ゴブリンのいる国   作:明石雪路

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森の中にて

「ここは…」

「一体どこなんだろうね」

 

 一人と一台がいるのは、森の中、踏み固められた幅1.5mほどの道の上だ。

 鬱蒼と茂る林間から太陽の光が線上に差し込んでいる。

 木々の隙間から見える空は蒼色。ちぎれた雲がいくつか、ゆっくりと流れて行く。

 モトラドの脇で寝ていた旅人は立ち上がり、周囲を見回した。

 

「さっきまで草原を走っていて、春の日差しが吹雪に変わって、今は森の中。飛ばされちゃったかな?」

 からかうように言うモトラドに旅人が土を払いながら返事をした。

「それは困るかな。燃料も食料も余裕はあるけど、あんまり無駄に過ごしたくない。」

「それもそうだ」

 コートを脱ぎ、ゴーグルをつけると、旅人はモトラドに跨がってエンジンを掛けた。

「とりあえず進んでみよう。なにか乗り物が通った形跡があるし、人がこの道を使っているのは確かだ」

「どっちに行く? 右? 左?」

「どっちが良い?」

「一本道じゃわからないよ。コイントスで決めれば?」

「右にしよう」

「その心は?」

「なんとなくさ」

「さいで」

 旅人は、モトラドのエンジンをかけようとして…

「!」

 すばやく右腿のバースエーダーを抜いた。振り向いて後ろに照準、木の上から飛びかかる影に発砲した。

 轟音ともいえる発砲音がして、ソレは地面に落ちた。

 銃口から硝煙が立ち上る。カノンという、六連型・リボルバータイプのバースエイダーである。

 

「何? その生物」

「なんだろう。初めてみる動物だ。」

 旅人の目の前に、ピクリとも動かない死体が転がった。大口径の弾を頭部に喰らったため、首から上は吹き飛んで無くなっていた。

 暗緑の肌、児童ほどの体型、少ない体毛。

 旅人が言った。

「新種の猿かな?」

 モトラドが返した。

「それにしては体毛がないね。腰巻きっぽい布を巻いてる。トンカチも持ってるみたいだし、道具を使えるって事は結構知能は高いのかも。」

「あと、群れて行動するみたいだ」

 道の奥からこちらに走ってくる緑の猿。カノンを照準したが、旅人は反対側からも走ってくる気配を察知した。挟み撃ちする魂胆なのだろう。

 旅人は腰の後ろからもう一丁バースエイダーをドロウし、反対側の猿に向けた。同時に発砲。二匹の緑の猿は、胸部に一発ずつ鉛玉を喰らい、痙攣した後動かなくなった。

「お見事」

「どうも。さて…」

 今回はあまり死体を損傷させずに仕留めることが出来たが(カノンで仕留めた方は見るに堪えない)、やはり頭部をみてもわからなかった。

「結局なんだったんだろう。害獣かな」

「さあね。食べてみれば?」

「あまり食欲わく見た目じゃないよ」

 旅人は改めてモトラドに跨がった。ゴーグルをつける。

「行こうか」

「そうだね」

 モトラドが言い、旅人が返した。

 旅人がアクセルを軽くあおるとエンジンは快調に吹け上がる。

 モトラドが走り出した。三つの緑の猿の死体はやがて見えなくなった。

 

 


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