親の借金で素直じゃない幼馴染のペットになったけど、俺への好意が丸見えです 作:和鳳ハジメ
「馬になってあっくん、ご主人様を二階まで運ぶのよっ」
「俺の世間体ッ!? というか二階までってどういうこったよ、お前乗せて階段上がれって言うのか?」
「バカなのあっくん? 当たり前じゃない」
「不思議そに言うなッ!? せめておぶってとかお姫様だっことかあるだろッ!!」
上履きに履き替えた途端、これである。
確かに敦盛は彼女のペットとなった、だがこれでは奴隷と変わらないではないか。
「――条件がある」
「あら、てっきり断固拒否すると思ったんだけど?」
「は、テメー相手に負けを認めるものかッ!! いいぜ二階まで運んでやるッ、だがな…………俺の顔にお前のケツを乗せろ、それが条件だ」
「世間体はどうしたのよおバカっ!? そんなのこっちが断固拒否よ、何が悲しくて久しぶりに登校したのに変態行為しなきゃいけないワケっ!?」
「俺を馬にして上まで行かせようとした時点でアウトだろ」
「はぁ? それはセーフなんですけど? むしろ変態のアンタを支配してるって意味でアタシの評価にプラスなんですけど?」
「ほう? この俺を支配するって? なら俺も考えを改める、――お前の思うよう背中に乗れ、ヘイッ! カモーーーーンッ!!」
即座に四つん這いになる敦盛に、瑠璃姫はタジっと一歩下がる。
このパターンはダメだ、ろくな展開にならない。
そう経験上悟った彼女は、恐る恐る問いかける。
「…………あっくんあっくん? 念のために聞くけど、アタシが乗ったらアンタどうするワケ?」
「決まってるだろ、お前のケツの肉感だとか体温の感じだとか大声で実況して、――そうだな、ペットであることを嬉しいと大声で叫びながら馬になる」
「乗るわけ無いでしょうがっ!? 馬にさせられるぐらいで自爆技使うんじゃないわよっ!?」
「男には……やらなきゃならない時があるんだぜ」
「本音は?」
「ウケケケケッ、テメーだけに良い思いさせるもんかテメーの所為で俺が損するなら諸共に自爆してやらぁッ!!」
「懲戒免職する? 懲戒免職いっちゃう?」
「わかった、今この場でお前の性奴隷として高らかに誓いの言葉を叫ぶから許してくれ」
「じゃあ許すから、性奴隷としての誓いを言ってみせなさいよ」
「…………」
「…………」
「………………え、マジ?」
「マジマジ、大マジ」
瑠璃姫が世間体を捨てられなかったから、敦盛が調子に乗るのだ。
ならば、彼女も羞恥心と共に世間体も投げ捨てるまで。
「別にいいのよアンタがペットだろうが性奴隷になろうが、アタシへのエッチなお触りは禁止だし。むしろ童貞のままアンタを飼ってると自慢してやるわ」
「コヒュー、コヒュー、コヒュー」
「あはははっ、なに変な呼吸してるのおかしいったらありゃしないんだからっ、うぷぷぷぷ~~アンタが望んだんでしょ性奴隷になるって言いなさいよ」
「ううッ、ぐぐぐぐぐぐぐぐッ、こんにゃろめェッ!!」
不味い、非常に不味い事態だ今の敦盛にはやり返す言葉が見つからない。
だが言葉を撤回するのは負けだ、朝のやり方ならと過ぎるが恐らく無駄だろう。
瑠璃姫の鋭い眼光は彼の変調を見逃さず、口を開く前に先手を打たれる筈だ。
(まだ、――まだここで諦める訳にはいかないッ! ここを耐えれば勝機が来るッ)
(チェックメイト、……いえ違うわ、あの目はまだ諦めていないっ)
交差する視線、瞬間、敦盛の瞳が校門の方へ動く。
(頼むッ、ウヤムヤにする手段は、一人だけでもッ)
(左? 何を見た――ちっ!! しくったっ! ここは家じゃなくて学校っ!!)
一秒にも満たない刹那、二人の思考は回転し。
(気づかれたッ、先手を打たれる前にこっちからアプローチ、だが何を言えば、スカートめくりしかねぇッ!)
(読めたわ、待ってるのねオトモダチを。そして少しでも時間を稼ぐ為にそう右手が動き出すっ、見え見えなのよアンタの手はスカートめくりするつもりね!!)
次の瞬間、敦盛の右手首を瑠璃姫が掴む。
彼は本能的に左手で敢行、それも彼女は制して。
「俺の両手を封じてどうするつもりだ? キスしてくれるのか?」
「お生憎様っ、こうするのよっ!」
「~~~~ッ!? あだだだだだだッ!! テメッ、足を退けろォ!?」
「オーッホッホッホッ、可愛いペットちゃんは次にどう動くの? まさか頭突きでもする? 公衆の面前で暴力を振るう?」
「卑怯者めェ……、だが暴力はお前の方じゃないか?」
「あら、自分の評価を考えてみたら? 非モテセクハラ男を取り押さえる美少女、傍目から見ても悪いのはドッチ?」
「………………そう、か」
ギラリと、敦盛の目が輝く。
屈するのは簡単だ、馬になるのも仕事の範疇かもしれない。
だが――譲れないモノがある。
(頭と顔と体だけのコイツに負けてられるかってーーのおおおおおおおおおおおおッ!!)
敦盛は別に瑠璃姫を軽んじている訳ではない、むしろその逆だ。
その美貌も、才覚も、明るい性格も、全てそう全て認めている。
故にだからこその、コンプレックス。
彼女の勝利しないと、幼馴染みとして隣にどうして立てようか。
「――グッバイ、俺のファーストキス…………」
「ちょっとアンタ、何そんな変な覚悟決めてるのよっ!? ぎゃーーっ!? ぎぃやああああああああっ!? 顔を近づけるんじゃないぶっ殺すわよっ!!」
「そう思うなら手を足を退けるんだなッ、光栄に思え貴様のファーストキスの相手はこの俺だッ! 言っててちょっと気持ち悪くなったからキスした瞬間吐くかもだが気にすんなッ!!」
「マジで青い顔して言うんじゃないっ!? 美少女の唇奪おうとして吐くとか何考えてんのっ!? 吐きたいのはこっちだわ、なんでアンタなんかとキスしなきゃいけないのよっ!!」
「なら早く降参しろォ!! 俺は世間体も尊厳もファーストキスも諦めたぞォ!!」
「ぐぎぎぎぎぎぎっ、負けるものですかっ、アンタなんかに負けるものですかああああああああああ!!」
だが悲しいかな、身体能力では敦盛が上。
二人は不本意過ぎるファーストキスに秒読み、だがその瞬間であった。
「チェストオオオオオオオオオオオオ!! 敦盛キサムァ!! この人生五十年男め俺の女神になにしてるんだっ!!」
「ちょっと敦盛から離れてよ溝隠さん!! オレの親友にはもっと良い人と結ばれて貰うんだからね!」
「助かったがテメェ女の趣味大丈夫か竜胆ッ!? んでもって円はちょっと俺の事好きすぎじゃねぇのまた婚約者に怒られっぞ!?」
割って入ったのは二人、一人は眼鏡をかけたイケメン、顔の傷が特徴的なイケメンで――何故か瑠璃姫に惚れている入屋見竜胆。(いりやみ りんどう)
もう一人は、女子の制服を着た――男子。
女顔が特徴の、婚約者から偏執的な愛情を注がれている樹野円。(いつきの まどか)
彼らは、敦盛の親友であった。
という訳で、後は一日一話投稿予定です。
とりま60話前後で一区切り/完結の予定です!