機動戦士ガンダムSEED Re:DESTINY   作:野澤瀬名

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エクリプス!

ZOEのビックバイパーみたいな変形するねあの子


PHASE.05 終わる世界(後編)

 真空の宇宙空間を幾つもの光条が交錯し、時折瞬く爆発がユニウスセブンを照らし出す。

 “ボルテール”から出撃したディアッカ率いる工作隊は、じりじりと後退しながら、“メテオブレイカー”の設置を試みていた。ディアッカはランチャーの砲身を構え、迫る敵機に向けて引き金を引こうとする。が、敵機はこちらの射撃タイミングを読み計っているかのように、残骸へと身を隠して射線から逃れる。

 

「くそっ、またかよ!」

 

 砲撃戦主体の装備であるガナーウィザードは、高火力、長射程のビーム砲を有するも、長大な砲身のせいで照準を付けるのに時間をとられる。敵機はその弱点を熟知しているようで、狙われると直ちにデブリに身を隠してしまうのだ。構わずデブリごと撃ち抜くも、敵機には当たっていないようで、まき散らされる残骸と共に機影をロストしてしまった。

 

(こうまで俺の射撃がかわされるって、どういう奴らだよ、一体!?)

 

 ディアッカが苦戦する中、“メテオブレイカー”を守る“ゲイツR”に“ダガー”が迫る。あわやというところで、緑色のビームの驟雨が横合いから“ダガー”に襲い掛かり、全身をズタズタに引き裂かれた機体はユニウスセブンに墜落していった。スピーカーからイザークの声が響き渡る。

 

『工作隊は破砕作業を進めろ! シホ、お前の隊はディアッカたちの援護に回れ!』

『了解!』

 

 翡翠色にカラーリングされたシホの“シグーⅡ”と青で彩られたイザークの“シグーⅡ”の機影が見え、ディアッカは安堵の息を漏らす。

 

『無事か、ディアッカ?』

「イザーク、こいつら手練れだ! そこらのテロリストどもと訳が違う!」

 

 僚機を失った敵モビルスーツ隊は、激情に駆られるかのように、さらに苛烈な攻撃を仕掛けてくる。イザークは部下たちを叱咤激励し、“メテオブレイカー”を守るべく前面に出た。

 

『“ミネルバ”からも援軍が来る。各員“メテオブレイカー”を守るぞ!』

 

 

 

 アスランがユニウスセブンの破砕作業の協力を申し出て、パイロットアラートに向かってすぐだった。艦内にアラートが鳴り響き、クルーたちの動きが慌ただしくなった。

 最初は破砕作業に伴う状況変化かとおもったが、どうやらそういうわけではないらしい。情報を求めた彼女は、艦橋へと訪れた。

 

「“ジン”と“ダガー”だと? 他に機影は!?」

「オレンジ九十五マーク三十八ブラボーにローラシア級と思われる艦影、二! デブリの影です!」

「えっ……!?」

 

 飛び交う単語の意味、すなわち戦闘中であることを察した彼女は、思わず声を挙げ、それに気づいた議長がこちらに振り向いた。

 だが、何故? 単なる破砕作業だけのはずが、戦闘に、しかも友軍であるはずのローラシア級と砲火を交えることになるとはどういうことなのか。

 

「……デュランダル議長! これは一体……」

 

 狼狽えながらも、状況を知るべく、カガリは議長に問いを口にする。デュランダル議長も、困惑の表情を見せながら、カガリに返す。

 

「詳細は私にもまだわかりませんが……。現在、ユニウスセブン周辺に所属不明機の集団が展開し、破砕作業を行う我が軍と交戦状態にあるようです、代表」

「そんな……!?」

 

 すなわち何者かによる破砕作業の妨害。これが意味することを理解したカガリの背筋に酷く冷たい戦慄が走り抜ける。

 これは事故なんかじゃない。誰かが意図的に仕組んだ災厄だ。

 誰もが予期しなかった、いや考えたくない最悪の事態へと状況は加速していくのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「ふん、ヒヨッコにしては動きが良いな」

 

 サトーとその部下たちは、“メテオブレイカー”を守る工作隊に、手に持つライフルやマシンガンを撃ち掛けながら吶喊していく。彼らの有していた機体は“シグーⅡ”や“ゲイツR”と比べれば旧式の機体で尚且つ整備状態も決して良くはない。最も状態の良い“ジンハイマニューバ二型”ですら、スペックは劣っているのだが、ヤキン・ドゥーエ戦役を生き残った彼らは自らの腕と戦術で、その不利を覆す。二機で追随する“ゲイツR”の射線を躱しながら、デブリの密集したエリアをフルスロットルで駆け抜ける。追いすがろうとした内の一機は、その軌道を追い切れず、高架の残骸に衝突して、デブリの仲間入りを果たした。もう一機は、デブリを抜けたものの、大破した僚機に気を取られ、ほんの僅かに足を止めてしまう。

 

「遅い!」

 

 日本刀を模した実体剣の鋭い一撃に、“ゲイツR”は僅かに遅れて防御姿勢をとった。だが、サトーは機体を切り返し回し蹴りでそのガードを崩すと、袈裟に斬り捨てて、次の護衛機に向けてスラスターを吹かせた。

 

「だが、我らの思い、やらせはせんわ! 今更ッ!」

 

 “ダガー”に乗った部下の一人が対艦ライフルを“メテオブレイカー”に向けて放とうとする。が、その機体は青い“シグーⅡ”のビームガトリングガンの掃射を受け、全身に無数の穴が穿たれた。煙を吐きながら“ダガー”は地表に叩きつけられ、次の瞬間凍った大地を爆炎が照らし出した。味方の数は残り十五機。

 

「あと、二百四十分……。ここまで来て引けるものか、貴様らごときに!」

 

 大切な者たちを喪った悲哀と憤怒が彼らを駆り立てる。帰るべき所を無くした彼らにとって、今や唯一守るべきものは、地球に向けて落ちていく凍りついた墳墓だけだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 シンたちは、編隊を組んでユニウスセブンへの進路を駆け抜ける。破壊された艦艇たちのデブリ群を抜け、ようやく望遠で戦闘の様子を捉えた。ジュール隊の“ゲイツR”に襲いかかるモビルスーツの姿を見たシンの頭にカッと血がのぼる。

 

「アイツら……!」

 

 スロットルを最大に開けて襲いかかろうとしたその時、聞き慣れない声がシンの血気に逸る気持ちを諌めた。アスラン・ザラの声だ。

 

『目的は戦闘じゃないぞ。今やるべきはジュール隊の作業支援だ!』

「だけど! アイツらをやらなきゃ作業も何もないでしょう!?」

 

 熱くなった頭のまま、アスランに反論の声をあげるも、彼は表情を変えることなく冷静な声で返答する。

 

『だからこそだ。ルナマリア、君は敵の母艦を叩くんだ。レイはその援護を』

『りょ、了解!』

『了解しました』

 

 アスランの的確な指示に、ルナマリアとレイの二人は従い、進路を変更する。その様子にシンは内心面白くないと反感を覚える。後方に下がっていた、それも一時期軍から脱走してた奴が命令を出すなんて。

 

『俺とシンは作業部隊から敵モビルスーツを切り離す。シン、着いてこれるな?』

「ッ! 言われなくても!」

 

 思わず叫び返し、シンは前を行くアスランの“シグーII”の背中を追いかける。

 今に見てろ! その見下したようなアンタの鼻を明かしてやる! 

 

 

 

『隊長! ミネルバ隊です!』

 

 味方の来援の報告にイザークは一縷の希望を見出すも、ディスプレイに表示された残り時間を見て舌打ちをする。想定以上に作業が遅延している。

 

「くそ、破砕作業を急がせろ! これでは割れても間に合わんぞ!」

『こちらシエラ・アンタレス・ファイブ! “メテオブレイカー”五号機設置完了! これより退避行動に移る!』

 

 掘削機の敷設に成功した味方機が機材から離れ、巨大なドリルが氷結した大地に打ち込まれる。やがて地中深くから振動が響き渡り、ユニウスセブンの地表に大きな亀裂が走る。

 

『やったか?』

 

 しかし、振動は小さくなり、亀裂もそこで止まってしまう。イザークの額に汗が浮かぶ。やはり一発二発程度の“メテオブレイカー”では、巨大なプラントの残骸を砕くことは叶わないようだ。作業部隊も他の掘削機の起動を急ごうとするも、全身に爆装を施した“ダガー”や“ジン”たちがそれを阻止しようと襲いかかる。

 それをシホやディアッカの“シグーII”、来援したミネルバ隊の機体たちが体を張ってその進路を塞ぐ。

 やがて二基、三基と“メテオブレイカー”が起動し、高性能爆薬を載せた杭が地中に打ち込まれていく。一際大きい振動が響き渡ったと思うと、次の瞬間、凍った大地にバックリと大きな亀裂が走った。見る間にその傷口は大きく広がり、ユニウスセブンの残骸が二つに分かたれた。

 

『やった!』

『グゥレイト! やったぜ!』

 

 二つに割れた残骸は爆破の衝撃で僅かに離れながら漂っていく。その様子を見守っていたイザークもほっと一息つく。どうあれこれで地上にそのまま落着するという最悪のシナリオは回避された。

 

『だがまだだ』

 

 聞き覚えのある声がイザークたちの回線に割り込んだのはその時だった。半分に割れたユニウスセブンに、一機の“シグーⅡ”が降下していく。

 

『もっと細かく砕かないと……!』

 

 “シグー”に乗る彼の言うことはもっともだ。半分に割れたとはいえ、地球の主要都市をまるごと更地にするだけの質量を未だに有している。しかしそれ以上に、イザークとしてはその中にいる彼に気をとられたのである。

 

「アスラン? 貴様っ、こんなところで何を!」

 

 士官学校時代からのライバルであり、戦友である男が何故こんなところにいる。勿論、大戦終結後にザフトに戻ったことは知っていたが、それにしても前線に復帰したなんて聞いていない。と、そんな狼狽を断ち切るように、コクピットに警報が響き渡る。ほとんど反射的に回避運動をとり、飛来したミサイルを撃ち落としていく。

 

『そんなことはどうでもいい。今は作業を急がせるんだ!』

 

 通信機から、二年前と同じ冷静な、イザークにとっては頭にくる声で指図がましい口調でうながしてくる。イザークは憮然としたまま、アスラン機に並走し、“メテオブレイカー”を運搬する部下の直掩に入った。

 

「わかっているっ! 今は俺が隊長だ! 命令するな!」

『……相変わらずだな、イザーク』

「貴様もだ!」

 

 前方から、“ジン”が二機、“メテオブレイカー”を狙って強襲を仕掛けてくる。来るぞ、という一言と共に、アスランとイザークの“シグーII”が突出する。アスランがすれ違いざまに一機の“ジン”の右腕部を狙撃し、すかさずイザークがその胴体を二つに断ち斬った。もう一機が、激昂した様子でマシンガンを連射しながら吶喊してくる。アスランはデブリを使って銃弾を避けると、背部ランチャーを向け、数発のミサイルを連射する。直撃を回避しようと上昇した敵機は、待ち構えていたディアッカの射線につかまり、強力なビーム砲に機体を貫かれ爆散した。

 当たり前のような阿吽の呼吸の連携にイザークはふっと笑みをこぼす。奴は確かにいけ好かない奴ではあるが、ディアッカやシホと同じく自分の背中を預けられる数少ない人間であった。

 

 

 

「敵不明艦、一。ルナマリア機によって大破、戦線から離脱する模様!」

「敵部隊の半数以上が戦闘不能」

「“メテオブレイカー”設置率約七十パーセント。敷設完了までの予測時間修正、約五千四百セカンド!」

 

 “ミネルバ”艦橋にも次々と撃破報告と“メテオブレイカー”の敷設状況がもたらされる。その様子を見て、カガリの隣に座っているデュランダル議長は安堵の滲む声を出す。

 

「これならば、どうにかなるか……?」

「いえ、そうもいかないようです」

 

 艦長席に座るタリアが、ドライな口調で彼の楽観的な予想を否定する。

 

「どういうことなんだ、艦長」

 

 怪訝な表情で、デュランダルは聞き返す。彼女の答えは短いものだった。

 

「高度です」

 

 その一言で、カガリはハッと船外へと目をやる。ユニウスセブンに気を取られていたうちに、地球へと接近していたのだった。まだこの艦もモビルスーツたちも重力につかまってはいないだろうが、これ以上地球に近づけば、戻れなくなるだろう。だが、モビルスーツ隊はなおもユニウスセブンの破片に取りつき、“メテオブレイカー”による破砕作業を続けようとしている。

 

「我々も、助けられる命と、助けられないもの。選ばなければなりません……」

 

 カガリとデュランダルは、彼女の言葉を理解しかねて共にその顔を見やる。

 

「グラディス艦長……?」

「申し訳ありません。議長がたは“ボルテール”へ移乗いただけますでしょうか?」

「え?」

 

 彼女の表情は緊張に硬く強張ってはいたが、決心がついたような、凛とした表情だった。艦橋の他のクルーたちも、彼女の言葉に振り向き、何事かと聞き耳を立てる。

 

「本艦はこれより大気圏に突入し、限界まで艦載火器による対象の破砕を行いたいと思います」

 

 

 

 “メテオブレイカー”を狙おうとした敵機にシンは牽制射撃を加えてその進路を阻害する。機首をこちらに向けた“ジン”はライフルを向けなおすと妨害されたことに憤慨するかのように猛烈なスピードでこちらに接近してきた。ビームが一条二条と撃たれるが、シールドで防ぎながらシンも機体を至近距離へと突っ込ませる。

 

「そんな攻撃で!」

 

 ビームサーベルを抜き放ち、交錯した瞬間に敵機の左腕をシールドごと叩き切る。体勢を崩した“ジン”に蹴りを加え、続けざまにビームを撃ちこみ撃破する。あと六機と傷ついき満足に航行できない母艦が一隻。もうこれ以上敵も損害を出すわけにはいかないだろう。下がってくれるはずだ、とシンが思ったその時、新たな敵機を報せるアラートが鳴り響く。

 

「こいつら、まだ!?」

 

 苛立ちと共に振り向き、次の瞬間シンは言葉を失った。

 

 その敵はモビルスーツではなかった。

 

 作業用のポッドに、小口径のバルカン砲ポッドを取り付けただけの貧弱な機体だった。真っ直ぐに回避機動も見せることなくその機体は“インパルス”に突っ込んでくる。

 理解できない、そんなものじゃモビルスーツに敵うはずがない。第一、フェイズシフトを持つ“インパルス”に小口径弾で幾ら撃ったとしても有効打なんて望めやしないのに……!? 

 一瞬の迷いが、回避運動を遅れさせた。

 

「うわあああ!?」

 

 真っ直ぐに加速してきたポッドは、“インパルス”に衝突し、煙の尾を引きながら、宇宙空間のどこかへと流れていった。衝突されたショックでシンは我に返り、機体の制御を取り戻そうとする。その時レーダーロックを報せる警報音が狭いコクピットに響き渡りシンの背筋を凍らせる。

 殺られる……! 

 

『シン!』

 

 モニターに迫る敵機が出し抜けに爆発した。反射的に機体の制動をかけ、安定を取り戻した。

 

『戦場で足を止めるな! 狙い撃ちにされるぞ!』

「あ……俺……」

 

 アスランの怒声を浴び、ようやくシンは戦場に立っていることを思い出した。

 吐き気がする。震えが止まらない。

 分かっていたはずだ。撃たなければ撃たれる。士官学校で教官から耳が痛くなるほど聞いて学んだはずだった。だが実際の戦場で、止まることを知らない敵の狂気にあてられた彼は恐怖を感じていた。

 これが戦場であると、本物の殺意と狂気を肌で感じとっていた。

 

 

 

「ええ!? か、艦長無茶ですよ、それは!」

 

 アーサーの悲鳴に近い声がCICの中に木霊する。

 

「カタログスペックで“ミネルバ”は単独で突入できるとされてますけど! ぶっつけ本番でしかも艦首砲を展開したままでは!」

「それでもよ。できるだけの力を持ちながらそれをやらずに見ているだけというのは後味が悪いでしょう?」

 

 タリアは静かに、クルーたちの目を見つめながら告げた。その瞳には確固たる意思が見て取れた。恐怖や不安を見せていたクルーたちは艦長のその姿勢に促されるように表情を引き締めていく。タリアは皆を安心させるよう、微笑んで話を続けた。

 

「無論、生還を考えずの行動ではありませんわ。おまかせください」

 

「……わかった。貴官らの幸運を祈る」

 

 デュランダル議長の言葉を受け取ったタリアは表情を改めると、毅然とした態度で告げた。

 

「お急ぎください。“ボルテール”に議長の移乗を通達! モビルスーツ隊に帰艦信号撃て!」

 

 指示を受けたクルーたちが慌ただしく目の前のコンソールにかじりつき作業を進めていく。デュランダル議長はそんな彼らを見やったあと、カガリに共に出るように促す。が、彼女は緊張した硬い声で、だが断固とした意志を持って口を開いた。

 

「すまない、議長、グラディス艦長……。私をここに残らせてもらえないだろうか!?」

 

 デュランダルもタリアもその言葉に驚き、カガリを見つめる。

 

「アスランも、それにあそこで力を尽くしている者たちが戻らないというのに、私だけが安全な場所に移るというのはできない!」

「しかし、為政者が自身の身を危険にさらすようなことは……」

「無論、これが私の我儘だということは重々承知している! だが━━頼む……!」

 

 カガリは席から腰をあげると、頭を下げて二人に懇願する。

 タリアや議長の言うことは正論だ。この状況で残ることがどれ程危険か、カガリ自身理解もしている。この場にキサカや叔父たち、亡き父がいれば、ぐうの音も出ないほどに論破されて引っぱたかれただろう。だが、それでもこの時ばかりは、一個人として彼らが無事帰還するのを確認しなくては後悔してもしきれない。

 タリアはその固い意思を見てとったのか、一瞬やれやれと目を瞑り、念を押すように彼女に告げた。

 

「軍から危険手当は出ませんわよ? よろしいですわね?」

 

 一瞬の沈黙の後、カガリは首を縦に振った。

 

 

 

 打ち上げられた信号弾が視界に入り、シンはハッと高度計に目をやる。既に限界高度に達しつつある。

 ユニウスセブンは大部分が細かい破片に砕かれていたものの、一辺が数キロメートル程度の大きさを残したものも多数あった。続いた“ミネルバ”からの通信にシンは驚く。

 

(“ミネルバ”が降下しながら破砕作業? できるのか……?)

 

 確かに“ミネルバ”の陽電子砲ならば、巨大な破片を幾らか砕けるはずだ。しかし、単独での大気圏突入能力を有する“ミネルバ”でも、実際に降下するのは初めてで、しかも砲撃を加えながら行うというのは無茶ではないだろうか。

 それでもあの艦長のことだ。やるからには出来うる限りの手を尽くそうとするだろう。シンも艦長の判断を信じて帰艦ルートに入ろうとしたその時だった。ユニウスセブンの表面でスラスターの噴射光がハッキリと見えた。驚き、光学センサーの倍率を上げると、そこには未稼働の“メテオブレイカー”に取り付き、起動コマンドを入力し続ける“シグーII”の姿があった。機体コードを確認すると、“ミネルバ”所属の機体、アスランが搭乗する機体だった。

 

「何やってるんです!」

 

 シンは彼に向かって怒鳴りつける。

 

「帰艦命令が出たでしょう!? 通信も入ったはずだ!」

 

 シンの言葉に、だがアスランは振り向くことなく、起動用のテンキーに入力を続ける。

 

『ああ、分かってる。君は早く戻るんだ』

「一緒に吹っ飛ばされますよ!? いいんですか!?」

 

 感情が吹き出し、アスランを何とかユニウスセブンから引き離そうとする。このままでは、陽電子の奔流で機体もろとも焼き尽くされてしまうかもしれない。アスランは焦りの滲む声で、しかし毅然と叫び返した。

 

『陽電子砲とはいえ、外からの砲撃だけじゃ不確実だ。この一基だけでも……!』

 

 その姿勢にシンは逡巡する。この人は確かにモビルスーツを上手く動かせて英雄と評されるだけの人かもしれない。

 だけどやっぱり馬鹿だ、この人は。

 “インパルス”を降着させて、機材のテンキーパッドに取り付く。アスランが驚いたように、こちらにカメラアイを向ける。

 

『シン……!』

「俺だけ帰って、オーブのお姫さまになんて報告させる気ですか、あなたは!」

 

 アスハは確かに嫌いだ。だけど大切な人を失ってそれで泣かれるのは何故だかもっと癪に触る。

 “メテオブレイカー”のテンキーパッドに起動要項を急いで入力していく。焦りに駆られ、作業を進める二人の機体の周囲には、周囲に散乱したユニウスセブンの残骸が熱を帯び始めた今、もうここに残っているのは自分たちだけ。二人ともそう考えていたが、突如として銃撃が撃ち込まれる。驚き振り仰ぐと、三機の“ジン”がビームライフルや斬機刀を掲げ、襲いかかってくる。どの機体も損傷が目立ち、満足な戦闘機動も危うい様子だが、躊躇うことなく突入してくるようだ。

 

「こいつら、まだ……!」

 

 シンは入力パッドから機体を離れさせると、ビームサーベルを抜き放ち、迫る敵機へと“インパルス”を飛翔させる。二機がすれ違う瞬間、ジンのサーベルは宙を斬り、“インパルス”のビームサーベルは“ジン”のコクピットを両断していた。

 

『我が娘の墓標……! 落として焼かねば世界は変わら━━!』

 

 爆発によって途切れた絶叫にシンとアスランは一瞬凍りつく。

 

「娘……?」

『何を……!?』

 

 傷ついた“ジン”たちは、全身に戦意を漲らせながら、二人の機体へと肉迫する。彼らの叫びが再び混信した無線機から響き渡る。

 

『ここで散った命の嘆きを忘れ、撃った者らと偽りの世界で笑うのか、貴様らは!?』

『なぜ気づかぬか!?』

『我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそ、唯一正しきものであったと!』

 

 “ジン”のパイロットの叫びが鼓膜を揺るがし、アスランは顔を歪める。既に決別したはずの過去が鎌首をもたげ、彼の足元から這い上がろうとする。だが、アスランはそれを振り払うように、“ジン”のパイロットへと叫び返した。

 

「だから、無辜の人々を焼くというのか君たちは!?」

 

 遮二無二に打ちかかってくる“ジン”を突き飛ばし、アスランは声を振り絞る。

 彼らは父と、いや過去の自分たちと同じだ。

 大切なものを喪い、その痛みに焼かれどうすることも出来ずに、世界に呪詛を吐き出すことを選んでしまった。

 手遅れかもしれない、そう頭の片隅で囁く声を無視して、アスランは彼らに訴えかける。

 

「そんなことをしても、喪われた人たちが戻るわけもないのに!」

『何を!』

 

 “ジン”の蹴りがアスランの“シグー”を捉える。鬼神の如き気迫に押され、アスランは機体を後退させる。が、それを許さない“ジン”は刀を投げ捨てると、自由になった両腕を振りかざし、“シグー”の胴体にガッチリと組み付く。

 

『我らの怒りを、核の炎に焼かれ死んでいったものたちの無念を! ここで晴らさずしてなんとするか!』

(じば、……直ちに、き……から離れて……)

「コイツ!?」

 

 ノイズが奔る無線機から時折聞こえる機械的なカウントダウンを聞き取り、アスランの背筋が凍る。

 

『我らのこの思い、今度こそナチュラルどもにィィイイ!!』

『━━アスランさん!』

 

 横合いから飛来した“インパルス”がそのままの勢いで“ジン”を蹴り飛ばした。すぐさま拘束の解かれたアスランの“シグー”の腕を掴みスラスターを全開にする。わずか数秒が薄く長く引き伸ばされた瞬間。

 カウントダウンがゼロを刻み、周囲を爆炎が覆い尽くした。

 

 

 

「降下シークエンス、フェイズ2に移行!」

 

 操縦桿を握り締めるマリクの報告にタリアは唇を噛む。既に船外は数千度の圧縮された大気の熱に晒され、赤く灼熱した光景が見て取れる。

 

「艦長! これ以上は本艦が危険です! 砲を撃つにも……!」

 

 アーサーの進言の通りである。砲撃で破砕するにも限界高度がある。だが、未だ帰還できていないシンとアスランを把握出来なくては彼らをも巻き込んでしまうかもしれないのだ。

 

「シンとアスランは!?」

「駄目です! 位置特定不能……! 」

 

 泣き出しそうな表情のメイリンの報告に、艦橋にいる全員が焦慮を滲ませる。

 天秤には二人の若者と何十万という地球の人々を掛けられた。彼女には、いやこの場にいる全員に選択の余地はなかった。

 

「──“タンホイザー”起動」

 

 死刑執行を命じるように、タリアは心を殺して冷徹に告げた。

 

 

 

 硬い声で続く命令にカガリは今にも震え、泣き出しそうだた。あそこにはアスランとシンがまだいるはずなのだ。そこに砲撃を行うということがどういうことか。

 だが、泣くなどということは決して許されない。アスランもシンも軍人であるからには覚悟はしていたはずだ。なら今は彼らの運と腕に祈るしかない。

 タリアが鋭く号令を放った。

 

「照準、右舷前方、巨大構造体━━!」

「━━撃ぇッー!」

 

 艦首から迸った陽電子の奔流が岩塊を焼き払い、砕き、蒸発させていく。細かく飛び散った破片が見る間に赤く溶解していく中、彼女は心の中で必死に祈った。

 

(ハウメアよ、二人を守りたまえ!)

 

 

 

 *

 

 

 

『━━繰り返しお伝えします。グリニッジ標準時午前八時頃、破砕されたユニウスセブンの破片が、大気圏に突入しました。予想される落下地域にお住まいの住人の方は行政の指示に従い、速やかに避難してください。沿岸部には高波が押し寄せる恐れが非常に高いです。なるべく高台に移動、もしくは高く頑丈な建物へ……』

 

 ラジオからアナウンサーの緊張した声が響き渡るが、声を聞く者はその部屋には既に居なかった。

 南太平洋に浮かぶ群島。小さな小島の一角にその孤児院はあった。そこで生活していたものたちのほとんどが避難した中、一人の青年は浜辺で赤く染った空を見ていた。

 歳は十八ぐらいだろうか。ダークブラウンの髪に、黒いジャケットを羽織った青年の暗い瞳は、空を引き裂いていく幾つもの赤い光点を悲しく捉えていた。

 

「━━ここにいらしたのですね、キラ」

 

 後ろから声がかけられる。振り返れば淡いピンク色の少女が立っている。その表情には気遣う色が見て取れる。そう、時間が無いのだ。自分だけならまだしも、彼女たちに心配をかける訳には行かない。キラと呼ばれた青年はこくっと頷くと、踵を返して地下シェルターの入口へと歩く。

 

「怖いのですか、キラ?」

 傍らで支えてくれるように寄り添う少女がそっとたずねる。キラは俯きながら、か細い声で呟いた。

 

「また、大勢人が死ぬ。そして憎しみが生まれて、殺し合う……。そんなことがまた繰り返されるんだ」

 

 嵐が来るというのに、怖くないわけが無い。逃避するように、彼はシェルターの奥へと入っていった。ピンク色の髪の少女は、そんなキラの姿を痛ましく見つめていた。

 仮染めの平和が崩れる音が聞こえるように、地響きのような爆発音が遠くで木霊した。




暑さがちょっと和らいだかな?

どうも、野澤瀬名です。
機動戦士ガンダムSEED Re:DESTINY第5話何とか無事(?)に投稿出来ました。本当にお待たせしてしまい申し訳ない。

今回でようやくユニウスセブン落下までが書き終わり、次から舞台が地上に移るわけですが、ここまでの描写で気をつけていたのがやっぱり主人公のシンですね。
彼に関しては原作と比較して少し(本当に少しだけ)余裕を持たせています。例えばアスランなんかがオーブ所属じゃなくて、ザフトに復帰してるっていうのも余裕に繋がってたり。嫌いな組織に所属してる人に何を言われたってそりゃ知らんぷりです。シンに必要な出会いと対話を持たせるために余裕を作る必要があると、執筆前から判断し実現できるよう気をつけながら筆を進めています。その中でシンが彼らしく成長していけるようこれからも描写頑張っていこうと思います。
チラッと出てきた前作主人公と傍らのピンクのお姫様などそろそろ登場人物も勢揃いする予定です。ご期待ください……!



築き上げていく道のりは長く、そして崩れ去るのは一瞬。安寧は脆くも破られ、軍靴の音が迫りくる中、痛みと記憶に苛まれながら時は進み、道は交わる。
次回、機動戦士ガンダムSEED Re:DESTINY『航路』
混迷の海を突き進め、ガンダム!
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