横断歩道に、横たわっている血塗れの少女が居た。
その少女は、きっと私だ。
ボサボサのひとつ結びの黒髪、今はもう閉じている細く黒い瞳、今は潰れている足、骨が折れたことにより関節がデタラメに出来た腕、そして、服装と私自身の記憶。
以上の事から、その血塗れの少女は私、長門
ボサボサのひとつ結びの黒髪と黒い瞳は私が日本人である以上、何もおかしなことはないのだけど。潰れた足と骨が折れた腕も車に轢かれたのだからおかしくなんてない。
でも、だけど、それなら、どうして――――
私に、あまりにも現実的な轢かれたときの記憶があるのだろう。私は、あの血塗れの少女と姿が双子なのかと思うくらいに似ているのだろう。さっき血塗れの少女を見ようとする野次馬の1人とぶつかったとき、何故、その野次馬が私の体をすり抜けたのだろう。
もしかしたら、私は幽霊と言うものになったのだろう。非科学的だけどそうでもなければ、動けて人とぶつかったときすり抜ける私と、交通事故にあった野次馬達から認識されて少しも動かない私が、同時に存在している訳がないのだから。
そんな風に現実を、さっきまで激痛に喘いでいたのにも関わらず、冷静に分析する。
そうして、幽霊になってしまったのだから、何か特別なこととか、家族やクラスメートに聞こえるからからないけどお別れの言葉でも言いに行こうかとか、何とか成仏する方法を探そうとか。
考えていたら、瞬間。
私の視界は眩いほどの光に包まれる。何やら、体が引っ張られるような感覚がした。何やら、幽霊なら当然なのかもしれないけど、遠い遠い世界に行ってしまうような気がして、自分の存在やこの世界が手の届かない物になりそうで、とても怖くなる。
成仏出来るのだろうか。それだったら嬉しいような、あるいはお別れの言葉を皆に言えなかったから悲しいような、複雑な気分がして。
何故だかわからないけど、目を閉じてしまう。まるで、そうすることが当たり前のように。そしてこれまた自然に目を開けると――
お花畑だとか綺麗な泉だとか、裸ではなく白いワンピースを着ている天使が居る景色が目に入る。
······ああ、ここが天国なのか。
“貴女が長門千歳さんですね? おめでとうございます。”
何か声が聞こえる。おめでとうございますって……死んだらおめでとうなのか。あるいは天国に来れて良かったねの意味なのか。こっちはすごい痛かったんだから、もう少し空気を読んでほしい。
“失礼しました。長門さんは抽選に当たったのです。それに対してのおめでとうと言う意味です。”
“抽選と言うのは、約10万分の1の確率で当たることのある、死んでしまった方の救済を込めたものです。”
“通常、天国である程度の人助けをしないと生まれ変わることは出来ません。”
“ですが、抽選に当たった場合、人助けをせずに生まれ変われるのです。”
“それと、貴女が生前好んでいそうな、アニメなど創作物の世界に行けますよ。”
世界によっては、それって死ぬまで楽しくほのぼのと過ごせるか、20代にもならずに戦争に巻き込まれて死亡とか、かなり限られて来るじゃん。
“名前、性別、人種は運命のままに。特別な能力なども授けません。”
“ただ、前世の記憶は持ったままで居れます。”
“ご了承、していただけましたか?”
特別な能力とかが無いって言うのは心配だけど、前世の記憶、その原作の情報があればある程度死亡フラグ回避出来るよね。それなら、まあ、面白そうかもしれない。
“覚悟を決めていただけたようですね。”
“では、さようなら。”
“次は若くして死なないよう、気をつけて。”
その声が聞こえて、私はまた当然のように目を閉じて、少し時間が経ったら開ける。
見えた景色は、さっきまでのお花畑と泉ではなく、白い天井と白いベッド白い壁に…………と、とにかく白がゲシュタルト崩壊しそうなものだった。
喉が痛む。
オギャーオギャー、と泣き声が聞こえて、それが自分の声だと自覚する。
私は、赤ん坊に、赤ちゃんになったのか。
「元気な女の子ですねー。お名前は決まりましたか?」
「千歳
「千歳ちゃんですかー。可愛いお名前ですね」
看護婦さんらしき人と、お父さんかお爺ちゃんの会話だ。
そうか。私の名前は前世と同じ、長門千歳になるのか。
前世と同じ名前と言うことで、今の人生での不安感が少し和らいだような気がした。
そして、看護婦さんが私をベッドに寝かせる。今からどのくらい入院するのだろう。入院している間に、せめてここがどこの世界なのか知りたいものだ。
最低、物心つく頃、5歳のときくらいまででもいいけど。
全くあの女神様? いや、神様か天使? は不親切だ。何が次は若くして死なないよう気をつけてだ。ここが何のアニメの世界かわからないと、死亡フラグだらけの世界かもしれないと言う気持ちが邪魔して、呑気に過ごせないってば。
それに、車に轢かれた生々しい記憶なんて消してくれれば良かったのに。あれを思い出しただけで吐きそうになる。胃に何も入っていないから、どうせ吐こうとしても胃液しか出ないのだろうけども。
まあ、無事生まれ変われただけでも感謝しないといけない。あの女神様らしき人? の話によると、抽選に当選せずに生まれ変わるにはある程度の労働……人助けが必要らしいし。
取り敢えず、この世界で生きるにおいて必要な第1の目標。まずはこの世界が何の世界かわかるようにする、うん、本当に5歳とかちびっこの時期にはわからないといけない。知らない間に死亡フラグだらけで、また天国に。なんて、洒落にならないし。
転生することになった原因と生まれ変わるまでを書いてみました。
まだ主人公の長門さんはこの世界が何のアニメの世界かわかっていない状態です。