。良く分かっていない表情をしながらも、梨香は口を噤んだ。

 

 モニアは三人に用事があるようだった。ここからじゃ声は聞こえないが、話しかけられた三人のちょっと驚いている表情が見える。

 そして、モニアが何かを手渡すのが見えた。彼女の手の平より少し大きいぐらいの、可愛らしくラッピングされた包みを。三人それぞれに一個ずつ。

 

 予想していなかったと言えば嘘になるが、芹奈はそれを驚いた気持ちで見つめていた。まさか、あの奥手そうなモニアがこんな事をするとは思わなかった。十中八九義理で間違いない筈だけど。義理だ。多分、絶対。

 

「って、梨香、どこ行くの!?」

 

 不意に、隣で見ていた梨香がぱっと踵を返した。ちゃんと芹奈が持ってたスクールバッグを取り返して、随分な早足で教室の方へ戻っていく。と、言っても芹奈は陸上部だ。そのまま駆け足で距離を詰めて、梨香を引き留めようとその肩を掴んだ。

 

「梨香、どうし——」

 

 そう言いかけて、芹奈は思わず口を噤んだ。こっちを振り向いた梨香の目に、涙が盛り上がっていた。どうにか慰めなければと、慌てて言葉を探す。けれど、芹奈が何かを言う前に、梨香は固い声できっぱりと言った。

 

「いい」

 

「え、でも、まだ——」

 

「もういいから」

 

 そして、また振り返ると早足で行ってしまった。追いかける事は簡単だ。慰めの言葉だって、言おうと思えば出て来る。それでも、何だかそれは逆効果な気がして、芹奈は黙ってその後ろ姿を見送った。

 

 梨香を追いかける代わりに、芹奈はスマホを取り出す。手早く画面を操作して開いたのは、LINE。そして佑也との個チャを開く。手慣れた動作で、キーボードに打ち込んだメッセージは、『義理だよね?』の一言。

 

 それに返信があったのは、五時間目の授業が始まる直前だった。画面に表示された通知には、『義理だろ』と短い言葉。その言葉に少し安心しながら、芹奈は梨香の席の方にちらりと視線をやった。あれ以降、梨香とは一言も言葉を交わしていない。

 

 義理とか、義理じゃないとか、梨香にとってはそういう問題じゃ無いのだろう。どうしたもんかなぁ、と思いながら、芹奈は溜息を吐いてスマホを机の中に仕舞おうとした。が、通知に画面が光ってその手を止める。メッセージを送って来たのは佑也だ。

 

『無理やり渡させる事無いんじゃねぇの』

 

 通知をスライドして、またLINEを開くと同時に二つ目のメッセージも送られてくる。

 

『渡す渡さないは個人の自由だろ』

 

 芹奈は、何と返信するか少し考えた。確かに、他人事と言えば他人事だし、佑也の言っている事は正論なのだろう。でも、芹奈がこうするのに特に難しい理由がある訳でも無い。ただこう言う話が好きだという、それだけの話で。

 

『恋は叶った方がうれしーじゃん?』

 

 そう打ち込んで、送信ボタンに指を伸ばす。

 それに、誰かの恋が叶う度に、自分の恋にもまだ希望が持てるような気がする。そんな単純な理由も、あると言えばある。

 

 

 

 




せりなちゃ可愛いよ可愛い

これはチャドリカ回の皮を被ったゆうせり回。次、本番はバレンタイン当日に出すよ!! 楽しみにしててね!!

補足:ゆうせりが幼なじみ。あとリカせりが仲良くなってます。同い年効果で。
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