親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです   作:和鳳ハジメ

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第40話 愛の刻印

 

 

 ゆらり、ゆらりと歩きだし瑠璃姫は部屋の外に立ち去った。

 ぺた、ぺたと遠ざかる裸足の足音、だがそれで敦盛が安堵する訳がない。

 つまりそれは、これから行われる行為が恋人のソレのように甘いモノでは無い証拠である故に。

 

(セックスするって雰囲気じゃねぇなコレ)

 

 流石にもう、淡い期待などしていなかった。

 この状況で瑠璃姫が行う行為、それは敦盛への精神攻撃に他ならない。

 とすれば、予想出来る事は。

 

(――――まさかケツの穴を掘られるッ!? い、いやまさか、まさかまさか……あり得るッ!! アイツならやりかねんッ!!)

 

 敦盛は戦慄した、彼女は彼の肉体を傷つけないと言った。

 それは信じていいだろう、だが……籠絡しないとは言っていない。

 彼女が彼を知り尽くしている様に、彼もまた彼女を知り尽くしている。

 だから。

 

(俺より美味いメシを作ってくるって予想はしたが、肉体を責めてくるとはなァ……。予想よりちと早い、不味いなコレ)

 

 ははッ、と敦盛は自嘲した。

 こんな事になっても、こんな状況であっても。

 彼女の言うとおり、彼は彼女を好きなままだ。

 愛している、ままだ。

 

(――――ま、快楽ぐらい受け入れてやるよ。今の俺にはそれしか出来ないからな)

 

 不安なのは、経験した事のないアブノーマルな快楽に対して心が持つかどうかだ。

 快楽に心が負けてしまえば、瑠璃姫は今のまま死んだように人生を送ってしまう。

 それだけは、絶対に避けなければならない。

 

(――しっかし、アイツは「愛してね」って言ったんだよなァ。となれば俺が何かするって事だろうが)

 

 情報が少なすぎる、そう顔をしかめた瞬間であった。

 ぺたぺたと足音が近づいて、開きっぱなしの扉から彼女が。

 

「待たせたわね、じゃあシましょうか」

 

「…………待て、ちょっと待てよテメェ。その手に持つのは何だッ!?」

 

「耄碌したのあっくん? カッターナイフじゃない」

 

「なんでそんなモン持ってきたッ!? まさかマジで拷問するつもりかッ!? ――いや分かったぞッ、俺の薄皮をトコトンそれで切って遊ぶつもりだなッ!!」

 

 予想外の道具に戸惑うも、すぐに答えを当てたかに思えたが。

 どうだろうか、瑠璃姫はカッターナイフを敦盛に差し出して。

 次の瞬間、彼は耳を疑った。

 

「さ、アタシに愛を刻みなさいあっくん」

 

「………………え、誰が? 何をするんだ?」

 

「アンタが、アタシの肌を傷つけるの。――愛を、刻むのよ」

 

 それはどこまでも本気の声で、まっすぐに敦盛の瞳を射抜いて。

 己の肌に鋭い刃を突き立てろ、と要求する。

 

「ふざけんなッ!! なんで俺がそんな――」

 

「だってあっくん、アタシが傷つくのを嫌がるでしょう? 自分の事なら耐えられるけど、アタシの事は嫌がるでしょ? だから、ね、愛を刻んでよあっくん」

 

「誰がするかッ!! ああそうだよ、今も変わらずテメェが好きだよッ! だから分かんだろうがッ、絶対にそんな事するわきゃねぇだろうがッ!!」

 

「そう? ならアタシにも考えがあるんだけど」

 

 含みのあるトーンに、敦盛の第六感が警告を発した。

 経験上、これはとても不利な事態だ。

 そして今の瑠璃姫の、一線を越えてしまった状態では。

 

「…………何をするつもりだ」

 

「死ぬわ、アンタを呪ってアタシは死ぬ。そしてアンタは生き残るワケだけど、――餓死する前に発見させると良いわね?」

 

「そんな脅し、効果あると思ってるのか」

 

 極めて冷静に言い返す、だが動揺しているのは彼自身にも、彼女にも明白で。

 

(何かある、これ以上の何かがあるッ、どうする何が出来るッ、何を言えば良いッ!!)

 

(――でも、アンタは何も言えないわ。だってアタシは一線を越えてしまったんだもの)

 

(考えろ考えろッ、この状況でアイツは何を盾にするッ、何を盾にすれば俺の心が傷つくか――)

 

(ふふっ、必死で考えて、でも……遅い)

 

 敦盛が答えを出す前に、瑠璃姫は手に持っていたもう一つの物を見せる。

 彼の思考は彼女の天敵だ、先回りして答えを見つけだすからこそ彼は勝ち続けて。

 今度は――瑠璃姫の番だ。

 

「残念ね、あっくんが愛してくれないなら。死ぬ前にこの手紙をポストに入れておくわ」

 

「はッ、なんの手紙だ? 俺に負けたからって無様な言い訳でもするつもりか?」

 

「中身? 産まれてきた事を呪う言葉よ」

 

「――――――、は?」

 

「言ったでしょう? アンタは自分より他人を責められるのが嫌な性格よ。普通なら美徳なのかもしれないけど、今回は仇になったわね。そうそう、父さんだけじゃなくてオジさんにも、そしてね、……母さんとオバさん宛にもあるの」

 

 愉しそうに出された言葉に、敦盛の脳は理解を拒もうとした。

 しかし、意志の力で無理矢理飲み込んで。

 

(最悪、だ――――ッ)

 

 顔が青くなっていくのが分かる、冷や汗が止まらない。

 暖かい筈の部屋が、妙に寒く震えが止まらない。

 考えを、改めなければならない。

 

(一線を越えただけじゃねェ!! コイツはッ、瑠璃姫はッ、自分を犠牲にしても俺を傷つけるっていうのかよッ!!)

 

 もはや退屈だとか、エコノミー症候群がどうのと言っている場合ではない。

 敦盛の対応一つで、言葉一つで、親達が不幸になる。

 親だけではない、クラスメイトや他の見知らぬ誰かだって――――。

 

「~~~~ッ、やるしか、ねぇのかよッ」

 

「物分かりが良くて助かるわあっくん、右手だけ自由にしてあげるから、さ、愛をアタシに刻んで……」

 

 解放される右腕右手、差し出されるカッターナイフ。

 瑠璃姫は聖母の様に慈愛に満ちた表情で、敦盛の手を優しく誘導。

 チキチキと刃が出る音、彼女の綺麗なシミ一つ無い肌、乳房、心臓部に先端があたり。

 

「~~~~~~ッ!!」

 

「嗚呼……」

 

 ぷつ、と嫌な感触、少しだけ血が滲む。

 敦盛は恐怖と嫌悪と罪悪、怒りと悲しみと後悔に震えそうな手を歯ぎしりしながら我慢して。

 

「ふふっ、愉しいでしょあっくん。アンタの気持ち一つで刃がずぶずぶ沈んでいく。一生消えない傷になる、いいえ、そのまま死んでしまうかもしれないっ」

 

「やめて、やめろ、やめてください……」

 

「だぁめ、最初はそうねぇ。愛してるって刻んで、ほら早く」

 

「ううッ、あ、あァ――――ッ」

 

 心がぐちゃぐちゃで、視界が滲みそうだ。

 でも手元を狂わす事だけは、絶対にしてはいけない。

 唇を強く噛み、血がたらりと。

 

「嗚呼、嗚呼……、痛い、痛いわあっくん……アンタの気持ちが伝わってくるみたい――――っ」

 

「やめてくれ、やめてくれよォ……謝るから、なんでもするから、やめてくれよ…………」

 

「名前、そう、名前を刻んであっくん、アンタの名前をっ、アタシがアンタの恋人になったって証を、あはっ、あははははははっ、ねぇどうなのっ!? 恋人にカッターナイフで自分の名前をっ、玩具みたいに名前を掘るのって、どんな気持ちっ、ねぇ。ねぇねぇねぇっ!!」

 

「~~~~ッ、ぁ、ごめん、ごめん、ごめん、ごめんなさい瑠璃姫ッ」

 

「もっと、もっと刻んでっ、雌豚って切り刻みなさいよセクハラ男っ、正の字もっ、マゾオンナって、敦盛専用肉便器って、さぁっ!!」

 

 白い肌が赤い筋で埋まる、大きな乳房が蠱惑的な形を保ったまま血で染まる。

 胸元が、腕が、腹部が、背中が、足が、股間でさえも。

 染まる、敦盛によって血で染まる。

 

(誰か……誰か、助けてくれッ)

 

 過激すぎる愛の営みは、服で隠せる部分が無くなるまで続き。

 その後、茫然自失となった敦盛は血塗れのままの瑠璃姫に口移しで食事をさせられたが、当然味が分かる筈も無かったのであった。

 

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