繋ぎ目の光陰   作:蛙野 心

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閑話 集合写真

「げほっ……やっぱ大分ホコリ被ってるな」

 

 ある夜のことだ。そんな事を言いながら、マスターが随分旧式の写真機を引っ張り出してきた。歴史の教科書にでも載っていそうな、古い古い埃まみれの写真機だ。どうしてそんな物があるのかと、芹那と話していた梨香は、半ば呆れた気持ちで呟く。

 

 マスターが言うには昼間、部屋の大掃除をしていた最中に見つけたらしい。まだ動きそうだから、持ってきたとの事。

 

 と言う事は、そこの隅に積まれている雑多な物は捨てる物だろうか。それならせっかくだし、後で古着でも貰っていこうか。最近、リメイクにハマっているのだ。

 

 そして捨てるものとは別に、写真機と一緒に持ち込まれた何やら雑多なものもカウンター周りに広げられていた。マスター曰く『懐かしい物』らしいが、どれもこれもいつのものか分からないほど古い物である。一体、ここのマスターはいくつなんだか——

 

 内心でそんな事を呟きかけて、そこで思考を打ち切る。こんなおかしなアパートで、そんな事を邪推し始めたらキリが無いのだ。ある程度は踏み込まないのが、賢い選択だと自分に言い聞かせる。

 

「あ、そうだ! 折角だからさ、皆で写真撮ろうよ!」

 

 カメラを物珍しげに眺めていた芹那が、いつもの調子でそんな事を言い出した。その横に座ってコーヒーを飲んでいる佑也は、特に興味無さげな様子だ。

 

「でもこれ、動くのか?」

 

 そう言いながら、ネクロが埃まみれの写真機を突っついた。その埃を拭き取ろうと、カウンターの奥にいたモニアが濡れ雑巾を持って出てくる。

 

「拭いて、みます。そしたら、動く、かも」

 

 そう言いながらモニアは背伸びをする。けれどあと少しと言う所で、天辺に届かない。モニアが爪先立ちになろうとした所で、バーの扉が開いた。公園に行っていたヨツバとセツが、帰ってきたのだ。

 

「わー! 何それ!」

 

 帰ってきたばかりだと言うのに、ヨツバはいつものハイテンションで、写真機へと駆けて行った。いや、駆けて行ったと言うよりは、突撃と言った方が正しいか。

 

「あっ……」

 

 その突撃していく先は当然、モニアが拭こうとしている写真機だ。そしてヨツバに驚いたモニアは、写真機を巻き込んでバランスを崩してしまった。ガッシャーンと、派手な音が鳴る。

 

「ああ、もう。何やってるんですか」

 

 溜息をつきながら、セツが事態の収拾へと動く。

 

「ただい……ま?」

 

 そこへ、神尾が帰ってきた。主に写真機周りの惨状を見て、その頭上にはてなマークが浮かぶ。

 

「皆、一体何をしているんですか?」

 

 聞かれて梨香は、簡単に事情を説明した。

 

「写真を撮ろうかって話になったのよ。で、モニアちゃんが写真機を拭こうとしてたんだけど……まぁ、いつもの感じであんな事に」

 

 それだけで大体の流れが分かったのか、神尾は苦笑気味に頷いた。そして今度は、隣に座っていた筈のチャドが反応する。

 

「えっ、写真とんの?」

 

「……あんた、話聞いてなかったの?」

 

 若干呆れ気味に言えば、「だって寝てたし」と返された。さっきまで芹那と話していて気付かなかったが、どうやらいつの間にか居眠りしていたらしい。

 

「なぁネクロ、写真の真ん中に映った人は魂を抜かれるらしいぜ?」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「いつの時代のデマよ、それ……」

 

 なんでまたそんな古いネタをと、呟きながら突っ込む。なんだ違うのかと、ネクロがほっと息をついた。

 

「しかし、実際撮れるんですかねぇ?」

 

「何でよ?」

 

 モニアとヨツバの様子を眺めていた神尾が、ふと呟いた。どういう意味だろうかと、梨香は聞き返す。確かにあの写真機は古びてはいたが、動きそうではあったのに。

 

「だって、ほら」

 

 しかしそう言いながら神尾が指さした先の惨状を見て、すぐに納得した。

 倒れた時の衝撃で、写真機は固定されていた台座から落ちてしまったらしい。そしてその衝撃で、レンズが外れてしまっている。

 

「おーい、フィルムあった……ぞ」

 

 そこへ、自室にフィルムを探しに行っていたマスターが戻ってきた。言葉が途切れたのは、写真機周りの惨状を見て瞬時に事情を察したかららしい。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ヨツバ何もしてないよ!」

 

 そして少女ふたりが、実に対極的な反応を見せる。それに疲れた表情のセツが説明を付け加えた。

 

「すみません、ヨツバが壊し「何で! ヨツバ何もしてない!」……壊してしまいました。直せるでしょうか?」

 

「あー、流石にこれは……まぁ、壊れても問題は無いしな。写真は今度にするか」

 

 仕方ないと、苦笑しながらマスターが言う。写真撮影が中止になったと聞いた皆の反応は様々だ。ガッカリする者、仕方ないと苦笑する者、そもそも話に興味を持っていない者、などなど、十人十色の……あれ? 

 

「そう言えば、天使くんが居ないわね」

 

「あれ、ほんとだ」

 

 そろそろ夕食時だと言うのに、珍しい。何時も皆が集まり出す頃には必ずいるイメージなのに。逆に、ミト博士もこの場に居ないがそれはらしいと思える。いつも、丁度夕食が出てくる頃合に来るのだから。

 

「ただいま~♪ 準備できてる~?」

 

 とか何とか話していると、三度バーの扉が開いて、件の天使くんがひょっこり現れた。その後ろには、仏頂面のミト博士もいる。どうやら、写真撮影の為にわざわざ呼びに行っていたらしい。何をどう説得されたのか、ミト博士はあからさまに不機嫌な様子でこう言い放つ。

 

「やるなら早く済ませてくれたまえよ」

 

「いや、それがさ。カメラ、壊れちゃったんだってさ」

 

 チャドが簡単に状況を説明すると、ミト博士はこれ幸いと踵を返した。しかしその白衣の裾を天使くんに掴まれて、きっと振り返る。その表情には分かりやすく苛立ちが滲み出ていた。

 

「何なんだ一体! 撮らないのだろう!?」

 

「だって~、ミト博士ならあれくらい直せるでしょ~?」

 

 まさか、出来ないの? と煽り気味に聞かれて、ミト博士は即座に答えた。

 

「できる。がしかし、私は理由も無しにそんな事はしない」

 

 実にらしい返答だ。しかし天使くんは、ニコニコ顔のままこう言い放つ。

 

「え~、それじゃあ、直してくれるまで離さない! 早く直して早く撮ったら、早く部屋に戻れるよ♪」

 

 どうやら、この台詞は大分効いたらしい。暫く『絶対に嫌だ』という顔で考え込んでいたミト博士は溜息を一つつくと、写真機の元へ向かった。散らばった写真機の部品を拾い集め、どこからか取り出した工具で手早く組み立てる。そして元の姿に戻った写真機を再び台座に載せると、右手をスっと振りかぶった。ガスン! と音を立てて、綺麗な斜め四十五度のチョップがカメラにヒットする。

 

「これで直ったはずだ。さあ、早く済ませてくれたまえ」

 

 その一言で、一気に騒がしさが増した。全員が、思い思いの場所に行こうとするのに、芹那がテキパキと指示を出していく。

 

「モニアちゃんはそこ! 動かない! ほらマスター、モニアちゃんの後ろ立って。あ、ちょっと佑也、そのコーヒー避けといてよ? 梨香さんはもう一歩右! と言うかみんな全体的に中央によってよって!」

 

 そう言われるがままに、梨香は一歩動く。しかし全体的にぎゅっと寄っているせいか動きづらく、バランスを崩して少しよろけてしまった。

 

「大丈夫?」

 

「っと、ごめん……って、なんか楽しそうね」

 

 そう指摘されたチャドはふへへと笑って言う。

 

「俺写真撮られるの初めてだからさ。前から興味はあったんだけど」

 

「へぇ。私はあんま得意じゃないけど、でも——」

 

 と、梨香が言いかけたところで、パシャリと音がした。唐突なシャッター音に、つい全員が顔を見合わせてしまう。そしてカメラの方を見やれば、天使くんがいつの間にかカメラを覗き込んでいた。

 

「お〜、撮れてる撮れてる♪ よ〜し、この調子で本番も行ってみよ〜!」

 

 その一言で、全員がカメラの方を向く。梨香は、あまり写真を撮られるのが好きじゃない。どうしても、上手く作り笑いができるか不安になってしまうから。でも、たまになら。それで、ここでなら。悪くは無いかななんて、思うのだった。

 

 

 

 それから数日後の事。

 

 難しい顔で、マスターが写真を見つめていた。その写真は、少し前に撮った集合写真だ。あまりにも写真機が古いので心配だったが、近くの写真屋に頼んだら快く現像してくれた。写っているのは、十二人。そう、おかしなことに全員写っているのだ。

 

 よく考えてみてほしい。写真を撮る時には、一人シャッターを押す人が必要なのだ。あの時それを担っていたのは確か、天使くんだった筈。

 

 が、その天使くんは、しっかりと映っている。端の方で、いつにもましてニコニコ顔で、両手でピースサインまで作って。

 

 当然、あの古臭い写真機にセルフタイマーなんてハイカラな機能は無い。ひょっとして、自分の記憶が間違っているのだろうか。しかし、それでも話は変わらない。現像された写真には十二人全員写っているのだから。

 

 一体どういう絡繰りなんだと、マスターは暫く一人で考え込んでいた。

 

 




多分12人全員が1度に出ているのはこれが初ですね

あ、これは宣伝ですけど、千字に満たない小ネタをTwitterの私のアカウントで消化していくことにしました。見に来てね★
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