ゴブリンのいる国   作:明石雪路

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新たな依頼を受けるお話

「石の町を知っているか。」

ゴブリンスレイヤーと剣士は応接室にて、向き合って座っていた。

この応接室は、過去に使ったことがある。

今の一党と初めて会ったとき。剣の乙女が直接依頼に来たとき。

装飾品も、何も変わっていない。飾られた怪物どもの角や牙も、良く磨かれた黒檀の机も。

「知らん」

長椅子に腰掛けたゴブリンスレイヤーは、先の質問をバッサリと切り捨てた。

石の街。頭の中で反芻しても、何も思いつかない。石。鉱人道士なら何か知っているだろうか。

 長椅子に座って剣を立てかけた剣士は、特に気分を害した様子も無く、続けた。

「建物が全て石造りの街だ。この街から北東に二日ほど行った先にある。」

「ふむ」

「その街が、滅びた」

「……そうか」

 良くあることだ。昨今では怪物を率いた黒き王も、無限に命を喰らう吸血鬼も、欠片も残さず破壊をばらまく暗黒の戦士もいる。

良くあることではあるが……だが慣れると言うことでは無い。

「報告をしたのはその街の冒険を終えて帰ってきた冒険者だ。彼らが言うには、その街は少し靄がかっていて、人々が血を吐いて倒れていたらしい。遠眼鏡越しなので明瞭にはわからなかったようだが。」

「ゴブリンは関係あるのか」

「その死体に群がっていたのがゴブリンだと言うんだ。」

「なるほど」

「ゴブリン退治の専門家の貴方に尋ねたい。ゴブリンが街を滅ぼすことが可能か?」

「不可能だ」

ゴブリンスレイヤーは言い放った。

ゴブリンとは最弱の種族だ。如何に上位個体と言っても、所詮ゴブリン。村の一つは滅ぼせても、多くの冒険者がいる街を滅ぼすことは不可能である。

だが、しかし。

 「いや、万が一……億が一、可能かもしれん。ゴブリンが、というよりも悪魔だのがゴブリンを使役している可能性の方が高い。」

 「そうか……」

剣士は、少し顎に手を当てて思案にふけった。

 そして

 「今回依頼したいのは、石の街の現在の実態の調査だ。石の街が滅んだ首魁は誰なのか、確認してきて欲しい。可能であれば討伐。引き受けてくれるだろうか。」

ゴブリンならば殺す。違えば一度退く。わかりやすい。

「引き受け……」

そこまで言って口をつぐんだ。

今の自分は、一人ではない。であれば、

「仲間と相談する。少し待て」

 

 

 

 

 

「だそうだ」

「今回の依頼で一番褒めたいのは、オルクボルグが行くかどうかだけじゃなくて報酬の相談もしてくれたってことね」

冒険者ギルドの酒場、いつもの席にゴブリンスレイヤーの一党は集まっていた。旅人とモトラドも一緒だ。

「いつもは相談しないんですか?」

「小鬼殺し殿は、小鬼退治ならどんな依頼でも引き受けますからな」

「それは……凄いですね。ボクはとても出来ません」

「がめついもんね」

旅人がモトラドのエンジンタンクを叩いた。

「イテ」

「それで、どのくらいだとおっしゃっているのですか?」

女神官が尋ねると、ゴブリンスレイヤーは一枚の紙を取り出した。

「前金に金貨一袋。道具などの経費は別。調査を終えたら金貨一袋。首魁の討伐で金貨を追加だそうだ。」

「一人頭ですか?」

「そのようだ」

破格の値段である。しかし、街一つ滅ぼした祈らぬ者の討伐も含めれば妥当か。

「どうする」

「ええ~、どうしよっかな~」

ニマニマとニヤつくのは妖精弓手だ。目を細め、試すようにゴブリンスレイヤーを見る。

「へっ、耳長なんてかみきり丸が依頼の話をしに行ったなんて聞いたら、装備固めてそわそわ待つとったくらいだものな。」

「あっ、アンタそんなこと……」

「ハッハッハ、矢筒に補給して、弓の弦も張り直しておいて言い逃れは出来ませんな。拙僧も牙の手入れは十分ですぞ」

笑いながら言ったのは蜥蜴僧侶だ。本人としては微笑んだつもりだが、人相も相まって極めて獰猛である。

「儂も行くとするか。人の手で作られた石の街は、一度は見ておきたいしの」鉱人道士が残った酒を一気に飲み干した。

「私も行きます!」神官帽を抱えて女神官が言った。「放っておけませんから」

「すまん、助かる。後、お前達はどうする」

「行きます!」

「行っちゃえ!」

 

 

 元々お金を稼ぐために始めた冒険家業、報酬が莫大ならば断るはずも無し。

 旅人は即答し、モトラドも合わせた。

 

「では、決まりだな」

 

 かくして六人と一台の一党は、石の街へ向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 風が吹き、緑葉の水面がザワリと揺れる。

 草原を、二台の自動車が走っていた。一台は四輪駆動のトラック、旅の商人がよく使うタイプで、荒れた道ならある程度は踏破することが出来る物だ。その代わりに燃費が良くないので、荷台には大きなタンクが取り付けられていた。

 その前方を走るもう一台は、装甲車だった。グレーの角ばったボディの上に口径7,62㎜のガトリング銃が据え付けられている。

 

 「なぁ。しばらく獲物が見つからねえけど、どうする?」

 

トラックを運転するバンダナを巻いた20代頃の男が言った。野戦服の様な格好をしていて、腰のホルスターにはハンド・パースエイダーが、ポーチには予備の弾倉が納めてある。背後の仮眠スペースには、自動連射型パースエイダーがヒモで括ってあった。

助手席に座る顎髭の、同い年くらいの男は、髭をいじりながら唸った。彼も、似たような格好をしている。

 

 

「そうだなぁ、ここ2日は旅人も商人も見かけないなぁ」

 

 

 彼らは、強盗団だった。あちこちの国と国の間に潜んでは通る旅人や商人を襲って財産を奪っているのである。だが、彼らは謎の吹雪を抜けて以来、誰も襲えていない。強盗で生計を立てる彼らにとって、それは判断が必要になる場面であった。

 すなわち、今日は一時的に作るアジトに帰るか、もう少し捜索を続けてみるか。

 奪った宝石や装飾品、調度品はあるが、食料や燃料は別だ。腹が減って戦えなくてはダメだし、燃料が切れて立ち往生などもってのほかだ。万全で無くては奪うことは出来ないのだ。

 

 

 バンダナの男はトランシーバーを掴み、スイッチを入れた。

 

「こちら二号車。今日の捜索はどうする。一度退くか。」

 

 ザザ、とノイズが走り、「こちら一号車」と、装甲車の通信手から返事が入ってきた。

 

「それなんだが、根城に戻るための目印が見当たらない。」

「何?」

 

 周囲を見回して見ると、確かにいつもと違う気がする。

 そろそろ、アジトのある森が見えても良いはずなのだが。

 

「あ、今前方に国が見えた」

 

 一号車から情報が来た。

 

「かなり小さいし城壁も高くないが、国があるぞ」

「なら、とりあえずあの国で休まないか。いつもみたいに商人だって言ってさ」

「ちょっと待て」

 

 それから少しして、

 

「それで決まりだ。あの国に入る。怪しまれそうな物は隠しておけ」

 

 

 通信終了と言ってトランシーバーは黙り込んだ。

 

「だとよ」

「久々に休めるな。シャワーでも浴びてサッパリしてえ」

「じゃあ、髭も剃ったらどうだ。なんかきたねえよ」

「これは俺のチャームポイントよ。」

 

 そう言って二人は笑った。

 

 

 無駄話をしている内に、国はどんどん近づいてきた。

 

「なんか国っぽくねえな」

「たしかに、少し小さい気がする」

 

 だが、装甲車は特に止まることも無く進んでいく。

 幌つきトラックも、その後ろについて行った。

 そして、速度を落としたまま国に入っていく。

 普通なら入国審査があるはずなのだが、その国は来る物拒まずと言わんばかりに道が空いていた。

 門すらない 

 町並みを見て、バンダナの男が言った。

 

 

「すげえ、全部石造りだぜ」

「しかも継ぎ目が見えない。どんな作り方なんだろうな」

 

 

 髭の男が鼻を啜って言った。

 

 

「きたねえな」

「悪い、鼻水が……あ?」

 

 髭の男が、鼻を擦った指を見ると、真っ赤に塗れていた。

 それだけでは無い。口元に感覚がして手の甲で拭ってみると、それも赤くなった。

 

「なあ、血が止まらねえ。何だこれ」

 

 

 髭の男が運転手の方を見ると、彼の血の涙を流す見開いた目と視線が合った。

 口からよだれと血の混ざった液体をだらしなくこぼしながら、ピクリとも動かない。 

 

「お前っ……!」

 

 反射的にハンドブレーキを入れたが、トラックは直ぐには止まらない。前方で停止している装甲車にぶつからぬようハンドルを適当に切り、右に曲がって石づくりの民家にぶつかった。

 衝撃を感知したエアクッションが飛び出し、バンダナの男と髭の男が怪我をしないように受け止める。

 

 バンダナの男と髭の男は死んだ。目や口から流れる血は、アイボリーのエアクッションをピンクに染めた。

 幌付きトラックの前で停止した装甲車、ドアの隙間からは、赤い液体がポタポタとこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 前に感想に返事書かないって言ったと思うんですけど、やっぱり返そうと思います。
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