地雷原でブレイクダンスの出来る男の生誕祭の短編SS
「――ハァイ、サンラク君。いや、今日は
「…………………、あー?」
身体を揺すられ重い瞼を開けると、見飽きるほど見慣れた外道の顔があった。
「…………あー? ……んー? ……あー、ペンシルゴン……? …………ナンデ?」
突然の外道襲来に加え寝起きというデバフがあり、思考の速度が著しく遅い。
ライオットブラッドはどこだ、脳を覚醒させね……いや待て、昨日ストック分飲みきったんだった。
ペンシルゴンはやれやれと肩を竦めつつ、ベッドに座り足を組んで顔を俺に向ける。
「ナンデも何も、今日は君の家でオフ会やるって話をしてたでしょ?」
「いやしてたけどお前今何時だと思ってんだよ」
「朝六時」
「まだ日も昇ってねぇんだが?」
「んふふふふ。待ちきれなくて来ちゃった☆」
「いや『来ちゃった☆』じゃねぇから」
時間帯考えろ時間帯。なんで日の出前に出歩いてんだこのカリスマモデル。
「というかどうやってここまで入って「寝起きの状態でトワ様に触れたら処すからね?」……あーハイ、わかった。ペンシルゴン、頼む。着替えるから部屋から出てくれ」
「りょーかいりょーかい。じゃ、着替え終わったら声掛けてね」
身内の犯行でした。 バッチリおめかししてたけど妹よ、お前何時起きだ…。
ペンシルゴンを部屋から追い出し、手早く着替えて顔をフェイスシートで拭き、軽くストレッチをして凝り固まった身体を解す。
父さんと母さんは昨日から共に不在。
『毎週日曜日の朝と晩は絶対に一緒に食事をし会話をする』のルールさえ守ればいいのだ。一応冷蔵庫の中には誕生日ということでケーキは買ってあるとのこと。
家族仲悪くないよ? ホントだよ?
「着替え終わったぞー」
身支度が整ったので、部屋の外で待機しているペンシルゴンを呼ぶ。
「んー、二〇点」
「誰もファッションチェックは頼んでないんだが?」
「処す? 処しますトワ様?」
妹が俺に対する対応が普段の十割増しくらいに雑。
これもぜんぶペンシルゴンって奴のせいなんだ。絶対に許さねぇ。
というか二〇点って。採点めちゃくちゃ厳しいなオイ。
「テラードとか着せたい所だけど、楽郎君が持ってるわけないだろうし…」
「愚兄ですみませんトワ様…。ほらお兄ちゃんも謝って!」
「ちょっと何言ってるかわからないですね…」
ペンシルゴンが来ることを知っていたからか、バッチリおめかし決めた瑠美と、白のトレンチコートに身を包んだペンシルゴンによる品評会はブーイングの嵐を巻き起こす。
なんだよテラードって。バラードの親戚か何か?
「…まあとりあえずそれでいいから上着羽織って貰えるかな?」
「なに、出掛けんの?」
「そゆこと。京都からリニアで来るお嬢様のお出迎え。――私の車でね」
「え゛」
ペンシルゴンが運転……だと……?
「ちょっ、なにその露骨に嫌そうな顔と声ー!?」
「だってお前が運転する姿とか想像つかないし…。むしろ車体に爆弾しかけて搭載された車内カメラから下衆な笑み浮かべてる姿の方が容易に想像つくわ」
「トワ様がそんな非道な真似するわけないでしょ! 名誉毀損で訴えるよお兄ちゃん!?」
「そうだそうだー! いいぞ瑠美ちゃん! もっと言って!」
「はいトワ様!」
駄目だこの妹。早くなんとかしないと。
「…………へっくち! 迎え遅いなぁ」
その後邪教団を鎮圧し、意外や意外な安全運転のペンシルゴンカーに乗せられて駅前に付くと、そこには黒のコートにオレンジのデニムで身を包んでぶるぶる震える小型犬の姿があった。
「遅いよペンシルゴン。危うく風邪を引く所だったんだけど?」
「いやー、ごめんごめん。二人が玩ty――コホン、面白くてつい白熱しちゃってね」
「おい今こいつ玩具って言いかけたぞ」
「トワ様が他人を玩具扱いするわけないでしょ。耳腐ってるんじゃないの?」
「辛辣ゥ!」
駅前で震える小型犬こと京ティメットを回収し、ペンシルゴンカーは帰路に就く。
座席配置は助手席に瑠美で後部座席に俺と京ティメット。
なぜかやたら距離が近い。寒空の下で一時間半近く待たされたからだろうか? 俺に暖房機能はないんだが…。
「……」
あとルームミラー越しにチラチラ後ろを見てくるペンシルゴンの眼光がやけに鋭い。
後ろで車間距離詰めて煽ってくる車のせいだろうか。
煽り運転とかホントマジやめてくれ。教習所で何学んでんだよ。煽っていいのは煽られる覚悟のあるやつだけだぜ? 生粋の煽リストの外道だから因果応報だね。ざまぁ。
あ、後ろにパトカー。車間距離広げやがった。国家権力の前ではイキれないとか恥ずかしすぎるだろ。
「ああ、それと今日は永遠でいいよ。オフ会の名目があるとはいえ、今日は楽郎君の誕生会だからね、無礼講無礼講」
ルームミラー越しにペンシルゴンと目が合う。こころなしか喜んでいるように見える。
まあ後ろにしつこく追随してた金魚のフンがお掃除されたらそりゃ喜びもするか。
「礼儀知らずのお前の口からそれが飛び出すのか」
「目上の人間に対する口の聞き方を教えた方がいいかな? んー?」
「お兄ちゃんなんでトワ様に喧嘩腰なの? 馬鹿なの? 病院行く?」
「なんでやろなぁ…」
不真面目にやってきたからよ(外道的な意味で)
「ああ、誰かと思ったら楽郎の妹君か。『旅狼』の誰かと勘違いをしていたよ。はじめまして。ぼ…
居住まいを正し、ピンとした姿勢から鋭角にお辞儀をする京ティメット。
滅茶苦茶礼儀正しい佇まいに少し驚く。いやまあ剣道を嗜んでいればこれくらい普通にやるんだろうけど、普段見るのは幕末での狂犬だからなぁ…。
「あ、ハイ。えっと日務瑠美です。愚兄がいつもお世話になってます…?」
「むしろ俺は介護してやってる側なんだが」
「何言ってるのさ。楽郎に必要なのは介錯でしょ?」
「おう誰が公開ハラキリショーだ。この前ハットトリック天誅決められて大変だったんだからな?」
「君が僕を盾にするのが悪いんだろう!?」
「幕末で肉壁に勝るシールドは存在しねぇんだよ!」
幕末基本技『身代わり天誅』行動を共にする仲間かと思った? 残念動く盾なんだよなぁ。
「瑠美ちゃん、聴いたらダメだよ? 脳が腐るから」
「は、はいトワ様」
「「誰が頭幕末だ!」」
やんややんやと騒ぎながら、外道の車は帰路に就く。
現在時刻は八時半。街中が活気付いていく時間。
タイミング悪く信号に引っかかり、窓の外をふと見ると見慣れた容姿の少女が目に飛び込んできた。これが乱数の女神の加護を授かりし者の実力か…。
「あー、ペンシルゴン。そこのコンビニ入れるか?」
「おいおい楽郎君。私の事は永遠様と呼んでいいんだぜ?」
「お前に様はつけたくないので却下。永遠、歩道見てくれ」
「……」
「おーい?」
「あ、ごめんごめん。歩道? ――ってああ、これまたなんて偶然」
「紅音ちゃんだ! オーイ紅音ちゃーん!」
助手席に座る瑠美が街中を歩く大きめなサイズの赤いパーカーに身を包んだ少女――隠岐紅音に声をかける。
「瑠美ちゃんの声…? あ! 瑠美ちゃん! おはよう!」
「おはよー! もう家出てたの?」
「遅刻しないように早めにね! 瑠美ちゃんは…あれ、奥にいるのって…ペンシルゴンさん?」
「ハロー茜ちゃん。そこのコンビニ寄ってかない? お姉さんが送迎してあげよう!」
どう見ても事案です。本当にありがとうございました。
「じゃあそこのコンビニに車停めてるから」
「はい! ペンシルゴンさん、ありがとうございます!」
ペコペコと高速鹿威しの如く頭を下げる秋津茜、もとい隠岐紅音。
あまりの速さに残像が見えるけど首取れない? 大丈夫?
そうこうしている内に信号が赤から青に変わり、緩やかに発進。目標は一五〇mほど先のコンビニ。
徐々に小さくなっていく紅音の姿を助手席側のサイドミラーで見守る。
お、小走りし始めた。おいおい見るからに運動靴じゃないのに走って大丈夫か――あ。
べちんっ。とでも音がするくらい派手に前に転ける隠岐紅音。
俺の不安が見事に的中。見るからに新しいブーツだったし履き慣れていないので走るから…。
「茜ちゃん派手に転けたけど大丈夫かな…?」
「陸上やってるので転けるのはしょっちゅうですけど、…ああもう後でお説教!」
「ちょっと行ってくる」
「僕も行くよ。簡単な治療具なら常に持ち歩いてるから」
「そいつは助かる」
コンビニ前の駐車場に停車して車から降り、急いで紅音の元へ駆け寄る。
道行く通行人は心配そうに振り向きこそすれど、立ち止まることはしない。
そりゃそうだ。見ず知らずの他人に手を差し伸べてやれるほどみんな暇じゃない。
側まで近付くと、転けた紅音はすでに地面から起き上がり、服に付いた砂ホコリを手で払っていた。
「大丈夫か?」
「あ、楽郎せんぱい! おはようございます! はい! 大丈夫です! あはは…お見苦しい姿を見られてしまいました」
バツが悪そうに頬を掻きながら視線を落とす紅音。
「どこか擦り剥いてないかい?」
「はい! 特には! それでえーっと……もしかして京極(キョウ・アルティメット)さんですか?」
「そうだよ。よくわかったね」
「纏っている雰囲気が似ていたので!」
「隠しきれないポンコツオーラ滲み出てたかぁ…」
「ちょっと楽郎、それどういう意味かな?」
一瞬で不機嫌オーラを纏う京極はスルー。
がるるるっという唸り声が聞こえるのは気の所為気の所為。
「歩けるか?」
「は……っ、ハイ! 大丈夫です!」
「はい嘘。足捻ったな?」
「うっ。楽郎せんぱい鋭い…」
「伊達に長いことお前らのこと見てないっつーの」
妹と同級生な紅音はウチの家にしょっちゅう遊びにくるので知らない間柄ではない。そこそこ長い付き合いだったりする。シャンフロでも同じクランでプレイしてるから、なんなら『旅狼』の中ではリアル付き合いが一番長いまである。
ちなみに一番古く出会ったのは隣のほうれん草。
父さんの仕事の都合で幼少期は京都に住んでたからな。瑠美は小さすぎて京極と会ってないけど。
「ん」
「……えーっと?」
紅音に背を向けてしゃがみ込む。んー、言わないとわからないか。
「その足じゃ歩けないだろ? 背負うから乗れ」
「い、いいですよ! 大丈夫です! 平気です楽郎せんぱいっ! 歩けます! 歩きます! 私は大丈夫ですっ!」
「そこまで拒絶されると流石に傷つくんだが?」
「あああごめんなさい! 違うんです! 楽郎せんぱい! そうじゃないんですっ! 楽郎せんぱいが嫌いとかそういうことではなくてむしろ好きな部類なんですけどそれはそれとして心の準備とか色々必要があるんですけど…うぅ、ハイッ! 覚悟決まりましたお願いします!」
「お、おう」
紅音とは長い付き合いではあるが、このように珠に洪水の如く早口マシンガンで捲し立ててくることがある。困った、ちょっと慣れない。面制圧は駄目だって。
足を捻った紅音を背負い、コンビニの駐車場へと向かう。
隣を歩く京極がものすごい不機嫌顔で睨んでくる。
ははは此奴め。あとで天誅してやるから覚悟しとけ?
「あ、あの大丈夫ですか楽郎せんぱい?」
「ん? 何が?」
「あの…今朝は朝ご飯を少し多めに食べてきたのでその…」
「あー、そういうね。全然、軽いモンだよ」
「そ、そうですか」
「なんならペンシルゴンの方がよっぽど重かったって」
「「!?」」
いやー、アレは大変だった。
ストレス爆発したペンシルゴンに突然呼び出されたと思ったら延々と仕事の愚痴を聞かされて酒も入ってたから暴れるのなんの。
弟の久遠は友人宅に逃げるわ、両親は不在だったしもう大変。
外道女帝の討伐ソロプレイとか頼んでないんですが?
なんで俺は他所の家の暴君のご機嫌取りをしないといけなかったんですかねぇ…。道化師じゃないっつーの。
「楽郎、その話あとで詳しく」
「わ、私も気になります! 楽郎せんぱいはペンシルゴンさんとはどういう関係なんですか!?」
「んー、プライベートな話だからこればっかりはなぁ…。関係も何も…クソゲー仲間?」
「な、なるほど…」
「体重は乙女にとって重大なプライバシーだと思うんだけど?」
……乙女? アレが? 冗談は顔だけにしてくれよな。
俺は未だにあいつが妹含めた邪教徒を抱えるカリスマモデルをやってる事実が信じられてないんだよ。
キャラが爆発するシーンで「た~まや~」とか言い放つ女だぞ? 乙女か?
ずいぶんと血と硝煙が好きそうな乙女だな。戦乙女か? 乙女だな。
ペンシルゴンは戦乙女。覚えた。
「茜ちゃん大丈夫?」
「ちょっと捻りました!」
「なんで怪我した報告が元気一杯なの…。あとでお説教だからね紅音ちゃん?」
「お、お手柔らかに…」
身バレ対策なのか、サングラスと帽子を被ったペンシルゴンと瑠美が出迎える。
ウチの妹は紅音にとって姉みたいなもので、ファッションやら何やら色々教えているらしい。
お揃いのコーデとかよくやってるけど正直ファッションはよくわからんのでスルー安定。かわいいって言っておけばいいってばっちゃんが言ってた。
「じゃあ行こっか。後ろに三人座れる?」
ペンシルゴンカーは普通自動車で座席は四つだが、後部座席中央にあるレストを畳み込めば五人は座れるようになっている。
まあやや手狭になるかもしれないが、家までそこそこの距離があるので背に腹は代えられない。
……あれ紅音お前どうやってウチに来る予定だったの? まさか徒歩か? 運動しないと呼吸困難にでもなるのか?
座り順としては運転席側に京極、俺、紅音の順番。
両隣に座る京極と紅音の足が当たる狭さ。少々窮屈だがまあ致し方ない。
「シートベルトちゃんと締めてねー? 着用は義務だからね」
「シートベルト……どこだ」
中央に座る際に利用シートベルトを探す。右か…?
「っ!? ら、楽郎! 一体どこを触ってるんだ!?」
「は? …ちょ、誤解だ誤解! シートベルト探してるんだよ!」
おい馬鹿やめろ。俺は決してそんなつもりでお前の腰付近に手を置いたわけじゃない。オイタしたいわけじゃないんだ信じてくれ。
見ろこの曇りなき眼を。これが白昼堂々セクハラかます人間の眼に見えるか?
「お兄ちゃんの変態」
「もしもしポリスメン?」
「楽郎せんぱい! こっちにシートベルトありますよ!」
「……、あとで責任取ってもらうから……っ!」
紅音ェ! お前は俺にとって光だァ! 頼むから闇落ちしないでそのままのお前でいてくれ…。でなければ俺はつらい耐えられない。
左側以外針の筵になった俺は自宅まで一言も喋らなかった。沈黙は金。
「セクハラ容疑で貴様を逮捕する」
「歩くブラックホール様が何の御用だ。というか情報早すぎるだろ」
「思考入力って便利だよねぇ。運転中でも連絡が出来るんだからさ」
沈黙は金。雄弁は銀。ただ黙っているだけと思った? 残念こいつは
ペンシルゴンカーが自宅に着くと、家の前にはペンシルゴンと同じようなサングラスを装着したカッツォが立っていた。なにそれ流行ってんの?
あのあと車内はひたすら気まずい空気に包まれた――かと思いきや、瑠美が延々と紅音に対してお説教をしていたのでそこそこ騒がしかった。
俺はといえば口を開いても糾弾されるだけと判断し、被疑者に与えられる黙秘権を行使して手は膝の上に固定してひたすら耐えた。耐え続けた。
隣に座った紅音がお説教でどんどん萎れていき、片や京極はジトーっとした眼で俺をずっと睨め付けてきたことだけ覚えている。だから触ってねぇんだよなぁ…。
ちなみに紅音と瑠美は痛めた足を治療する為に先に家の中に入っていった。
紅音に肩を貸そうとしたが瑠美に断固拒否された。
どうやら先程の疑惑で兄の好感度は完全に地に落ちたらしい。なんなら地面のシミになっているまである。まあそもそもあったのかすら怪しいんですけど。
てか別に妹から好かれたところで…ねぇ?
「『らくろうくん セクハラ たいほ』 のメッセが来たのは何事かと思ったけどそういうことね」
「思考入力が出来るとはいえ流石に運転中だからねー。いくら追突防止装置やら何やら色々搭載されてる車とはいえ、基本はハンドル握るのは私なわけだからそこまで意識は割けないよねって」
何の変哲もないサングラスかと思いきや、ペンシルゴンが付けていたのは思考入力機能が搭載された小型端末だったらしく、これを利用してカッツォに密告を行っていた。
なんだそのスパイ七つ道具みたいなアイテム。
ちょっと欲しいんだけどどこで売ってんの?
「で、そこの後ろにいるショートカットの女の子が被害者かな?」
「京極(キョウ・アルティメット)ちゃん、もとい龍宮院京極ちゃんでーす」
「……あの、もしかしてプロゲーマーの」
「あー、ごめん。外で名前を出されるとどこで誰が聞き耳を立ててるかわからないからさ、続きは家の中で話そっか?」
「……なーんか妙に手慣れた誘い文句感あるな」
「……、……なんだって?」
「あ、わっかるー。特報!『電脳大隊』『爆薬分隊』不動のエース「K」! 白昼堂々女学生と逢引か!?」
「魔境の住民大暴れ待ったなし」
「はいそこの外道共シャラップ。マジで誰が聴いてるかわからないんだからさ…!」
額に青筋を浮かべたカッツォに背中を押されて家の中へと押し込まれる。
おい馬鹿やめろ押すんじゃねぇ!
玄関先少し段差になってんだから、歩幅乱すような真似されたら危ねぇだろうが!
「……ら、楽郎君が……セクハラで……た、たたた逮捕……!?」
「でも目の前にいるのは……? とりあえず保釈金の準備……? 弁護士の手配……? ま、真奈さん……っ!」
家の中に入った直後、ゲームの入荷連絡で登録してる『SHOP ロックロール』から鬼電がかかってきて、開口一番『私は陽務君をセクハラするような男になるルートで開拓したつもりはなかったのに何してんの!?』とキレられた。
色んな意味でちょっと何言ってるかわかんないですね。
てか待て待てなんで岩巻さんも知ってんの? え? なになにマジ怖いんだけど?
俺誰かに監視されてる? 盗聴器とか付けられてる? もしもしポリスメン?
……言っとくけど自首じゃないぞ。楽郎、嘘、ツカナイ。
「ほんっとうにごめんなさい……! 私の早合点でした……っ!」
「ほら、だから誰が聴いてるかわからないって言ったでしょうに」
「なんもかんもペンシルゴンが悪い」
「随分とまぁアクロバティックな責任回避するねー? あと永遠でいいからね? 無礼講って言ったでしょ?」
「ハイハイ。天音さんいるとややこしくなるから、ちょっとあっち行って邪教サミットでも開いててどうぞ」
「わぁ、他人行儀ー」
岩巻さんによる機関砲の言霊掃射でHPが削られたあと、呼び鈴が鳴ったので現状における家主として出迎えにいくと、黒のベレー帽に桃色のアウター、黒のロングカートに身を包んだ、普段学校で見かける姿とは異なる玲さんが立っていた。
同級生の私服見るのってなんか新鮮だなぁ。
基本休日はクソゲーかシャンフロやってるか、父さんの釣りに付いてくかだから眩しくてあんまり直視が出来ない。
カッツォや京極と同じ対応では流石に失礼なので手早く家にあげて今に至る。
どうやら玄関先で会話していた内容を聴いた玲さんが早合点をして混乱してしまい、助けを求めて岩巻さんに連絡してこうなった模様。
玲さん近くにいたのか……。全然気が付かなかった……。
「そ、それで楽郎君は……その、京極さんにはセクハラしてはいない、んですね?」
「誤解も誤解」
「ここは一階だけどね」
「今大事な話をしてるんで黙っててくれませんかねぇ!?」
カッツォお前マジであとで覚えてろよ……?
「そ、そうですか…」
「被害者の僕には聴取はしないのかい……?」
「いやだからマジで触ってないから」
「手の甲で僕の太腿に触れただろう!?」
「え? あー……んー?」
触れた……触れたか……? え? 触れてた?
思い返せばシートベルトを探すのに掌に意識は集中させてたが、手の甲は微塵も意識してなかったような……。
「お、通報かな?」
「やっぱり保釈金の手配を……!」
「おい馬鹿やめろ! てか玲さんも一緒になってそっちに行かないで!」
やること(ツッコミ)が…! やることが(ツッコミ)が多い…!
「ええい! 俺は嘘がつけない男だから正直に話すぞ! 掌では触れてないと断言出来るが手の甲では触れていたかもしれない! 正直よく覚えてない! ごめんなさい!」
「容疑者確保」
「ぐおっ!?」
音もなく背後に忍び寄り、俺を羽交い締めにするカッツォ。
こいついつのまに特殊工作員並の技術を…!?
「じゃあ龍宮院さん、煮るなり焼くなり
「なんか含み持たせなかったか今ァ!?」
無自覚とはいえセクハラかましてしまった(?)のだから、それ相応の罰は受け入れなきゃいけないのはわかるがなんか釈然しねぇ……。
「じゃあ……その……。…………ら、楽郎。こういうことは、その……、ひ、人目につかないところで、やって欲しい……」
「ごめんなんか殴りたくなったから殴るね? ――南無三!」
「理不z――ぁッ!?」
なぜ俺はカッツォに背中を殴られなければならないのか。
そして刹那の瞬間、孤島での経験に匹敵する程の悪寒と殺気は一体どこから発せられたものなのか。
色々と思考が巡るが痛みで情報がまとまらない。
正中線的確に殴りにきやがったコイツ……!
とりあえずカッツォ。あとで泣かす。絶対泣かす。
お前が泣くまで殴るのをやめない。
「えー、なんやかんや色々とありましたが! 気を取り直して『旅狼』オフ会――もとい陽務楽郎君の誕生会を始めたいと思いまーす!」
「「いえー!」」
「――が、準備がまだ完了していないので、楽郎君はこっちから呼ぶまで自室で待機してくれるかな?」
「うーっす」
なんやかんやあった(血で血を洗う死闘)が、醜い記憶はその辺に放り捨て、本日集まった最大の目的であるオフ会という名の俺の誕生会が始まる――かと思いきや、まだ準備が不完全なので自室警備を命じられる。
とはいえやることも特にないので手持ち無沙汰である。シャンフロでもするか。
「――サンラクサン! 助けてほしいですわーッ!」
「うおっ、どうしたエム……いやどうした? なにこの大量のハヤブサ?」
「確認:|何か契約者(マスター)に身に覚えはないのですか? 《お仲間が沢山ですけど何かご存知? 》」
「お前も自然に煽るようになってきたな…」
まったく誰に似たんだか。アンドリュー君が見たら泣くのでは?
いや泣きはするけどこれ感極まって泣く方だな。
『推しが新しい領域展開を獲得ゥ!』と脳内のドルオタが騒いでる。
脳内汚染が酷いですね…。蠍とバトって一度肉体転生しとくか?
「サミーちゃん! たべたらだめ!」
「ピィー! ピィー!」
「ちょっと! きたのならどうにかして!」
現実における生態系的には蛇と鳥は対立関係にある。
それは何も現代社会に限った話ではなく、神話の神鳥ガルダと邪神ナーガの関係性からも伺えるわけで。
それが現実をベースにしたSFファンタジーなシャンフロにおいて適用されていないわけもなく、白蛇は無数のハヤブサに対して捕食の構えを取っている。
「あーストップストップ。すまんサミーちゃんさん。これ多分俺宛の伝書鳥なんで食べないでもらえると助かる」
辺り一帯に散らばっているハヤブサの羽根は見なかったことにする。
こういう時血痕が残らないっていいよね。ポリゴン万歳。
インベントリアから金に物を言わせた最高級の食材を取り出しサミーちゃんさんに与えつつ、ハヤブサの足に付いている筒に触れる。
『対面チャットエ「サミーちゃんさん、俺が悪かった。食っていいぞ」
「「「ピィー!?」」」
「ごめんやっぱ今のナシ。取り敢えず開封だけして送り返す」
なーにやってんですかね? いや本当に何やってんですかね?
頭に致命的な欠点でも抱えていらっしゃる?
病院で診てもらったほうがいいんじゃないの?
軽く目眩を引き起こしつつ、大量のハヤブサの足に付いている筒に触れていく。
『対面チャッ「削除」
『対面チャッ「削除」
『対面チャッ「削除」
『対面チャッ「削除」
『対面チャ「削除」
『対面チ「削除」
『ティーアスちゃ「削除。……? なんか間違って消したか? まあいいか」
『対面「削除」
『対面「削除」
開封削除開封削除開封削除開封削除…………多いわ!! 何十件送りつけてきてんだあの年中発情女!!
しかもハヤブサとか伝書鳥で一番高い奴じゃねぇか! 羽振りがよろしいようで!
まあそのせいで羽根が散らばってるけどな? 無駄遣いと贅沢は紙一重。
「サンラクサン、さっきのは一体なんだったんですわ……?」
「なんだったんだろうなぁ…」
サミーちゃんさんに次ぐ占有率で場を制圧していたハヤブサの大群をすべて送り返し、俺はエムルと互いに首を傾げ合う。
俺もよくわからんし、わかりたくないなぁ…。
本能が警鐘を鳴らしている。アイツの思考を理解しようとしたら一巻の終わりだと。
底の見えない深淵に引きずり込まれ、どこまでも落ちて堕ちて墜ちると。
なので恐らくわかろうとしないのが現状における最善手。
……まあアイツにはサミーちゃんさんを助けてもらった恩があるから、あんまり無碍には出来ないんだけどなぁ。
下手人のヒイなんとかってPKぶちのめす時も世話になったし。
『座標移動門』持ってて情報収集能力が無駄に高く、戦闘はマルチに対応しやがる多才っぷりに、なんか逆に腹が立ってくるくらい役に立つ女。
頭の中が真っピンクじゃなけりゃ少しくらい尊敬してもいいと思えるけど、性癖オールフォーワンはちょっと無理ですわ。お前の闇は強すぎる。
フレンドリストに表示されるプレイヤーネーム『ディープスローター』
ログイン状態を示すアイコンが表示されているので、奴もシャンフロをプレイしているのだろうが、こちらからコンタクトは取りたくないというジレンマ。
俺から手を出したら負ける気がする。何で負けるのかは知らないけど。
「報告:契約者(マスター)
「おー、サンキューサイナ。助かる」
「当然:
「まあやたら食材散らかす奴がいたらそら向上するわな…」
「なによ! なにかいいたいことあるなら、ちゃんとこっちみていいなさいよ!?」
「さては無残な肉片と化したカニの存在忘れてるなお前? もっかいカニ取りに行ってリベンジするか?」
「かにこうせんはもうやぁっ!」
蟹工船……火似光線……必殺技かな?
まさか蟹鋏の中心から超火力の圧縮レーザーが飛び出すなんて思わないじゃないですか。完全に油断して丸焦げになったカッツォが香ばしい香りだったなぁ。
海だから文字通り雑魚が大量にいたので、R.I.P.装備で戦闘を継続しつつ燃え尽きるポリゴン鰹に「ざーこざーこ」って煽ったら、隣にいたサバイバアルがなんか油断してぶっ飛ばされたのも笑った。いや笑えなかったわ。戦線崩壊してめっちゃ大変だったわ。ディプスロいたからなんとでもなったけど。
「進言:ときに契約者(マスター)。今日は貴方の生誕日だと当機(ワタシ)は認識しています」
「そうだけど……。なんで知ってんだ?」
「
「いろんな意味で言い方ァ!」
そういえば契約時にお前に噛まれたね!
血液情報もといアカウント情報へのパスを繋いだ処理だけど絵面が猟奇的過ぎなんだよなぁ…。
そういやアカウント登録する際に色々個人情報入力してたっけ。
それを参照にしてるなら誕生日を知っていてもおかしくはないか。
「なに、祝ってくれんの?」
「
「サンラクサン、今日が生まれた日なんですわ? それはおめでたいで……サンラクサンが泣いてるですわ!?」
「眼にハヤブサの羽根が入っただけだ泣いてねぇ」
「それはそれで重症だと思うですわー!?」
サイナ、お前なんというか反則。
その微笑みはレギュレーション違反。想定してない動きで完全に予想外。
重度のドルオタが狂い続けて最期に推しと自爆するのも今なら少しだけわかったような気がする。
――いやごめん、やっぱりコレはわかったらいけないヤツだわ。
「
「まだ何かあるのか?」
「
「み、みためはぶかっこうかもしれないけどあじはもんだいないわ…! ようじょせんせぇのおすみつきよ!」
近くにあった戸棚から何かを取り出し、こちらに持ってくるウィンプ。
白くいびつな円形で、所々スポンジが顕になっており、上に置かれた果物のサイズはバラバラ。
加えて中央には鳥頭の人形が鎮座しており、謎の威圧感を放っているがこれは…
「手作りケーキ…だと…?」
「ほわぁ。とってもいい香りですわー!」
「よろこびかみしめてじっくりあじわいなさい!」
「うめ…うめ…!」
「たべるのはやい!?」
何を驚いているんだ、俺はあの幼女先生の一番弟子だぞ?
これくらい朝飯前に出来なければ永遠に追いつくことは出来ないのだよワトソン君。
まあアレ専用スキルくさいから並ぶにはチートしないと駄目っぽいけど。
てかチートで勝って楽しいか? 虚しさしか得るものなくない?
大丈夫? 運営呼ぶ? スタッフ―ゥ!!
「むー、サンラクサンが生まれた日なのに、アタシだけ何も用意してないのは後ろめたいですわー」
「いや別に誕生日だからって何かモノを贈らなきゃいけない決まりなんてないからな?」
「ムムム……。――ですわ!」
「うおっ、なんだビックリするなぁ」
「おとーちゃ…カシラに以前やって喜ばれたことをサンラクサンにしてあげるですわ!」
「ほう?」
ヴァッシュの兄貴お墨付きとはちょっと気になる。
言うが早いか。エムルはゴソゴソとインベントリから『致命兎の秘環』を取り出し華麗に人型へメタモルフォーゼ。
見慣れすぎてさらっと流してるけどこれとんでもねぇオーパーツだよな…。
ヴォーパルバニー以外にも使えたりすんのかな。
リュカオーンとかが使って人型になったりしたら褐色っ子ってところまでは想像つく。ジークヴルムは金髪戦闘狂。それなんてリアルミーティアス?
「サンラクサン相手の場合はこっちの方が都合がいいですわ! じゃあ早速そこでうつ伏せになって欲しいですわ!」
「ほい」
「じゃあいくですわ!」
勢いそのままにエムル(人型)はうつ伏せになった俺の全身を揉み解し始める。
……おお、これはなかなか。
シャンフロはあくまでゲームなので、全力で戦闘を継続したとしても実際に筋肉痛になったりはしないので、実際はあまり意味のない行為ではあるのが、それを口に出すのも野暮というもの。
「提案:協力します」
「じゃあ手の方をお願いするですわー!」
「し、しかたないわねぇ! わたしもてつだってあげるわ!」
「じゃあ足の方をお願いするですわー!」
鳥頭半裸の男が美少女三人(二匹と一機)に囲まれて全身を遍くベタベタ触られている光景……事案では? セーフ? セウト?
「――うお!? 視界が急に真っ暗に!?」
「サミーちゃんだめ! そんなのたべたらおなかこわしちゃう!」
「おいそんなのとか言うな。毎回エスケープ時に食われてそのあと吐き戻されてるお前も同類だぞ?」
「いっしょにしないでくれる!?」
めっちゃビビった。事案判定されて強制ブラックアウトされたかと思ったら違った、サミーちゃんさんの甘噛みだった。
牙が刺さらないような絶妙な力加減で俺の頭をガツガツ噛んでいる。ザシュ。……あれ今何か刺さらなかった?
「サンラクサンの頭から何か垂れてきたですわー!?」
「推奨:回復薬の使用」
やっぱ刺さってたのね。まあ頭の形が覆面被ったままだとわかりにくいからなぁ。
「これで死んだらサミーちゃんさんに経験値って入るのかね」
「うまれてめでたいひにしぬなんてばかなこといわないで!」
「すまん」
まさかウィンプに正論で返されるとは。俺も耄碌したな。穴があったら入りたい。
「さてと、そんじゃちょっと出かけてくるわ」
あやうく死にかけたところから無事生還し、リフレッシュも終わったので気乗りしないがそろそろヤツに会いに行くとしますか…。
「サンラクサン、どこか出掛けるですわ?」
「提案:同行を希望します」
「あー、すまん。多分個人的な案件だから今日は俺一人で行くわ」
「了承:
「わかったですわ! ならアタシはラビッツに戻ってラビッツの英雄の生誕を触れ回ってくるですわ!」
「やめれ」
「ぎゅむぷ!?」
そういうのいいから。身内だけで十分だから。あんまり派手過ぎるのは好きじゃないんだよ。俺からすれば全く知らない相手から祝われても反応に困るだけだしな。
余計な事を口走ってあることないこと喧伝しそうな口軽兎はお口チャックの刑。
「んじゃあ今日はありがとな。エムル、サイナ、ウィンプ、サミーちゃんさん」
「どういたしましてですわ!」
「
「きょうはぜったいにしぬんじゃないわよ!」「シャー」
◇◇◇◇◇
「……さてと」
「随分と仲が良さそうだねぇサンラクくぅん?」
「ッ!? 背後からいきなりエンカウントしかけて来るんじゃねぇよ!?」
「あははははは! ドッキリだいせいこ~う!」
「マジで心臓に悪いからやめろ」
這い寄る混沌、ディープスローター。
音もなく影もなく抜き足差し足忍び足で颯爽登場。
こいつがPKに興味がなくて本当によかった。
『座標移動門』持ちのPKとか防ぎ用がない上に、こいつ確かヒイなんとかからステルスPKに関して根掘り葉掘り聞いてからティンキー☆(ぶちのめ)したからな…。
まあ自業自得だから同情の余地ないけど。所詮悪は滅びる定めよ。
……あれならこいつと外道女帝も滅びる定めでは?
「ボクからの熱い情熱迸る恋文は喜んでくれたかなぁ?」
「お前アレただのスパムだよ。あとハヤブサに謝れ」
「謝って対面チャットしてくれるなら謝るけどぉ?」
「誤っても絶対にそれだけはしねぇ。てか今対面で会話してんだろうが」
「サンラクくんは対面行為をご所望なんだねぇ…メモメモ」
「『其はあり得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の――』」
「おーけぇ、ボクが悪かった。その熱く逞しい槍は懐に収め――ウェルダァンッ!」
なけなしの慈悲で詠唱は途中で止めてやったがお灸は据える必要があるよね。お前が悪い。
「乙女の柔肌に跡でも残ったらどうしてくれるんだいサンラクくぅん」
「お前それ胴と足が傷だらけの俺の前でよく言えんな」
「まあ! 私が傷ついたら一緒に同じ傷跡を刻んでくれるのですね? なんと慈悲深いまるで聖女様の如く尊き御心。けど背中の傷は剣士の恥だからよぉ勘弁してもらいたいで候う。まあ儂は賢者なんじゃがホホホ」
「調子狂うなぁ…」
掴みどころがない幽霊。捉えどころのない幻影。
のらりくらりとはぐらかされ化かされる。狐につままれるような感覚。
そうそう、こういうヤツだよお前は。
「で、要件はなんだよ? あんな無駄金バカスカつぎ込んでまで俺になんの用だ?」
「
「……は? それだけ? いやいやちょっと待て、なんでお前俺の名前知ってんだよ?」
「ボクもそろそろ自分を見つめ直す必要があることに気づいたって事さぁ」
「いや答えになってねぇから。ことと次第によってはそれ相応の対応が必要なんだが?」
「あれぇ? ペンシルゴン君から話を聴いてないかい? サンラクくんの事は彼女から聴いたんだけどぉ?」
「おのれ外道ォ‼‼‼」
あいつカッツォだけじゃなく俺の個人情報も流しやがった!
よりにもよって一番面倒なコイツに! 絶対に許さねぇ‼
首洗って待ってろあの外道ォォォォ‼‼
「陽務君の名前が割れたところで『楽郎』なんて名前はどこにでもありふれてるぜ? 名前だけで個人を特定するのはかなりハードプレイだと思うけどぉ?」
「おう口軽女、どの口が言いやがるどの口が」
「上の口ぃー☆」
「おっと手が滑った」
なんかもう色々とムシャクシャしたのでアラドヴァる。ヨシ!
以前コイツにフレンドリーファイアでやられかけた仕返しも兼ねて、根性焼きの時間だオラァ! 口は上にしかねぇんだよ!
「ボクは足が滑ったねぇ」
「――うお!?」
だがそんな俺の行動を読んでいたとでも言わんばかりに、迫る剣先を完璧に躱して見せるディープスローター。
そして怒りに囚われて散漫になっていた意識外からの足払い。
完全に虚を突かれた形となり、刺突と同時に踏み出した足は虚空を踏み外して身体が前のめりに倒れ込む。
「うふふふふ…うぇるかぁむ☆」
眼前に両手を広げて立つディープスローター目掛けて。
「きゃー! サンラクさんのえっちー!(棒)」
「お前は本当に何がしたいんだよ!?」
慣性の法則に従いそのままディプスロに衝突して若干のダメージ。
顔周りにゴツゴツとした硬い質感を感じるので胴装備に直撃、し――……、おい待て待てなんで|急に質感が柔らかくなった? 《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》
「ナニがしたいって、それを乙女の口から言わせようとするなんて、本当にサンラク君はいけずだねぇ?」
「おいやめろ離れろ離せ離しやがれ」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないかぁ…。ボクとサンラク君の仲だろぉ…?」
「はァァァァなァァァァァせェェェェェ!!」
「うふふ、フフフフフフフ……!!」
こいつSTRに何かしらのバフ掛けてやがったな!? まったく抜け出せねぇ!
大きなぬいぐるみを抱える少女のように、俺の頭を両手で押さえて胸元に抱き寄せるディープスローター。
インベントリアを操作してアイテムでバフをかけようにも、この状況下では冷静な操作が望めるべくもなく、そもそもウインドウすら満足に開けない。
オイ倫理コード! 駄目だろこれ! 駄目だって! 仕事しろサボるな!
もしくは誰か通報してくれ通報! 鳥頭の半裸男の方が不審者!? それな!!
「慌てふためいて照れちゃってかわいいなぁサンラクくぅん…!」
「ええいかくなる上は……!」
度重なる戦闘で培ったルーティンであれば、いくら動揺して心が乱されようとも身体がその動きを覚えているもの。思考を戦闘モードに切り替え聖杯使用!
「同じ女なら問題ないな!!」
「そうだねぇ。けどそもそもボクはどっちでもイケるし、『サンラク君』であればなんでもイケるんだよぉ…?」
「魔境民ィ!?」
オイカッツォ。本当にすまないと思っている。
お前に今までどれだけ残酷な仕打ちをしてきたのか、今身を持って経験した。
ベビーフェイスのくせにお前はいつもこんな恐ろしい根源的恐怖と相対していたんだな。すげぇなプロゲーマー。伊達と酔狂でなれる職業じゃないですわ。
もはや抵抗する気力はへし折れた。
うわー柔らかいなぁ、さすがの再現度だなぁ。流石神ゲーのシャンフロ。
実物知らないけど。触ったこともないけど。
もはやこれまで。すべてがどうでもよくなり完全脱力状態の俺に対して、ディープスローターは耳元に顔を寄せて、艶かしさを感じる吐息を溢しながら
「…………私の名前は、彬茅紗音。――いつか逢おうね、楽郎君」
再び聞いた自然な声色を残して、門へと消えた。
音もなく現れて好きなだけ騒いで、風のように消えたディープスローター。
去り際に残した『彬茅紗音』という名前。
それがディープスローターの本名なのだろうか。
だが奴の事だ。語る言葉は千変万化で変幻自在。
声質も声色も声音も、何もかもが実体を捉えることを許さない隔絶した技量を使い、面白おかしくはぐらかしている可能性も十二分に考えられる。
けれど門へと消える直前のあの声は、かつて世界が終わる間際に告げられた自然な声色と同じだった。
であるならば、おそらくあの声色こそが『ナッツクラッカー』でも『ディープスローター』でもない『彬茅紗音』の色なのだろうか。
胸中に抱く問い掛けに答える者はなく、疑問だけが心の内で渦を巻いていた。
…………とりあえず色々考えて腹が減ったので一度現実に戻るか。
◇◇◇◇◇◇
「………………(じーっ)」
「……………………えーっと? 玲さん?」
「くぁwせdrfgyふじこlp!?」
「玲さん!?」
シャンフロからログアウトした俺の眼前には、食い入るように俺を見下ろす玲さん。
突然話しかけられて驚かせてしまったのか、謎言語を発声してその場で大パニック。
「ら、らきゅっろ、らら、楽郎君! お、おきっ、起き、てたんですね!?」
「れ、玲さん落ち着いて! 深呼吸しよう深呼吸!」
「は、はひ!」
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。玲さんそれ深呼吸じゃない、ラマーズ法。
「………………穴があったら埋めてください……っ!」
その後なんとか呼吸を整えた玲さんは、顔全体を真紅に染め上げながら残像が残る程の高速身振り手振りで事の経緯を説明する。
誕生会の準備が整ったので俺を呼んでくるようペンシルゴンに言われて来たものの、声を掛けてもノックをしても反応がないので扉を開けたら、俺がベッドで横になっているのを確認。
外部から刺激してゲームの邪魔をしても悪いと考え、俺が自発的にログアウトするのを待っていたら俺がログアウトして今に至る――と。
「えーっと、なんかゴメンね?」
「あ、謝らないでください! そもそも私が勝手に楽郎君の部屋に入ったのが悪、わ、……悪い……不法侵入!?」
「ペンシルゴンも今朝同じようなことしてたからそれは違うんじゃないかなぁ」
「…………それは一体どういう意味でしょうか?」
な、なんだ? 急に寒気がするぞ……?
部屋の体感温度が一気に下がったような……。
「いや今日の話なんだけど、朝起きたらペンシルゴンの奴が目の前にいてさ。盛大な寝起きドッキリ仕掛けられたようなものなんだけど、妹の許可を得て家に入ってる時点で不法侵入でもなんでもないからさ。玲さんもちゃんと玄関から招いている時点で不法ではないでしょ」
「つまり私も楽郎君に同様の事をしても何も問題はないんですね?」
「……うん? 玲さん?」
玲さんと会話をしていると、時折話が超展開で飛躍することがある。
テンパった後遺症で思考回路に異常が見受けられるのだろう。
俺もゲームで超展開をやられて思考が追いつかなくなった時、似たように意味不明な事を言うからなんとなくわかる気がする。
ああ、そういうことね。完全に理解した。嘘だ、全然わかってねぇよ。
バルスのファーサンのルシがバナージでユニコーン? すまねぇ日本語で話してくれ。
「楽郎君」
「はい」
「今度から一緒に学校へ行きましょうか。私が毎朝迎えに来ます」
――俺の直感が警告している。ここで拒絶すれば後が恐ろしい事になると。
「ハイヨロコンデ」
「それじゃあ来週からよろしくお願いしますね」
「ウッス」
悪魔のような天使の微笑みとでも形容すべきか。
それとも天使のような悪魔の微笑みと称するべきか。
先程の一連の会話の何かが玲さんの逆鱗に触れたのか、有無を言わさぬ威圧感がヒシヒシと伝わってくる。
女心と秋の空とはよく言ったもので、本当に読めない。
人生に攻略本は存在しない、一か八かのシミュレーションゲーム。
セーブ&ロードもないのでやり直しは出来ない出たとこ勝負。
この選択肢が本当に正しかったのかを確認する術は誰にも持ち得ない。
だが少なくとも、いきなりゲームオーバーになるような展開は避けられたと信じたい。信じてぇなぁ…。
フラグ管理には細心の注意を払わないといけないからな……。ピザ留学は勘弁な!
「それじゃあ戻りましょうか。ああ、それとコレを預かってきました」
そう言って玲さんから手渡されたのは『本日の主役』と書かれた襷だった。
パーティーグッズの定番品ですねわかります。
「『先に楽郎君が入るように』と永遠さんが言っていたので楽郎君、どうぞお先に」
「ありがとう玲さん」
リビングと廊下を隔てる扉の前に立ち、ドアノブに手をかけてゆっくりと開く玲さん。
そうして俺の視界に飛び込んできたのは
「イエーイ! ――ハッピーバースデー!!」
「ふがッ!?」
「――更にもう一発!」
「ほげっ!?」
「ら、楽郎君!?」
「「YEAH!!(バチーンッ)」」
――――顔面を覆い尽くす純白のホイップクリームだった。
パイ投げしようぜ!! ターゲットは俺な!!
「UGAAAAAAAAAAAAA!!」
「楽郎君、キレた!!」
「言ってる場合か! ノリでやったとはいえアレ多分ガチギレのパターン入ってるよ!?」
「えっと……、僕はどうしたらいい?」
「京極ちゃんステイ! その追撃はホイップクリームがストロベリーソースに変身しちゃう!」
「トワ様にパイ投げされる名誉でキレる理由が私にはわからない……」
「後片付け大変ですけど楽しいですよねパイ投げ!」
「と、とりあえず拭くものを…!」
「……OK、カリスマモデルだかプロゲーマーだか俺には関係ねぇし知らねぇしどうでもいい。――とりあえずしばらく表に出られない顔にしてやらァ!!」
顔にへばりついたホイップクリームを手の甲で削ぎ落とし、近くにあった油性ペンのキャップを外してスマホを装備。
顔に滅茶苦茶落書きしてSNSに投下してやらぁ! 身バレ? 知るかそんなの!
「まずはお前だペンシルゴォン!!」
「トワ様を無許可で撮影するのはマナー違反!!」
「俺のスマホォ!?」
しかし瑠美ファンネルに五秒で撃墜され、無情にも落下していく俺のスマホ。
液晶パネルから地面に逝った。俺のメンタルも逝った。財布も逝った。
アレこれ俺の誕生を祝う会だよな…? えぇ…本当でござるか…?
今日の教訓。 パイ投げをする時は事前に申告しましょう。
泣きを見る羽目になります。 ――主に俺が。
生クリームが眼に入り涙目。スマホが迎撃されて財布にダメージで涙目。
涙ってのは嬉しい時に流れるとは限らないし、なんなら悲しい時に流れることの方が多いのである。
「……えーっと、ゴメンネ?」
「絶対に許さない、絶対にだ」
仮想現実なら何をやろうが自由だが、現実には越えたらいけないラインというものが明確に存在している。
先程のディプスロへの個人情報の無許可リークで一アウト。
無申告のパイ投げで二アウト。
仏の顔も三度まで。次はないぞマジで。
「流石にやりすぎたね…。悪かったサンラク」
「お前はさっき色々あって同情したから許す」
「なんで俺同情されてるの…?」
色々あったんだよ、色々な。
「ら、楽郎君、眼は大丈夫ですか?」
「なんとかね…。ああ、ハンカチありがとう玲さん。あとでクリーニングして返すよ」
「ぜ、全然っ! そんな、気にしないでくださいっ」
突発的な事態で一周して感情がフラットに戻ったのか、先程の妙な威圧感は鳴りを潜めて普段の玲さんに戻っていた。
やっぱり普段通りの玲さんの方が落ち着くなぁ。
さっきまでの玲さんはちょっと胃によろしくなかった。
高校生で胃薬は愛用したくないので今のままでどうか、何卒…。
「掃除終わったよ」
「ああ、すみません、助かります京極さん」
「お安い御用さ」
「瑠美ちゃん、燃えるゴミってどっちのゴミ箱ー?」
「左の赤いゴミ箱が燃えるゴミー!」
「はーい!」
京極、瑠美、紅音の三人はホイップクリームの散らかった部屋を掃除していた。
まあ紅音は足を捻っているので基本は京極がほとんど綺麗に拭き取っている。
床磨きがやたらと堂に入ってんな……。
まあアレか、剣道場の掃除を毎日やってたらそら自然とそうなるか。
京極は掃除が得意。幕末では片付けられる側だけどな。くっそウケる。
「まあまあ楽郎君。これでも貰って機嫌を直してくれないかな? 永遠姉さんからの誕生日プレゼント、有り難く受け取るがいい!!」
そう高らかに謳いながらペンシルゴンが取り出したるは青い包装紙で包まれた一品。
「これでまた変なモノだったらマジで容赦しないからな? ……開けていいか?」
「どうぞどうぞ。楽郎君のお眼鏡にかなえばいいんだけどねぇ」
綺麗に梱包された包を剥がしていく。その中身は――
「こ、こいつは……『宇宙ゴム』!」
説明しよう!『Space Lover』愛称【宇宙ゴム】
地球人の主人公が各銀河に住む人外系美少女と繰り広げる恋愛SLG。サイバー系、クリーチャー系、グレイ系、高次元系など、主人公以外に人間は一切登場しない。
各ヒロインは独自言語で会話をしてくるので、付属する翻訳辞書を片手に攻略しなければならないクソゲー。
主人公が選ぶ選択肢もすべて各ヒロインに対応した独自言語となっており、選択肢を翻訳するのに三〇分かかる。そもそもヒロインの言語体系が地球とは異なり、銀河独自の慣用句も差し込んでくる倍プッシュ仕様。
翻訳にあまりにも時間が掛かりすぎるのでランダムで選択肢選んでルート攻略するのが最適解とされている。
恋愛SLGのはずが恋愛要素の根幹であるシナリオがそもそも読めないというより読ませるつもりのない制作陣の謎の意欲作に「太陽系から出ていけ」とまで評される逸品。
しかし発売から十数年後、一人のクソゲーマーによりシナリオのフル翻訳がなされ、読んだ人々が涙することになるのはまた別のお話。
「どこで見つけたんだよこれ?」
「街中で楽郎君への誕プレ探してたら偶然ね。店員さんの話を聞く限り、かなりな
「持ってないし、なんならすげぇ有り難いっての。てかこれ確かそこそこプレ値がついてた気が…」
意欲作過ぎてこれまで順調に推移してた既存の売上が、斜め上どころか斜め下に突き刺さって制作会社倒産してるんだよなぁ。
しかも小規模の会社だったから生産ロットが少なくて市場に出回っている数がそこまで多くないっていう。
「楽郎君には普段から色々世話になってるんだからサ。そういうのは気にしないでもらえると助かるかな~って」
「……、すまん」
「欲しいのは謝罪じゃなくて御礼の方がお姉さん嬉しいんだけど? ん~?」
「む、……ありがとな」
「名前も呼んでもらえるとなお嬉しい!」
「注文が多いな…! …………っ。ありがとな、永遠」
なんだこれ無性にむず痒い。なんだこれ。すっげぇムズムズする。
そこはかとない気恥ずかしさを感じながら御礼を告げると、聞き届けた永遠は満面の笑みを浮かべて柏手を打つ。
「うむ、よろしい! ――それじゃあ、ハイほら次次! 日頃の感謝の気持ちを込めて楽郎君にプレゼントの絨毯爆撃しよっか!」
ワードチョイスが不穏過ぎるんだよ。そういうとこだぞペンシルゴン。詰めが甘い。
「じゃあ次は僕――、わ、私が」
永遠の音頭に名乗りを上げたのは京極だった。
「……こほんっ。楽郎、誕生日おめでとう。またこうして君と同じ時間を過ごせて私はとても嬉しく思ってるよ。願わくば、これからも貴方と同じ刻を歩んでいきたい」
面映さが勝るのか、頬を薄く赤面させながら黒のギフトボックスを差し出す京極。
俺も釣られて恥ずかしくなってくるから赤面するのやめろ。
頬が熱を帯びるのを感じながら、差し出されたギフトボックスを受け取る。
「中身は時計。普段遣い出来る無難なデザインでお願いしたから使って貰えると嬉しい」
無難なデザインでお願いした…?
まさかオーダーメイドとかじゃ…いや、まあそういうのを聞くのは流石に野暮ってもんか。言わぬが花だな。
「ああ、サンキュー京極」
「ふふっ。どういたしまして」
「じゃあ次は俺から。サンラクと言ったらまあコレ以外ないでしょ。ハイ、『ライオットブラッド』」
「おー、サンキュー」
京極に次いで名乗り出たのはカッツォだった。
破城槌を抱えた黒いミノタウロスが目印である、ガトリングドラム社の不朽の主力商品『ライオットブラッド』を一本手渡される。
「あと夕方頃に一ヶ月分の『ライオットブラッド』×六種届くから受取よろしくね」
「いや加減しろ馬鹿野郎」
プロゲーマーさんちょっと財力による暴力でマウント取るのやめようぜ?
こちとらしがない学生なんですよ。
なまじ普段まとめ買いで購入するのに超絶奇跡極真人魂英雄革命伝道者福沢諭吉を使うから値段を用意に想像出来てしまうのもいけない。
「一年分送るか悩んだけど、ウチの将来のエース様が若い身空でカフェ中で倒れられても困るからね」
「六種類一ヶ月分とか実質一年分の量だろ。俺の内蔵壊す気かよ」
「あ、ちなみに全部米国仕様だから」
「誕生日に遠回しなキル宣言とかプロゲーマー様はやることが違うなぁ!?」
いくら『ライオットブラッド』シリーズが科学的に証明されている合法品とはいえ、
人に戻れなくなるぞ。
その覚悟がなければ容量用法を守って正しくお飲みください。
米国版でタブーとかやったらどうなるのか俺気になります!
「楽郎せんぱい! お誕生日おめでとうございます! 一生懸命作ったので受け取ってください!」
「おう、ありがとな紅音」
カッツォの次に立候補をしたのは紅音だった。
ポケットから取り出し手渡されたのは、デフォルメされた水色のハシビロコウが縫い付けられた青の御守。裏面には黄色の糸で『学業成就』の文字が縫われている。
「おばあちゃんに作り方を教わって作りました! 楽郎せんぱいは来年受験生と瑠美ちゃんから伺ったので合格祈願も兼ねて学業成就です!」
「はー、凝ってるな。すげぇなこれ」
「ちなみに私も今年受験生なのでついでに作っちゃいました! お揃いです!」
そう言いながら取り出したスマホに取り付けられた赤い御守には、デフォルメされた狐の面。そうか、そういやお前たち受験生だったな。
「高校は?」
「楽郎せんぱいと同じ高校って前から決めてました!」
はて、中学陸上界のホープが執心するほどウチの高校そこまで陸上部強かったかね…。
帰宅部なので運動部の活動実績にはびっくりするほど興味がないからよくわからん。
「そうか。受験、頑張れよ」
「はい! 頑張りますっ!」
「はいお兄ちゃんこれ。『ライオットなんとか』」
「おーサンキュー」
さっぱりドライな兄妹関係だが、陽務家ではこれが普通。
ベッタベタした兄妹なんざフィクションだけですわ。
思春期真っ只中のドライさを甘く見るでないぞ。
まあ片やクソゲーマー、片や邪教徒で沼って他人に構う余裕がないだけなんだけどな。
「じゃあ大トリは玲ちゃんかな?」
「は、はひっ!」
ペンシルゴンから『宇宙ゴム』。京極から時計。カッツォと瑠美からライオットブラッド。紅音から御守を受け取りそこそこ手一杯になってきて、最後を飾るは玲さん。
「わ、私からはコレです…! 楽郎君、お誕生日お、おめでとうございます!!」
「ありがとう玲さん」
玲さんから渡されたのは長方形の桐箱。……桐箱? なんだろ、玉露茶とかかな?
「ら、楽郎君はよくVRゲームを遊んでいるので、その、睡眠に近い状態なのが多いと思いまして…! ま、枕です…!」
「なるほど? 開けてみても?」
「ど、どうぞ…!」
受け取ったプレゼントを一度近くのテーブルに置き、玲さんから受け取った桐箱を御開帳。
なんかもう見た目だけで高級感が伝わってくる枕が鎮座していた。
白、ただひたすらに白い枕。シルクでしっとりとした滑らかな艶と肌触り。
触れた場所から指が音もなく沈んでいく。
現在使っている枕とは文字通り天と地程の差を痛感させられる代物。
……ナニコレぇ。野暮だから値段聞くつもりはないけどめちゃくちゃ怖いんだが?
超絶奇跡極真人魂英雄革命伝道者救世列伝福沢諭吉何人分?
一〇人くらいに分身してない? え? それ全部残像? 本体は別にいる?
HAHAHA御冗談を。……冗談ダヨネ?
あとなんかやたら達筆な金の刺繍で『HIZUTOME RAKURO』って縫われてるんだけどもしかしなくてもオーダーメイドだな? ――俺は考えるのをやめた。
「大事ニ使ワセテモラウヨ、アリガトウ玲サン」
「は、はいっ」
「さぁてと、プレゼント爆撃で楽郎君は灰になったみたいだし! 今度は吹き飛ばしてもらおっか! ――瑠美ちゃーん!」
「はいトワ様!」
「さぁさぁ、生誕祭はこれからが本番だぜ楽郎君? お姉さん達が日頃の御礼も兼ねて、た~っぷりおもてなししてあげるからサ。――覚悟しておいてね?」
たとえば、こんな生誕祭。一生忘れられない一日になったのは言うまでもない。