転生先をミスった羽衣狐が居るらしい、まぁ妾なんじゃが… 作:山吹乙女
チェーンソーマンは最新刊とその一つ前からでしたので辛さが際立ちますね…
誤字報告は毎度ではありますが助かっております!
静まり返った体育館に一人の少年の声がこだまする
物静かな体育館には少年以外人はいないかとも思われるが、むしろ多数の人がいた
しかしそのほとんどの人は床に突っ伏し、まるで誰かに眠らされたかのように動く気配はない
壇上には二人の姿。一人は顔面や体をボロボロにし、宙に浮きその身を悶えさせる
そしてもう一人は宙に浮く少年を睨みつける。罵り蔑み、怒号の如き罵詈雑言を並べる少年。どちらも学生だが宙に浮く少年は学生服、対してもう一人の少年は黒を主体とした私服であった
「何したんだよ‼︎順平!!!」
虎杖悠二は体育館のドアを勢いよく開け、耳が張り裂けんばかりの大声で壇上の少年。この事態を起こした人物[吉野順平]に対して言葉をぶつけた
「引っ込んでろよ、呪術師」
吉野順平は暗く、そしてドス黒い感情を露わにして虎杖悠二の名前さえ言わなかった。しかし、つい先日まで二人は気軽に話せる仲であった
出会いは、とある映画館の事件より始まった
観客の学生3名が謎の変死体で発見された事件の調査として、派遣されたのが一級術師[七海健斗]の補助の下で活動する虎杖悠二であった
その変死体は頭部を大きく変形させ、なまじ人には見えない大きさの頭部と形をしていた。人の仕業とは到底思えない事件であるので呪霊絡みの線が強く、高専から派遣されたのがこの二人である
劇場での監視カメラの映像を確認して劇場の出入り口を利用した唯一の人物、それが吉野順平であった
他に出入り口のない劇場の監視カメラに映し出された唯一の人間であり、仮にこの事件の犯人が"人間"であれば吉野順平はこの事件の容疑者となっていた
ただ変死体は呪いで形を変えられていたことから吉野順平が呪いを使えないのであれば容疑者から外れ、犯人は呪霊だと断定できるため虎杖悠二は吉野順平のことを調べることとなった。最初は吉野順平に呪いが見えるかどうかの確認と見えるのなら呪いを祓えるかどうかの調査であった
4級以下の低位の呪霊を吉野順平に差し向け、その反応によって判断するというものであったのだが差し向ける瞬間吉野順平以外の一般人が吉野順平と接触していた
襲われたところで怪我もしないような呪霊であったが虎杖悠二は反射的に体が動き、助ける形となって吉野順平と予定外の接触となった
虎杖悠二自ら吉野順平の軽い取り調べを行うこととなったが、結果として虎杖悠二の持ち前の人の良さで気軽に話せる仲となっていた
しかしそこには一つの思惑があった。"人間"を恐れる心から生まれた呪霊の真人が吉野順平と関わっており、吉野順平に呪力を扱えるようにして手懐け自分のことを信用するように振る舞った
吉野順平の母親を特級呪物宿儺の指に誘われた呪霊に殺させ「自分を恨んでいる人、金を持て余した薄汚い人に心当たりはないか?」と吉野順平がその人物に報復するように仕向け起こったのが里桜高校での事件である。そして吉野順平を餌にして、虎杖悠二に宿儺優位の"縛り"を科すという計画であった
◆◆◆
夏も暮れ、あれほど鬱陶しく感じた暑さも恋しくなってきた頃。京都姉妹校交流会の開催が目前まで迫っていた
野薔薇ちゃんと伏黒くんの二人は少年院での出来事を糧に、最初に特級と対峙した時から格段にレベルも上がっていった。あまり会えていないけど虎杖くんの方も順調そのものらしく、五条先生曰く1級術師の補助の下で任務をこなしているらしい
近接戦闘において頭角を見せたと聞いている虎杖くんなら先月会った東堂さんともいい勝負ができそうだ
しかし東堂さんについて何か忘れていることに気づくと直後、伏黒くんが東堂さんの名前を知っていた理由を聞いていなかったことを思い出す
「伏黒くん、そういえばつい先月来ていた東堂さんはどういった人物だったんですか?」
伏黒くん達の特訓も一区切りついたようで、肌寒さが出てきても汗をかき木陰で休む伏黒くんに先月お狐様が聞きそびれたことを聞く
「あー、たしかにあの時結局言ってなかったですね。去年起こった呪詛師夏油による呪術テロ"新宿・京都 百鬼夜行"というのが起こったんですが、その時京都に現れた1級呪霊5体と特級呪霊1体を一人で祓ったのがあの東堂だったんですよ」
『ホゥ…まるで鬼のようなやつよのぅ。それと夏油か…人の身で百鬼夜行を従えるとは面白いやつじゃ、是非とも会ってみたいのぅ』
お狐様も前世は京都にて百鬼夜行を従え魑魅魍魎の主と畏れられていたことがあるらしいので、その夏油という人は確かに興味を惹かれそうであった
「まぁ、鬼のような強さなのは否定しませんね。夏油の方ですが呪霊操術という術式で従えているのであなたが思っているような従え方ではないかもしれませんが…それに夏油傑はもう死んでいますので会えないですよ」
お狐様が私が思っていたよりもガッカリした様子で肩を落としているけど先月に呪霊と仲のいい人に会ったような…でも死んでいるって事は人違いなんですかね
近況の記憶を辿っていた時、スクールカバンの中に入れていた携帯からデフォルト設定の着信音が鳴る
名前表示の欄を見るとそこには少し前に補助監督として同行してもらった伊地知さんの名前があった
「ごめんなさい、電話がかかってきましたので席を外します。私から話を振ったのにすみません…」
「いえ、いいんですよ。俺も休憩中でしたし」
伏黒くんから少し離れ三度のコール音の後に電話に出ると、かなり急いでいるのか第一声が「すみません」の謝罪の言葉であった
「お忙しいところ勝手を承知で頼みます!彼を、虎杖くんを助けに行ってあげてください!」
◆◆◆
人のいない学校の廊下に俺を含めた二人の笑い声が響く
人を蔑み罵る感情はどうしてこうまでも心地よく、多幸感を感じてしまうのだろうか。人間で例えるなら脳内のエンドルフィンが異常な数を叩き出している頃合いだろう
『フフ…楽しそうな笑い声がすると思うて来てみたが、意外とつまらないことで笑うておるのぅ』
「羽衣…」
笑いすぎてヒーヒーと過呼吸気味になっていると、階段に差し掛かる廊下の奥より黒髪ロングの黒いセーラー服を身につけたここの生徒とも見て取れる人物が現れる。しかし宿儺の器が口にした「羽衣」という名前から連想されるのは、夏油から接触を避けるように言われている羽衣妖子のことである
もし彼女が羽衣妖子であるのならこの状況はまずい。順平と宿儺の器をぶつけて宿儺優位の縛りを科す計画は、順平を[無為転変]で人間をやめさせても叶わなかった。残るは自身が宿儺の器と対峙して宿儺の器に縛りを科すだけなのだが、この状況で来たと言うことなら十中八九宿儺の器を助ける名目である
「女狐が…いい気持ちでいたのが台無しだ」
宿儺が忌々しそうに、そして唾でも吐き捨てるかの如く言葉を漏らす。どうやら宿儺との仲は最悪のようだ
「宿儺の器に用があるんだけど、そこどいてくれない?」
しかし物は試しとあくまでここの生徒であった場合として動く。羽衣妖子でなければ取り越し苦労もいいところだからだ
『フ…あいにく妾は虎杖を助けるように言われておってのう、妾もこやつは気に入っておるのじゃからそれは出来ない要求じゃ。…いや待て、もしやおぬし火山頭の呪霊と仲間であったりせぬか?』
漏瑚のことを聞く?やはり羽衣妖子で間違いない。しかし何故漏瑚のことを聞くのか探ってみるのもいいか、あわよくば夏油が警戒している羽衣妖子の実力を測るチャンスでもある
「火山頭?あぁ、漏瑚の事…」
まだ話している途中であったが、目の前の羽衣妖子は左手に持っていたカバンの中から「どうやってそこに入っていたの?」と聞きたくなるような一振りの太刀を取り出すとまるで消えたかのような速度でこちらに斬りかかってきた
袈裟斬りを奇跡的に回避できたのは完全にマグレだ。勘を頼りにワンステップ後ろに飛んだ時、先程まで自分のいた場所に綺麗な黒で統一された太刀が通過していた
しかし胴体に傷が出来上がっていて薄皮が切れたようである
「ちょっと!いきなり斬りかかるってないんじゃない?楽しくお話ししようよ〜」
『ふ…楽しむのは妾だけで十分じゃ、おぬしはそのよく回りそうな口を割って心の臓を置いてけばそれでよい』
楽しく話そうなんて言ってみたはいいけど、既に余裕がないな。初撃こそかわせれはしたけどほぼマグレだし、そもそも見た目からあそこまでアグレッシブに動けると思っていなかったのは反省だな
しかし彼女のおかげで殺す為の、速さと鋭さのインスピレーションを得れたのはデカい
ただ、羽衣妖子は魂の輪郭を捉えている。こちらの体に薄らと斜めに刻まれた刀傷がその証拠だ。この調子だと宿儺の器の方も俺にダメージを与えれそうだし困ったな
このまま何もせずに殺されるのはごめんだし、まだ羽衣妖子の実力を測れていないのと本来の目的を達成出来ていないから戦闘は続投する
羽衣妖子を狙いながら背後の宿儺の器を巻き込むように広範囲に速く鋭く、"畏れ"を抱かせるように俺の中の魂の形を変える
俺は蛇腹剣のような刃とワイヤー状で構成された右腕を、羽衣妖子とその後ろでへたって居る宿儺の器に向けて横薙ぎで払う
通過した横の壁や窓や床に綺麗に切り込みが入り、崩落してしまいそうなほどの切れ味を見せる
が、目の前の羽衣妖子は縦横無尽に不規則に動く蛇腹剣の行先を的確に太刀で弾いていた。スピードに乗り、目一杯踏み込み体重をかけて払ったその全てが羽衣妖子の服すら捉えることができなかった
余裕があるのなら「規格外すぎるでしょ?」とかコメントしていただろうがその暇もない
『虎杖よ、そこで悲しみに耽ておるのは分かるが目の前に敵がいるのじゃ、あとは言われずとも分かるであろう?』
「…すまん心配かけた。"目を逸らす"のはご法度…だろ、羽衣?」
宿儺の器が立て直した…この局面で1対2はかなりつらいか
…仕方がないこの辺りでトンズラを決め込むか
「逃げようとしても無駄ですよ」
蛇腹剣で開けた壁の穴から校舎に飛んだ瞬間、聞き覚えのある声が横から聞こえた後見知った独特のインパクトが体を伝う
「ナナミン‼︎…」
やっぱり七三術師。昨日初めて対峙した時に脇腹に触れ、無為転変を上手く塞いだはいいけど満身創痍だったはず。しかし意外となんともなさそう?
これで現状1対3。引き際を間違えたかな?
「説教は後で、現状報告を」
「二人助けられなかった。それと羽衣が加勢しに来てくれた」
「確か五条さんのクラスの生徒でしたね。すみませんが場合が場合なので挨拶はまた後ほど」
「いえ、ご丁寧にどうも」
さてどうするか二人ならまだ騙くらかして逃げに徹すればイケたんだが、七三術師も加勢したとなればいよいよだな
ただ羽衣妖子から伝わる直接的な殺意、それを元に今ある手札を昇華させて…
「私の攻撃は効きません、しかし見たところそちらの羽衣さんの刀で切り傷が出来ている。攻撃が通用するならこちらは数の差で圧倒しています。ここで祓いますよ」
「応‼︎」
『妾は口が聞けるくらいの手加減はするがのう』
やっぱり考える時間も与えさせてくれないか…
七三術師の急所を突くという痛烈な打撃と、やはりこちらにダメージを与えられた宿儺の器の拳。そして人数が多くなったことで彼女自身動きづらくはなってはいるが羽衣妖子の斬撃
特に羽衣妖子の斬撃が深い傷を作る。人間であれば確実に出血多量で死んでいるところだね
しかし…しかしなんて新鮮な"死"のインスピレーションなんだ!
今なら、できるよね…
領域展開ー
お疲れ様です
コミックで言うとかなりのペースで進んでしまいましたが、羽衣狐様が関わるところがなかったのでカットさせてもらいました。つまるところ原作既読、アニメ視聴済みが前提ということになってしまいます…もっと上手く見せれたと後悔もあります