親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです   作:和鳳ハジメ

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第30話 青春をテメェと(なお全裸である)

 

 

「もう一度言ってみろ敦盛、今なら聞かなかった事にしてやる」

 

「何度でも言ってやる、――死んだヤツばっか見て奏さんを傷つけてるんじゃねぇ。今も完全に拒絶出来ずに抱いてるんだろう? この半端野郎がッ」

 

「はっ、奏も口が軽い奴だ」

 

「バカめ、これは俺の推察だ。引っかかったのはどのバカかな?」

 

「テメェ…………、マジでヤるつもりだな?」

 

 明らかに竜胆を責める敦盛、だが修羅場の経験値が違う。

 彼は怒りをぐっと堪えて、いつもの答えを崩さずに。

 

「敦盛、言っておくが挑発しても無駄だ。確かに俺はあの姉妹を弄ぶクソ男だろう。けどな、それはお前に言われる筋合いは無い、お前が奏を好きで、奏が俺を好きでも、俺は――」

 

「――奏に相応しくない、テメェはいつもソレだ。なぁ竜胆? お前は俺の気持ちを考えた事があんのか?」

 

「敦盛の? 訳が分からん、奏が好きなら自由に口説けばいいじゃねぇか。俺の出る幕は無い」

 

「それが考えてねぇって言ってんだよッ!! お前は見たことがあんのかッ!! 奏さんがいつも切なそうにッ、悲しそうにッ、テメェを見てるのをッ!!」

 

「――っ、そ、それは…………」

 

「俺は奏さんを愛してるッ、幸せにしたいって思った。けどなッ、奏さんはどう見てもテメェしか幸せに出来ねぇだろッ!! 中途半端なんだよッ、拒絶するなら奏さんを徹底的に避けろッ! 思わせぶりに側に置いてッ、それが一番残酷な事をしてるっていい加減に気づけッ!!」

 

 そう叫んだ敦盛の目は潤んで、竜胆の心の柔らかい所を刺激する。

 

(――――そうか、コイツも俺と同じ。届かない想いをっ)

 

 死んでいるから届かない、生きているからこそ届かない。

 違いはあれど、同じ。

 だが。

 

「分かってるのか敦盛……、それはお前の失恋に繋がってるんだぞ?」

 

「覚悟してなかったら、今この場に居ないッ!!」

 

「――――瑠璃姫さんの事はどうするんだ」

 

「テメェがそれを言うか? あのバカへの気持ちは忠誠心だとか言って、それが奏さんをどれだけ傷つけてるか知らねぇで」

 

「ならコッチも言わせて貰うが……、つまる所、テメェの行動は瑠璃姫さんを俺に取られたくないって言ってるの同じじゃねぇのか?」

 

「それがどうしたッ!! 奏さんを中途半端に拒絶してッ、忠誠心とか抜かして瑠璃姫の事も最初から諦めてるテメェよりかマシだッ!!」

 

「敦盛ぃ!!」

 

 竜胆は怒鳴った、確かにそれは彼が目を反らしていた事の一つだったからだ。

 あの日、恋人を失い命を絶とうとしていた彼を止めたのは瑠璃姫だった。

 その強さに、優しさに惚れた。

 

(でも敦盛、テメェが居たから俺はっ!)

 

 諦めた、奏達の気持ちも恋人への想いも残った状態で、これ以上を抱えたくなかったからだ。

 

「テメェが言えた事かっ!! ならどうして敦盛は瑠璃姫と恋人になってない!! お前なら押し倒しても許されるだろうがっ!! 据え膳も食べないで奏に現を抜かしてるのは敦盛テメェだろうがよ!!」

 

 その言葉に、敦盛の脳のどこかがプチンと切れる音がした。

 確かに事実だ、幼馴染みという距離が近くて見えなくなっていたなんて言い訳にもならない。

 否、それすらも言い訳、目を反らしていた言い訳。

 

「歯ァ食いしばれ竜胆おおおおおおおおお!!」

 

「ふざけんな敦盛いいいいいいいい!!」

 

 とうとう二人は、殴りあいを始める。

 敦盛がパンチを繰り出せば、竜胆は悠々と回避して同時に裏拳を。

 ダメージを気にせず、彼は竜胆の足を踏み。

 それはまたしても避けられ、逆に脛への蹴りを貰ってしまう。

 

「何が忠誠心だッ、何が相応しくないだッ!! 竜胆ッ、テメェは何でも持ってるじゃねぇかッ!! 顔も良くて成績も良くてさァッ!!」

 

「敦盛はメシを旨く作れるだろうがっ!! それに奏の事を俺より考えてくれるっ!! だから俺はテメェになら奏の事を任せられるって!!」

 

「ふざけるなッ!! 俺にッ、俺には何もないッ!! お前に理解できるものかよッ、瑠璃姫が隣に居る意味ッ!! アイツは同じ年なのに俺より金を稼いでッ、俺の親の借金も肩代わりしてくれてッ、しかも成績も顔も体も性格もだッ、全部、全部全部全部俺より遙かに上なんだぞッ!!」

 

「敦盛――――っ!?」

 

 劣等感の詰まった叫びに、竜胆は思わず足を止め。

 それが彼の頬に、強い一撃を与える原因となった。

 だがその痛み以上に。

 

(敦盛っ、お前、お前は――――)

 

 気づかなかった、でも言われてしまえばそれは当たり前の感情で。

 彼にとって敦盛と瑠璃姫の仲は、マンガで見るような典型的な、理想的な幼馴染みに見えていた。

 何か淡い青春の後、幸せなゴールを迎えるような関係。

 

(こんな俺がさ、奏さんを幸せに出来る訳がねぇんだよッ!! 瑠璃姫と恋人になって、幸せになれるのかよッ!!)

 

 お互いの母が居た頃は良かった、きっと周囲の大人の言葉をシャットアウトしてくれてたからだ。

 だがどうだ? 居なくなった途端、瑠璃姫と敦盛を比べる声は聞こえだして。

 

 瑠璃姫が引きこもった時は、とても喜んだ。

 でもそれは一瞬、外では彼女の才覚を知っていた大人たちは彼に彼女の復帰を求めて。

 家に帰れば、俗的な大人達の思惑を通り越して自由に才能を発揮し大金を稼ぐ姿。

 

(料理だって、アイツに負けない様にって。でもそれが何になったって言うんだよッ!!)

 

 早乙女敦盛は、幼馴染みである溝隠瑠璃姫に昔から恋心を抱いていた。

 でも同時に、強い劣等感を抱いている、今も。

 彼女と接する度にマウントを取ろうとするのも、セクハラするのも、その劣等感の裏返し。

 ――その事に、今まで目を背けていたのだ。

 

「答えろ竜胆ッ!! 俺はどうすれば良かったんだッ!! 奏さんを幸せに出来るのはッ、相応しいのはテメェだけだッ!! 俺に何が出来る? 何も出来ねえだろッ!!」

 

「敦盛……」

 

「俺は重ねてただけだッ、奏さんと竜胆の関係をッ、俺と瑠璃姫の関係に重ねてただけなんだッ!! テメェらがくっつけば、俺も報われるんじゃねぇかってさァ!! みっともねぇだろうがッ!!」

 

 敦盛の拳が力なく竜胆に届く、何回も、何回もその拳は竜胆の胸へと届く。

 そして。

 

「頼むよ竜胆…………、どうか奏さんを幸せにしてやってくれよォ……頼む、頼むよ竜胆…………」

 

 それでもなお、奏の幸せを願う姿に。

 竜胆は思わず敦盛を抱きしめた。

 

「――――もう、止めろ敦盛」

 

「竜胆ッ、俺はッ、俺は――――ッ」

 

「お前は気づいてないけどな、……だから俺はお前と親友やってるし、そういう所が奏を任せても良いって思ったんだぜ」

 

「竜、胆?」

 

「バカだなお前は、お前自身の一番良いところを理解してねぇ」

 

「俺の……一番?」

 

「幾ら弱音を吐いてもさ、テメェは諦めない。今も、奏の事を諦めない。――きっと瑠璃姫さんの事も、みんなで幸せになる事を、敦盛は諦めてない」

 

「それがッ」

 

「それを、強いって俺は思うぜ敦盛」

 

「竜胆…………」

 

 敦盛を抱きしめながら、竜胆は強く目を閉じた。

 彼が抱える劣等感、叫んだ悲痛な思いは本物だろう。

 だけど。

 

(奏に惚れてるのも、瑠璃姫さんが好きなのも、俺も含めて幸せになろうってのもさ、本気なんだよお前は)

 

 負けだ、これは完全に竜胆の負けだ。

 過去の囚われて、奏の事を思いやるフリをしていた己と。

 過去を直視して、なお前向きに行動した敦盛。

 ――親友として、誇らしく思う。

 

「………………お互い、無い物ねだりしてたんだな」

 

「ああ、そうかもな」

 

「お前は瑠璃姫さんや奏の隣に相応しい才能を、俺はお前の前向きな心を」

 

「そうだ、欲しかったんだ……」

 

 竜胆は敦盛を抱きしめるを止めると、彼の右手を強く握って真正面から見つめる。

 

「ありがとう敦盛。お前が親友で良かった。――奏との事、向き合ってみる。アイツを忘れてしまうようで怖かったけどさ。多分、それじゃあ幸せになれないんだ」

 

「ありがとう竜胆、俺は奏さんに恋してる。……でも一番大切なのは、きっと瑠璃姫なんだ」

 

 二人はそうして手を離すと、同時に握り拳と握り拳をぶつけて。

 

「俺達バカだな、竜胆」

 

「大バカ者だぜ、敦盛」

 

 そして二人は、新たな一歩を踏み出した。

 なお、青春の一ページという光景であったが全裸でもあった。

 

 

 

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