ゴブリンのいる国   作:明石雪路

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街の中

森の中を走ることしばし。

 

 旅人を乗せたモトラドは、森を抜けて草原にでた。

 

 青々とした草原に、一本道がずっと続いている。遠くの方に牛が数十頭、群れの近くに母屋と、平屋の一軒家が見えた。牧場と、牧場主の家だろう。

 

 運転手が言った。

 

「入国審査とかはなかったけど…。もう国の中に入ったのかな」

「かもね。もしかしたら不法入国で殺されちゃうかも」

「それは困るな。必死に逃げなくちゃ」

「それか、城壁で囲めないくらい広い国なのかも」

「それも困るな。三日で回れるかな。」

 

 モトラドがずっと走り、やがて牧場が近くに見えてきた。

 

「ちょうど良かった。ここで話を聞いてみよう。」

「燃料も心許なくなってきたしね。フレームとかハンドルはまだ大丈夫だよ」

 

 

 母屋が近くなると、エンジンを切って惰性で進む。旅人を乗せたモトラドはちょうどドアの前で止まった。

 周囲を見ると、木の柵と石垣が建物と道の一部を囲ってある。毎日点検されているのか、ほつれや穴は見当たらない。

 旅人はモトラドから降り、声を上げた。

 

「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか。」

 

 待つことしばし。足音がドア越しに近づいてきて、

 

「ごめんなさい、お待たせしました~」

 

 扉が開く。牛乳を煮たような甘い香りがふわりと旅人の鼻孔をくすぐった。

 出てきたのは、一人の女性だった。年は20歳ほど。赤い短髪と豊満な胸が特徴的だった。

 

「こんにちは。旅の者です。こちらは相棒のモトラド」

「どうもね」

「モトラド?」

 

 初めて聞く言葉を反芻する牛飼娘。

 

「燃料をいれて走る二輪車です」

「お姉さん、もしかして聞いたことない?」

「うーん…。ごめんね」

 

 牛飼娘は困ったように言った。

 

「いえ、大丈夫です。あの、二つ尋ねたいことがありまして」

「どうかしたの? 」

「ここは国ですか? それとも国ではなく独立しているんですか?」

「ここはもう国だよ。辺境だから中央の都市には遠いけどね」

「なるほど。ではもう一つ。近くに大きな町はありませんか?」

「この道ずっと行ったらあるよ。私も配達があるから、一緒に行こうか?」

「ではお願いします」

 

 

 その後、荷車に商品を積んだ牛飼娘とモトラドを牽引する旅人は、並んで町に向かって歩いて行った。

 

 

 

「凄い、12の時から旅してるの?」

「冒険者という職業があるんですね」

「幼なじみが変わっててね」

「しゃべれるのは、おしゃべりだからだよ」

 

 二人と一台が話しながら歩くこと半刻して、町に着いた。

 

 

 

「これは、凄いな」

「見たことない人種の人ばかりだね。いや、人じゃないのかな?」

 

 旅人が街に入って最初の光景は、文字通り十人十色といえた。

 街行く人のほとんどは只人なのだが、耳の長い人間や、猫耳が頭頂部に生えた人間?もいる。

 上半身は人だが、馬の下半身が生えている少女が買い物袋を片手に雑貨屋の店主と話し、二足歩行の大蜥蜴が目玉をぎょろりと回しながら歩いている。何より驚いたのは、そう言った亜人と呼ぶべき生物が当たり前の様に日常を過ごしていることだった。

 

「今日は、お祭りとか、そういうハレの日なんですか?」

「ああ、祭事の仮装とか、そういうものかと考えたんだね」

「いや、今日は特に何もなかったと思うよ。」

「違ったね」

「じゃあ、みんなそういう身体的特徴なのか、そういう人種なのか。どちらにしても、凄い」

「私も初めてエルフの人とか、ドワーフさんを見たときはそんなだったな。付き合ってくると慣れるよ。緊張は、するけどね。旅人さんはこれからどうするの?」

「買い物と、宿を探しながら街を見て回ろうと思います。」

「そうなんだ。宿だったら冒険者ギルドにあるから、見つからなかったら行くと良いよ」

「お姉さんは?」

「ギルドに配達かな。その後は決めてないけど」

「では、ここでお別れですね」

「名残惜しいけど仕方ないね。」

「うん、それじゃあ」

 

 旅人達と牛飼娘は別れ、お互いに見えなくなった。

 

 町は、これまでの進んだ文明の国と比べて随分と古めかしいデザインだった。

 

 石畳に植物油のランプ。建築物はほとんどレンガと木材。インフラに電気は通っていないようで、水も水道では無く井戸から汲んでいた。

 

 時折馬車が走り去る。荷台には、野菜やミルク缶等の食べ物や、剣や盾、鎧などで武装している人々が乗っていた。時折虚ろな目をしたローブの人々が通ることもあった。

 

「こういうのは失礼かもしれないけど、あまり文明は進んでいないのかな」

「暖房とか、テレビも無いのかな」

「それくらいなら平気だよ」

「シャワーもないかもね。」

「それも別にいいさ。……まあ、ある方が嬉しいけどね、すごく」 

 

 

 

 

 

「困ったね」

「ああ、困った。どうしようか」 

 

 旅人とモトラドは、ちょっとした広場のベンチで頭を抱えていた。

 つい先刻のことである。

 積んでいた調味料や換金性の高いものを売って当座の資金を手に入れた旅人は、モトラドの燃料を探して錬金術師の元を訪れた。

 

 しかし、錬金術師曰く。

 ペトロレウムは量を集めることが難しい貴重な物である。

 それを数リットルとなると、金も材料も時間もとてつもなくかかる。

 そもそも、流浪の身である旅人に貴重な研究材料をおいそれと売るわけに行かない。

 信用出来る証拠と金を持って出直してこい。

 

 とのことだった。

「手持ちの物を換金しても足りないね」

「ああ、それに信用できるものときた。どうやって準備しよう」 

 

 そう言って旅人は氷菓子をなめた。

 

「何食べてるのさ」

「さっき買った、あいすくりんっていうらしい。甘くて冷たくて美味しい」

「はあ、さいで。無駄遣いしても知らないよ」

「どうせ燃料代には足りないし、このくらいなら平気だよ。……そういえば冒険者って職業があるんだっけ」

「なるの? 冒険者に。この町に腰を落ち着けちゃう?」

「燃料分稼ぐまでだよ。たまには長居するのもいい」

 

 

 

 旅人はベンチから立ち上がり、半分残った皿代わりの焼き菓子と、少し残ったあいすくりんを口に放り込むと、モトラドを牽引して歩きだした。

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