プロゲーマー陽務楽郎√で番組収録に挑戦する短編SS

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絶対に笑ってはいけないプロゲーマー24時

「『絶対に笑ってはいけないプロゲーマー二四時』ですか」

「そ。なんか昔やっていたバラエティ番組のパロディで年末を盛り上げろって上からの指示でね」

「はぁ」

「じゃ、そういうわけで頼んだよ。大エース様」

 

 ◇◇◇◇

 

「――というわけで、俺達は今からバラエティ番組の収録をやります」

「いや意味わからねぇよ」

「僕も同意見」

「なんでプロゲーマーがバラエティをやらなきゃいけないのよケイ」

「スポンサーの指示なんだから仕方ないだろ……ッ!」

 

 一二月某日。

『爆薬分隊』に所属するプロゲーマーの俺は、同期の京極、先輩プロゲーマーの『K』もとい魚臣慧改めカッツォ、『Nu二meg』もといナツメグ氏らと共にとある場所に集まっていた。

 なんでもウチのスポンサー様が『昔好きだったバラエティ番組のパロディをウチ所属のプロゲーマーを使ってやったら面白いのでは?』なる提案を叩きつけたとかなんとか。

 で、白羽の矢がたったのが俺含めた四人。

 まあテレビならヴィジュアルも多少は意識する必要があるのだろう。

 見た目だけなら和風美人の雰囲気漂わせる京極。

 こってりしたオタクから人気のありそうな容姿のナツメグ氏。

 すべてを吸い込むブラックホールの三人なら納得の人選ではある。

 だが俺が選ばれた理由がよくわからない。

 こちとらオシャレにはまったく気を使わないズボラマンだぞ。

 何か別の要因で呼ばれたのだろうか。

「それでケイ。『絶対に笑ってはいけない』ってこれ笑ったらどうなるの?」

「ケツバット」

「……ごめん、聞き取れなかったわケイ。なんて?」

「ケツバット」

「ケイバッド?」

「ついに頭にまで魔境の侵食が進んだのか…」

「残念だけど僕が出来ることは…くっ」

「いや違うから。そういうルールの番組なんだって。笑ったらスタッフにケツバットされるのがこのバラエティ番組のルールなんだよ」

「おいおい、昔の芸人はライオットブラッドよりヤバイのでもキメてたのか?」

「叩かれる様を見て笑うなんてどうかしてるんじゃない?」

「刀振り回して笑いながら踊り狂う幕末の武士がどの口で言うんだい?」

「「それはそれ」」

「ホント貴方達って息ピッタリよね…」

「まあ死線を何度も共に乗り越えてたら…なぁ?」

「そうだね。何十回も何百回も背後から刺された恨み辛み、僕は一生忘れない」

「重いんだよなぁ」

「はいはい、夫婦漫才はその辺で」

「「誰が夫婦だ誰が」」

「結婚式には呼びなさいよ」

「「だから夫婦じゃないって」」

「はいそこまで。頭幕末の二人にはあとで末永く爆発してもらうとして、軽く説明するからよく聞いておいてね」

 パンッと柏手を打つとカッツォは今から収録される番組の事前説明を行う。

 

 ・収録中はいかなる理由があろうとも笑ってはいけない。

 ・もし笑ってしまった場合はその場で罰を受ける。

 ・基本はバルーンバットを使ったケツバットだが、別のパターンもあるとのこと。

 ・スペシャルゲストも登場する予定

 

 なんかスペシャルゲストで真っ先に腐れ外道のフェイスが思い浮かんだんだが?

 嫌だなぁ…、会いたくねぇなぁ…。

 

「それじゃあ行こうか。――『爆薬分隊』状況開始」

 

 

「『爆薬分隊』さん現場入りまーす!」

「今日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。新しいスポンサーの『彬茅コーポレーション』を筆頭に様々な方々から予算はしっかり頂いてるので、お互い素晴らしい撮影にしましょう」

「あはは、まぁ僕らは本家本元のコメディアンではないのでまあなんというか、お手柔らかにお願いします」

 

 撮影現場の監督と思われる人物と会話をするカッツォを尻目に、簡単なメイクを施されてスタッフから渡されたピンマイクを身に付けつつスタジオを見遣る。

「しかしまたえらいデカいスタジオだなコレ」

「スタジオの装飾がゲーミングカラーになってるけどさ、これ視聴者の目に優しくなくない…?」

「予算のかけ方がなんというか、豪快というか豪鬼というか…」

「三人共、そろそろ撮影始まるからこっち集まって」

 監督と話を終えたカッツォがピンマイクを装着しながら俺達を呼ぶので、スタジオの観察をそこそこで切り上げてそちらに向かう。

「最初はこのスタジオで番組のタイトルコールと、スペシャルゲストによる開始の合図があるんだってさ」

「スペシャルゲスト、ねぇ」

「僕の直感が告げてるんだけど、絶対アレが出てくる気がする」

「奇遇だな京極。俺もだ」

「いかにもな赤い垂れ幕があるけどあそこから出てくるのかしら」

 組まれたスタジオの中央には、『ここから登場しますよ』とでも言わんばかりに鎮座している赤い垂れ幕が向こう側を覆い隠していた。

 鬼が出るか蛇が出るか。いやたぶん外道なんだろうけどな。

 幕末で鍛えた第六感が告げている。奴が出ると。

「我々が合図を送ったらスタジオが暗くなりまして、あちらの赤い垂れ幕にスポットライトが集まり、数秒後にあがってスペシャルゲストの方が登場されます。そのあとタイトルコールと視聴者向けの説明をしてくださる手筈です」

「わかりました」

「基本は一発撮りでいきます。よほどのことでない限りはカメラは止めないので自然体を撮らせてもらえれば幸いです」

 それ以外にも軽い注意事項を伝えると、監督はスタジオ中央から離れて撮影機材が大量に設置されている方へ歩いていった。

「……さてと、それじゃあそろそろ本格的な『お仕事』の時間だ。関係上スポンサーから諸々頂く手前、下手なモノを晒せばそれだけ後の『仕事』に響いてくるのでみんな、真剣にやるようにね」

「まあ捉えようによってはこれもある意味でゲームみたいなもんか」

「笑わないようにするゲームなのは頭で理解出来ても、罰ゲームで臀部を叩かれるのはなんか納得いかないけどね…」

「ケイ、これ万が一の場合労災とかきちんとおりるの?」

「多分大丈夫だと思うけど…」

「叩かれても炙られてもおいしい鰹先輩が、いざとなったら助けてくれるから大丈夫でしょナツメグ氏」

「ハハハ。先に言っておくけど自分の身は自分で守るんだよ? とりあえず『僕』は楽郎を助けないことを先に宣言しておく」

「ネコモードォ!」

「何か含みがあるような気がするけど『僕』はいちいち拾わないからね?」

 営業スマイルを貼り付けたカッツォ。こうなったらしばらくは打てど響かぬ。

 しゃあない、隙を見て世間に化けの皮をひん剥いて晒してあげるとしますかぁ!

「――それじゃあ撮影始めまーす! よろしくお願いしまーす!」

 監督の合図と共にスタジオ内の照明が暗くなり、どこからかドラムの音が鳴り響く。

 天井に設置されたスポットライトがスタジオ内を無作為に照らした後、ドラム音が鳴り止むと同時にスポットライトが赤い垂れ幕を差して笑撃な舞台の幕が上がる。

 

「『絶対に笑ってはいけないプロゲーマー二四時』! 始まりますよー!!」

「司会は私、笹原エイトと!」

「ハロー! プロゲーマーの諸君! みんなの天音永遠様だよ! ――すべからくしぬがよい」

 テ゛テ゛ーン『全員 アウトー』

「「「「この外道!!」」」」

 撮影開始直後、暗幕の向こう側から現れてなんの躊躇いもなく開幕全体即死技を繰り出す外道オブ外道、天音永遠の降臨から波乱万丈の一日が始まる。

 開幕初手ラスボス系女帝とか禁じ手では? 

「外道だなんて人聞きが悪いなぁ。私はただ台本に書かれていることを読み上げただけだよ?」

「いや、あのトワ先ぱ――ンンっ! 天音さん! 台本にはそんな事一切書かれてないんですが!?」

「手違いで違う台本が渡されたんじゃない? 知らないけど」

「フ、フリーダム過ぎる…!」

「えっとペンシルゴン(天音サン)、これ僕らへの罰ゲームチュートリアルって事でいいのかな?」

「おお、流石プロゲーマー。読みが鋭いナイスツッコミ! そうだね! 視聴者の方の中にはこの番組をよく知らない人もいるだろうから流れの確認って大事だよね! 決して私が叩かれる様を見たいとかそういう理由がある訳じゃないよ?」

「後半のセリフいらなくないですか⁉」

「おおう、大きい声でやたらはりきるねエイトちゃん。ま、いいけど」

 

「とりあえずおしおき部隊(バスターズ)の皆さんヨロシク!」

 外道女帝の指令を受けて、どこからともなく現れる仮面をつけた集団。

 

「Hiケイ! オシオキタイム、Death!」

 銀色の仮面をつけた小柄な金髪外国人女性。

「よぉナツメグ、私は手加減出来ねぇからそういうのは期待すンなよ(英語)」

 般若の面を付けた長身外国人女性。

「ステゴロが手っ取り早くて俺好みなんだが、バットでやれってんなら仕方ねぇよな」

 女児向けアニメの仮面を被った赤みがかった茶髪男性。

「京極。構えなさい」

 剣道着を身に纏った龍宮院國綱氏。京極のお兄様。

 

 ……いや最後! なにしてんの⁉ 

 こういうのって普通身バレを防ぐのになんか仮面つけたりするんじゃねぇの!?

 なんで何も顔につけてないの國綱氏…。

 つーかシルヴィア・ゴールドバーグとアメリア・サリヴァンとサバイバアルじゃん。

 前者二人はプロゲーマー繋がりでまだしも後半二人何だよ。

 友情出演枠かな?

 サバイバアルはともかくお兄様はもっと仕事選んで。

「それじゃあサクッとルール説明! この番組収録中に笑ってしまった人は罰ゲームでこの四人にぶっ叩かれます! そりゃもうズパンと豪快に! 女だろうが身内だろうが知り合いだろうが一切容赦なし! あ、ぶっ叩かれる以外のパターンもあるらしいよ! やったね!」

「なぁ魚臣、俺あの司会をぶっ叩きたいんだがなんか手頃な棒かもしくは刺せる槍とか持ってない?」

「なに? 一番槍を務める? いいじゃんやりなよ。おーい天音サン! ウチの若きエース様が罰ゲームの実演引き受けるってさ!」

「は? おい待て俺そんな事一言も」

「おお! さすがは飛ぶ鳥を落とす勢いの『爆薬分隊』の若きエース様! それじゃあ四人のバスターズのみなさん! 初回はお試しってことで! 社会人の洗礼を若造に叩き込んで殺ろうぜ!!」

「ここまで突き抜けるといっそ清々しいね。悪魔かな?」

「いやあれもう悪鬼羅刹の類いでしょ」

「…イキイキしすぎて擬態解けてますよトワ先輩…!」

 畜生そういうことか。俺を呼んだのはこういうバラエティ番組に必ず一人はいる体を張って笑いを稼ぐ役割をあてがう為か…!

 いやただでは終わらねぇ、終わらせねぇぞ…!

「寄ってたかって袋叩きとか成人した大人が恥ずかしくないのかよ!!」

「私は勝負の世界に大人も子供も成人も未成年も関係ないと思うな!」

「勝負の前にイカサマしかける盤外戦術はチートで不正だろうがよぉ!」

「そんな君には『問題はバレなければ問題ではない』という至言を与えよう!」

「ぶふっ」

 テ゛テ゛ーン『魚臣 アウトー』

「よっしゃ道連れェ!」

「待った‼まだルール説明の最中じゃないの⁉」

「いやエイトちゃんが開始の宣言してるし」

「おうペンシルゴン、これどうすりゃいいんだ? とりあえず全員ぶちのめせばいいのか?」

「ペンシルゴンって誰のことかなー? 天音永遠わかんないなー」

「……そこの御仁。京極を叩いていいのは私だけです」

「あ? なんだよ優男、喧嘩売ってんのか?」

「……、野蛮で礼節の欠片もない言動。私が今持つこれが真剣であるなら切り捨てている所でしたよ。命拾いしましたね」

「なんだ? 喧嘩売ってんな? 買ってやろうじゃねぇかオイ、後悔すんなよ」

「OH! ラストサムライVSブライカーン! Fantastic!」

「へぇ、日本人にもまだ骨のある奴がいたのか(英語)」

「く、國綱兄様! 恥ずかしいからやめてみっともない!」

「――ごはっ」

「「「えぇ…」」」

「吐血した―⁉と、とととトワ先輩これ流石にまずいですって!」

「えーあーうん? 流石にやり直し……え、編集でカットするから続行? なるほど天音永遠了解! じゃあとりあえず女児仮面ちゃん! そこのプロゲーマーの野郎二人組を引っ叩いてくれるかな?」

「なんか釈然としねぇけど……。おうケツ向けろテメェら、四つに叩き割ってやる」

「対応が雑過ぎるだ――イッテェ!!」

「これ番組として大丈夫――痛いッ!!」

「んー、やっぱバットはイマイチだな。五〇点」

「ハッ、腰の入ったいいスイングするじゃねェか(英語)」

「あ? 俺英語苦手なんだよ。コイツなんて言ってんだサンラク」

「マジイッテェ…。てかお前さっきからPNゲロすんのやめろ。それが原因で致命傷になるヤツだっているんだぞ? 天音永遠とか天音永遠とか天音永遠とか」

「さっきからやたらと私の名前を連呼するなんて陽務選手は私のファンなのかなぁー!? サインはあとで好きなだけ書いてあげるからお口チャックしよっか⁉」

「必死すぎて笑う」

 テ゛テ゛ーン「魚臣 アウトー」

「あ゛」

「バカッツォ君よぉ。間抜けは見つかったみたいだな?」

 

 再びスタジオ内に響き渡る鮮烈な炸裂音と汚い悲鳴。

 ――悪夢が終わるまで残り二三時間半。

 夜明けはまだまだ先になりそうだ。

 


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