ガバッと布団から起き上がる英梨々。顔は泣きはらしているがすっきりしている。
「それは違うわ氷堂美智留!」
「おはよ澤村ちゃん、ちょっと元気になった?」
「寝たからね。だいたい朝早くから締め切りに追われるわ、倫也が一緒に登校したがるわ、で大変だったからね」
「ちょっとぉ、事実が曲がってますけど?」
「いちいち細かい男ね」
英梨々がコーラをぐいっと一気飲みして、空のコップを置く
「間違っていたのはあたしだ。責任をぜんぶ倫也に押し付けて、上手くいかなかったらエタるなんて言ったから・・・、にこにこ演じることもできずに、恵に後ろめたさを感じてしまったから・・・」
「英梨々、目からまた鼻水でてるぞ」
「失礼ね!これはコーラよ」
「澤村ちゃん、涙枯れるまで泣いて、水分とったらまた泣いているの!?」
「一番つらいのは恵だ。なのにあたしは自分のことばかりで・・・」
「いや・・・英梨々、お前は十分優しいぞ。加藤の辛さがわかって自分も辛いなんて」
「えっ?澤村ちゃんが泣いてた理由って、加藤ちゃんを苦しめているからなの?」
「遠からずって感じかしらね・・・それだけではないけれど」
「なんで?」
「なんでって・・・あんた・・・」
「美智留。お前と同じだよ。お前はなんで降伏宣言したんだ?」
「えっと・・・倫也の幸せを願ったから?」
「じゃあ、なんでそう願ったんだ?」
「うーん、あまり深く考えなかったなぁ・・・あたしがそう感じたからでしょ」
「じゃあその『あたし』ってなんだよ?」
「えっ?あたしはあたしだよ!?何いってんのトモ」
「要するに倫也の幸せを願うのが『あたし』だってことだろ?」
「そういってるじゃん」
「それはそういうキャラだからってことだよ」
「ん?」
「そういう役割を与えられて、そう考えるキャラだから、そうなんだよ」
「おおっ??」
「英梨々も同じだよ。自分の恋も大事だけど、それ以上にもっと大切なものがあるんだよ」
「あーわかってきた」
「テンプレみたいな金持ちツンデレ金髪なんていうのは飾りみたいなもんだ。子どもの頃の約束を裏切ったことで、それをより大きく抱え込んだ英梨々。初めての親友加藤の恋を応援した英梨々、詩羽先輩のパートナである英梨々。それらのイデアが英梨々を英梨々にしている」
「ふむふむ」
「である以上はだ。英梨々が加藤から俺を奪うことは矛盾して英梨々自身を苦しめずにはいられない。加藤がメインヒロインであるように、英梨々がサブヒロインだからだ」
「だったら、澤村ちゃんはそんな無理しないでやめればいいじゃない?」
「だから、実際エタる予告したし、ややこしい問題をすべてこちらに投げただろ」
「ああ、なるほど」
「負け犬3の打ち切りでやめても、ある意味では物語は成立しているんだよ。こんなに無理やり続けなくても」
倫也もコーラを飲み切って、コップを置く。
「でも、あの終わり方じゃあ嫌だろ?悲しいだろ?俺はさ・・・ハッピーエンドが好きなんだよ」
「だったら、最初から触らなければよかったじゃない?こんな同人なんて書かなくてさ、アニメを何度もリピートしてればさ?」
「おい英梨々、特大のブーメラン来たぞ・・・」
「というか倫也・・・氷堂美智留って・・・」
「バカか賢人だな」
「それどういう意味?」
「そのまんまだろ・・・」
美智留がコーラを飲む。
英梨々は背伸びをする。
「うーん。まぁ今回の話はずっと哲学的で退屈ね。恵なら許さないでしょうね」
「お前なぁ・・・」
「でもまぁ、確かに役割を再確認できたし、そろそろ行こうかしらね?」
「ああ、大丈夫なのか英梨々」
「今回の話はちょろいじゃない、あたしが幸せになるだけでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、さっさとすませて負け犬5へいくわよ」
「最初に行っておくよ英梨々。この世界の安芸倫也はこの世界の英梨々を愛してる。嘘偽りなく」
「知ってるわよバカ。何年あなたの側にいると思っているの倫也」
「さぁ行くぞ!加藤恵のいない世界へ」
「恵っ・・・次で待ってさないよ・・・」
どこかへ行ってしまう二人を美智留はぽかーんと口をあけて見送る。
「ああんもう!ぜんぜんわからん!」
美智留がコーラを飲み終え空のコップを置く。
「相変わらずね氷堂さん」
詩羽が部屋にはいってくる。
「センパイ!まったくわけがわからないよ!」
「それでいいのよ氷堂さん。・・・ふぅ(ため息)」
「なんだかセンパイも疲れていますね・・・。そうだ、さっき余分にコーラいれたんでどうぞ」
「どれかしら?」
「ああ、倫也がいっぱいしゃべったから二杯飲んじゃったみたいです。とってきますね」
「悪いわね」
美智留が下にコーラをとりにいく。
詩羽があたりを見回す。布団の様子を見て英梨々が泣いていたのだろうなと考えた。
「コーラおまちー」
「ありがとう。氷堂さん」
「で、まったくわけがわからないことばかりなんだけど」
「あなたはそれでいいの。役割ってものがあるでしょう?」
「うん」
「だからね、何かを知って小賢しく立ち振る舞われるよりもずっといいのよ」
「そういうもんなの?」
「そうね、我々の目標はあの加藤恵@メインヒロイン型を倒すことなら尚更ね」
「んー。」
「そのためには、アレが存在する理由や倒し方や倒した後の世界を考えないといけないでしょ?」
「・・・」
「だから、そういうことは他の人に任せておけばいいのよ、自分に合ったことをすればね」
「で、どうやって倒すの?」
「さぁ?氷堂さんならどうやって倒すの?」
「うーん。拳で?かな」
「格ゲーのように?」
「そうね・・・」
「でも、あれって我々の世界そのものなのよ」
「その設定が理解しにくいんだけど・・・」
「加藤恵をメインヒロインにする物語そのものなのよ。私たちサブヒロインやモブはすべてそのために動いているわけよね?だからメインヒロインに不都合な行動はできない。あなたが設定変更をくらったようにね」
「なるほど・・・そんなものにどうやって相手するのよ?その気になったら世界を終わらせるってことでしょ」
「そうよ」
「勝てるわけないじゃない」
「だから、苦労しているんじゃない?主人公が殺されても、打ち切りにあっても、澤村さんが諦めない限り続くわ」
「澤村ちゃんが諦めたら終わりなの?」
「その時は私やあなたが励ますのよ彼女を」
「応援ソング歌うかー」
「そうね。でも今は結婚式の曲が必要なようよ」
「なんで?」
「だって、次エピローグですもの」
「もう!?」
「内容かっとばしてエピローグなんて澤村さんと倫理君の苦悩が見えるわね・・・。それにしてもこの二人の結婚式なんて見たくないわね。そう思うでしょ加藤さんも?」
(つづく)
そういわけで次回は負け犬4のエピローグ