地底人迷宮譚~迷宮を差し置いて遺跡に潜るのは間違っている~ 作:筆記者カレル
──後の世に【
彼が
カインは
「う、うぅ……」
蜂蜜色の金髪を小刻みに揺らし、妖精のように可憐なエルフの少女……レフィーヤはある部屋の前でかれこれ十分以上もの間ウロウロと歩き回っていた。
場所はロキ・ファミリアの
迷宮都市オラリオが誇る最大派閥の一角を担うファミリアに相応しいこの屋敷は広大で、多くの眷属を過不足なく収容できる居住スペースを有している。そして今レフィーヤがいるのはそんな団員達の私室が並ぶ居住エリアの中でも、特に幹部以上の立場にある団員にのみ与えられる特別な部屋があるエリアだった。
レフィーヤは気弱そうに形の良い眉を八の字にし、心底参ったとばかりに目の前の部屋の扉を見上げる。上質な木製の扉には『これより狩人の夢。冒険者不要、引き返せ』と書かれた張り紙が貼られているが、そんな戯言は見るに値しないので関係ない。
問題はその部屋の持ち主にあった。扉横の壁には『カイン』と書かれた表札が打ち込まれている。
レフィーヤはこれまでカインの部屋に近付くことはなかった。まず以てこれといった接点などなかったし、何よりどう接して良いか分からなかったからだ。ファミリアを代表する第一級冒険者ということで一定の敬意は払いつつも、普段の生活態度もあり内心では忸怩たる思いを抱いていた。
しかし、それも先日の遠征中に起きた出来事が切っ掛けで事情が変わった。大挙して押し寄せる未知のモンスターの群れを前に撤退を余儀なくされたロキ・ファミリア。その中でカインただ一人が殿として残り、敵の群れを押し留めてくれたのだ。彼の尽力なくばいったいどれ程の被害が発生したことか。
レフィーヤはその一件のお礼と、これまでの失礼な態度を謝罪するためにカインの部屋を訪れていた。しかしいざ本人の自室を前にすると中々一歩を踏み出せず、こうして檻中の虎のように扉の前をウロウロしていたのである。
「っ、いつまでこうしていても埒が明きません! せーのでノックします! いっ……せーの──」
「おや、誰かと思えばレフィーヤじゃないか」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
いよいよ覚悟を決めて扉を叩こうとした瞬間、背後から声が掛かる。驚愕のあまり意味不明な叫び声を上げてしまったレフィーヤが振り返ると、視界一杯に目的の人物の姿が飛び込んできた。
長い白髪を後頭部で括った、灰色の瞳を除く全てが白一色の容貌。いつ見ても性別不詳な顔に柔和な微笑みを湛えたカインが、ダンジョンの中でもないのに遠征中にも着用していた黒装束に身を包み佇んでいた。
「か、かか、カインさん!?」
「はーい。いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、夢の狩人カインさんです。キミがこんな所にいるとは珍しい。ボクに何か用かな?」
見たところこれといった外傷はなく、着ている服が損傷している様子もない。あの群れと戦って無傷であることにレフィーヤはまず驚いたが、それ以上に恩人の元気そうな姿に安堵した。
「えっと、その……先日のお礼を言いたくて」
「お礼?」
「はい、カインさんのお陰で私達は無事に撤退することができました。その感謝と……謝罪を」
先日50階層で魔蟲の襲撃に遭った時、戦おうともしなかったカインに対しレフィーヤは厳しい口調で苦言を吐いた。
カインの抱える事情──フィン曰く、スキルの影響で周囲に味方がいると上手く戦えない──を知らなかった以上、客観的に見ればレフィーヤの怒りは至極真っ当なものだったが、仕方ないからといってなあなあで済ませられる彼女ではない。それ以前にカインはレフィーヤより遥かに格上の冒険者であり、神の眷属としても先輩だ。普段の振る舞いがどうであれ、先達に対しとって良い態度ではなかったと己の行動を反省したのである。
「うーん、そう言われてもボクは別に気にしてないしなぁ」
だが、そう告げるとカインは困ったように頭を掻いた。カインにしてみれば──改善する気がないとはいえ──自身の姿勢がファミリアの団員として不適切であることは自覚するところだった。
ロキ・ファミリアは探索系ファミリアという区分に属している。その名の通りダンジョンを探索し、そこで得られる資源……主に魔石などモンスター由来の素材を獲得・売却することで利益を得ているのだ。
翻って、カインの普段の行動は殆どファミリアの利益に貢献していない。ダンジョンには滅多に行かず、専ら聖杯ダンジョンに籠もり血晶石マラソンに血道を上げている。偶にダンジョンに赴いた際にモンスターを乱獲することで多少は貢献しているが、とてもではないが真面目に冒険者活動をしているとは言い難いだろう。殆どLv.6という
故に、レフィーヤのように真面目にダンジョン攻略に励んでいる者たちからの反感は当然のものだとカインは考えている。だから耳に入ってくる一部団員からの自分への悪口雑言については全て聞こえないふりをしてきたし、これからも甘んじて受けるつもりだった。
しかしながら、当のレフィーヤは心底申し訳なさそうにカインを見つめている。「これはいくら自分が気にしていないと言っても納得しないだろう」と感じたカインは、取り敢えず適当な用事に付き合わせてみることにした。
謝罪とは文字通り相手に謝意を伝えるのと同時に、許しによって自分に納得と安堵を得る儀式である。多少無茶ぶりしてやった方が謝罪する側は安心できるものなのだ。
「んー、そうだなぁ……レフィーヤは今時間ある?」
「今ですか? はい、大丈夫ですよ」
深層遠征からの帰還直後ということで、主だった面子は主神より身体を休めるよう仰せつかっている。今ダンジョンに潜っているのは遠征に行かなかったLv.1~Lv.3の下級及び第三、第二級冒険者だけだが、第二級ながら特別に遠征に同行したレフィーヤは他の第一級冒険者たちと同じように現在は神命に則り休息中であった。
「じゃあちょっと付き合ってよ。いい茶葉が手に入ったんだ」
「へ?」
まさかお茶のお誘いを受けるとは思わなかったのか、レフィーヤは暫し硬直する。
確かによく見ればカインは片手に紙袋を抱えていた。外装に刻印されたロゴはレフィーヤも良く知る紅茶専門店のものであり、どうやらカインはこれを買いに外出していたらしい。
「実は(聖杯)ダンジョンで良い(血晶)石が手に入ってね。嬉しくなってつい高い茶葉を買ってしまったんだ。けれどせっかくの高級品、独り占めは良くないと思い直してね。良かったらキミにも味わってほしいのさ」
理想値眷マイの放射が手に入ったんだー、という発言の意味はレフィーヤにはよく分からなかったが、先日の一件で良い魔石が手に入ったらしいということは理解できた。それが高値で売れたため、奮発して高級茶葉を購入したのだろう。
紅茶はレフィーヤも大好きである。だが、お礼と謝罪に来たのにご馳走になってしまうのは何か違うような……と思い悩む彼女を余所に、カインは「さぁさ、遠慮せず入って入って」と言いつつさっさと自室の扉を開けてレフィーヤを押し込んだ。
──そして、夢に迷い込んだ妖精の頬を柔らかな風が撫でる。
「……え?」
あり得ざる光景に目を見開く。
想像していたのは、カインと同じLv.6である師リヴェリアの私室。同じ階層にある幹部の部屋ということで似たような間取りの一室を思い浮かべていた。
だが、いざ入ってみればそこは
振り返ってみれば外から見えた木製の扉はどこにもなく、代わりにある鉄柵の扉をカインが潜っているところだった。その向こうには見慣れた居住エリアの廊下はなく、広大な花畑と見上げるような大樹が聳えている。
「ただいまー人形ちゃん。これ買ってきた茶葉なんだけど、二人分淹れてくれる? あとこの間作ってくれたスコーンまだ残ってたよね。それも出してもらえるかな。
ほらレフィーヤ、そんなところでボーっとしてしてないで中に入りなよ。風邪をひいてしまうよ?」
ハッとレフィーヤが我に返れば、既にカインは先を歩いていた。彼が足を掛けている石段の先には、古色蒼然とした趣の一軒家が佇んでいる。年季は入っているが立派で、オラリオでも高級住宅街にありそうな風体の家屋だった。
そして丁度カインが立っている辺り、石段の横手に設えられた剥き出しの花壇の上に一体の人形が放置されている。
恐ろしく精巧に作られた女性の人形だった。まるで今にも動き出しそうで、レフィーヤは努めてその人形から目を逸らす。
「ここがボクの家。狩人の業の工房さ。少し散らかってるけど、気にしないでくれると嬉しいかな」
硝子玉の瞳から感じる視線を気のせいだと自分に言い聞かせ、レフィーヤは足早にカインの後をついて行く。やや恥ずかしそうにするカインに促されて扉を潜ると、そこには外観から感じた印象に違わぬ雰囲気の部屋が広がっていた。
ランプの黄色い光と暖炉に灯る温かな火に照らされた室内には、年季の入ったアンティークの調度品が並んでいる。まず目についたのは茶器などを収めた棚と、見たことのない文字で記された本が並ぶ本棚だ。特に本は中々の数が揃っており、一部は本棚に入り切らず床に平積みにされている。
続いてレフィーヤの目を引いたのは、明らかに普通の家具とは趣の異なる設備の数々だった。様々な用途不明の薬品が並ぶ棚に、成人男性でも余裕で収まりそうな大きな道具箱。そして鍛冶屋や魔道具の店で見たことがあるような器具が多く収納された台に、天井から吊るされた奇妙な形状の武器の数々。更に部屋の一番奥には謎の女性像と祭壇が鎮座しており、その一角からは妙に胸がざわつくような、頭が疼くような不思議な気配が感じられた。
「リヴェリアからはもっと掃除するよう言われてるんだけどねー。ボクも人形ちゃんも掃除は苦手でさ。つい散らかしちゃうんだよね」
言いつつ、カインは慌てて撓んでいた絨毯を引っ張り真っ直ぐにする。その様子が散らかった部屋を慌てて片付けるいつかのティオナの姿と被り、レフィーヤはくすりと小さく笑みを零した。
この場所の異様な空気に気圧されていたレフィーヤだったが、ある意味いつも通りのカインの姿に若干気を持ち直す。古びているが上質で、よく手入れがされている椅子に案内された彼女は、テーブルを挟んで反対側の席についたカインに抱いた疑問を尋ねた。
「あの、この場所は何なんですか? どう見ても屋外でしたし、この家だってとてもホームの一室に収まる大きさじゃありませんし……」
幻覚でも見せられていると言われた方がまだしも納得できるだろう。本当に部屋の中にこの空間が存在しているとすれば、それはもう精霊や神の領域だ。空間の容積を無視した異界の創造など、人間の魔導士に為せる業ではない。
「うーん、何て説明するべきかな……少なくとも、ここが【黄昏の館】に用意してもらったボクの自室にあるのは本当だよ。どこか変な場所に攫ったとかじゃないから安心して」
「それは心配してませんけど……」
色々と謎めいた人物ではあるが、カインは同じ神を仰ぐ
「上手く言語化できないなぁ……確かにホームとは同座標上にあるんだけど、あくまで座標軸が同じなだけで別異相にあるというか……『ホームにあるボクの部屋』っていう生地の上に『狩人の夢』が乗っかってるというか……」
「??? ……あっ」
ふと、レフィーヤはカインが口籠もる理由に思い至った。
無論、パーティを組んで仲間と共に戦うのが冒険者である以上、ある程度能力の詳細が漏れてしまうのは避けられないだろう。しかし中には同じファミリアの仲間にすら明かせない場合もあるデリケートな能力がある。
それがスキルである。スキルの内容は文字通り千差万別。勿論それなりの人間に共通して発現するようなメジャーなものもあるが、中にはその人間の本質や願望を映し出し、独自の名と効果を有するスキルも多く存在する。そういった本人の根幹をなす部分を端的に形にしたスキルは、場合によってはその人のトラウマや複雑な過去を赤裸々にしてしまうことがあった。故に冒険者には無駄な対人トラブルを避けるため、ステイタスの中でもスキルに関しては詮索無用という暗黙の了解があるのだ。
付け加えると、デリケート云々以前にただ純粋に「珍しい」「強力な効果を持つ」といったスキル……レアスキルも同様に秘匿される傾向にある。こちらは対人トラブルというより、対
オラリオにおいて絶対的存在である神は大変に好奇心が旺盛で、常に下界の「珍しいもの」「面白いもの」の開拓に余念がない。そういった神々にとって、レアスキルの存在はまさに垂涎の的である。過去にはレアスキルを発現した子供の所有権を巡って大規模な
そういった諸々の事情もあり、スキルの詮索は御法度とされる。
そして、カインが口を濁すのはこの異界がスキルによるものだからなのではないか。その考えに至ったレフィーヤは危うく目の前の人物の地雷を踏み抜きかねなかった事実に冷や汗をかいた。
とはいえ、こうして抵抗なくスキルを晒している以上は特に本人のトラウマや過去と直結している内容のものではないのだろう。であればこれはレアスキルの類であり、カイン本人ではなく
……事実は異なり、単にカインが秘密の秘匿に無頓着なだけなのだが。
「す、すみません! スキルなら明かせないのも当然ですよね!」
「ん、スキル? ……ああ、なるほど。いやいや気にしないで、ボクもちょっと軽率だったよ。
ペコペコと忙しなく頭を下げるレフィーヤ。するとカチャリと陶器が擦れる音が鳴り、同時に芳醇な茶葉の香りが漂ってくる。
「おっと、お茶の用意ができたみたいだ。スコーンもあるから良かったら食べてみておくれ」
……何かがおかしい、とレフィーヤはふと思った。先程からカインはレフィーヤの向かいに座ったまま動いておらず、紅茶を淹れに席を立った様子はなかった。
だが、現実に目の前では紅茶が素晴らしい香りと共に湯気を立てており、傍らにはこちらも実に美味しそうなお菓子が添えられている。
……この場に、自分とカイン以外の誰かがいるのか?
「どうかされましたか、お客様?」
レフィーヤは上品なデザインの可愛らしいティーカップと、そこに満たされた薄い琥珀色の紅茶に釘付けになった。明らかに上質な葉を使っていると分かる香りに思わずため息を漏らす。
また、一緒に出されたスコーンも美味しそうである。隣にはたっぷりのクロテッドクリームと木苺のジャムも添えられており、年頃の女の子らしく甘いものには目がないレフィーヤは目を輝かせた。
「こ、こんなにご馳走になって良いんですかっ? お茶だけでなくお菓子まで……」
「勿論だとも。これはここ数年でぐっとお菓子作りが上手になった人形ちゃん自慢の手作りスコーンでねぇ、是非誰かに味わってもらいたかったんだ」
そわそわと期待に胸を膨らませるレフィーヤに、カインは笑顔で大きく頷く。許しを得たレフィーヤは勧められるがまま出されたお茶とお菓子に手を付けた。
──静かに流れる微風と、風に揺れる草の音、暖炉の火が弾ける音が静謐な空間に響く。
──空の色は変わらず、時の流れすら身を潜めたかのような穏やかなひと時を堪能する。古びた部屋は故の知れぬ安心感と、温かな郷愁を胸に齎し心を穏やかにさせた。
紅茶の香りと絶品のスコーンを味わい、レフィーヤはいつしか時が経つのも忘れてカインとの談笑を楽しんでいた。
カインが聞き上手であることも手伝ったのだろう。性差を感じさせない顔と声は不思議な親しみやすさを醸し出し、時と共に相手の心からあらゆる隔意を取り払う。加え、常に浮かぶ柔らかな微笑みがレフィーヤの口を軽くさせた。
「……む、もうこんな時間か。ここにいるとつい時間を忘れてしまうよ」
ダンジョンとは違った意味で時間泥棒な場所だね、と呟き、カインは懐から取り出した懐中時計を見せる。無常に時を刻む時計の針は、既に今が夕刻にあることを示していた。
「えっ、もうそんな時間なんですか!? すみません、つい長居をしてしまって……色々とご馳走していただきありがとうございました」
「いやいや、こちらこそありがとうと言わせてもらうよ。実に楽しいひと時だった。
それに、お礼なら人形ちゃんに言ってやっておくれ。ティータイムの準備は全部彼女がやってくれたわけだからね」
「はい! 人形さんもありがとうございま──え?」
ぐわん、と脳が震えた。
レフィーヤの背に氷柱を突き入れられたような悪寒が走る。何か気が付いてはいけないものに気付いてしまったような、あるいは気付こうとしているような、得体の知れない感覚。
ふと、さっきまで二人で談笑していたテーブルの傍に人形が放置されていることに気が付いた。それは確かに屋敷の外で剥き出しの花壇の上にあった人形である筈だが、いつからそこにあったのか。
硝子玉の瞳と目が合う。
白蝋の肌には薄っすらと血が通い、動かぬ筈の唇が開き、微かに、声が、聞こえ──
──ずっと、そこに、いた……?
「レフィーヤ?」
「お客様?」
「いっ……いやぁああああああ!?」
気付けば、レフィーヤは訳も分からず駆け出していた。口からは絹を裂くような悲鳴が上がる。何を恐れているのかも自覚しないままに、あるいは自覚しないために。
入った時には何故か気付かなかった、
「うっわ、完全に失念してた。レフィーヤには人形ちゃんが見えないんだった」
「……? 狩人様、私は何か粗相をしてしまったのでしょうか?」
月が、見ている。
「──レフィーヤ? どうしたのそんな所で固まって」
「……ティオナ、さん……?」
気が付くと、レフィーヤは見慣れた【黄昏の館】の廊下に立ち尽くしていた。茫洋と佇む彼女の様子を訝しんだティオナが心配そうに声を掛ける。
「あれ……? 私、今まで何してたんだっけ……?」
だが、レフィーヤは自分が何をしていたのか思い出せなかった。
お礼を言うためにカインを訪ねたのは覚えている。だがその先が全く記憶になかった。ただとても楽しかったような、反対に酷く怖い思いをしたような、そんな曖昧な感覚だけが
「ん? んー……」
「あ、あの……ティオナさん?」
すると、ティオナが目を細めてレフィーヤに顔を近付けてくる。彼女は暫く犬のように鼻を動かすと、何かに気付いたようにカッと目を見開いた。
「レフィーヤ、あたしに内緒で美味しいお菓子食べたでしょ!」
「えぇ……?」
「隠したってムダだよ! すごく美味しそうな甘い匂いがするもん!」
ズルいズルい〜! と言って絡みついてくるティオナ。身に覚えのないレフィーヤは困惑するばかりだが、言われてみれば確かに口の中が仄かに甘い気がする。
「何食べたの? もしかしてあのお店の新作スイーツだったりする?」
「わ、分かんないですよぉ!」
「おっ、そんなこと言っていいのか〜? レフィーヤが晩ご飯の前におやつ食べてたってリヴェリアに言っちゃうぞー」
「り、リヴェリア様に告げ口するのはやめて下さい……!」
やいのやいのと姦しく廊下で騒ぐティオナとレフィーヤ。暫くそのようにじゃれ合っていた二人は、やがて夕飯の時間が迫っていることに気付き食堂へと足を向ける。
……少女二人が去った後。隙間風でも吹いたのか、半開きになっていた部屋の扉が独りでに開いた。張り紙が貼られたその扉はギィ、と小さく軋みを上げる。
──開いた扉の隙間から、部屋の中の様子が見える。
──中には誰もおらず、殆ど使用された形跡のない、何の変哲もないごく普通の一室が広がっていた。
啓蒙がなくても夢には入れるが、ないと人形ちゃんとお話しできないぞ!