「「「「取り調べの時間だオラァ‼」」」」
「授業終わる度に突っ込んでくんなよ喧しいなぁ!?」
転校生咲洲サイナの襲来から四限目の授業が終わり昼休みに入った途端、五〇分ぶり四回目の異端審問会開幕のゴングが鳴り響く。
あのあと咲洲は特に俺に話しかけてくることはなく、授業が終わる度にクラスの女子共に囲まれてガールズトークに花を咲かせていた。
「おうお前、咲洲さんとはどういう関係なんだよ?」
「だから中学の頃にホームステイで知り合っただけだっての。……このやりとりもう四回目なんだけど、お前らの脳内メモリどうなってんだ?」
「お前が嘘をついている可能性があるからな! 何度でも聞いてやるから覚悟しろ!」
「いや何回も聞く意味よ。じゃあなに。お前ら俺が『咲洲と親公認の仲』とか言ったらどうするつもりなんだ?」
「キョ!?」
なんか鶏鳴かなかった? 気の所為かな?
「ハハハ! 面白い冗談だな。――ドラム缶に詰めるのは最後にしてやるよ」
「最後も何も調書対象俺しかいねーじゃねーか」
というかドラム缶に詰めてどうするつもりだよこえーよ。
ワイワギャーギャー取っ組み合い煽り合い、不毛な時間だけが過ぎていく。
「――楽郎!」
昼飯もロクに食えず、そもそも先程の授業道具すら片付けられずにただ時間だけが過ぎていく無情さに諦めていた最中、教室の後方からよく通る澄んだ声が響く。
「今日は昼休みに僕の所へ顔を出す約束だったのに、予定をすっぽかすなんて本当にいい度胸してるね?」
クラスメイトの一部の女子が黄色い声をあげ、モーセの海割りの如く人混みが裂け、その中心を堂々たる足運びでこちらに近づいてくるショートカット女子。
姓は龍宮院、名は京極。
京極は女子剣道部で二年生ながら団体戦では大将、個人戦では全国クラスの実力を誇る侍系女子だ。確か新人戦では優勝してた気がする。
その剣力は京極の生まれ育った環境による賜物だが、まあ名前からしてもう強い。
『龍』に『宮』に『院』で極めつけは『京極』。
これでボーイッシュなんだからそりゃキャーキャー言われもしますよねって。
大丈夫か? 騙されてるぞクラスの女子達、その中身はイキリほうれん草だぞ?
「今なんか失礼なこと考えなかった?」
「いやなにも」
幕末のおかげで不穏な気配というか第六感的なのが鍛えられるからか、心の機微に気づくようになってるようだな感心感心。
「……また陽務の元に女子が……!」
「……俺達とこいつの差はなんだ……!?」
京極が現れたお陰か、俺への尋問を一時中断してぶつくさと自問自答を繰り返すバカルテットなクラスメイト共。
そのまま答えのない迷宮に迷い込んでミノタウロスに食われてくれねぇかなぁ。
まぁとりあえず隙が出来たから逃げるか――今のうちだ。
「待たせて悪かったな、行こうぜ京極」
「ッ!? ――ちょっ、いきなり手を引っ張るんじゃない!?」
京極の手を掴んで戦線離脱。
後方から「逃げるな卑怯者! 逃げるなー! 責任から逃げるなー!」なる怨嗟の声が聞こえるも無視。
VRゲームを没頭して遊ぶ為に鍛えてる肉体をフル活用して追跡者達をブッチギる。
帰宅部の本気を舐めるなよ。その気になればフルマラソンだって完走してやるぜ。
いや嘘。フルマラソンは盛りすぎた。ハーフマラソンくらいなら余裕。
「ふぅ…」
昼休みにおける京極定住の地である無人の剣道場に駆け込み呼吸を整える。
とりあえずここまで逃げれば大丈夫だろ……。
「『ふぅ…』じゃない!!」
「痛ぇ!?」
いきなり走らせたからか、呼吸が乱れて顔が赤くなっている京極に思いっきり手刀で後頭部をぶっ叩かれた。
「馬鹿! 鳥頭! ひょっとこ! 唐変木!」
「なんで俺罵られてるの?」
「僕の格好を見てよく考えてくれる!?」
手櫛で乱れた髪を整えながら、京極は顔を茹で蛸のように真っ赤にして怒りを露わにする。
「制服だな」
「スカート! 今の僕はスカートなの! この格好の僕を走らせた罪の重さ、わかる!?」
憤慨しながら自分のスカートの裾を軽くつまんで主張する京極。
いやスカートって言ったってねぇ…?
「黒の短パン履いてたんだからいいじゃねーか」
追手を確認する時に振り返ったけど黒の短パン履いてたし、別に何を怒る必要があるんだ…? 短パンなら見られても別に問題ないだろ?
「……、――ソノキオクオイテケェ!!」
「短パンじゃなかったのかよぉ!?」
レイドボス龍宮院京極との戦闘が始まった。
――その二分後、帰りに京極へラーメンを奢ることで手打ちになった。ちょっろっ!!