――――赤い水溜まりが出来ている。
「京……極…………ォ……ッ!」
「あはっ……アハッ、アハハハハハハハハハハ!! 君がいけないんだ!! 君が!! 僕の心を踏み躙るから!! だから僕はこうするしかなかったんだ……ッ!!」
縋るように伸ばす彼の手を足の裏で踏み潰す。入念に。丹念に。丁寧に。
バキリと何かが砕ける音がする。ぐちゃりと何かが潰れる音がする。
大地が緋色に染まっていく。
起き上がろうと地面に触れる彼の左肘から先はない。
立ち上がろうと地表に刺さる彼の両腿から先はない。
残された彼の右拳は既に赤黒い肉袋へと成れ果てた。
彼にはもう自由に動かせる四肢はない。
詫びるように、乞うように差し出される彼の頭を掴む。
そして
「――――さよなら」
◇◇◇◇
「おい最後のなんだよアレ。猟奇的すぎるだろ京極お前。俺じゃなかったら泣いてるぞ」
「僕の日頃の苦しみ、わかってくれたかい?」
「いや俺あそこまでやったことないだろ。せいぜい乳母車にお前載せて途中で火付けてランカー共に突っ込ませたくらいだろって」
「楽郎、寝言は寝て言おうね? とりあえず僕はその序ノ口含めて、これまでに体験させられた地獄のフルコースを全部一纏めにして君に繰り出したら、それはもう最高にスッキリするかなって思ってやったんだ。身から出た錆。反省して」
「あいにく俺に振り返る過去はなくてな」
「なら君の首を逆方向に捻じれば見えてくるかい?」
「いやそれで見えてくるの走馬灯だ――おいバカバカちょっやめろ今は『幕末』じゃねぇんだマジで辞め――」
「チェストォー!!」
「示現ッ!!」
僕は優しいから首チョップで勘弁してあげるよ楽郎。
でも次はないからね?
僕達はつい先程まで、楽郎の部屋から共にフルダイブして『辻斬・狂想曲:オンライン』、通称『幕末』をプレイしていた。
今日はランカー上位陣のログイン率が少なく張り合いがなかったので、適度なところで屍の山を築くのを止めて楽郎と一騎討ちで勝負を敢行。
そうしていたら次第に興が乗ったというか狂が乗ったというか。
今迄の恨み辛みが刀に憑依して、『サンラク』の四肢を叩き斬って首と胴体を泣き別れさせたという顛末。
決して現実の出来事ではなく、警察にお世話になるような事案でもなんでもない。
あくまでフィクションのお話。
いくら『幕末』で魂に潤いを感じようとも、現実で刃傷沙汰を招く蛮勇は僕にはない。
お祖父様が遺してくれた剣を汚すわけにはいかないからね。
まあこれを言うとおそらく楽郎には鼻で笑われた上で『幕末に汚染された龍宮院流剣術とか天国で富嶽の爺さん泣いてるだろ』って言われるから絶対に楽郎の前では言わないけど。
「もっと細切れにしておけばよかったかな」
「お前最近ホント思考アレな」
「君が薦めたのを忘れたなんて言わせないよ?」
「いやまあ薦めたのは俺だけども。けどそれを続けるかどうかは強制してないわけで」
「言い訳はカッコ悪いなぁ。潔くないよ楽郎。辞世の句を詠む時間は与えて上げるからほら、何か言い残すことはあるかい?」
「んー、『なだらかな平原嵩増し土手の山 やむにやまれぬ虚仮威しかな』」
「~~~~っ!! そういうことは気づいても言わないんだよ!!」
「乙女心は複雑ですなぁ京極ちゃんよぉ!! 別にそんなことしなくても俺はどんなお前であっても大好きだぜー!?」
「だいッ!?」
「――はいチョロイン」
「あいたっ!」
楽郎の指弾が僕の額を的確に撃ち抜く。
ああもう、本当にずるいんだこの男は。