繋ぎ目の光陰   作:蛙野 心

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5.星空を見て

 お酒は、美味しい。それが、旅行先で飲む地酒なら、尚更だ。

 

 梨香は内心でそう呟いて、機嫌良く缶ビールを煽った。この旅行に参加した最大の目的は、無事達成されつつあるようだ。

 

 時刻は十二時の少し手前。一部の住人が、男子部屋に集ってちょっとした宴会を開いていた。居るのは、梨香、チャド、マスター、神尾、佑也。神尾は今トイレに行っていてこの場に居ないが。まあ要は、よくバーで飲んでいるいつもの面子である。

 

 因みに子供達——主にヨツバ——も夕食が終わってからトランプだのなんだのをこの部屋で広げていたが、一時間程前にセツが向こうの部屋に連れ帰ってしまった。その時までは結構騒がしかったのだが、今こっちに居るのは布団で寝ているネクロだけなので、大分静かだ。

 

 卓袱台の上に広げられたつまみの袋を一つ取り上げる。が、中身が無い。他の袋を掴むが、それも空。つまみを探して、がさがさと袋をより分けていく。しかし驚いた事に、残っていたのは袋半分にも満たないチー鱈だけだった。

 

 よくよく見てみれば、大分買いこんだ筈の酒瓶も缶もほとんど空になっている。人数が多いと、消費が早い。そういう事にしておこう。

 

「おい梨香、そっちに酒無いか?」

 

 日本酒の小瓶で手酌していたマスターに聞かれて、梨香は首を横に振る。

 

「お酒どころか、おつまみも無いわよ」

 

「なんだ、もう無いのか。ま、しょーがねぇな。そろそろお開きだ」

 

 無い物はしょうがないと、マスターがお開き宣言を出した。梨香も、手に持った缶の中身を飲み干す。このビール、この辺りの地酒の一つらしい。美味しかったので、帰る前にどこかで買い込んで行こう。

 

「ただいま……おや、もうお開きですか」

 

 そう言いながら部屋に戻って来たのは、トイレに行っていた神尾である。寒かったのか、両腕を浴衣用の上着の裾に入れている。

 

「そう言えば皆さん、空見ましたか? 星がとても綺麗でしたよ」

 

 少し離れた所に落ちていたあたりめの袋を拾い上げながら、そんな事を神尾が言った。その袋を受け取って、マスターがそれに答える。

 

「何だ、珍しく(歯のこと以外で)テンションが高いと思ったら、そういう事か」

 

 へぇ、と二人の会話に相槌を打ちながら、梨香は内心で少し驚いていた。神尾が、星空とかそういった“普通のもの”に興味を持つタイプだとは知らなかった。

 

「何か、意外ねぇ」

 

 思わずと言った様に、そう呟く。

 

「いや、こいつは意外とこう言う奴だぞ」

 

 それに、マスターはビニール袋の口を縛りながら言葉を返した。ガサガサと、袋の中に詰め込まれた空き袋が音を立てている。

 

 純粋に、綺麗な物が好きな奴なのだ。その“綺麗な物”の範囲が、常人とずれているだけだと考えれば、まぁ納得がいく……事もあるかもしれない。

 

 最後の方は少々自身無さげではあったが、マスターはそう言って笑った。それに、梨香とチャドは思わず顔を見合わせる。

 

「……ひょっとして二人って、結構長い付き合いだったりする?」

 

 前から気になってたんだけど、とチャドが口を開く。それに今度は、神尾とマスターが一瞬顔を見合わせた。

 

「そうですねぇ……どう思います?」

 

 しかし神尾が言葉と共に返したのは、何時もの曖昧な笑顔だった。何と言うか、相変わらず食えない人である。そう思って、つい四人は苦笑した。

 

 

 

 そんな中、がらりと、勢いよく部屋の襖が開いた。反射的に、五人の視線がそちらに向く。

 

 そこに居たのは、ミト博士だ。服装はいつもと変わらないが、その髪の毛が珍しく濡れているのに気付いて、佑也がひょっとしてと声を上げる。

 

「ミト博士、風呂行ってたのか?」

 

「ああ。気が向いたからな」

 

 本人は何でもない事の様に答える。そして驚く五人に頓着する事無く、

 

「意外と悪くは無かった。やはり、人のいないであろう時間帯を選んで正解だったな」

 

 と言って、その手に持ったバスタオルを部屋の隅に置いた。そのまま部屋の奥に置いてある自分の荷物の所へ行くミト博士を見て、ふと疑問が浮かぶ。

 

 男湯と女湯、一体どちらに入ったのだろう。

 

 恐らく、五人全員が同じ疑問を抱いたはずだ。けれども、何となく誰も言葉には出来ず、凍り付いた五人の間には、暫く不思議な空気が流れていた。

 

 

 

 




部屋割り
男子組▶マスター、チャド、ネクロ、神尾、佑也、ミト、天使くん
女子組▶梨香、芹奈、セツ、ヨツバ、モニア
ミト博士は「煩いのがいるから嫌だ」と男子組に行きました
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