孤独   作:BODEWIG

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Evangeline-2

 あるところに、ひとりの少女がいました。

 

 少女は家族と毎日、幸せな日々を過ごしていました。

 一際嬉しかったのが誕生会です。

 

 大きな館に人を一杯集め、皆が少女のことを祝ってくれるのですから。

 耳に入るのはおめでとう。目に入るのはプレゼント。

 胸には、入りきらないほどの幸せで一杯でした。

 

 そんな十何回目かの誕生会。彼女はまたこの日が来たとはしゃぎました。

 祝いにきた人達に次から次へと挨拶。その姿はまるで子犬のようです。

 館を走り回り一週したころでしょうか。さすがに少女は疲れ、眠りについてしまいました。

 

 その顏にはこれから始まる誕生会を楽しみに待つ、幸せだけで満ちていました。

 

 少女が目を覚ますと、部屋の中は暗くなっていました。周りから音が聞こえません。

 

 自分が寝ている内に誕生会が終わってしまったのではないかと、焦ります。

 

 そして立ち上がると

 

 

 

ピチャッ

 

 

 周りが血だらけではありませんか。

 燭台も、花瓶も全てが割れ床を装飾し、代わりに部屋を飾るのは人。

 

 人が塊り、一本の木のようになり真っ赤なお花が咲いたよう。

 鋭く尖った白い枝の先には、その花の真っ赤な蜜が雫となりとどまっています。

 

 よく見るとそこはいつも誕生会を行う一室です。

 ですが耳に入るのは風の音。目に入るのは血の惨劇。

 胸には何故という絶望で溢れかえっていました。

 

 少女がふと唇に手をやると

 

 

 

ヌル

 

 

 

 生暖かいもので濡れていました。

 少女が自分の手を見ると、血だらけでした。

 

 恐る恐る、壁に立てかけてある鏡を見るとそこには。

 

「私?」

 

 全身を深紅に染め上げ、真っ赤なドレスを着、口から血を垂らす女の子が映っていました。

 

「え……嘘? 嘘……だよ、ね。…………いやああああぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 彼女は全てを理解しました。皆を殺したのは私だと。

 

「なん……ひっく、なんでえ? どうしてなの?」

 

 彼女は泣き出し、顏に手をやりました。

 

 そして違和感を感じました。

 

 口から血が垂れている。それは彼女の口に血が入っているということ。

 それなのに気持ち悪くないのです。

 

 むしろ吐き気をもよおしてもおかしくないのです。

 ですがたった一つ思いました。

 

 

 美味しい、と。

 

 

 彼女は口に手を突っ込み、無理矢理にでも吐き出そうとしました。

 そのときあることに気が付きました。

 そして鏡に近づき、口を開きます。

 

「何これ…… 牙、なの?」

 

 そこにあるのは普通の歯と、二本の鋭い牙。

 

 彼女はこう思いました。

 

 私はバケモノだったのだと。

 家族と違い人間ではないのだと。

 バケモノには幸せなどないのだと。

 

「吸血鬼……だよね」

 

 だから牙がある。

 だから血が美味しい。

 だから良い匂いがする。

 

 この惨状で。

 

「……そうだ。お母さんは、お父さんはどこ?」

 

 せめて私を捨てて逃げ出していて、と思いました。

 ですが現実は残酷です。

 

 彼女が寝ていた場所その近くに二人は倒れていました。

 うつ伏せに。

 

 他の死体は襲われ、噛まれ、噛み砕かれ、掴まれ、握られ、握りつぶされて見るも無残なことになっているというのに。

 

 しかし二人は違いました。

 

 ただ首元に穴が開いているだけ。

 

 二人は我が子が正気を取り戻してくれると信じたのでしょう。

 だから首元を噛みつかれ、血を吸われても倒されず、むしろ抱き寄せたのでしょう。

 二人の手のひらは血だらけでした。

 

「お父さん……お母さん…… ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………」

 

 少女はただ謝ることしかできませんでした。

 何について謝っているのかは分かりません。

 

 ただ、謝らないと、ごめんなさいと言わないと自分が保てない気がしたのです。

 

 

 気がつくと大きな窓からは朝日が見えました。

 いつのまにか彼女は気を失っていたようです。

 

「お日様か…… あれ? 私、灰になってない……」

 

 そうです。彼女が倒れている内に、部屋は日が射し込み、明るくなっていました。

 そして彼女が吸血鬼なら、日に当たるとともに消えてなくなるはずです。

 

「吸血鬼が恐れる物……」

 

 何を思ったのか、彼女は厨房へと向かいました。

 廊下は血だらけでしたが、彼女は走ります。

 

 そしてあるものを手にとります。

 

「吸血鬼なら……」

 

 ニンニクをひとかじり。

 

「うっ! うげっ、ごほっ、不味、い……」

 

 とんでもない味が口一杯に広がり吐き出してしまいました。

 

 そしてそのとき何かにぶつかり、彼女に激痛が走ります。

 

「痛い! 痛い痛い痛い!」

 

 そう叫び、背中に手をやると何かが刺さっていました。それを咄嗟に抜きます。

 

「何これ……いたっ、包丁…… えっ?」

 

 刺さっていた包丁を抜くと、途端に痛みが引いていきます。

 

 刺さっていたところに手をやると、なんと。

 

「傷がない……」

 

 固まっていない、熱く、滑らかな血があるのは分かりますが、そこにあるべき傷がないのです。

 

「死ねない…… 不老、不死」

 

 彼女は何かに引かれるかのように、厨房を後にしました。

 

 彼女は再び駆け出します。息が上がりますが、足を止めることはありません。

 彼女はある一室にたどり着きました。

 

 

 

書物室

 

 

 

 彼女は自分が何者なのかを調べようと思いました。

 部屋には視界を埋め尽くすばかりの書物。

 

 しかし彼女は臆することなく、次々と目を通していきます。

 そうして周囲が赤く染まった頃、ようやく彼女は見つけました。

 

「吸血鬼の真祖。ハイ、デイライト、ウォーカー……」

 

 それは様々な魔物を書いた書物でした。

 狼人間や改造人間、アラクネ。幻のようなことが、様々なことが書かれていました。

 

「それは吸血鬼の祖なり…… それを滅することはかなわず…… ただ立ち去るの待つ、のみ……」

 

 読み、分かったのは一つ。

 自分が不老不死のバケモノだということ。

 

 つまりは

 

「お父さん、お母さんの所には……行けないんだね」

 

 死ぬことがない。よって延々とこの世を生き続けることになる。

 人が欲してやまないモノ。それを彼女は突如手に入れました。

 

 かけがえのないものを全て失って。

 

 

 

 しばらくぼうっとしていると、馬の蹄の音がしました。

 

「誰か来たのかな? あ!」

 

 このままでは自分は捕まり、永遠に地下牢獄などに縛られるだろう。

 

 そう思うと、怖くなり、裏口から館を出ました。

 逃げたのです。

 

 覚えていないとはいえ、彼女は殺人犯。

 さらにバケモノなのです。

 

 もし捕まればこれ幸いとばかりに、実験として彼女を弄くり回すでしょう。

 

 彼女は森の中をひたすらに走ります。

 道中何度も転びます。

 傷も沢山できますが、直ぐに治ります。

 

 泣きそうになりますが、倒れそうにもなりますが、走り続けました。

 

 一度も振り返ることもなく。

 

 走り続け、夜も深くなったとき、川にたどり着きました。

 今宵は満月で明るく照され、流水を覗けば、そこには泥だらけの顏をした少女が映ります。

 

 いつの間にか彼女が履いていた靴はなくなっています。赤く染まったドレスも擦りきれ、ほつれ、布切れのようでした。

 

「夢なら覚めてよ…… 魔法なら解けて……」

 

 彼女は踞り、泣き出しました。

 

 しかし翌朝になっても彼女にかかった魔法は解けませんでした。

 

 

 

     ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「とまあ、まず一つ目の話はこれで終わりだ。」

 

 彼女はふぅ、と一息つくと息抜きなのか、二人に目をやる。

 

 明日奈は目を赤くし涙ぐんでいる。

 

 ネギにいたっては、しゃくりをあげながら泣き始めている。

 

「う、うん…… で、これがネギを襲うのと何が関係あるのよ……」

 

 すん、と鼻をすすり口調だけを強気で問いかける明日奈。

 

 ネギは話す余裕がないようだ。

 

「まあ、焦るな。一つ目と言ったはずだ。話はあと二つある…… 舞台を変えるぞ」

 

 パチンと心地よい音が響くと、またもや景色が一変する。

 今度は急斜や崖がある。山だ。

 

「そこのガキを待っていたら話が進まなそうだからな、無視していくぞ。神楽坂」

 

 明日奈は隣のネギを見て、仕方がないと首を振り彼女を見つめる。

 

 そして彼女の口が動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────ある惨劇から、数百年後の事です。

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