孤独   作:BODEWIG

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Evangeline-3

 ここは魔法世界。

 地球とは異なる所にある不思議に満ちた場所。

 

 人々は魔法を駆使、発展し、地球の科学技術にも引けをとらないほどです。

 

 そんな世界で今、最も有名なのは、ある指名手配犯でした。

 

 真祖の吸血鬼、闇の福音 ダーク・エヴァンジェル。600万ドルにも値する懸賞金をかけられた、生きる伝説。

 

 そんな彼女は今、人里離れた、ある城で暮らしていました。

 

「今日も成果なし、か……」

 

 城の一室。ソファーに寝転がりながら書物を読みふける少女。

 その格好に威厳は無く、服装は申しわけ程度に着ている薄手一枚のみ。

 彼女こそが闇の福音その人。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 何も知らない人が見たら、ただのものぐさ少女にしか見えないでしょう。

 

「イイ加減諦メロヨ、ゴ主人。人ニ戻ル魔法ナンテ無インダロ。ダカラ酒飲モウゼ、酒。」

 

 そんな彼女に話しかける、小さな存在。

 人形と変わらない大きさで喋り、テクテクとソファーに向かって歩く姿には、違和感があるかもしれません。

 

 そんな彼女は茶々ゼロ。少女によって作られた魔法人形です。

 その口調から性格が見てとれますが、少女がそれを望んで作ったわけではなさそうです。

 

 今日も少女達は言い合います。

 

 お前はどうして私の邪魔ばかりするだの、ゴ主人ガ塞ギコムノトメテルだの、指名手配犯にしては楽しそうです。

 

 そんな彼女が何故指名手配されているのか。

 

 それは、時の積み重ねに埋もれ、隠れ、誰も覚えてはいません。

 少女以外には。

 

 少女はある目的のため、多くの地を転々とし、様々な書物を手に入れ、解読してきました。

 

 それに要した年数は三桁。

 不老不死である少女だからこそできたことであり……不老不死でなければ始めなかったことです。

 

 彼女の目的は、吸血鬼の人化。

 それも真祖の吸血鬼の人化です。

 火炙りにかけられても、純銀で心臓を切り裂かれても、巨大な杭でその身を穿っても滅ぶ事のない、完全な存在。

 

 しかし、彼女にその力は必要がありませんでした。

 

 大きな力を持つ者は、必ず何かに巻き込まれます。

 まるで引力があるかのように引き寄せられてくるのです。

 

 

 

 平穏な日々。

 

 

 

 それが彼女の、数百年経っても達せられない、唯一の望みです。

 

 

 

 ある日、少女達はとある街にきていました。

 いつもの古文書店にようがあったのです。

 

 このときの少女の姿は少女ではありませんでした。

 

 やはり指名手配されていては自由に動けないのでしょう。

 幻覚を使い、姿を変えています。

 

 その姿は…… 少女の願望からかモデル体型。可愛いではなく美しい。ある一点を除けば、少女が大人になったであろう姿です。……その一点は触れないでおきましょう。

 

 少女が今いる場所は貧民窟。スラム。

 日を浴びる者は決して踏み込みはしない、街の裏の顔。

 

 スラムにある店には、一般には扱わない物を売っていることが多いのです。

 

 麻薬、武器、人。

 

 さらに魔法世界ならではの物。禁書。

 非人道的な行為を伝えていたり、残虐的な現象を起こしたりする魔法を記している書物。

 または多大な魔力を保持していて、取り扱いを間違えれば、甚大な被害を引き起こす物。

 

 そんな危険な物を少女は欲しています。

 

 蛇の道は蛇。

 

 表舞台に現れることのない自分という存在を確かにするためには、舞台裏を知らなければならない。

 そう考え、少女は今日も禁書を漁りに向かっているのです。

 

 スラムには様々な人もいます。浮浪者や捨て子。裏を取り仕切る、所謂ヤクザ。

 

 少女の目の前に立ったのは、おそらく捨て子。

 一人の男の子でした。

 

「こんな所にこない方がいいよ? 危ないから」

 

 男の子はスラムで数少ない、純粋な心の持ち主だったようです。

 少女のことを心配しています。

 

 高飛車でずぼらな少女が、そんなことを気にするはずがありませんが。

 

「ふん、危ないか。こんな所の人間で私に何かできるとは思わないがな」

 

 少女の言葉も尤もです。

 指名手配されてなお、百を越える年数を過ごしてきた少女を、ただの人に何かできるとは思いません。

 

 しかし、それが少年に分かるはずもありません。

 

「君強いの? 強そうには見えないけどな。だって僕より小さいじゃないか」

 

 少年が気にかけた最大の点。それは少女の見た目でした。

 

 それも本来の見た目。

 

「何? おい小僧、何で捨てられた」

 

 人のトラウマなど気にもかけず、少女はある疑問を問いかけます。

 たまたま少年のトラウマではなかったようですが。

 

「捨てられたわけ? 僕、魔法が見えにくいんだよね。精霊さんを感じる力が弱いみたい。だから魔法も上手に使えなくて……」

 

 魔法が見えにくいなら、視覚に作用する幻覚も効きにくくなるのが当然です。

 だから少年には、少女の姿を正しく見ることができたようです。

 

 しかし、この魔法世界で魔法が使えないのは、何もできないのと同じこと。

 足がない、腕がない。

 それよりも酷いこととして扱われています。

 

「なるほどな…… 確かに見た目では強そうには思えないかもしれないな。だが、私は闇の福音だ。小僧なんかに心配される筋合いはないな」

 

 少女にも理由はしっかりと伝わりました。

 しかし他人事。

 

 少女の過ごしてきた日々には、もっと悲惨な人もいました。

 

 今更、魔法ができなくて捨てられました、なんて少年に気をかけることなどありません。

 

 そんな少女に冷たく扱われてきた少年ですが…… まるで堪えていません。

 

「そんな嘘ついたって駄目。それこそ夜中、君の枕元に闇の福音がやってくるよ。早くお家に帰った方がいい」

 

 枕元に闇の福音がやってくる。

 

 生きる伝説となった少女は、世間で悪い子を叱るために、妖怪のような扱いを受けてもいるようです。

 

「だから私がその闇の福音だと言っているだろ小僧! いい加減首をひねるぞ!」

 

 そんな妖怪は子供扱いされるのが、非常にお嫌いみたいです。

 年齢だけみればひ孫以上に離れているのですが、大人気ない。

 

「そんなに脅したって恐くないよ。だから早く帰りなよ……」

 

 

 

バタッ

 

 

 

 突如少年が倒れました。

 顔は赤く息は荒い。病気か何かにかかっているのでしょう。

 今までは我慢していたのでしょうか。少女をスラムから追い返すためだけに。

 

「……どうした」

 

 少女は一言、声をかけました。

 その顔から心情を読み取ることはできません。

 

 少年はすぐに答えました。

 その顔には笑顔があります。

 

「べ、別に何もないよ。ちょっと疲れただけ…… 少し寝ればよくなるよ。だから気にしないで。君は早く帰りなよ?」

 

 その笑顔はどこからくるのか……

 少女の心に小さな痛みが走ります。

 

 

 ズキンでも、ジクジクでもない…… チクッ、と。

 

「アーア、長話ナンテシテルカラコンナ事ニナルンダヨゴ主人」

 

 ここで少女の肩に乗っていた人形。茶々ゼロが口を出しました。

 

「サッサト一回出テ、別ノ所カラ入レバヨカッタジャネエカヨ」

 

 茶々ゼロの言葉は何も間違っていません。

 

「ソウスレバコノガキモ、住ミカニ戻ッテユックリデキタロウニヨ」

 

 茶々ゼロの言葉に驚いていた少年が話に割り込もうとしましたが、睨まれ口ごもってしまいます。

 

「ゴ主人ノセイダゼ。コレハヨ」

 

 茶々ゼロは主人と呼ぶ、自分の親ともいえる少女を責めます。

 

「……ああ、分かったよ! 連れて帰ればいいんだろ! 連れて帰ればな!」

 

 それも全ては主人のため。

 

「ケケケ、素直ジャネエヨナ」

 

「何か言ったか!? 茶々ゼロ!」

 

 自分という存在を大切にしてきた親のため。

 

「何モ言ッテネエヨ」

 

 意固地になり、素直になれない…… たった一人の少女のため。

 

「サッサト帰ロウゼ、ゴ主人」

 

 それが親に似た彼女のできることでした。

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