「やはり、武器を選ぶならゴブリンに奪われたときを考えた方が良いな」
「それはアンタだけでしょ!」
目の前で道を塞ぐゴブリンども。彼らの装備は普段よりも格段に充実していた。
だれも彼もが胸当て以上の防具を着込み、鉄製の武器を持っている。
分隊長と思しき甲冑のゴブリンが、真っ赤な剣を振るって合図を出す。
三体の
身を守るように円盾やスパイクシールド、カイトシールドを構えている。
「
ゴブリンスレイヤーが言った。だが、その口調に焦りは見られない。
「防具が整って無ければ意味が無いな」
ゴブリンの密集隊戦法に合わせて、ゴブリンスレイヤー、妖精弓手、旅人が前に出た。
槍を持った突撃部隊がゴブリン分隊長の号令によって走り出す……その前に冒険者の三人が仕掛けた。
ゴブリンスレイヤーが逆手に持った剣を投げうち、妖精弓手が矢を放ち、旅人が自動型パースエイダー、森の人の引き金を引いた。
三射三様の迎撃は全てゴブリン突撃部隊の首や目玉、眉間に命中し、陣形を打ち崩した。
ファランクスの基本は盾で体をすっぽり覆うことだが、どうやらゴブリンにそこまでの知恵は無かったようである。
「三」
ゴブリンスレイヤーは落ちている槍を拾って突撃。妖精弓手と旅人は蜥蜴僧侶とスイッチ。入れ替わって前に出た蜥蜴僧侶が竜牙刀片手に躍り出る。
ハルバードを構えたゴブリンスレイヤーは、腰を落として穂先を真っ直ぐ突き出した。
辺境最強の彼の様な美しい槍捌きなど、ゴブリンスレイヤーは出来ない。だが、ゴブリンなんぞにそのような高等技術は必要ない。
ちょうどゴブリンの喉の高さで繰り出された突きは、田舎者の後ろから飛び出したゴブリンの喉を的確に貫いた。ズブリと刃が埋まった槍を引くと、ゴブリンの死体もくっついてきた。
「使えんな」
ゴブリンスレイヤーはハルバードを捨てると、腰から卍型の投げナイフを取り出した。
リーチは短いが、相手の武器を絡め取ることもできる。
目の前では、蜥蜴僧侶がゴブリンの首を飛ばしていた。
「これで七!」
いずれもチャンピオンよりも少し小さい程度の恵まれた体躯で、装備を着込んでいたが、蜥蜴僧侶からすれば雑魚に等しかったようだ。
と、そこで急に蜥蜴僧侶が退いた。
「どうした」
「奴が厄介でしてな。特に武器が」
そう言って蜥蜴僧侶は真ッ二つに切れた竜牙刀を捨てた。
蜥蜴僧侶が脅威と捕らえているのは、最後の一匹、全身甲冑姿の
「朱い刀身……、
鉱人道士が叫んだ。
「魔剣の類いか」
ゴブリンスレイヤーは舌打ちをこぼした。
高熱で断ち切る刃。
こういったことがあるからゴブリンスレイヤーは魔剣を使わないのだ。もちろんこの街で死んだ冒険者を責めようとは思わないが。
鎧の隙間に強引に刃をねじ込もうにも、あの剣で斬りかかられたら技量にかかわらず致命傷を喰らう。素手で組み伏せることも出来なくは無いが、骰子の出目は厳しいだろう。
その逡巡を読み取ったのか、考え無しなのか、小鬼騎士が駆けだした。考えている時間はない。
「ボクがやります」
カノンを抜いた旅人が前に出た。
下手に鎧に当てると跳弾が怖い。首元まで覆われているので即死も狙えない。ならば。
轟音と共に鉛玉が発射される。命中したのは、熱剣をもつ右腕だ。狙うのは甲冑に覆われていない布鎧の部分だ。
鎧の隙間から入り込んだ鉛玉は恐るべき破壊力をもってして腕をちぎり飛ばした。熱剣は腕と一緒に飛び、壁に刺さって熱を失った。
「手に持っている間だけ効果を発揮するようですな」
「よくやった」
旅人を労うと、ゴブリンスレイヤーが駆けた。痛みに喚きながら床を転がる小鬼騎士の、兜を掴み、首を捻り折る。
「これで八」
「オルクボルグも少し野蛮になってきたわね、なんというか、戦い方が」
「鎧兜の隙間に刃をねじ込むのは手間だからな」
「力で解決するなら力を行使すべきですなあ」
蜥蜴僧侶がニヤリと笑い、小鬼騎士の落とした熱剣を拾った。
柄をしっかり握ると、銀色の刃が赤熱する。
「しばし借りることにしましょう」
蜥蜴僧侶が鞘も拾って納剣し、ゴブリンスレイヤーが適当な手斧を拾った。
「プラスチック爆薬を使えば楽だったろうな」
そういうゴブリンスレイヤーの口調は何処か名残惜しさが含まれている。
「使わなくて良いなら使っちゃダメだからね? ここ崩れるかもしれないし!」
「かみきり丸は小鬼を殺す手段についてはすぐに覚えるのう」
「使い方も考えますしね……」
女神官は氷菓子の作り方でトロルを倒した時のことを思い出した。
突入前の旅人の案では、この庁舎に爆薬を大量に仕掛け、ゴブリンが集まったところで吹き飛ばすというものだった。
……賛成したのはゴブリンスレイヤーだけだったが。
一党は再び進み始めた。
と言っても、四階にはほとんど敵はいなかった。となると、必然的に最上階である五階に集まっていることになる。
この庁舎の五階は、展望台だ。三階と五階、一階のみが一般開放されているらしく、冒険者でなくても街を一望できると言うわけだ。ドアを開けた正面は拓けているので、こちらからの不意打ちは望めないはずである。
「行くぞ」
「あ、その前に」
そう切り出したのは旅人だ。
女神官に言った。
「展望台に出て直ぐに壁を張ってくれませんか。おそらく、ゴブリン達はボクらの姿が見えた瞬間に撃ってきます」
「! わかりました。」
ゴブリンスレイヤー、女神官、旅人の三人の前衛で突入することになった。
女神官が錫杖を構え、地母神へ祈りを捧げる。
「〈いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の力でお守りください〉」
三人で顔を見合わせた。
旅人が三本指を立て、折っていく。
二本。
一本。
旅人がドアを蹴破って展望台に出たのと、〈
「パースエイダー2、槍2、剣5、術無し!」
ゴブリンスレイヤーが敵の数を確認したと同時に、大柄なゴブリン二体が連射型パースエイダーの引き金を引いた。
一分で200発殺到する鋼鉄の牙が、冒険者達に襲いかかる。
だが、どうだ。地母神への敬虔な祈りによってもたらされた聖なる壁は、弾丸の雨あられを全て弾いているではないか。
しかし連射には限界が来る。壁を維持する精神力もだ。さて、結果は。
「はあっ、はあっ、はっ……」
「GGGAAOOBB」
女神官が息も絶え絶えに膝をついた。だが、二両合わせて90発もの猛撃を防いでみせた。
ゴブリン銃手二匹は苛立ちながらも弾倉を取り替える。
その隙をゴブリンスレイヤーと旅人が逃すはずもなかった。
カノンを撃ち、剣を投げる。
弾が切れればただの文鎮。文鎮持ち二匹はあっという間に死体に成り果てた。
「これで九ね」
妖精弓手が矢を射って、剣をもってうろうろしていた最後のゴブリンが死んだ。展望台、制圧完了。
蜥蜴僧侶とパースエイダーを破壊し終えると、ゴブリンスレイヤーが言った。
「脱出をする。窓際に集まれ」
「ああ、またあれをやるのね」
死体から矢を回収した妖精弓手が、耳を倒してげんなりと言った。
「一階からの脱出はすでに不可能だ。あれしかあるまい」
ゴブリンスレイヤーは問題に思っていないようだ。
「上手くいきますかね?」
旅人が言った。
「緊張しとるんか」
鉱人道士の質問に旅人は「少しは」と答えた。
「ま、そこは銀等級の腕前を信じてもらうしかねえな」
鉱人道士は酒を一口飲み、口を湿らせた。
「鱗の! 準備は出来てっか!?」
「こちらはすでにばっちりと」
「んじゃ行くか!」
ゴブリンスレイヤー一党は、展望台から飛び出した。
「もうこれやだあああああああ!」
「きゃあああああああああ!」
妖精弓手と女神官の悲鳴の中、鉱人道士が複雑な呪印を結ぶ。
「〈土精や土精、バケツを降ろせ、ゆっくり降ろせ、おろして置いてけ〉!」
〈
ゆっくりと降下をする中で旅人が唖然とした様子で言った。
「本当に、ゆっくり降りてる……」
「はっはっは、魔術と言うのは偉大ですなあ」
蜥蜴僧侶楽しそうなのは先祖に鳥類の血のせいか。
「でも、下にゴブリンが……!」
女神官が危惧したとおり、下には街から集まってきたゴブリンがわらわらとこちらを見上げている。このままでは着地狩りから逃げられない。
だが、それでも蜥蜴僧侶は落ち着いていた。
「それなら、直ぐに迎えが来ますのでご安心を」
呼応するように、庁舎の一階からゴブリンを撥ねながら装甲車が飛び出した。
灰色のボディに赤いペイントを施しながら装甲車は一党の落下に合わせて近づいてくる。
装甲車はそのまま、一党の落下先に停車した。
「だ、誰が運転してるんですか?」
女神官のその疑問の答えは、ハッチからサブマシンガンを抱えてハッチから身を出した骨の戦士が教えてくれた。
あの軽機関銃は装甲車の中にあったものか。
「
竜牙兵は、サブマシンガンを構えると、少しずつ近づいてくるゴブリンどもを発砲でもって蹴散らした。その間に一党は装甲車の上部に着地し、中に入っていく。
「竜牙兵って運転もパースエイダーも使えるのね……」
「出るときに少し教えただけなんですけど、ここまで出来るとは思いませんでした。」
「戦士とは賢さもなくてはな。力だけでは蛮族と変わりなし」
シートベルトを締めながら、そんなやりとりを交わす冒険者達。
「このまま街を出ますか?」
旅人の質問に対し、「いや」とゴブリンスレイヤーは否定した。
「数が数だ。一度退いたら、何処に行くかわからん。」
「ゴブリンを皆殺しにする」
これがまさしくドラグナーってね。