ゴブリンのいる国   作:明石雪路

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酒場にて

 二人は酒場の適当な席に掛けた。旅人が鴨肉のソテーと麦パン、野菜のスープを注文した。

「じゃあ、話そうと思うんですけど……」

女神官はおずおずといった様子で尋ねた。

「この、その……これはなんですか? 」

そういって指さしたのは、テーブルの傍らに置かれたモトラドだった。

「こいつはボクの相棒のモトラドです。乗って旅をしています」

モトラドがどうもね、と言い、女神官は驚いた。

「中に誰かいるのですか? それとも使い魔か何か……?」

「中に誰もいませんよ。普通のモトラドです。燃料を入れて、中で燃やして走る二輪車です。」

 「そうそう、中には、エンジンと燃料くらいしか無いよ」

「二輪車……。自転車みたいなものでしょうか」

そういえば、女商人が言っていた気がする。貴族の間で、坂道を降りるのがブームになっているのだとか。それの発展した物かなと勝手に推測する。

 

 「そんなことより、怪物について教えてくれない? 見たこと無いんだ。」

モトラドが言った。

「見たことがないんですか……」

先ほども言っていたが、このご時世どころかこの世界で怪物について知らない、聞いたことがないというのは、極めて珍しいことである。どんな子供も子守歌や本、あるいは実際に目にすることで怪物の怖さ、あるいは畏敬を知る物である。よっぽどの箱入りか、本当に魔物が存在しない地域から来たのか。

そこまで考えて女神官はブンブンと頭を振った。だから何だと言うのだ。困っているなら、助ければ良い。知らないのなら教えれば良いのだ。

「そ、そうですね」

コホンとかわいらしい咳払いをすると、女神官は口を開いた。

「怪物とは、私たちを敵意を持って襲う生き物の事です。種類は文字通り五万といて、毎日私たちに被害を及ぼしています。冒険者の所にくる依頼のほとんどは怪物の被害への対処です。」

「普段からくるんですか。大変ですね。」

「死んじゃうかもしれないのに、怖くない?」

「いえ、これが仕事ですから」

「それじゃあ冒険者って、怪物を駆除する人って事?」

「それは少し違います。もちろん怪物や、祈らぬ者の退治を依頼される事もありますが、迷宮の探索や郵便も含まれます。まあ、冒険者を目指す人は武勇を立てたり、迷宮や神秘、伝説を探すと言うか、その……」

「冒険をしたいって事だね!」

モトラドが女神官の言葉を予測して言った。

「そうですね。皆さんそう言った夢を持って冒険者になることが多いです。」

「なるほど」

「じゃあ、旅人もある意味冒険者なのかもね」

「たしかに、いろんな国を見て回る事は楽しい……。うん、そうかもね」

「はーい、ご注文の品お持ちしました! 」

そこで、獣人女給がやってきて料理を載せたトレイをテーブルの上に置いた。

「旅人さん? さっきはありがとね! 腸詰めオマケしたから!」

みればソテーの横には三本の腸詰めが添えてあった。

「ありがとうございます。いただきます。これは何の肉ですか?」

「豚肉と牛肉! 近くの牧場のね。そだ、貴女にもお礼ね」

そう言って獣人女給は焼きリンゴを置いた。

「でも、私は何も…」

「良いから良いから。それに、練習してて焦がしちゃったんだよね」

タハハと笑う獣人女給に苦笑を返す女神官。

しかし一口食べるとバターの塩気とリンゴの甘みが合っていて美味しかった。

旅人と女神官はそれぞれ並べられた料理を食べ、旅人は追加で焼きリンゴを注文した。

食後の紅茶を飲みながら女神官は、

「旅人さんは、さっきお金が必要と言ってましたが、何故ですか?」

「じつはモトラドを動かすのには燃料が必要なんです。でもこの国では貴重らしくて。」

「燃料…。ペトロレウムですか? 」

「錬金術師の方はそう言っていました」

「なるほど……。」

これで合点がいった。旅人は、旅に出発するのにお金が必要なのだ。

先の掲示板で難易度のそこそこ高い依頼を受けようとしていたのも理解できた。

新人向けの鼠退治の収入では、冒険への経費を除けばその日を乗り切る程度しか手に入らない。

「でも、報酬の多い依頼は白磁級では受けられない……。」

「それで、どうしようか悩んでまして」

「やっぱり、ゴブリンってヤツの依頼を受けるしかないんじゃ無い? 受けられる依頼の中で一番報酬高かったし。」

モトラドが言った。そうかもねと旅人が返す。

「ゴブリンか?」

と。そこで後ろから声を掛けられた。

旅人が振り返ると、彼が立っていた。

安っぽい鉄兜。薄汚れた革鎧と、その下に着込んだ鎖帷子。中途半端な長さの長剣を腰に帯び、左手には括られた丸い小振りの円盾。

胸元に下がった認識票は銀。

女神官が嬉しそうに声を上げた。

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「なんだ。」

ゴブリンスレイヤーと呼ばれた男は、無愛想に返事をした。

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