至らぬ所もあると思いますが、優しく見守ってやってください
真っ白だった。
「見える?」
男の子のような声で言った。
「見えない!」
張り上げて返事した声は、少し高い。
雪原を、 一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
周囲は真っ白、1メートル先も見えないほどに雪が荒ぶって降っている。つまり、吹雪いていた。
モトラドは荷物を満載していた。後部パイプキャリアには大きな鞄が載り、その上に燃料と水の缶、黒い液体の入ったボトルがいくつも並ぶ。後輪を挟むように両脇に箱が付いていて、ヘッドライトの上には丸めた寝袋が縛り付けられていた。
「すごい天気だねぇ」
モトラドが言った。
「さっきまでの天気が嘘みたいだ。」
運転手が言った。
運転手は茶色のコートを着て、長い裾を両腿に巻き付けて止めている。首に黒のネックウォーマーを巻き、鍔と、耳を覆う垂れの付いた帽子を被り、ゴーグルをしている。その下の表情は若く、10代の半ばほど。大きな目を持ち、精悍な顔つきをしていた。
「キノ、引き返した方がいいんじゃない?」
「前に寄った国から大分進んだし、ここまで来たらもう戻れないよ。それに、ホラ」
キノと呼ばれた運転手は、ポケットから取り出した方位磁石をエンジンタンクに見せるように向けた。
「さっきから何故かずっとぐるぐる回ってるんだ。真っ直ぐ走ってきた自信もないし、どっちに向かえばいいか分からない。エルメスはどう?」
エルメスと呼ばれたモトラドは、うーんと唸って、
「どうかなぁ、道路が見えて真っ直ぐ走ったつもりでも少しずつ曲がるものだからねえ、なんとも」
「仕方ない」
キノはそういうと、エルメスから降りた。
「おや?」
「視界が悪いなら走るべきじゃないや。一旦止まろう。もう雪も積もってきたしね」
「こんなところで?」
「こんなところで」
キノはキャリアーからシャベルを取り出すと地面を掘り始めた。
「何してるの?」
「穴を掘ってるんだよ。風よけにエルメスだけなのは心許ない」
雪を掘り、土を掘る。雪はかなり強くなり、息をするだけで喉の奥まで凍えるようだった。ネックウォーマーを上げ、口元を覆う。
キノはマッチを擦り、周囲からかき集めた木材や草に火をつけて、土を被せてすぐに埋めた。
「薪には向いてないけど仕方ない。これでゆっくり燃えるはずだ」
キノはその上にエルメスを倒して風よけにし、横になった。
「いつまでこうするの?」
「吹雪が止むまで。野盗が来ないと良いな」
「前の国で聞いたヤツね。トレーラーに乗って襲ってくるって。その人たちもこんな感じなんじゃない?」
「そうかもね」
「野盗に会うかもしれないのに、キャリアに売るためのしょっぱい調味料詰んでさ。そこまでして行きたかったの?お菓子の国」
「お菓子で出来た家があるんだって。是非食べたい」
「ビルだったらどうする?」
「食べきれるかな…困るな」
「あっそ」
「それにしてもこの姿勢は辛いなぁ。吹雪が止んだら早く起こしてね」
「エルメスがそれを言うの?」