転生先をミスった羽衣狐が居るらしい、まぁ妾なんじゃが…   作:山吹乙女

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 フィットボクシングが4日しか保たなかったので初見です

 先週でお気に入り数800に驚いておりましたが現時点で4桁になっており驚きでいっぱいです。感謝をいくらしても足りないほど嬉しい気持ちです。ありがとうございます!今後とも何卒よろしくお願いいたします!
 


世迷言のようじゃのぅ-陸話-

 

 駅のある大通りから少し離れ、人通りの減った場所にあるカフェで紅茶を啜る。立地から比較しても店内は賑わっており、そのまま過ごすにしては少し賑やかすぎるので外の通りに面したテラス席へと私たちは腰掛けていた。日中は日差しが強かったが夕刻になれば風が心地よく、温かい紅茶でも問題なく満喫できる

 

 特級討伐の功績で私を含めた一年生は1日の休みをもらいそれぞれ思い思いの場所で日々を過ごしていた。四人のうち二人は特訓、もう一人はショッピング、そして私たちはというとおしゃれなカフェで紅茶を嗜んでいた

 

 虎杖くんに至っては呪力の操作もまともに出来ないので出張から帰ってきた五条先生が付きっきりで指導を行う予定である。野薔薇ちゃんや伏黒くんと違い、技らしい技もないので当然と言えば当然ですね

 伏黒くんも式神が二体やられたので今後の調整のため高専で訓練中

 野薔薇ちゃんも特級相手との戦闘で課題が見つかったようで特訓はする予定だけど、着替え用のジャージなどを買いに行くついでにショッピングである。私も付き合っていたがお昼を過ぎたあたりで切り上げ、私たちは特にこれといった予定もないのでこうしてお茶をしている

 

 どうしてここまで3人は特訓に必死になっているのか…それには理由があり、特級との対峙が原因ではあるがそれとは別に京都姉妹校交流会というものを控えてる為でもある

 

 京都姉妹校交流会

 京都にあるもう1校の高専との交流会で普通なら2、3年生が主体のイベントらしい。だけど二年生の先輩方からの話では三年生が停学中で人手が足りないからと、人数合わせで一年生の私達に声がかかった

 六名の人選で交流会が行われるそうだが、二年生の先輩は三人で私達一年生は四人なので一人溢れるのだがお狐様が真っ先に観戦へと回ったので私たち以外の一年生は全員参加ということで特訓に明け暮れている

 

 それにしても、今思い返してみても二年生の先輩方はキャラの濃い人達であった。一人目は語彙がおにぎりの具材しかない狗巻 棘(いぬまき とげ)先輩と、二人目は比喩でもなんでもないパンダの見た目をしたパンダ先輩

 伏黒くんは先輩方をあらかじめ知ってて紹介してくれたけど、パンダ先輩の紹介が"パンダ"だけってのはやっぱり腑に落ちない

 三人目の禪院 真希(ぜんいん まき)先輩はメガネが似合う仕事のできるキャリアウーマンを彷彿とさせるクール系の先輩だが、狗巻先輩とパンダ先輩のことを考えると逆に浮いてしまう

 ちなみに二年生は合計四人いるらしく乙骨(おっこつ)先輩という人が居て、伏黒くん曰く唯一手放しで尊敬できる先輩らしいが今は海外にいるそうだ

 

 「()()()()、今ちょっと時間あるかな?」

 

 数日前の出来事を思い返すほど平和を謳歌していて、面倒なことが何も起こらなければいい休暇になる…と考えていた矢先、背後から声がかかる

 振り返ると、声をかけてきた人は一見するとお寺の住職の格好をしている青年。普通に考えるならナンパとも取れるが、ただ目の前の青年は普通とは見えないオーラ…と言うべきか雰囲気を感じる

 

 『おぬしは、フフ…なるほど。…良いぞ、後ろの者共も(ちこ)う寄らせよ』

 

 お狐様も何かを感じとったようで、いい余興(おもちゃ)を見つけたように上機嫌である。

 

 「助かるよ」と片手で礼をして答えた青年は店3つ分離れたところで固まっていた異形一向を手招きして呼び寄せる

 

 「まったく、(わし)を置いて話を進めるでない」

 

 最初に喋ったのは一つ目が特徴的な人物

 あえて人物と表現したのは意思疎通が問題なく行えるからであり、人の言葉を喋らないような呪霊ではなくお狐様から聞いたことのある妖怪と特徴が一致しているからである

 一つ目が喋った瞬間お狐様が口元を緩めたのは私でなくてもわかってしまうお狐様の驚きと歓喜の表現である。その点からもかなり嬉しそうで、同じように私も嬉しくなってしまう

 

 『ふふ…それで妾に話とは、なにかえ?』

 

 「率直に言おう、儂らの仲間にならぬか?」

 

 一つ目の妖怪が正面の席に座りながら勧誘してくる。後ろに居る一つ目の仲間らしき二人は待機しており、座る気配がないのであくまで代表は一つ目の彼なのだろう

 ちなみにお寺の住職の格好をした青年は、私たちのいる丸い机の右斜め前に座って話を聞いている

 

 『フム…妾の存在をどこかで知って、それでも妾を引き入れようとするその目的はなんじゃ?』

 

 「儂らの目的か…少し話そう。…人間は嘘でできている、表に出る正の感情や行動には必ず裏がある。だが負の感情、憎悪や殺意などは嘘偽りのない真実だ、そこから生まれ落ちた我々呪いこそ真に純粋な()()の"人間"なのだ…偽物は消えて然るべき。おぬしも受肉体ならこの意味わかるはずだろう」

 

 頭頂部にある山から、興奮のためか蒸気が漏れている。活火山のように溶岩がグツグツと煮立った音も聞こえるので噴火でもするのかもしれない

 

 『つまり…おぬしらは今の人間社会ではない、呪い優位の世界を作ろうと…そういうことじゃな?』

 

 お狐様は紅茶をスゥと飲みながら聞き返すと、一つ目は「そうだ」と自分の話を理解してくれていると笑みを浮かべながら前のめりになる

 

 『ホゥ…なんというか、世迷言(よまいごと)にも聞こえるのぅ』

 

 ピキリと空気に亀裂が入ったような音が幻聴として聞こえ、上機嫌に話していた目の前の一つ目の表情が固まり唖然としている

 そして手に持っていたティーカップを置き、追い討ちをかけるようにお狐様は言葉を続ける

 

 『おぬしらは間違っておるぞ。千年生きると、全ての移り変わりが見える。人のおろかさも…その在り方も。おぬしらの言うてることも理解できる…じゃが()は、"表"も"裏"もその感情をひっくるめて()なのじゃ。人の嘘は(ころも)…柔肌を守り、着飾るが衣そのものが人ではない、(まと)い方一つで良くも悪くも映ってしまうがのぅ。ただ…純粋なだけで満足した存在なんぞ()()()()()()()()()と変わりはせん…』

 

 一口ほど残っていた紅茶を残し、話は終わりだと表すようにスクール鞄を持ってお狐様は立ち上がる

 

 『妾の時間を取らせたのじゃ、ここの代金は払うてもらうぞ』

 

 歩を進めるたびにコツコツと靴が小気味よく鳴りながら立ち去り、先ほどいた店が見えなくなるまで離れたが後を追ってきていない様子である

 ちなみにお寺の住職の格好をした青年は肩を落としながらやれやれと呆れていた。あまり残念に思っていない様子で仕方がないという雰囲気を醸し出していたから、多分彼は予想できていたのだろう

 

◆◆◆

 

 「やはりあの女、どうにかして殺せんものか…」

 

 「無理だよ[漏瑚(じょうご)]、彼女をどうにかしたいのなら呪力を消耗させ弱らせた上で、獄門疆(ごくもんきょう)を使って封印するしかない。…私はオススメしないけどね」

 

 首都の街並みが遠くに見える山道。夜風を切りながら一人と一体は会話をしていた

 

 「その獄門疆も今から五条悟を殺して儂がもらうのだから、好きに使わせてもらうぞ」

 

 五条悟が通るとされる街から高専までの道のりに、一つ目の異形漏瑚とお寺の住職の格好をした青年[夏油(げとう)]は待ち構えていた

 

 「では、私はこの辺りで失礼させてもらうよ。万が一、五条悟にでも見つかったら大変だ」

 

 まるで夏油と入れ違いになる様に、漏瑚はカフェで聞いた艶のある女の声が聞こえる

 

 『あの男は…おぬしらでどうこうできるとは思えんがのぅ』

 

 声と共にコツリと靴の踵が鳴った方を見ると、全身黒ずくめで左手にも黒のスクール鞄を持った人物。漏瑚が勧誘に失敗した少女、羽衣妖子がいた

 

 「おぬしは…なんのようだ。今更仲間に加えて欲しいと言っても遅いぞ」

 

 声を聞くまでその存在に気づかなかった漏瑚だが、少女を見るその目は鋭い

 カフェで勧誘を断られた上、少女に散々な言われようをされた漏瑚は彼女の顔さえ見るのが嫌になっていたほどであり純粋な殺意を向けていた

 

 『フフ…なに、一つ聞きたいことを思い出してのう、妾を勧誘する時に言うておったおぬしの言葉。あれは誰の受け売りなのかと思うてのぅ…おぬしらの(かしら)かえ?』

 

 「…仲間にもならん奴に言うわけないだろう」

 

 物怖じせず、あくまで反抗的に答える。当初より漏瑚が夏油から聞かされていた羽衣狐の実力は両面宿儺クラスであり、対して自身の実力はというとその両面宿儺の指8〜9本分ほどでその実力差は分かっているつもりであった

 それなら反抗的な態度と言葉遣いは自殺行為にも感じる。確かに新たな"人間"としての矜持でもあったが、目の前の人物は本当に実力があるのかどうか疑わしく実感を感じないのもまた事実である

 

 『フム…そうか、なら力尽くで聞くしかないのぅ』

 

 瞬間、羽衣狐の背中に15本からなる狐の尻尾が現れる

 その尻尾は長く艶があり、羽衣狐の周りで揺めき月明かりに照らされ神々しさすら感じさせる

 

 まるで本当の姿を見せたと言わんばかりのプレッシャー、圧力を感じる。漏瑚の全身の毛穴から汗が吹き出し、生物としての生存本能が緊急事態の警報を鳴らし頭に響かせる。ただ"逃げろ"と呼びかける本能に逆らうように漏瑚は構える。瞬間、構えたと脳では判断していたが肩から先の感覚が妙なことに気づく

 

 『まずはその腕じゃ』

 

 「…は?」

 

 漏瑚の両腕がその美しく艶やかな尻尾で塵芥(ちりあくた)となりはてていた。尻尾の動きはまるで追えておらず、攻撃の瞬間すら反応できずにいた

 

 『ほれ、早う言わぬと達磨(だるま)になってしまうぞ』

 

 困惑と恐怖、そして後悔。漏瑚の中ではその三つが支配していた

 足は震え、顔は強ばり歯同士がぶつかり合う音がカチカチと聞こえる

 

 『フム…その足も落とさぬと言うてはくれぬか』

 

 今度は足を狙われる。そう実感してしまうと体は逃走の一途を辿る

 震える足に鞭を打ち、ただひたすらに逃げようとするが早すぎて糸のように見えた尻尾が足元を掠め右の脹脛(ふくらはぎ)を抉る

 更に左足の(かかと)を抉られ、その走り辛さに耐えながらも逃走していると開けた湖に出てしまう

 先程まで森の中を移動しており視界の悪い中ならまだ逃げるという選択肢もあっただろう、しかし開けた湖なら話は別である

 漏瑚はこのまま逃げることができないと考えると諦めるわけでも、勝とうというわけでもなくただ目をくらましてその隙をついて逃げ果せることを考えた

 

 漏瑚の頭部にある火山からポンポンポンと奇怪な音を立て、蟲を生み出す

 

  -火礫蟲(かれきちゅう)-

 

 カブトムシのような体躯をしたこの火礫蟲は対象の側で超音波と爆発の二段構えによる攻撃を行う

 並の術師であれば火礫蟲一匹で十分なところだが、その蟲六匹をただの目眩しに使おうとしていた

 六匹もいれば目眩し程度にはなるだろうと考えていた漏瑚だが、羽衣狐の近くに飛び込ませる前に尻尾で全て振り払われて全滅していた

 それもそのはず羽衣狐の尻尾は自身の意思がなくともオートでも迎撃を行える都合上、ただ近づこうとするだけでも気配を完全に消すか誤認させるかでもしないと触れることさえ叶わないのである

 

 「バカな…」

 

 既に諦めの意思すら感じさせる弱々しい声を吐き、対抗する暇もなく両足を尻尾で貫かれ漏瑚は湖のほとりで転がっていた

 

 『達磨にしてしもうたが、これで言えぬというのなら仕方がない。おぬしの生き肝、妾が喰ろうてやるぞ』

 

 両手両足を失い仰向けで転がっている状態の漏瑚を羽衣狐は踏みつけ()()()()から太刀を取り出し、突きつける

 

 『三尾の太刀

 

 「すごい呪力を感じたから来てみたけどやっぱり妖子か…で、どんな状況?」

 

 どこからともかく出張から帰って来た五条悟が現れる。羽衣狐にも言えることであるが彼もまた神出鬼没である

 

 「あ、こんばんは五条先生。出張お疲れ様です。今この呪霊を尋問中です」

 

 『ふふ…こやつは妾を勧誘して来たのじゃが妾は断ってのう、しかし聞きたいことがあってこうして追ってきたという訳じゃ。こやつはどうやらおぬしに用があった風じゃがのぅ』

 

 尋問中だと言われたその対象を確認すると四肢は抉れてなくなっていた。胴体に至るまでボロボロであり、半ば放心状態に見える無残な状態で太刀を突きつけられ転がった一つ目の呪霊の姿がそこにはあった

 

 「OK状況は理解したけど…すごいハードな尋問だね」

 

 『フフ…じゃがこやつはダメじゃ、妾を畏れてしもうとる。口も開かなくなってしもうたから殺すしかないのぅ』

 

 羽衣狐が太刀を振りかざそうとした瞬間、足元に木の根が固まりとなった様な物体が飛来する。もちろん完全な死角からの投擲物であったが問題なく羽衣狐の尻尾はその木の根を両断したがその切れ端が地面に突き刺さった

 地面に突き刺さった木の根は足元に広がり、色とりどりの花畑を形作る

 

 「うわぁ、綺麗ですね。お狐様」

 

 『ふふ…綺麗じゃのぅ』

 

 「うーん、ほっこり…」

 

 全員が全員各々の感想を述べるが、この花畑は明らかに敵が放った術式であった。殺気立っていたはずの羽衣狐でさえその戦意を削がれ、踏みつけていた漏瑚から足を離していた

 羽衣狐が漏瑚から足を離した一瞬の隙をつき、木の根を放った本人。漏瑚の仲間の呪霊[花御(はなみ)]がボロボロの漏瑚を掠め取る

 花御は知らぬことだが普通に近づくだけなら羽衣狐の尻尾で迎撃されていた。が、この時花御は気配を完璧に消しており、羽衣狐の尻尾は反応しなかった。目視に至っても花御が漏瑚を助けるタイミングで花畑に木の異形を出しており、その対処に気を取られ反応できずにいた

 

 「あれ?あの一つ目はどこ行ったんですかね?」

 

 『フム…逃げられたのぅ、のらりくらりと気配を消すのが上手いやつじゃ』

 

 「僕でも気づけないほど気配を消すのが上手い…ちょっと不気味だね」

 

 心地よい夜風に揺られ、辺りは血と鉄と花の甘い香りで包まれていた。

 

 

 




 お疲れ様です
 実はこの話は私が小説を投稿するまで考えていた構成の分岐点の様なところであり、この場面は相当悩んでおりました。
 結局高専入学ルートと決めて作りましたが今でも正解だったのか悩むことがあります。悩んだ結果純粋な正義では違和感が半端なく、私の強い印象から生き肝を食べる初期の妖しさが若干残った羽衣狐様が出来上がったのは所謂制作秘話だったりします

 ちなみにですがお気に入り数も4桁になり、記念も兼ねて漏瑚の話に乗る羽衣狐様呪霊ルートは需要とかあったりしますでしょうか?アンケートを設置いたしましたのでご投票していただけたら幸いです
 

羽衣狐様の1話限りの呪霊ルート短編ifは需要ありますか?

  • いらん、本編だけで十分じゃ
  • 良いのぅ、良き余興じゃ
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