地底人迷宮譚~迷宮を差し置いて遺跡に潜るのは間違っている~ 作:筆記者カレル
精霊──それは古の誓約により地上にて権能を振るえぬ神々に代わり、
しかし、それとは別にもう一つ『精霊』と呼ばれるものが存在することを知る者は少ない。無理からぬことではある。何故ならそれはほんの五年前、狩人の来訪と共に外宇宙より流入した異物であり、既存の精霊とは同名ながら全く別の概念なのだから。
精霊。それは上位者と呼ばれる神の如き領域外生命の先触れであり、総じて多種多様な軟体生物の姿を取った。神の端末たる精霊のように
中でもナメクジの形をした精霊は、とある見捨てられた上位者の痕跡であるとされる。イズの碑に巣食うそれら軟体生物との邂逅こそが、ビルゲンワースが地下遺跡に宇宙を求めた探求の始まりとなったのである。
「最近、こいつが可愛く思えるようになってきたんだ」
「キミの人間性も限界と見える……」
場所は狩人の夢、その隠れ家。今日も今日とて狩人による神秘の教示が行われていたが、教え子の立場にある【
それは淡く発光する白い粘液を滴らせ、青白い体躯をのたりのたりと蠢かせていた。大きさは両掌に乗る程度で、細長い二対の触覚を気ままに揺らめかせている。体色の異常を除けば、その姿は紛うことなきナメクジであった。
このナメクジは《エーブリエタースの先触れ》と呼ばれる精霊の一種である。これはかつてビルゲンワースが見えた秘儀であり、また見捨てられた上位者──星の娘、エーブリエタースの踪跡に生じた残影である。
精霊は上位者の痕跡であり、故に神秘の力を宿す。見捨てられた上位者の精霊の中でも特に大きな個体であるこれは、より強固に大元と繋がっており、その身を媒介にエーブリエタースの一部を召喚することを可能としていた。
リヴェリアは茫洋とした眼差しで、自身の掌の上で蠢くそれを眺めていた。先の発言はまさにこのナメクジを指してのものであり、彼女の精神状態が平常にないことを如実に示している。
本来ナメクジなど、地域によっては某御器噛り以上に忌避される不快害虫の代表みたいな存在である。清らかなアルヴの森のエルフ……それも王族の血統に連なるいと高きハイエルフの姫君が、あろうことかナメクジをその御手に乗せ、
「……心配せずとも、我を失うほど神秘に魅入られているわけではない。ただ長いこと触れ合っていたせいで愛着が湧いただけだ。最初は気味が悪いと思ったものだが、近頃はこいつの青白いぬめりが妙に肌に心地良く……」
「アウトーはいアウトー。それは没収しまーす」
「ああっ、待ってくれ! あと少し、あと少しで神秘を感じられそうな気がするんだ!」
普段の理知的な態度はどこへやら。リヴェリアはまるで玩具を取り上げられた子供のような泣き顔で
「むう、些か乱暴すぎやしないか? 一応あれは神の遺物なのだろう。そんな粗雑に扱って、もし弱ってしまったらどうするのだ」
「その時はまたイズに取りに行けば良い。会おうと思えばいつでも
それに弱るも何も、そもそも精霊は生物じゃない。この世界の精霊が神意によって動く意思ある
まるで意思があるかのように動くし、中にはそれこそ虫のように脱皮すら行う種もいるが、少なくとも彼ら精霊は人の尺度で定義するところの“生物”ではない。彼らには彼らなりの生態系があり生命の理があるのかもしれないが、少なくとも低次元の思考領域に生きる人類には到底計り知れぬ法則下に息衝いていることは言うまでもないだろう。
それでも敢えて分かりやすく表現するならば、彼ら精霊は上位者から剥落した肉片である。基督教に表されるところの
「キミの熱意に免じて触れることを許可してるけど、正直に言ってこれ以上神秘の領域に踏み込むのは歓迎できないなぁ」
「……それは、私に神秘の才能がないからか?」
「そうだと言えるし、そうでないとも言える。あくまで私見になるけど、リヴェリアの才能は極めて中途半端……というより歪だ。神秘を
まず以て神秘を知覚し、その力を操る適性がない。それこそ『生まれるべきではなかった』カインと同等かそれ以下の才しかないのは確かだ。その証拠に、彼女がどれだけ働き掛けようと《エーブリエタースの先触れ》は一切の反応を示さなかった。
しかしそれとは反対に、リヴェリアは神秘の探求という学問の分野には極めて非凡な能力を示していた。正しく一を聞いて十を知るの典型であり、もしカインが意図して渡す情報を絞っていなければ、彼女は容易くかつてビルゲンワースが辿り着いた領域に到達していた可能性すらある。
もし輸血を施し、遺志を力に変える狩人として覚醒すれば、リヴェリアはカインでさえ足元にも及ばぬ強力な術者に成長するだろう。彼女に足りないのはあくまで神秘を操る
しかし、それはあり得ない仮定である。何故ならリヴェリアを狩人にするということは、彼女を
カインにとってロキは、突然異邦の地に飛ばされ右も左も分からなかった彼に人としてオラリオで生きていく術と場所を与えてくれた
しかるに、ロキのお気に入りの一人であるリヴェリアに血を与え狩人にしてしまうことは重大な背信行為となる。確かにリヴェリアがどこまで神秘を極められるかは興味深いところだが、そんな浅はかな理由で彼女に道を踏み外させるわけにはいかないだろう。
そして遺志によってリヴェリアの神秘
押し並べて、神秘に抗う術もないのに神秘を知り過ぎることは身の破滅に繋がる。狩人のステータスに示される神秘技能の値とは、単純に身に備わった神秘の力を数値化しただけではなく、どれだけ神秘の智慧が齎す宇宙悪夢的狂気に耐えられるかを示す指標でもあるのだ。
神秘の精髄は常に深淵の底にある。しかしそもそも精髄に在らねば、深淵の底に蟠る宇宙の渾沌に呑まれ容易く気が触れてしまうだろう。その二律背反、悪辣な
リヴェリアはその聡明さ故に、些細な切っ掛けでどこまでも狂気の深淵に落ちていくだろう──狂気に抗う術を持たぬままに。
それが明白だからこそ、享楽的な物の考え方をするカインでさえリヴェリアの前では慎重だった。彼は世間一般には外道とされる側の人間であり、己の興味関心のためならば冒涜すら辞さぬ外法の徒だが、それでも安易に踏み躙ってはならない一線があることは知っている。まして、それが同じ神を仰ぐ大事な仲間ならば尚更だ。
「まだ見ぬ
「それもある。……だが、私が神秘を求めるのはもっと即物的な理由だよ。要は力が欲しいのさ」
端正な美貌を僅かに陰らせ、リヴェリアは自嘲するようにそう言った。
フィン・ディムナ。ガレス・ランドロック。リヴェリア・リヨス・アールヴ。ロキ・ファミリア結成時より中核として在った彼ら大幹部三人は、冒険者となるにあたり各々がある誓いを立てた。
フィンは“一族の再興”を──衰退した
ガレスは“熱き闘争”を──数多の強敵との血沸き肉躍る戦いこそが我が本懐。
そしてリヴェリアは“まだ見ぬ世界”を──世に遍く未知を既知へと変える、叡智に至る旅路こそ我が冒険であると。
リヴェリアは魔導の探求者である。彼女が魔導士となる道を選んだのは、生得的に魔法に秀でた種族であったからという理由も大きいが、それ以上に魔導の探求こそが真なる叡智……この世の真理に至れる可能性が最も高いであろうと考えたため。
だが、もう何年もリヴェリアは同じ場所で足踏みしていた。Lv.6になったのが約七年前で、それ以降は本当に微々たる成長しかしていない。既存の魔法式を組み替えて九つの魔法を操れるようになったのまでは良かったが、それ以上の成長の可能性は現状のままでは無きに等しいだろう。九つの魔法を操る【
ファミリアの団長であるフィンの名声は比類なく、オラリオどころか世界中にその勇名は轟いている。もはや【
ガレスに至っては、ダンジョンに挑む限り常に目的は達成され続けているようなものだ。Lv.7である
対して、リヴェリアが立てた誓いだけはその果てが見えなかった。まだ見ぬ
長命種たるエルフの生涯を以てしても、先端にさえ手が届くかどうかも怪しい難行だ。だからこそ挑み甲斐があるとも言えるが……しかし、その偉業の先にきっと仲間はいない。
考えてみれば当然の話だ。エルフであるリヴェリアと、
何より、恩恵を受けているのはリヴェリアとて同じなのだ。ただでさえ長命なエルフが、Lv.6という最上級の器にまで
常軌を逸した長い生と、遥かな理想。それが仲間と歩む道程に決定的な齟齬を生んでいた。
フィンとガレスは稀代の傑物だ。必ずや存命の内に誓いを果たすだろう。しかしリヴェリアの目指す先は果てなき故に、恐らく二人が生きている間に誓いを全うすることができない。そして仮に全うできたところで、その時には既に仲間は誰も残っていないに違いなかった。
最初はそれで何も問題はなかったのだ。リヴェリアの誓いはあくまで彼女一人だけのものであり、自分以外の誰が介在する余地もなかった。
しかしロキ・ファミリアの眷属として冒険を続ける内、いつの間にか彼女の中で仲間の存在は非常に大きなものに変化していった。孤高の内に成し遂げられる筈だった探究の道も、いつしか親しい仲間と共に同じ景色を見たいと願うようになったのである。
……何より、自分一人明確な成果を上げぬまま仲間に先立たれるのは癪だった。きっとフィンとガレスはやり遂げた顔で満足げに大往生するだろう。そこにリヴェリア一人だけが理想を果たせぬまま取り残されるのは、寂しさ云々以前に腹立たしさが先に立つ。
それを何とかしたいならば、フィンとガレスが存命の内に誓いを果たすか、それができずともその一歩手前に至れる程度までは歩みを進める必要があるだろう。要は可及的速やかに胸を張れるような成果を上げることが望ましい。
そのためには長命種であることに胡坐をかいてのんびりと構えていたのでは間に合わない。人として、魔導士として、そして冒険者として、できる限り早急に位階を上げる必要があった。
そこでリヴェリアが目を付けたのが、カインが操る異端の魔法……《秘儀》であった。
魔法が天然自然に遍在する魔力というエネルギーを燃料に発動する術であるのなら、秘儀とは上位者が住まう暗黒宇宙から降り注ぐ星の徴──即ち神秘を媒介に超常現象を引き起こす術である。
異端とは文字通りの意味であり、秘儀はその由来から原理に至るまで魔法とは根本的に異なる外法の業だ。魔力は一切消費せず、己の血と水銀の混合物と、精霊やそれに類する器物を触媒に神秘の力を行使する。
そして何よりも──秘儀は魔法ではない故に、魔法スロットを必要としない。
この性質は従来の魔導士の常識に真っ向から喧嘩を売るものだった。カインが扱う秘儀の種類は全部で十二。特殊なスキルもないのにリヴェリアが行使可能な魔法の数を余裕で上回っているのがその証だ。
もし秘儀を体得できれば、リヴェリアの後衛魔導士としての能力は飛躍的に上昇するだろう。たとえカイン程の威力は発揮できずとも、魔力を消費せず術が行使可能というだけで取れる手段は大幅に増加するのだ。有効な立ち回りや戦術など幾らでも考え出せる。
加えて、神秘という宇宙由来のエネルギーを魔導に組み込み、新たな魔法を生み出すことさえ可能かもしれないのだ。探求者として、この降って湧いた未知の技術を放っておくことなどできよう筈もない。
繰り返すが、リヴェリアの目的は全ての未知を駆逐し、以て世界の理を拓くことだ。真理の探究は果てなき旅路。人の身で全知に至ろうとするならば、やはり人を超えねば話にならない。
そして、人のまま人智を超越するための手段は既に持っている。器を昇華させ、矮小な人の魂を神の位にまで引き上げる超越の奇跡『
神秘の力はその切っ掛けになり得るのではないかとリヴェリアは睨んでいた。
では、神秘などという全く未知の概念に触れることはどれだけの経験になるだろうか。全知全能たる神々でさえ知り得ぬ埒外の異法との邂逅は、果たしてリヴェリアの恩恵に如何なる化学反応を引き起こすものか──
「要はフィンとガレスに置いて行かれたくないわけだ。
そのために早いとこランクアップしたくて、単純な戦力強化と
ついでに神秘という未知の概念に触れることで知的好奇心も満たせて一石二鳥やったぜイェイという寸法か」
「当たり前のように私の思考を読むのはやめてくれないか。あと、どうでも良さそうに三行に纏めるんじゃない。結構切実に悩んでいることなのだぞ」
悪夢の上位者とは、謂わば感応する精神である。この世界の神々が人の子の魂を見通すのと同様、人の頭蓋の裡に反響する
しかし、あくまで「その気になれば」だ。弁明しておくと、カインは断じて読心など行ってはいない。ただリヴェリアの表情がこの上なく分かりやすかったただけである。
とはいえ、リヴェリアの悩みはカインにとっても他人事ではない。彼女は自身の誓いを果たす前に仲間に先立たれることを恐れているようだが、それを言うならカインとてもはや年を取らぬ身だ。永劫不滅の神々同様、上位者となった彼もまた外的要因以外で死滅することのない
悪夢の上位者を殺せるのは同じ悪夢の存在だけ。即ち同等の位階にある神か上位者か、あるいは月の眷属として夢に干渉する力を持つ狩人のみである。そしてこの世界に狩人がいない*1以上、カインの命脈が尽きることは未来永劫あり得ないのだ。
ロキ達神々にとって、子供の死は永遠の別離ではない。そも神とは天界にて死した人の魂の流転を管理する存在だ。二度と地上には戻れぬ最終手段となるが、どうしても別れたくないならば子供の魂を追って天界に帰るというのも一つの手ではある。
だが、カインにとって死は永劫の隔絶である。天界と悪夢は同次元の存在であるが故に絶対的な断絶によって隔てられており、どうあってもカインは死後の魂と関わることができない。外宇宙から飛来した
フィンも、ガレスも、リヴェリアでさえいつかはカインの元からいなくなる。今はまだ実感できないが、いずれ死別の痛みが彼を襲うだろう。上位者となり半ば化生と化した精神はそれを自然の摂理であると達観しているが、未だ残る人としての心は、いずれ来る別れの時を恐れていた。
……さりとて、無理矢理眷属にしてやろうという気は起きないわけだが。世間一般の情緒には疎い狩人とて、桜は散るからこそ美しいのだということぐらいは理解しているのだ。
とまれかくまれ、そのような事情もありカインはリヴェリアの悩みを一笑に付すことはできなかった。軽い調子で揶揄う言動とは裏腹に、内心では結構本気で同情しているし身につまされているのだ。
残念ながらカインにはこれと言って適切なアドバイスができそうにはない。彼にできるのは、せめてリヴェリアが望むように力になってやることぐらいだ。
「分かった。ならこれからは少し本腰を入れて神秘を教授しようか」
「……なに?」
カインがそう言うと、リヴェリアは目を大きく開いて驚きを露わにする。
それはそうだろう。これまでカインは秘儀を教えることに積極的でなく、
「何か悪い物でも食べたのか?」
「失敬な。キミが本気で悩んでいるようだったから助けになってあげようと思ったのに」
「それはありがたいことだが……以前のお前であれば『秘儀なんて学んでいる暇があるなら素直にダンジョン行って経験値を稼げ』とでも言っただろう。一体どんな心変わりがあったのだ?」
「今も本心ではそう思ってるよ。けど魔導士でないボクがキミの力になれることと言ったら
狩人が教えられることなど、やはりどうあっても狩りの技術しかない。うっかり“力になってやりたい”と思ってしまった時点でカインの負けだ。
『眷属にはしない』『発狂もさせない』……「両方」やらなくてはならないのが「狩人」のつらいところだが、できる範囲で力になってみせよう。同じ神を仰ぐ仲間として、カインはそう決意を露わにした。
「あれほど頑迷だったのに、随分とあっさりしたものだな……願ったり叶ったりと言えばそうなのだが、少し弱みを見せた途端にこれとはいまいち釈然とせん」
「だってリヴェリアったら全然可愛げがなかったんだもの。最初に秘儀について聞きに来た時の第一声なんて『副団長として部下の能力は把握しておかなければならないからな』だよ? 建前にしてももう少し何かなかったのかい?」
「ぐ……あ、あの時はまだ探りを入れている段階だったし……最初は本当にただ学術的興味があって聞いただけで、秘儀がここまで興味深く既存の常識を逸脱したものだとは思っていなかったのだ」
しどろもどろになって言い訳をするリヴェリアの様子を微笑ましげに眺めつつ、カインは暫し思案する。はてさて、どのように神秘を啓蒙したものかと。
神秘の
カインがかつてヤーナムで見えた神秘学者達──ミコラーシュやヨセフカなどは狩人ではなく、完全な独力でメルゴーの悪夢に、あるいはオドンの蠢きに至った神秘の探究者である。人形の力を借り促成培養で神秘技能を得たカインら夢の狩人とは異なり、彼らは地道な研究と鍛錬の果てに神秘の力を獲得した筈なのだ。
ならばリヴェリアにそれが為せぬ道理はない。彼女は神秘の才に欠けているのではなく、ただ初期
ミコラーシュを長とするメンシス学派は医療教会から派生した派閥であるし、ヨセフカに至っては生粋の血の医療者だ。血の拝領は当然嗜んでいただろうし、またそれによって神秘の探求と思索を行ったであろうことは想像に難くない。
しかしリヴェリアに血を与えるわけにはいかなかった。もし迂闊にそんなことをすれば
従って、医療教会やメンシス学派に見られる血の拝領による神秘の探求は棄却する。リヴェリアが行うべきは、血に依らぬ純然たる思考力の下に為される超越的思索──かつてビルゲンワースの学長ウィレーム及びその直系たる聖歌隊が目指した、『交信』による上位次元との接続である。
「宇宙は空にあるんだよ、リヴェリア」
「は?」
「ここテストに出るからね」
「お前は何を言っているんだ」
直に分かる。知に傾いたリヴェリアと聖歌隊の思索哲学はきっと相性が良い筈だ。
血を入れぬ代わりにカレル文字を刻むのも良いだろう。『瞳』のカレルはウィレームが至った成果、きっと彼女の力になる。血に依らぬ秘文字の神秘であれば
残る問題は予てより最大の懸念事項であった啓蒙の高まりに伴う気の狂いだが、これには一つだけ解決法に当てがあった。
ずばり聖杯ダンジョンである。聖杯文字は『vrtyvk72*2』。イズの神秘に触れつつ余分な啓蒙を処分でき、ついでに神秘高加算血晶の厳選もできる、正に一石三鳥の妙手であろうことは確定的に明らかであった。
──ダンジョン18階層リヴィラの街、酒場「
『店に着いたら隅から二番目のカウンター席に座り、注文を聞かれたら合言葉を──』
「注文は?」
「ジャガ丸くん抹茶クリーム味……」
とはいえアイズの役割は「援軍」である。今回の依頼遂行において中核を成すのはあくまで他ファミリアの構成員であり、彼女はその協力者であるとのことだった。
そして、協力相手との合流のための合言葉が「ジャガ丸くん抹茶クリーム味」であった。到底酒場で注文するものではない駄菓子の名前を口にした瞬間、店内にいたアイズ以外全ての冒険者が立ち上がる。
束の間再会を喜び合っていた
「【剣姫】である貴方がいてくれるなら心強い。短いパーティになると思いますが、どうかよろしく」
「はい……よろしくお願いします」
ヘルメス・ファミリアの団長である
彼女の名はアスフィ・アル・アンドロメダ。
怪しげな依頼者、不穏な依頼内容……彼女にとって今回の依頼は大変不本意なものであったが、【剣姫】が援軍として力になってくれるのなら話は別だ。
何せアイズ・ヴァレンシュタインの名はオラリオ中に轟いている。曰く、都市最強の一角。Lv.7である【
「あら……? 【剣姫】、それは──」
「……?」
ふと、アスフィの視線が吸い寄せられるようにアイズの腰の辺りに向かう。決して
それは古びた大きな鐘と、青白く発光する硝子瓶だった。いずれも都市を代表する
一見するとただの
……だが、何故だかアスフィの勘が疼いた。それも冒険者としてではなく、
これはただの骨董品ではない、と──
「これは……仲間が持たせてくれたんです」
「仲間……ロキ・ファミリアの
「はい。もし危なくなったらこれを鳴らせって……」
アイズは紐で吊り下げられた鐘を指でつつく。だがゆらゆらと揺れる
「……不躾な質問をよろしいですか? 答えにくければ無視して頂いても一向に構いませんので」
「この鐘が何なのか、ですか?」
「申し訳ありません……失礼だとは思うのですが、どうしても気になってしまい……」
口調だけは申し訳なさそうにしつつも、依然アスフィの目は古びた鐘と青白い硝子瓶を凝視したままなのだから。
アスフィの問いに対し、アイズは特に悩む様子もなく頷いた。これを預けてきた人物からは特に何も言われなかったし構うまい、という単純な思考である。
「……けど、私も詳しいことは分かりません。ただ鳴らせ、としか言われてないので……ただ……」
「ただ?」
「名前だけは教えてもらいました。この鐘は──」
「『狩人呼びの鐘』、と言うそうです」
「まだ見ぬ世界を」というリヴェリアの発言自体は原作通りですが、その内容については作者の拡大解釈を含みます。都合良くリヴェリアを神秘に関わらせるための独自設定とお考え下さい。