野伏である妖精弓手と、パースエイダーやそれに関する知識が豊富な旅人が索敵を行うことになった。
窓から静かに屋根の上に登る。
石の街の家は長方体といえるような形をしているので、下から見えにくいのは好都合だった。
「貴女は何か、検討はついてるの?」
妖精弓手がマントを被り、姿勢を低くしながら尋ねると旅人はそうですねと言って、
「旅をする上で街や国が見えたら、旅をする人はやっぱり、」
「やっぱり?」
「素直に大通りから入ると思います。何か悪事を働く人も、まずは普通の旅人や商人を装って街に入るので」
二人は、姿勢を低く保って大通りに面する家まで移動していった。その間も大通りを見てみたが、包丁や折って手槍の長さにした鋤を持ったゴブリンを見かけたが、パースエイダーを持っている個体は見つからなかった。
渡る屋根が無くなった。大通りまで来たからだ。
大通りは馬車の往来を意識してか、結構な道幅があった。三車線ほどの広さ。
「血の跡……」
町の中央の庁舎に繋がる道に、細長い血痕が残っていた。二本の赤い線が、平行に庁舎まで伸びている。引きずったというより、車輪でつけた痕に見える。
「街の真ん中に血が集中してますね」
妖精弓手が旅人からスコープを借りて見てみると、他の大通りからも血が伸びているのがわかった。
「やっぱり、中央に亡骸を集めてるみたいね」
「そう考えて間違いないですね」
庁舎をよく観察してみると、最上階に何かパースエイダーと思しき何かを抱える大きな体躯のゴブリンの姿が見えた。
「田舎者か英雄か判別できませんが、ゴブリンがパースエイダーを持ってます」
「何匹いるかわかる?」
「一匹しか見えないのでなんとも」
「ね、貴女の世界のものは見つかった?」
「少なくとも、西から東の大通りにはなさそうです」
と言うわけで、妖精弓手達は西の大通りから、南の大通りまで移動した。
そして、
「見つけた」
「あれがそうなの?」
二人の目線の先には、二台の車両があった。
一台は、幌付きトラック。民家に頭から突っ込んでいるが、爆発はしていない。トラックの回りに金属製の箱がいくつか転がっている。
もう一台は、装甲車。グレーの角張ったボディで、上部にガトリング銃が設置されていた。
「馬車よりも狭くて暗そうね。動くの?」
「燃料があれば、またはゴブリンに手をつけられていなければおそらくは」
周囲には、ゴブリンは一匹も居なかった。
おそらく、先ほどの騒動は西の通りの出来事だからだろう。南はあまり騒ぎになっていないようだ。街の入り口に欠伸をこぼすゴブリンが居るくらいである。
「トラックの方は調査出来そうですね」
「あの家に突っ込んでる方?」
「はい」
「じゃあ行こっか。私は見張りやっとくから、捜索よろしく」
事故現場の家の窓から侵入し、眠っていたゴブリンを殺して、ゆっくりと一階に降りた。
一階は半壊しており、家として機能していなかった。窓とドアが集まる、家の正面に突っ込んだせいだろう。鍋やまな板と言った台所用品や砕けた食器が散乱していた。
トラックの窓ガラスも砕けて家の中に散らばっていた。音を立てないように気をつけながら運転席に近づいていく。
旅人が運転席を確認すると、血で汚れたエアバックがしぼんでハンドルから垂れていた。
助手席も同様である。どちらにも人は乗っていなかった。
運転席の足下を見てみると、弾が一つ落ちていた。細長く、先端が鋭くなっている。
「連射型かな。ライフルかな」
そういって旅人はつまみ上げ、ポケットに入れた。
座席の裏も確認。ハンド・パースエイダー用の弾倉が一つ転がっていた。こちらも忘れずに回収する。パースエイダーラックは、二つ備え付けてあった。
運転席を確認し終えると、荷台に回りこんだ。
荷台は、ひどい有様だった。それなりの強度をもつカーボン製と思しきケースは、鍵を壊され、中身が抜かれていた。
わずかに残っている一センチに満たない大きさで光るそれは、ダイヤモンドだ。他にあっただろう宝石類はゴブリンに持っていかれたのだろう。
そのほかにも、引き裂かれた服や中身が空の透明なタンクが転がっていた。
これだけ荒らされて、タンクの中のガソリンが漏れていないのが不思議なくらいだった。
そのトラックの荷台、一番奥に、一つの段ボール箱が置いてあった。ゴブリンは全く興味を抱かなかったのか、壊してもつまらないと考えられたのか、目立った損害はない。
旅人は罠が無いことを確認すると、ゆっくりと開けた。
中身は、グレーの粘土。セロハンで覆ってある。五キロほどだろうか。
そしてもうひとつ、小さな段ボール箱が箱に入っていた。中身を開けると、折りたたまれた一枚の紙と、ビニールに入った無線機、そして同じくビニールに入ったボールペンサイズの金属の棒が入っていた。
旅人は、紙を広げた。
[プラスチック爆薬セット。説明書をよく読み、正しく使用しましょう! メーカー名 ×××××]
日は天辺を越え、ゆっくりと西に向かっていた。
「庁舎まで血の引きずった痕あり、と。パースエイダーを持った見張りもいたようですし、中央に何かあるのは明確ですな」
ゴブリンスレイヤー達が隠れている家に戻り、顔を合わせて作戦会議である。
外を妖精弓手と鉱人道士が努め、残りのメンバーで案を探る。
「ゴブリンがパースエイダーをどのくらい保持しているかはわかったのですか? 」
女神官はそう言って干し肉をかじった。
固い肉をかじると、塩味がしみ出して唾液腺を刺激した。
「弾の口径の種類と収納の規模からして、連射型パースエイダーが二丁と、ハンド・パースエイダーが二丁ほど。弾は四百発くらいですね」
旅人が携帯食料を食べながら言った。細長いブロック状の物体なのだが、何で出来ているのかわからなかった。美味しいのだろうか。
「射程はどのくらいかわかるか」
兜の隙間からパンをねじ込んで食べ終わったゴブリンスレイヤーが言った。
「パースエイダーの性能によりますが、有効射程最大で一キロ、届くだけなら四キロ」
一党の緊張が高まった。
「外周まで十分届くわね」
「しかも庁舎の周りは馬車の往来を円滑にするために道が広くなっている。隠れる場所がない。」
ふむ、ゴブリンスレイヤーは顎に手をあて
「どう見る」
「籠城戦ですな」
蜥蜴僧侶が言った。
「食料は街の人間。町の中央、最も高い位置という有利な場所に有利な武器。そして侵入者は確実にさらされる」
「奴らはあの庁舎から出ることはないだろう。一度有利だと考えたゴブリンは、それに固執して変えることは無い」
「どうやって我々はあの城に入り込むべきか」
うーんと頭を抱えた女神官が言った。
「大通りを避けて、通りと家を渡りながら庁舎に近づくのはどうですか?」
「時間が掛かりすぎて夜になりますな。奴らの時間になると攻撃はおろか撤退も難しくなります。」
「〈隧道〉で庁舎の下までつなぐのは如何がか?」
「スマンが、さすがにあの距離の維持は難しいな。石を掘るのもなおさらな」
「耳長の弓だの、旅のパースエイダーだので銃手を撃っちまえばいいじゃねえか」
「この距離じゃさすがに無理よ。届く前に見つかっちゃう。」
「発砲音で気づかれてしまいます。抑制器で庁舎までは聞こえませんが、周囲のゴブリンは気づくと思います。液体火薬も多くないので、さっきみたいに何度も囲まれたら脱出出来なくなります」
「と、なると」
ゴブリンスレイヤーが言った。
「結論は、上からの射撃もゴブリンの包囲も物ともせず、迅速に我々が突貫できる、そんな
「まさしく無理難題と言ったところか」
蜥蜴僧侶が苦痛げに瞑目すると、いえ、と旅人が言った。
「今ならあります。一台だけ、その無謀をかなえる事ができる車両が」
旅人は、トラックで見つけた戦利品を置いて言った。
その日の昼。一匹のゴブリンは聞いた。
昨日か一昨日に来た謎の鉄の箱が、ヴウンと呻り声を上げたのを
奴が来るわ!
奴よ!
奴よ!
狂気の小鬼殺しがやってくる!
屍臭を巻き上げて握りしめながら
灰の鉄馬を引きずって真ッ直ぐに