親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです   作:和鳳ハジメ

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第11話 福寿奏

 

 

 そして昼休みである。

 午前中はどん底気分で過ごし、瑠璃姫の悪戯にも無反応だった敦盛であったが。

 隣の席、つまり奏から密会のお誘いが来たならテンションアゲアゲで行くしかない。

 

「さーて、お昼だぞォ!! 瑠璃姫ェ、そしてオマケに竜胆と円ッ! 弁当俺の分まで食べてて良いぞ! ちょっと用があるから出てくるッ!!」

 

「は? え、ちょっとあっくんっ!?」

 

「――分かり易いなアイツ」

 

「え、竜胆分かったの?」

 

「まぁな、…………面倒な事にならなきゃ良いんだが」

 

 そんな会話があった事など露とも知らず、彼は食堂の片隅へと向かう。

 

(いやぁ、授業中にノートの切れ端で食堂デートのお誘いとかッ!! やっぱ朝のは幻聴で奏さん俺の事好きなんじゃね?)

 

 となれば、昼飯は豪華に日替わりセットSだ。

 彼の敬愛する担任、脇部英雄の口利きにより導入された、値段も豪華、味も豪華なステーキ定食を奢る事こそ男気と言えよう。

 ――――だが。

 

「あ、弁当なんすね奏さん」

 

「ええ、竜胆の手作りなの。……はぁ、妹と一緒じゃなくて私だけに作ってくれたらいいのに」

 

 残念な事に彼女は弁当、しかも親友である竜胆の手作り。

 これには敦盛も、思わず血の涙を流すしかなくて。

 仕方なしに自分のだけ購入。

 

「憎しみで……憎しみで人が殺せたらッ!! しかし美味いッ!! 美味いぞステーキ定食ッ!!」

 

「ふふっ、やっぱり早乙女君は愉快な人ね」

 

「この男・早乙女敦盛、貴女の為ならどんなピエロにもなりましょうぞッ!!」

 

「――――本当に、ピエロになってくれるの?」

 

「……………………はい?」

 

 ステーキ定食は美味しい、そして奏がお弁当を食べる仕草、飲み込む喉動きすら優雅。

 だが、なんだろうかこの空気は。

 彼女の綺麗な瞳が、妙に濁ったような。

 

「単刀直入に言うわ、私に協力して欲しいの。――これは、早乙女君にしか出来ない事よ」

 

「何でも言ってください奏さんッ! 例え火の中、水の中、スカートの中までお供しますともッ!!」

 

「ありがとう、じゃあ竜胆を恋人にするのを手伝ってね」

 

「わっかりまし――――…………え、今何と?」

 

「竜胆を私の男にしたいの、手伝ってね」

 

 にこやかに繰り返された台詞に、敦盛は思わず箸をテーブルに落とす。

 同時にテンションが大幅ダウン、悲しみと辛みで涙が出そうだ。

 

「………………俺、奏さんの事が好きなんだけど?」

 

「ありがと、私の事が好きなら手伝ってくれるわね?」

 

「それサイコパスのやり口ィ!? 好きな人の好きな人への橋渡しを手伝うとか地獄の所業だぜッ!?」

 

「そうね、それについては私も思うところがあるわ。だから報酬を用意します」

 

「報酬?」

 

「月に一度、デートをしてあげる。でもお触り無しで遊びに行くだけ」

 

「徹底的に好意を利用されてるッ!? 期待だけ持たせて弄ぶ気じゃねぇかッ!?」

 

「あら人聞きの悪い……、徹頭徹尾利用しようとしているだけじゃない」

 

「なお悪いッ!? 泣くぞッ!? 泣きつくぞッ!? というかこの事あのバカとか竜胆に言うぞッ!!」

 

「残念、私の性格は竜胆にはとっくの昔にバレてるし。瑠璃ちゃんも知ってるわよ、樹野君は薄々気づいてそうねぇ」

 

「知らなかったの俺だけッ!?」

 

「恋は盲目って言うでしょ」

 

「それ奏さんに言われたくねェッ!? ぐぬぅおおお……、まさか奏さんがそんな悪女だったなんて……、でもそれを魅力的ィ!! 俺はどうしたら良いんだッ!! ワンチャン……無いと分かってても可能性を感じてしまうッ!! デートしたいッ!? けど前提が厳しい!!」

 

 激しく苦悩する敦盛に、彼女は苦笑した。

 己が酷い事を頼んでいる事は理解している。

 ――だが、そうしないといけない程に奏は危機感を覚えてる。

 

(学校は私の聖域だと思ってたんだけどね……)

 

 敦盛は知る由もないが、竜胆には現在二人の女の影がある。

 一人は奏、残る二人は一つ下の妹だ。

 

(瑠璃ちゃんの事を好きだとしても、登校しないのであれば大丈夫だと思っていたわ。――でも、アレは危うい)

 

 初めて目の当たりにした、竜胆が瑠璃姫に接する態度をその言葉を。

 思わず立ちすくんで、暫く観察してしまった。

 幸いなことに瑠璃姫は、敦盛にしか眼中に無いが。

 

(早乙女君に恋をしてる、そんな風には欠片も見えないし、むしろ……いえそれは私の問題じゃないわ、彼女は早乙女君に拘っている、それだけで良い)

 

 だからこそ、万が一でも起こる前に手を打たないといけないのだ。 

 

(何で死んじゃったのよ……貴女なら諦められたのに)

 

 かつて竜胆には恋人が居た、奏の双子の姉だ。

 だが彼女は死んだ、彼に大きな心の傷を残して。

 当時、自殺でもしそうな雰囲気の彼を救ったのは瑠璃姫。

 その事が感謝している、実際に話してみるととても良い子で、妙に気が合うのも友情を深める原因となった。

 

(あの日以来、竜胆は恋愛の話すら避けてきた。――今なら、私にもチャンスがあるかもしれない、これを逃すつもりは無いは。……例え、彼の親友である早乙女君を傷つけるとしても)

 

(なーんか考え込んでるな奏さん、雰囲気的に俺に恋してるから天の邪鬼な態度を取ってるの! って感じじゃねぇよなァ……)

 

(本当にごめんなさい早乙女君、瑠璃ちゃんにフォローする様に言っておくから)

 

(しかも何か覚悟を決めてるっぽいしィ……、いやでも覚悟を決めろ俺ッ!! 食堂なんて雰囲気の欠片もない状況だが言うぞッ、マジで告るぞッ!!)

 

 視線が交差する、奏は恋に殉じる覚悟でもって、敦盛は純粋な好意を胸に。

 そして、先に動いたのは敦盛であった。

 

 


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