「ゴブリンスレイヤー、さん?」
「そう呼ばれている。」
旅人が聞き、ゴブリンスレイヤーが答えた。
「どうかしたか」
「いえ、前に知り合った人と声が似ていたので」
「そうか」
「かみきり丸よ、つっ立っとらんで席に着け」
後ろから声を掛け、ため息をつきながら肩をトントンと叩くのは、長い白髭が特徴的な鉱人道士だ。
「あの商人、中々手強くて参ったわい。絶妙な条件ばかりだしおって」
「いい話ばかり振る口が達者なだけの物売りよりはマシですな。対等に損得のやりとりが出来てこそ一流と言うもの。」
満足げにうなずくのは蜥蜴僧侶である。目玉をギョロリと動かし、旅人と目が合った。
「おや、見慣れないお方がいらっしゃる。神官殿のお知り合いですかな?」
「初めまして。ボクは通りすがりの旅人です。こっちは相棒のモトラド。乗って旅をしています。」
「よろしくー」
「旅人は珍しくねえが……一人旅するにしちゃ若いのう。それになんじゃこの鉄の塊は。乗り物か? どういう仕組みで喋るんだ?」
「それにしては車輪が二つだけ。倒れてしまいそうなものだが。使い魔の類いやもしれぬ」
「それは、どちらかに倒れそうになったとき、タイヤを傾けると反対側に……」
鉱人道士と蜥蜴僧侶はためすすがめつモトラドを観察しながら口々に言い、モトラドがそれに答える。
「それで」
円卓を囲む椅子の一つに座ったゴブリンスレイヤーが、不躾に言った。
「ゴブリンと言っていたが。」
「ボクはゴブリン退治の依頼を受けようと思うんですけど、ゴブリンについて知らないんです。よろしければどのような生物か教えてもらっても良いですか?」
「ゴブリンはゴブリンだ。」
さも当然の様に言う。
旅人は困惑した様子を見せ、女神官は苦笑いを浮かべた。
「実は、旅人さんは怪物を見たことが無いらしくて」
「……ふむ」
今度はゴブリンスレイヤーが困る番らしい。
鉄兜の顎に手をやり、考える仕草をとった。
話せることが多すぎて、何から言えば良いのか迷っているのだろう。
「子供ほどの体躯と知性、大きな耳、緑色の肌……だ。」
全部上げたらキリがないから、だいぶ厳選したんだなあ。女神官は外見のみで説明したゴブリンスレイヤーに少し感動していた。
「もしかして、何か道具とか使いますか?」
「使う。上位個体も存在する」
「それじゃあ、森で会ったあの緑の猿もゴブリンだったのかもね」
二人に質問攻めに遭っていたモトラドが、割り込んで言った。
「ゴブリンにあったのか。」
「はい。ボク達はいつの間にか森にいて、そのときに三匹ほど襲いかかってきました。」
「全部撃ち殺しちゃったけどね」
「場所は」
「ここから、牧場の方に行って更にずっと先です。」
ガタリと立ち上がると、受付の方にズカズカと歩いて行った。
旅人は、女神官に尋ねた。
「ボクは何か怒らせるような事をいってしまったのでしょうか」
「そんなことは無いですよ。ただ……」
「気にすんない、旅の。アイツは小鬼を殺さずにいられぬのだ。」
「彼は小鬼を殺す者でありますからな」
鉱人道士と蜥蜴僧侶は話が終わったのか、旅人達の話に合流して言った。
その質問に答えが出る前にゴブリンスレイヤーが戻ってきた。
「ゴブリンだ。やはり商人を森で襲うゴブリンが出ているらしい。俺は行く。」
それだけ言うゴブリンスレイヤーに、女神官は小さく笑みをこぼした。
本当に口下手ですね。
女神官は神官帽を被ると、「私も行きます」
「ま、いつものことだかんの」鉱人道士は触媒の入った鞄を確かめてから立ち上がった。
「鱗のはどうする」
「徳を積めるのであれば、否応も無し、と」
「すまん。助かる」
ゴブリンスレイヤーは小さく頭を下げた。
あの、と旅人が言った。
「ボクも同行して良いですか? これからしばらく狩ることになりそうなので、知っておきたいです」
「安全を保証は出来んが」
「大丈夫です」
「獲物は」
「ハンド・パースエイダーが二丁と、自動連射式ライフル・パースエイダーが一丁です」
「パースエイダー」
「火薬で鉛の弾を撃つ道具です」
「短筒か」
「そう呼んでいる国もありました」
「そうか」
ゴブリンスレイヤーは蜥蜴僧侶を見遣った。
「どうだ」
「落ち着いた物腰は、経験によるものでしょうな。この若さで一人旅は、生半可な腕では出来ぬもの。術士殿は如何か」
「鱗のに全部言われちまったわい。まあ、どんだけ考えるよりかは実際に見た方が早いがの。すわ短筒に関しちゃ訓練が必要だし、それで旅が出きんなら足を引っ張るってこともなかろ」
「決まりだな」ゴブリンスレイヤーは旅人に向き直り、
「問題ない」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
旅人は丁寧に礼をした。
「耳長も嫌とは言わんだろ。てーか、耳長の姿が見えんが。」
「多分、まだ寝ているかと」
「ったくあの金床は……」
噂をすれば。
ギルドの二階から欠伸をしながら降りてくる森人の姿があった。手すりに腰掛けると、滑り台よろしく滑り降りてくる。常人が行えばしまりの悪いそれも、上森人がやれば典雅な仕草に見えるものだ。
ゴブリンスレイヤー一党の
妖精弓手はこちらを見つけると、
「今日ってお休みじゃなかったっけ。何か行くの?」
「ゴブリンだ。」
「……」
ゴブリンスレイヤーの
幾ばくかの葛藤を乗り越え、
「場所は?」
「ここから牧場を通り過ぎてもっと行った先の森だ。」
「……冒険一回ね! 弓持ってくる!」
階段を一段飛ばしで上り、部屋に戻っていった。