シャンフロ学園   作:ミヤムラゾロ

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家系ラーメン『兎御殿』

「今日は部活休みだから、授業終わったら楽郎の教室まで行くからね。帰りのラーメン、忘れないでね?」

「おー」

 

 京極の昼飯をちょろまかして栄養補給を済ませ、昼休みが終わるギリギリまで粘って教室に戻る。

 教室に入った直後、一瞬ざわついたような気がしなくもないが、まあ特に気にせず自分の座席へ。

 そろそろ五限の開始時刻。五限は斎賀先生の授業だ。

 斎賀先生は授業開始のチャイムと同時に授業を始めるので、開始五分前にはすでに教壇で指導準備が完了しており、静かに開始の合図を待っている。

 その為教壇からは監視の目が教室全体に行き届いており、審問会の奴らも迂闊に手は出せまい。

 一家に一台斎賀仙サー。暴漢対策は完璧ですってか。傍観的に。

 ……え、嘘こっち見た? 心の声見透かされてる? いやいやまさかそんな…。

 

 斎賀先生の糸目で隠匿された視線のナイフに戦々恐々しつつ、授業開始のチャイムを確認。

 

 そして五〇分が経過して授業終了のチャイムが鳴り響く。

「――では今日はここまでですね。さて、本日は五限で授業が終わりなので、このままSHRです。連絡事項は朝のSHRで伝えたので話すことは特にありません。以上」

 それだけ告げると斎賀先生は教材を抱えて教室から退室。

 斎賀先生のSHRはRTAでもやっているのかと思うレベルで早い。

 まあダラダラと無関係な話をされるよりはよっぽどいいので、個人的には有り難い話ではあるのだが。

 

 さて、SHRが早く終るということは

「ひーづとめくーん」

「あーそーぼー?」

「サッカーやろうぜ!」

「お前ボールな!!」

 監視の目から解き放たれた審問会の執行が再開されることを意味する。

「あ、斎賀先生。忘れ物かな」

「「「「なにィ⁉」」」」

 勿論嘘である。古典的な手に引っ掛かる単純な奴らで助かる。

 この展開を見越していた俺は、五限終了時にすでに脱出準備を整えていた。

 好機を逃さず、机の横に提げた最低限の荷物を詰め込んだ通学用のリュックを背負い、教室の外へ

 

「楽郎」

 

 ――駆けようとしたその刹那、咲洲から呼び止められてしまった。

 あー、うんハイ。流石に今日転校してきて話題の中心人物に呼び掛けられてからの逃走は流石に出来ないですわ。

「……なに?」

私と一緒に帰りませんか?(Why don't you come with me?)

 なぜに英語? いや英語で返すけども。

用事あるから無理(I’m busy today.)

 ホームステイと海外勢とのゲーム内会話で習得した簡単な英会話で咲洲の誘いを断る。

 発音の綺麗さとかは気にしたら負け。カタコトだろうと伝わればいいんだよ別に。

 外国人のカタコトな日本語でも意味が伝わればそれでオッケーだしな。

「楽郎、お待たせ。……何か取り込み中?」

 そうこうしている内にSHRを終えたのであろう京極がやって来た。

 一応空気は読めるのか、さっきから余計なちょっかいを出してこない審問会の奴らを警戒しつつ、俺は咲洲へ追加で説明する。

「今からこいつとラーメン食いに行くからスマン、また今度な」

了解(Sure)。差し支えなければ私もご一緒しても宜しいですか?」

 まさかの切り返し。俺は別に構わんが…。

「どうする京極?」

「僕は別に構わないよ。楽郎がちゃんと奢ってくれるならそれで」

「んー、じゃあそういう感じで。咲洲、一応言っておくが、これから行くラーメン屋はお前が想定しているラーメン屋じゃないからな」

 日本が世界に誇る『家系ラーメン』。その片鱗をとくと味わうがいい。

 

 京極バリアのお陰で審問会からの追撃を防ぐ事に成功した俺は、咲洲を加え最近通うようになった学校近くにある家系ラーメン店『兎御殿』へと向かった。

 時間帯がまだ夕方前だからか、店内は仕事の休憩で来たと思しきサラリーマンやOLがポツポツと座っている程度で混雑はしていなかった。

 土日だとやたら混むからなぁこの店…。まぁそれだけ美味い店という証明でもあるわけだが。

 やや手狭な通路を通り、丁度三席空いているカウンター席へ順に咲洲、俺、京極の並びで座る。

「おう、らっしゃい。注文は?」

 この店は食券販売機がなく、カウンターで店員へ直接オーダーするタイプの店になっている。ドスの効いたバリトンボイスでしゃべる隻眼の店主に、俺はいつもどおりの注文を告げる。

「家系ラーメン大盛りのコイカタオオメでお願いしやす」

 ここの店主、強面フェイス過ぎて無意識下で注文時にヤクザの下っ端みたいな喋りになってしまうのは仕様なんですかね。固有結界持ちか?

「僕は家系ラーメンの普通固め普通で。あ、あとトッピングで煮玉子とほうれん草をお願いします」

 俺の奢りだからか、ちゃっかりトッピングを追加している京極。

 おいおい俺が奢るのはあくまでラーメンだけだぞ? 誰がトッピングまで奢るって?

 トッピングは自分で払…ハイわかった、わかったから脛蹴るのやめろ痛ぇから。

ええっと(Um......)楽郎、これはどのように注文すればよいのですか?」

 この店にはじめて来た、というよりラーメン店そのものが未経験であろう咲洲は、不安そうな表情を浮かべながら俺に助けを求める。

「初心者はマックスが通過儀礼……ってのは嘘でそうだな、京極と同じヤツでいいだろ。すいやせん、彼女と同じモノをもう一つお願いしやす」

「あいよ」

 オーダーを聞き届けた店主は手慣れた手付きで調理に取り掛かる。

「……兄ちゃん達を最近よく見かけるけどよお、今日は見ない顔連れてるじゃねぇかい」

「ッ!?」

 カウンターの向かい側は調理場になっているので、カウンター席ではこうして店主と顔馴染みの客が会話をしている時があるのだが、まさか自分が話かけられるとは思ってもいなかったので心臓が一瞬止まりかけた。

 ドスの効いた低音でいきなり話かけないで貰えますかね……。

 心臓滅茶苦茶バクバクしてるんだが。食べる前から血圧上がっちゃうよ。

「しかも互いにえらいべっぴんさんときたもんだ。梅と桜を両手に持つたぁ、人は見かけによらねえなぁ?」

「あ、あはははは…」

 背中越しの言葉なので店主の表情は見て取れないが、声音はドスが効きつつもどこか親しみがあるので不機嫌ではないのだろう。

 が、それでも俺は笑うしかない。笑う以外に取れる選択肢がない。

 修羅場や死線を何度も掻い潜って来た老兵みたいな雰囲気纏った『なんでこの人カタギの仕事してんの?』ってなるような人物と会話をして、平静を装うことなど出来るだろうか?

 無理に決まってんだろそんなの。こちとらしがない高校生だぞ。

 隣に座る京極はなんかそっぽ向いてるし、咲洲は店内の内装が物珍しいのかあちこちキョロキョロと見渡している。

「うはははは! 急に絡んで悪かったな兄ちゃん! こいつは詫びの印でオマケだ! 育ち盛りならたぁんと食いな!」

 心臓と胃がキリキリと鳴り始めかけた途端、店主は豪快に笑いながら振り返ると、俺達の前にチャーシューが追加されたラーメンをそれぞれ置いた。

 眼下の器から立ち昇る湯気と共に芳醇な香りが鼻腔を刺激する。

「あり……う、うっす! 頂戴しやす!」

「料理には万物の命が宿ってるからよう、残さず食うんだぜ?」

「ウッス! 頂きます! ……ほらお前らもちゃんと言えって」

「い、頂きます」

「頂きます」

「……ねぇ楽郎、さっきからなんでそんな下っ端ロールしてるの?」

「魂がそうしろって言うならそうせざるを得ないんだよ。幕末と一緒だ」

「ごめん、流石に僕でも意味がわからない」

「Bakumatsu……?」

 

 強面隻眼ドスの効いたバリトンボイスの店主が取り仕切る、家系ラーメン『兎御殿』。土日は手伝いで看板娘の女子中学生と褐色の女子大生が厨房にいるって噂。

 お味は文句なし!! 星七個!! 

 

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