前の話も編集させて頂きました。
悪魔の手は、誰も居ない支部室で目を覚ました。
凍える様に寒い。傷口だけが熱く感じる。
だが、生きている。悪魔に体を作り替えた自分の体は、人間の時よりも頑丈に出来ているらしい。
鉛の詰まった体を持ち上げ、窓から外を見た。
緑の波が、気色悪く蠢いていた。
ゴブリンなら見張り以外のほとんどが眠る昼時だったが、そのときは街のほとんどのゴブリンが起きていた。
それもそのはず、街の中央から例の鉄の礫を飛ばすからくりの音が何度も聞こえたからだ。
そして、庁舎から呻りを上げて飛び出す鉄の箱を見たとき、ゴブリン達の寝ぼけた意識は覚醒し、一つ同じ事を考えた。
即ち、「あれを止めて中身を引っ張り出してやろう。」
仲間の一匹は、あの中に冒険者が入っていくのを見た奴がいた。
女もいたと言う。奪うほかあるまい。
街の人間はすでに食べたり犯したり遊んだり、とっくに使い果たしてしまった。生きているものはいない。
武器にせよ冒険者にせよ、新品の方が良いに決まっている。だが、数は少ない。これまでにない大所帯となったこの規模で、女が一人二人居たところで全員に回る事は無い。
ならば、早い者勝ちだ。
そんなわけで、道いっぱいのゴブリンが装甲車めがけて走っていた。
鉄の箱はかなり速いが、見える距離だ。
街の端が見えてきたところで、装甲車は停止した。
どうして止まったのかはわからなかったが、今がチャンスだと言うことはわかった。
各々の武器と薄汚い欲望を抱え、数多のゴブリンが装甲車に駆ける。
そして、
その多くが、銃弾によって挽肉になった。
「ゴブリンを一方向からのみ来るように仕向け、これを鏖殺する。」
これが、ゴブリンスレイヤーの作戦だった。
とは言っても、身一つで肉弾戦で迎え撃つのは不可能だ。道一本にしてもそれなりの広さがある。
ゴブリンの一番恐ろしい部分は数だ。前衛である蜥蜴僧侶とゴブリンスレイヤーが体を張ったところで、直ぐに崩されてしまうだろう。
だが、装甲車の上には全自動式連射パースエイダーがあった。筒が回転しながら毎分600発弾を撃つそれがゴブリンによって破壊されなかったのは奇跡に近い。
もちろん、車内に弾がないというトラブルもある。 無ければ一度街に戻り、冒険者を集めて再び攻めるという段取りだったのだが。
弾はあった。予備のパースエイダーも。自分たちの状態も良好だった。
だから、殺す事にした。
旅人がパースエイダーを連射し、ゴブリンを殺しながら群れを止める。
妖精弓手と竜牙兵が矢を射かけて混乱を起こす。
そして動きが鈍った所に、ゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶、鉱人道士が突っ込む。
女神官は、タイミングを計って壁を張り、動きを止める。
彼らは段取りを決め、配置を確認してから庁舎に突撃した。
そして、今。
装甲車が動きを止め、冒険者達が持ち場につく。
「来るわね」
「来ますね」
投石紐を取りだし、石を巻き付けて言った
民家の上に登った妖精弓手が言った。矢筒には街路樹から分けて貰った矢が詰まっている。
傍らには一体の竜牙兵、小型連射式パースエイダーと換えの弾倉、民家で見つけた狩猟用
「来るのう」
「来ますなあ」
装甲車の裏で鉱人道士が酒を呷り、手斧を担いだ。
蜥蜴僧侶は鞘から熱剣を抜いた。たちまち刀身が赤熱する。
ゴブリンスレイヤーは、先ほど庁舎のゴブリンから奪った、剣の具合を確かめた。
「来るな」
旅人は、車上のパースエイダーの準備を終えた。かなり重たい弾倉なので、リロードには時間が掛かるだろう。
「もう来るかな」
旅人は、装甲車の中に落ちていた耳当てを装着すると、パースエイダーのグリップを握り直した。引き金に指はかけず、ピンと伸ばす。
そして、ゴブリンが見えてきた。
ゴブリンが来る。
ゴブリンが来る。
ゴブリンが来る。
道をいっぱいに埋める緑の波。
旅人は引き金を引いた。
ぶううううううううううううううううううーー
街の中に破裂音が轟いた。
連続してパースエイダーが発砲する音だが、連射速度の速さ故に繋がって聞こえる。
パースエイダーの排出口から空薬莢がいくつも飛び出して、キラキラと光を反射した。
あまりにも密な弾幕はゴブリンどもを打ち抜くと言うより、削り取って殺していった。
「あんまり撃っちゃだめだ」
この装甲車には、弾が千発も無かった。
熱くなった砲を取り替える、予備のバレルももう一つしかないので、ずっと撃ち続けることは出来ない。一度道路を右から左に掃くようにパースエイダーを動かすと、旅人は一度撃つのを止めた。
だが、パースエイダーの衝撃力、目の前で形をなくす仲間、これがわかってしまったらゴブリンは動く事が出来ない。
ゴブリンとは自分本位な生き物だ。群れが蹂躙されることに怒るが、自分が死ぬくらいなら仲間を差し出す。
あの砲が向けられたら死ぬ。
「今」
そう考えた第二陣のゴブリン達は逃げようとして、妖精弓手達の矢に襲われた。
先ほどとは違って密度こそないものの、頭蓋を貫かれて死ぬ仲間の姿は欠片になった死体よりも死を連想させた。
阿鼻叫喚の地獄の有様だったが、人を犯し、喰う
ゴブリンの動きが緩慢になった。
そこに、三人が武器を片手に突撃した。
「イイイイイイヤアアアアアアアアア!!!」
一番槍、雄叫びとともに蜥蜴僧侶が斬りかかった。
熱剣によってバターの様にゴブリンが斬られ、
ゴブリンスレイヤーが剣を投げ、盾で打ちのめし、金槌を奪って、頭蓋を砕く。こちらは確実に、作業めいてゴブリンを殺害していく。
鉱人道士は手斧を振るってゴブリンを叩っ斬っていた。リーチこそ無いが、武器の扱いでゴブリンごときにかなわぬはずが無い。
ある程度削ったところで、新たなゴブリンの群れがこちらに近づくのが見えた。
「一度退くぞ!」
ゴブリンスレイヤーが叫び、二人はそれぞれ民家に飛び込んだ。ゴブリンスレイヤーが腕を振って旅人に合図を送り、彼も民家に入る。
「よし」
旅人は再びパースエイダーを握り直した。
ゴブリンの群れがやってくる。
ゴブリンの群れに、再び篠突く弾丸の雨が降り注いだ。
ゴブリン達は再び弾丸によって削られ、矢によって動きを防がれ、剣戟にて死んでいった。
ゴブリンスレイヤーが再び合図。
射線を延ばせ。
旅人は全自動式連射パースエイダーの安全装置をかけると、装甲車の運転席に座ってエンジンをかけた。
ゆっくりと前進し、中央へ進む。
合わせて冒険者達も前進。
頃合いを見計らって再び射撃を開始。同じようにゴブリンどもを削ってゆく。
撃って射って斬って退いて撃って射って斬って退いて撃って……。
ゴブリンの数は明らかに減っている。
しかし、一党の体力が減っているのも事実だった。
民家の上にゴブリンが登ってきたので、妖精弓手達は応戦した。
竜牙兵の小型連射パースエイダーの弾が尽き、ゴブリンに足を掴まれて地べたに叩きつけられた。
登ってくるゴブリンどもを女神官は錫杖で必死にたたき落とし、妖精弓手は最後の矢を射る。
旅人が撃っていたパースエイダーの砲身は煤で真っ黒になり、陽炎を揺らめかせている。
全自動式連射パースエイダーはとっくに弾が尽きたので、フルートで狙撃を繰り返していた。
後ろから奇襲を狙うゴブリンがいたので、カノンを抜いて発砲。全て殺したときに、弾が尽きた。素早い手つきで弾倉を取り替える。
フルートの残り弾数ゼロ。ポーチには、森の人の弾倉が三本、カノンの空のシリンダーが一つ。残り弾数、僅か。
蜥蜴僧侶の熱剣は効果を失い、とうの昔にぶち折れた。先ほど拾った槍も穂先が取れたので、放り捨てる。
ゴブリンスレイヤーの腕にくくりつけられた革の円盾は攻撃を受けすぎてズタズタになり、紐が切れて落ちた。
鉱人道士が今持っているのは、片方の爪が折れたピッケルだ。触媒の詰まった鞄は何処かに行った様だ。
道は血で真っ赤に染まり、冒険者達も赤黒く染まっていた。
血臭と硝煙の臭いで充満しており、慣れない者が嗅いだら吐いていたことだろう。
ゴブリンの数は十分の一以下にまで減っていたが、まだ残っている。
疲労困憊、満身創痍といった様子だが、冒険者達の目は死んでいない。
ゴブリン達は、恐怖を感じていた。
道を埋め尽くすほどいた同胞達は、肉片になり、首になり、串刺しになった。
たった六人ぽっちの冒険者に、おれたちの大群は蹂躙された。
数で流せばおして流せるはずだったのに。何故、何故、何故。奴らは一体何者なんだ。
群れを打ちのめされた怒りよりも、冒険者達への恐怖が勝った。
ゴブリンは我先にとゴブリンスレイヤー達とは反対側に走って逃げていく。
逃げるゴブリンの姿を見て、ゴブリンスレイヤーは諸刃の片手剣を拾った。
近くで足音がしたので顔を上げると、仲間達がそこに居た。
誰も彼も消耗して、万全の者などいない。ゴブリンスレイヤーが取った選択は、
「今日は、もう退くべきだろう」
「そりゃそーでしょ。文字通り刀折れ矢尽きるってやつね。もう無理無理」
妖精弓手は手をヒラヒラと振って言った。
妖精弓手の軽口に、一党に笑いが起きる。
かくして一党は石の街のゴブリンを撃退した。
生き残りこそいるものの、九割を殺したとあれば大金星といえるだろう。
警戒を怠らずとも和やかな空気が流れた。
一党が馬車に向かおうと中央に歩き出したところで、女神官は見た。
地面に広がるゴブリンの赤黒い血が、庁舎に向かって進み始めるのを。
「我らが
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