親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです   作:和鳳ハジメ

24 / 60
第24話 キスなんて興味ない

 

 

 台所では雰囲気も何も無い、という訳でソファーに移動した二人であったが。

 

「で? ここからどーすんの?」

 

「…………あー、恋人繋ぎとか、ダメですかね?」

 

「なんで疑問系なのよ、奏にするようにって言ったでしょ。アンタ、あの子の前でもそうやって怖じ気ずくの?」

 

「やったらァ!! 手ェ出せッ!!」

 

「はいはい、威勢だけは良いんだから。――はい、これでいいかしら?」

 

 瑠璃姫の右手と己の左手を繋ぎ、指を絡ませる。

 彼の右手は彼女の腰に回され。

 

「このままキスするの? それじゃあ落第ね」

 

「まさか、――愛の言葉を囁かせてくれ」

 

「ふぅん、アンタがどうやって奏を口説くのかよく聞いておいてあげる」

 

「それじゃあ――…………」

 

 熱っぽく、色っぽく、恋している様に瑠璃姫を見つめ。

 ――目の前の彼女はとても綺麗だった。

 シミ一つない肌、勝ち気そうな目はよく見ると切れ長で耽美にすら思える。

 柔らかそうな唇、今からこの唇とキスをするのだ。

 

(俺は…………、何を、何て言えば良いんだ?)

 

 そして、言葉が出ない。

 口紅を付けていないのに赤い唇から目が離せない。

 けれど原因は、それではなくて。

 

「………………あっくん?」

 

「いやちょい待ち、タイム」

 

「ここで?」

 

(こんな形でコイツとキスして良いのか?)

 

 彼女はとても美しくて、――鮮明に思い出せる、あのベランダの夜の彼女の神秘的な顔を。

 彼女はとても温かくて、――正直、駄肉贅肉と思っていた体つきは非常に魅力的で。

 

(こんな俺の隣に居てくれているコイツに、こんな形でキスして……いいのか?)

 

 背筋がゾクゾクと震える、胃にずっしりと重苦しい熱い何かが生まれる。

 

(俺は……、俺、俺は……ッ)

 

 気づいてしまった、奏の代わりに瑠璃姫とキスするという罪深さに。

 気づいてしまったのだ、好きな人の代わりに、また違う魅力をもった大切な女の子とキスするという背徳を。

 だから。

 

「…………止めようぜ。これはダメだ」

 

「あら、どうして? 美少女とキスする絶好のチャンスじゃない」

 

「だがな……」

 

 体を離そうとする敦盛に、瑠璃姫は絡まった指に力を込めて。

 己の左手で彼の頬に手を添えて、逃がさない。

 簡単に振り払えそうな拘束、しかし今の彼ならば逃げないと確信して。

 

「ね、言ってよあっくん。愛の言葉、アタシは聞きたいわ」

 

「俺は……」

 

 力なく反らされる視線、彼女の口元は歪み。

 そうだ、これなのだ。

 

(ふふっ、うふふふっ、これが見たかったのよ――)

 

 彼女は確信していたのだ、敦盛がこのキスの意味に気づき行為を止める事を。

 二つの女性への好意に迷う、この瞬間を。

 ……瑠璃姫は、敦盛を泥沼に誘う様に己の顔を彼の耳元へと近づけて。

 

「大丈夫よあっくん、今アンタの目の前に居るのは奏。アンタがだーい好きな奏、よく見て? 長い髪、同じでしょう? 白い肌、一緒でしょう? 知ってた? 腰の細さ、殆どサイズが違わないの」

 

「――――~~~~ッ お前ッ」

 

「アタシを奏だと思って、愛の言葉をちょうだい?」

 

(なんでこんなことッ!!)

 

 耳元で囁かれるウィスパーボイス、意識してしまう、重なってしまう。

 瑠璃姫の髪が、黒く見えた。

 腰の細さを確かめるように、手が動いてしまう。

 白い肌から、目が反らせない。

 

 ――だからこそ、気づいてしまう。

 奏と瑠璃姫は違う、重なったからこそ浮き彫りになる。

 敦盛が好きなもう一人の女の子は、瑠璃姫の様な事を言わない。

 こんなに感情の籠もらない瞳で、微笑まない。

 そう、この状況で冷静に表面だけの笑みなど作らない。

 

(俺は、誰と一緒に居るんだ?)

 

 いつも一緒に居た女の子の、始めてみる顔。

 それが何を意味しているかは、まだ理解出来ないけれど。

 

「――――、綺麗だ、反則だよお前」

 

「あら、ありがと」

 

「気づかなかった、お前の髪がこんなに綺麗だなんて」

 

「いつも苦労して手入れしてるのよ、勿論あの子も」

 

「白い肌って、正直不健康に見えてた。でもこれってさ……神秘的って言うんだな」

 

「ふぅん?」

 

 流れが変わった、瑠璃姫はそう直感する。

 

(奏への言葉じゃない、――アタシへの?)

 

(届け、いや届かせる。奏さんじゃなくて、俺は、今この瞬間の俺は)

 

 視線が交わる、彼女の赤い瞳は無機質に彼を覗いた。

 彼の目はそれを受け止めて、感嘆の息を漏らす。

 

「バカみたいだ俺って、テメーのそんな。害虫を見るような目を魅力的に思うだなんて」

 

「酷い言い草ね。女の子への愛の言葉じゃないわ、――でも嫌いじゃないわよ」

 

「…………何を、考えてる? 瑠璃姫は俺に何を望んでるんだ? 代わりにキスしても、虚しいだけだろう俺もお前も」

 

 すると彼女は殊更ににっこり微笑んで、敦盛にはそれが猛獣の笑みに見えた。

 次の言葉が彼女の本音だと、そう確信する。

 そして。

 

「――――ねぇ、奏と竜胆がキスして……どう思った?」

 

「テメーは……」

 

「ねぇ、ねぇねぇねぇっ、好きな人が恋敵とあんな熱烈なキスしてっ、それで満更でもないしむしろ幸せそうな顔してっ、アンタはどう思ったのっ? アタシは知りたいのっ! アンタの心が知りたいのよっ!!」

 

 狂気すら感じられる勢い、だが不思議と敦盛は違和感なく受け止めている自分に気づく。

 きっと、これが瑠璃姫の心の確かな所の一部なのだと直感した。

 だから、無言を貫いて。

 

「ねぇ、ねぇ……答えて、答えなさいよあっくんっ? アタシを好きだと言った口で奏も好きだって言ってさ、その挙げ句に奏をかっさらわれてどう思ったの? キス、したいでしょう? 悔しいでしょう? いいよあっくんなら、その憤りをアタシにぶつけていいの…………」

 

 何も答えない敦盛に、彼女の心はささくれ立った。

 彼の、この幼馴染みの事など好きではないのに。

 彼が、己の親友の事を好きだという事実を。

 

(嗚呼、嗚呼、嗚呼…………、どうしてくれようかしらあっくん?)

 

 冷静に受け止めなければいけない、自分が天秤の片方に乗っている事を。

 瑠璃姫は熱い吐息を一つ、ゆるやかに彼と体を離して。

 

「このヘタレ」

 

「すまん」

 

「謝ったってもう遅いわ、時間切れ。何なのアンタ、まともに雰囲気一つ作れないじゃない」

 

「いやそれ俺だけの責に「――ホントに奏の事が好きなの?」

 

「――――…………は?」「んっ」「はァアアアアアアアアアアアアアアアっ!? い、今ッ、お前何したッ!?」

 

 敦盛の唇に、瑠璃姫の唇が重なった。

 ふい打ち過ぎた、虚を突かれた、あまりの言葉に怒るより先にキスが来て、彼の頭が真っ白になる。

 

(え、え? なんでッ!? なんでコイツキスしたッ!? いやマジでキスされたの俺ッ!? 何でッ!?)

 

 戸惑う彼の前で、彼女は己の唇を色っぽく舌で舐めて。

 確かにキスしたのだと、意識しろとアピール。

 それが分かっていて、敦盛は視線を釘付けになる。

 

「ふふっ、アンタの初めてのキス。貰っちゃった」

 

「お、おまッ!? オマエッ!?」

 

「残念ねぇあっくん? アンタはこれから一生、奏にファーストキスを捧げられないの……。あ、奏のファーストキスはきっと竜胆だからイーブン……いえ、あの様子だと何度もキスしてるわね」

 

「~~~~~~ッ!? だから何でッ!?」

 

「ホントにお気の毒さま、アタシで我慢してねっ」

 

「そう言うならもう一回してみろよバカッ!!」

 

「いいわよ?」

 

「は?」「んー、ちゅっ」

 

「二回目ェッ!?」

 

 顔を真っ赤にしてソファーから立ち上がる敦盛に、奏はニマニマと笑いながら告げる。

 

「これは先払いよ、――これから先、アンタがキスする事になったら思い出しなさい。アンタのファーストキスの相手がアタシで、…………アタシのファーストキスの相手がアンタだって。これは命令っ」

 

 いつもの様にからかう声色、しかして無機質で。

 そして、無味乾燥な瞳の輝き。

 

「~~~~~~このバカ女めッ!! 俺はメシ作りに戻るッ!!」

 

 逃げ出した敦盛は。熱さが移ったような唇の暖かさに、柔らかな弾力に。

 ――――奇妙な興奮と、焦燥感に溺れそうになっていたのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。