転生先をミスった羽衣狐が居るらしい、まぁ妾なんじゃが…   作:山吹乙女

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 推しが死んだので初見です…
 …悪ぃ、やっぱりつれぇわ

 今回はアニメのみ視聴の方はちょっとした先の話の小ネタを含む可能性がありますが、大丈夫な方はお読み頂けたらと思います。ごめんね…


羽衣妖子4級じゃ-漆話-

 マンションの一室の扉に手をかけ、鍵のかかってないドアノブをガチャリと音を立てて開く

 マンションの大きさからすれば扉の先は1LDKほどの広さを予想できるが実際目の前に広がる光景は違っていた

 南国を彷彿とさせるヤシの木、輝く砂浜にどこまでも続く水平線。時刻は夜中しかも室内であれば尚のこと、晴れ渡る絶景のビーチが目前に広がる光景は異質である

 

 「随分と、穏やかな領域だね」

 

 「漏瑚はどうした、夏油」

 

 ザクザクと砂浜に音を立てながら進む夏油に対して、パラソルを立てビーチチェアで寛いでいる人物が質問をする

 

 「良くて瀕死だろうね。花御が見ていたから多分大丈夫じゃないかな」

 

 「無責任だな、君が焚きつけたんだろ」

 

 「とんでもない、私は止めたんだよ」

 

 まるで学生が世間話をするかのように軽く、他人事に会話を続ける

 再び扉からドアノブを捻る鈍い音と砂浜を踏むザクザクとした音が聞こえる

 

 「噂をすれば。花御、漏瑚…無事で何より」

 

 花御と呼ばれた両目から木の枝を生やした異形が、両の手足を抉られ至る所に傷をつけた漏瑚を担ぎながら現れる

 

 「どこをどう見て言っている‼︎」

 

 人間で例えるなら明らかに瀕死、しかし呪霊にとっては手足の修復は難しくない。先の少年院で発生した特級呪霊も手足の修復を行なっているのがその証拠である

 

 「それで済んだだけマシだろ」

 

 挑発が混じった発言をした夏油の顔を漏瑚が睨むと、夏油ははぐらかすように目をそっぽへ向け舌を出していた

 

 「これで分かったとは思うけど、羽衣妖子には()れず(さわ)らずを貫く。そして五条悟は然るべき時、然るべき場所、こちらのアドバンテージを確立した上で封印に臨む。決行は10月31日渋谷、詳細は追って連絡するよ…いいね、[真人(まひと)]」

 

 夏油はビーチチェアに腰掛けていた、顔や体の至る所をつぎはぎに別々の人間を繋ぎ合わせたような見た目をした人物。真人に打ち合わせの確認を行う

 

 「異論ないよ。狡猾にいこう…呪いらしく、人間らしく」

 

◆◆◆

 

 私たちを含めた三人は飲み物の自動販売機の前で佇んでいた

 お金を入れガコンガコンと流れ作業のように一定の速度で音を立てながら、ペットボトルと缶飲料が落ちてくる。自動販売機は2台ほどしかないのでわざわざ選ぶほど選択肢はなく、スポーツドリンクを例に挙げるなら1種類と決まっていた

 

 「パシリ頼まれたのは俺達だけなんですから、アナタはついてこなくてよかったんですよ」

 

 「ふふ、暇だったから別にいいんです」

 

 禪院先輩のお使いでドリンクの買い出しを頼まれた伏黒くんと野薔薇ちゃんだったけど、二人で持ってくるにしては量が多いと判断したので私も手伝っている

 二年生の先輩に稽古をつけてもらっている手前、伏黒くんと野薔薇ちゃんはこうして度々お使いを頼まれる。虎杖くんは(きた)る京都姉妹校交流会のため特訓の真っ最中で、ちゃんと"仕上げる"為に別メニューである

 それはそうと伏黒くんの敬語が一向に外れる気配がないのはどう言うことなのだろうか、私は一応同い年なはずなんだけど

 

 「しっかし、自販機の数少ないわね。もうちょい増えてくれないかしら」

 

 「無理だろ、入れる業者も限られているしな」

 

 私は基本ミネラルウォーターで事足りているので問題ないけど他の人は確かに不便なのかもしれない。それと自動販売機を見てていつも思うけど、紅茶よりコーヒーの方が圧倒的に多いのは紅茶派からしたら複雑な気持ちになる

 

 6本ほどスポーツドリンクを持って先輩達のところへ戻ろうとした時、不意に二人分の影が通路先に差し掛かる

 影をたどり顔を確認すると一人はガタイが良く顔に傷をつけた歴戦の戦士を彷彿とさせるが、いかにも沸点の低そうな男性

 もう一人が黒髪のボブカットの女性だが、どことなく禪院先輩を想像させる雰囲気である

 

 「なんで東京(コッチ)いるんですか、禪院先輩」

 

 伏黒くんがボブカットの女性を禪院先輩と呼んでいたので姉妹なのだろう

 

 「嫌だなぁ、伏黒君。それじゃあ真希と区別がつかないわ、真依(まい)って呼んで」

 

 「コイツらが、乙骨と三年の代打…ね」

 

 [禪院真依]さんは伏黒くんに好意的な目を、そしてもう一人の男性が私たち三人を品定めするかのように眺める

 

 「アナタ達が心配で学長に着いて来ちゃった。特級と戦闘したんでしょう?怖かった?それとも、そうでもなかった?」

 

 「…何が言いたいんですか?」

 

 「いいのよ、言いづらいことってあるわよね、代わりに言ってあげる。あの虎杖って子、"器"なんて聞こえはいいけど要は半分呪いの化物なんでしょ、そんな穢らわしい人外が隣で不躾(ぶしつけ)に"呪術師"を名乗って、それであの子の近くにいたから命の危険に晒されて…本当は死んで欲しかったんじゃない?」

 

 少年院で起こった特級呪霊発生の任務は仕組まれて起こった事件のようであった。出張から帰ってきた時に五条先生から聞かされたことだが、「特級相手に生死不明の5人救助に一年派遣はあり得ない」とのこと

 虎杖くんの実質無期限の死刑を五条先生が無理を通して与えたことを気に入らない上層部が、五条先生がいない時に特級を利用して始末させようとしたというシナリオのようであった。ちなみに失敗しても他の私達3人が死んで、五条先生の嫌がらせができて一石二鳥の思惑であったらしい

 しかし私たちという想定外がいたことによりその思惑は外れ、四人全員五体満足で帰ってきた。ただ、同じようなことがあった場合のことを踏まえて五条先生が直々に虎杖くんを鍛えているのである

 

 『フフ…化物と言うてやるな、あやつはしっかり人の心を持っておる。少なくとも、おぬしよりは人のことを思いやる気持ちはあるじゃろう』

 

 「…何か言ったかしら?」

 

 笑顔のまま聞き返してきたが青筋をうっすらと立て目が笑っていない状態でこちらを睨むその表情から、余程呪いと並べられるのが嫌なのだろう

 ただ言われて気づいたけど、今年の一年生の半分が化物なので高専からしたら異例か前代未聞かもしれない

 

 「真依、どうでもいい話を広げるな。俺はただコイツらが乙骨の代わり足りうるか、それが知りたい」

 

 伏黒くんに狙いを定めたようで禪院真依さんの前に出る筋肉隆々の男性、それと同時に伏黒くんも自分が目をつけられたと自覚したようで身じろぐ

 

 「伏黒…とか言ったな。どんな女がタイプだ」

 

 どういうこと?…いや、もしかしたら私が知らないだけで最近の流行りは自分の好みの異性を聞くことが主流になっているのかもしれない

 いや違う、伏黒くんも野薔薇ちゃんも頭にハテナマークが出てきてるからやっぱり流行りじゃない

 

 「返答次第では今ココで半殺しにして、乙骨…最低でも三年は交流会に引っ張り出す。因みに俺は、身長(タッパ)(ケツ)のデカイ女がタイプです」

 

 筋肉隆々な男性が、着ていたTシャツをビリビリと音を立てながら破り捨て臨戦体制にはいる。服の上からでもわかるほど鍛え上げられた体が顕となり、不敵に笑うが好みの女性の特徴を言いながら行うものだから様になっていない

 

 「なんで初対面のアンタと、女の趣味を話さないといけないんですか」

 

 『伏黒よ、言うてやればよいではないか』

 

 意外にもお狐様は目の前の筋肉隆々の男性を気に入っているのか、印象は良さそうである。ただの悪ノリかもしれないけど

 

 「ダメよ妖子ちゃん、ムッツリにはハードル高いわよ」

 

 「そこの二人は黙っててください、ただでさえ意味分かんねー状況が余計ややこしくなる」

 

 「京都三年[東堂 葵(とうどう あおい)]自己紹介終わり、これでお友達だな。早く答えろ、男でもいいぞ」

 

 筋肉隆々な男性、東堂さんは余程大事なことなのか早々に自己紹介を終わらせ伏黒くんを急かす

 

 「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん、俺はつまらん男が大嫌いだ。答えろ伏黒…どんな女がタイプだ」

 

 伏黒くんは考えるというよりは何かを思い出すかのような素振(そぶ)りをした後、口を開く

 

 「別に、好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば…それ以上は何も求めません」

 

 「悪くない答えね、巨乳好きとかぬかしたら私が殺してたわ」

 

 野薔薇ちゃんや目の前の禪院真依さんは伏黒くんの回答に概ね満足な印象を示していた。ちなみに私たちは人間性もないし、そもそも人間ではないので好みのタイプではないようです。ショックではないですけど男の人からタイプじゃないと言われるのは…うん、結構堪えるものがあります

 

 「やっぱりだ…退屈だよ、伏黒」

 

 東堂さんが何故か涙を流したその瞬間、普通の人なら東堂さんが消えたかのような速さで伏黒くんにラリアットが炸裂した。数m(メートル)ほど吹っ飛ばされているのが確認できるが、伏黒くんはちゃんとガードしていてそれでも人が吹き飛ぶほどのパワーはやはり驚異的なのだろう

 

 『ふふ…どうじゃ?辛いなら妾が変わってやろうか?』

 

 吹っ飛ばされた伏黒くんの側まできて、お狐様が問いかけるが側から見てもまるで変わる気がないように感じる。実際変わるかはないのだろう

 

 「いや…これくらいなら大丈夫ですよ」

 

 『フ…そう言うてくれぬと妾も困る。せっかくの楽しい余興じゃからのぅ』

 

 お狐様ならそう言うだろうと予想出来ていたのか、伏黒くんはため息が漏れる。虎杖くんはまちまちだけどこの数週間一年メンバーは一緒にいる時間が多いので、言動もある程度予想出来ているのだろう

 

 「一目見て退屈な奴だと思ったが、最低限のマナーは分かってるようだな」

 

 その体躯の大きさからズンズンと音を立て歩くかのように想像しながら、東堂さんは私たちと伏黒くんを交互に見て言葉を落とす

 

◆◆◆

 

 吹き飛ばされた衝撃と砂埃で咳き込み、伏黒は吹き飛ばした本人を鋭く見つめる

 伏黒に駆け寄った羽衣も止める気配はなく、伏黒と東堂の間ではまさに一触即発の緊張感があった

 

 「アンタ術式使わないんだってな」

 

 伏黒には"東堂"と聞いて一つ思い当たる節があり質問する。その質問は彼がどれだけの実力であるかの確認も兼ねていた

 

 「ん?あぁ、あの噂はガセだ。特級相手には使ったぞ」

 

 『ホゥ…こやつは名の知れた術師なんかえ?』

 

 興味深く妖しげな笑みを浮かべる羽衣。この笑顔は彼女と初めて会った時に見た事のある、彼女風に言えば余興を見つけた時の笑顔であることを伏黒は思い出す

 

 「そういえばアナタは知らないんでしたね。まぁ、後で説明します」

 

 東堂もそういえばと思い出したかのように羽衣の存在に疑問を覚える

 

 「伏黒は知っているがお前は知らないな、一年、名前は?」

 

 『羽衣妖子4級じゃ。ほれ名乗ったぞ、これで満足か?』

 

 彼女をまじまじと見ながら4級と聞いた瞬間、東堂の脳は凄まじい速度で回転し…ある一つの場面を幻想していた

 

 

 華やかなライブ会場。アイドルを応援する熱気冷め止まぬ瞬間は記憶に新しく、色とりどりのネオンライトが広大な舞台をライトアップする

 しかし、その場は異様なまでに静かである。会場を満たす観客も、アイドルを彩るBGMも聴こえない

 

 そこに存在するのは二人の人物、一人はこの場を思い描いた東堂

 もう一人が、彼が愛してやまない高身長アイドル高田ちゃんである。二人は舞台と観客席の最前列から互いを見つめ合う

 

 「彼女のことが気になるの?」

 

 煌びやかなステージ衣装に身を包む高田ちゃんは、飾り気のない質問を東堂に投げかける

 

 「ああ、気になる…少しな」

 

 「どんなところが?見た目は確かに美少女、身長も低くない。スタイルだって着痩せするタイプだと思う…でも違うんでしょ?」

 

 「違う…確かに一般的に見ても魅力的な見た目をしてはいるが俺が感じたのは"違和感"だ」

 

 これはある意味での自問自答だが、彼の高田ちゃんに対する想いが強すぎるために妄想もとい幻想を時折見せる

 

 「違和感という抽象的なことなら、この場合は見た目とは少し違うよね。彼女の話し方かな?古風な喋り方だから分からなくもないけど、もっとも違和感を感じたのは何かな?」

 

 チッチッチッとタイマー音が聞こえ、さながらシンキングタイムを想像させる

 

 「伏黒の言葉遣い」

 

 正解がわかった合図かのように指をパチンと鳴らす。その解答が意味するものとは、彼女の立場である

 同じ歳で、しかも階級であれば伏黒の方が高い。それなのに伏黒が羽衣に敬語を使うのは彼女の方が立場が上であるということの証明

 それも1級術師である東堂自身に気後れしていない点から見ても彼の性格上、敬語は年上か目上の人に限られる。羽衣の本来の強さは階級で言えば最低ラインが1級…恐らく特級であることが想像できる

 驚くべきことに東堂は僅かな問答で羽衣の強さを浮き彫りにする

 

 「CDを…追加購入しなければ…な」

 

 東堂は天を仰ぎ、現実に意識を戻す。この間わずか0.01秒である

 

 




 お疲れ様です
 長くなりそうでしたので、いい終わり方ができるところで締めさせてもらいました。戦闘シーンほとんどなかったですが、東堂(ブラザー)の脳内会話で楽しんでいただけたらと思います

 アンケートの件ですが、勝手ながら羽衣狐様が呪霊ルートに入ったらぬら孫本編の焼き直しでは?と遅い気付きをしてしまいましたので書く予定はないかと思います
 投票してくださった方々には感謝と並びに謝罪致します
 そして寛容な心でお許しいただきたく存じます
 ほんと申し訳ありません‼︎

羽衣狐様の1話限りの呪霊ルート短編ifは需要ありますか?

  • いらん、本編だけで十分じゃ
  • 良いのぅ、良き余興じゃ

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