親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです   作:和鳳ハジメ

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第49話 封鎖

 

 決死の覚悟のたった一人、欲望に突き動かされた多数。

 そんな鬼ごっこは敦盛の逃走により呆気なく終わる、――少なくとも開始数分まではそういう流れであったが。

 

(チッ、やっぱり一筋縄じゃいかねぇか……つか詰んでねこれッ!? ああもうッ、どうすりゃ良いんだよおおおおおおおおおおおッ!?)

 

 恐ろしきは欲望の力か、クラスメイト達は普段からは考えられないチームワークを発揮して。

 

(やけに先回りされてると思ったんだよッ、チクショウ……誘導されてたなコレ。校門を封鎖する為の時間稼ぎに乗っちまったって事かッ)

 

 今は校門近くの茂みに隠れては居るが、時は敦盛の味方をしてくれない。

 追加の人員が来て、校門の周囲から調べ始めている。

 位置が悪い、このままだと直ぐに見つかるだろう。

 

(――――賭けに出るか、アイツらも力付くで来るんだ殴られる覚悟ぐらいしてるだろ)

 

 何もこの場に居る全員を相手にする必要は無い、校門の二人、調べている二人。

 

(全力で駆け抜けて、校門前の一人にジャージを被せる。そんでそのまま外へ)

 

 外に出ても彼らは追ってくるだろうが、何処までもという訳にはいかない、……恐らく。

 

 そして全力疾走で家に行けば。少なくとも瑠璃姫やクラスメイトはまだ居ない、……恐らく。

 

 もしくは途中で引き返して再び学校内へ、或いは竜胆や円の家へ、現段階ではまだ手が回っていない筈だ、……恐らく。

 

(恐らく、恐らく、恐らく…………ケッ、嫌になるな。全部が不確実で一歩間違えば終わるじゃねーか)

 

 だがグズグズしている暇は無い、敦盛は意を決して茂みから飛び出し、直後。

 

「止まりなさい早乙女君!! 竜胆と円がどうなっても良いの!!」

 

「――――竜胆ッ!? 円ッ!? ズリィぞ奏さんッ!?」

 

「むーむー!!」「もがもがもがっ!!」

 

「足を止めたな敦盛ぃ!!」「今だかかれ!!」「好感度メガネの為に!」「あの子の好感度の為に!!」

 

「しまったッ!? 離せテメェらァああああああああああ!!」

 

 哀れ、敦盛は捕まってしまってガムテープでぐるぐると。

 だが今は、それを気にしている場合ではなく。

 

「なんで二人を人質にしてるんだよ奏さんッ!? つーか竜胆をこんな事に利用して良いのかよッ!!」

 

「大丈夫よ、――竜胆は貴方達二人の様に、この後一週間は私と蜜月を過ごすから」

 

「竜胆おおおおおおおおおおッ!? テメェもっと頑張れよッ!? 俺だけじゃなくてテメェもヤバいんじゃねぇかッ!?」

 

「モガアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「むむむぅ……」

 

「ニュアンスは分かるが、何て言ってんのか分からねぇよ…………」

 

「ふふっ、竜胆をゲット出来て好感度メガネもゲット。これぞ一石二鳥って事ね!」

 

 嬉しそうにする奏は、とある事に気づく。

 思いの外、大人しいのだ敦盛が。

 この状況なら、どんな犠牲を払ってでも竜胆と円を解放しようと暴れると踏んでいたのであったが。

 

(――捕まったまま、叫びこそすれ。いえ、このまま瑠璃ちゃんの所に行けるのなら楽なのだけれど。……その前にあの人は来てくれるかしら)

 

(はッ、一瞬焦っちまったけど……、これは悪手だぜ奏さんッ!! テメーは大切な事を忘れてるッ!!)

 

(どうにも不自然だわ、全裸になってでも学校まで来た早乙女君が……何を考えてるの? まだ何か手があるっていうの? いえ、私の考えが正しいのならば考えてる事は一緒で――――)

 

(賭けだ……これはさっきのより本当に賭けだ、逃げ出す目が出てくれば重畳、最悪諸共に……)

 

 昇降口へ視線を向ける敦盛、その目は死んでおらず、その額には脂汗が。

 奏もまた同じ事に思い至って、ならば。

 

「――――不味いっ!! 今すぐにこの場から離れるわよ皆っ!!」

 

「どうしたんだ福寿さん、早乙女も抵抗諦めたみたいだし。増援を待ってからでも……」

 

「それじゃ遅いのっ!! ほら早く早乙女君を立たせてっ!!」

 

「どうする?」「まぁ従うとすっか」「分け前が減るもんな」

 

 彼らは奏の言うとおりに、二人が敦盛に付き、残る二人が円、竜胆は奏自身がしっかり管理して。

 だが、その瞬間であった。

 

「――――――――ねぇ、教えてくれないかしら? 私の愛しい円を連れて……何処へ逃げようって言うの?」

 

「来たッ!! 助けて伊神先輩ッ!!」

 

「しまった遅かった!?」

 

「もが!!」「もがもがっ!?」

 

「あ、やべ」「詰んだ?」「いや俺は逃げる」「三十六計逃げるってね!」

 

 そう、やって来たのは校内の頂点とも言える美人で。

 同じく戦闘力も校内頂点と囁かれる――伊神火澄。

 夕日の様に赤い髪が特徴的な、校内最強。

 

「確か円のお友達の……竜胆って子の恋人さんで福寿奏さん、だったかしら? 良い度胸してるわ誉めてあげる、混乱に乗じて自分の恋人を確保しただけじゃなくて、――――私の大切な、とても大切な円まで連れて行ってしまうなんて」

 

「あ、いえ、伊神先輩……これには……、そ、そう事情が!! 事情があって」

 

「具体的には?」

 

「だって好感度が見えるメガネですよ! しかも竜胆を私が独占するチャンスでもあるんですよ! な、なら――私は竜胆の親友だろうが、私に好意を抱いてくれている人だって犠牲にするわ!!」

 

「………………へぇ」

 

 殊更に冷たい声が響いた、誰もが伊神火澄が発するプレッシャーに硬直して。

 だがその中で、敦盛は必死になって思考を巡らせていた。

 これはチャンスなのだ、この場から逃げ出せる絶好の機会なのだ。

 

(伊神先輩の嗜好は円から聞いてるッ、――問題はどう訴えるかだ、先輩が好む様に、それでいて俺に有利になる様に……)

 

 親友の恋人であるが故に、結果がどうなるか未知数であるが故に、最初から可能性から排除していたジョーカー。

 ただ美人で、ただ強くて、それだけで伊神先輩がここまで恐れられている理由にはならない。

 

 ――――悪癖、他人の色恋において横恋慕や、屈折した愛情等の関係のカップルに好んで口を出し、容赦なく悪化させる悪癖が彼女にはある。

 

(結果的に上手く行くから一部ではキューピッド扱いだけどさァ……、円もよくこんな人を……いや俺が言える事じゃねぇか)

 

 ごくりと唾を飲んで敦盛が訴えようとしたその時だった、伊神先輩はツカツカと足音を立てて奏の前に立ち。

 その顔をじっくり覗き込む、奏は目を反らす事も出来ずに受け入れて。

 

「――――つまらないわね」

 

「い、伊神先輩? どういう事ですか?」

 

「つまらない、と言ったのよ福寿さん。……貴方は強い、こんなつまらない手を使わなくても恋を成就させるでしょう、でも心意気は買ったわ、円を利用した事は許してあげる」

 

「ちょっと待ってくれよ伊神先輩ッ!?」

 

「早乙女敦盛、ふふっ、いつも円がお世話になってるわ。この子の親友で居てくれて私も嬉しいの」

 

「あ、それはどうも……じゃなくてッ! 俺を助けてくださいッ! このガムテを剥がしてくれるだけで良いんでッ! お願いしますッ!!」

 

「いやよ」

 

「そこを何とかッ!」

 

「残念ながら、答えはノーよ早乙女君」

 

 くつくつと笑いながら、彼女はゆっくりと歩き円の口を封じていたガムテを剥がす。

 彼を受け持っていたクラスメイトは、思わず飛び退いて。

 

「ちょっと待ってよ火澄ちゃん、……敦盛の力になってくれないかな。俺からも頼むよ」

 

「いくら円の頼みでもそれは聞けないわ」

 

「理由は? 俺が納得出来る理由を言ってよ火澄ちゃん」

 

(が、頑張れ円!! お前だけが頼りだ円!!)

 

 敦盛の期待の視線を受けて、円は恋人に鋭い視線を送る。

 しかし、彼女は微笑んで首を横に。

 

「――――だって、面白そうじゃない。愛でも恋でも無いのに早乙女君を手段も外聞も選ばず独占しようとする彼女、そしてそんな彼女を今も愛してる早乙女君…………、嗚呼、なんて面白そうなのでしょう!!」

 

「あ、これダメだ敦盛」

 

「もっと粘れよ円ッ!? テメェ諦め早すぎだろッ!?」

 

「いやでも敦盛、長いこと火澄ちゃんの側で見てきた身からすると。君と溝隠さんは相当に歪んだ関係だろ? 二人だけじゃ解決しないから敦盛も逃げ出したんだし…………ここらで俺達が間に入って、解決の糸口でも見つけられないかな?」

 

「正論が痛いッ!! 確かにそうだけどッ、敢えて言うがテメェらは瑠璃姫を知らないから言えるんだッ!! アイツに引き渡されたら最後、俺は――俺はあああああああああああ!!」

 

 最後の賭けに負けた、負けたどころか考えられる最悪のパターンを引いた。

 その事に、敦盛は絶望的な気分になって。

 

「さ、行きましょう皆。ふふっ、楽しみだわ……どんな修羅場を見せてくれるのかしらっ!!」

 

「…………本当にごめんなさい早乙女君、実は先輩が暴れてくれる事を期待して、それで貴方を逃がそうと考えてたんだけど」

 

「ちなみに竜胆の事は?」

 

「ああ、それは本当よ」

 

「もがッ!? もがああああああああ!?」

 

「あ、君は助けないからね竜胆」

 

「もっがあああああああああああ!!」

 

 もがく竜胆の声をBGMに、敦盛は強制連行されて行くのであった。

 

 

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