アガリ間近の俺は、左遷させられた。   作:ジェスタ

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僻地でも、酒があればいいと思う。

「貴様らは、私を、舐めているのかッ!!」

パイプを噛み締め、第403飛行隊司令官の男は今日も規則違反をした男女を叱責する。出向先の部隊指揮官の前で竜也は欠伸をこらえながら平然とした態度を保っている。ビューリングは同じく慣れた様子で涼しい顔をしていた。

(あー、だりー。まだ終わんないかな~。早く部屋に戻って、ずっと我慢していたスコッチ飲みたいのに)

竜也の頭はもはや酒で一杯だった。元々、竜也は酒が好きではなかった。前世でも一カ月に一回飲むか飲まないかレベルで酒とは縁が無かった。そんな彼を変えたのは、今世の戦場だった。現実という苦痛から逃れるため、薬物を使用していた竜也を見かねビューリングが酒を勧めたのが始まりだった。ただ苦いだけの飲み物は、今ではそれなしでは生きていけなくなるくらいに溺れていた。最近はまたしても、ビューリングの影響でタバコを始めたらしい。

 

()()()中尉。貴官のその変貌ぶりを見れば、身元引受人たるミス北郷がどれだけ落胆すると思っている?かつては人類の救世主と言われた男が、今では部下と共に平然と軍規を犯し、酒に溺れ、更に基地を無断で脱走する。かつての君は扶桑人らしく誰にも礼儀正しく、誠実で、将来有望な・・・・・」

 

落ち着きを取り戻した司令は咥えていたパイプを取り、竜也に対して長々と言葉を続ける。

シヴァというのは竜也の苗字である司波が言いづらいと派遣された部隊で当初つけられたニックネームだった。加えて、分解と再成という力を持った竜也を破壊と再生を司るヒンドゥー教の最高神 シヴァと見立てたとこともあった。その結果、本名はシバではなくシヴァだと勘違いするものも少なくなかった。本人としては発音があまり変わらないことから気にしていなかった。

 

(また始まったよ、おっさんの説教が)

 

話が長くなることに気付いた竜也は表情をそのまま内心悪態をつく。この司令官と竜也は欧州派遣当初に面識があった。当時14歳の少年は日本人の気質と言われる真面目で誠実な人間だった。司令官は命令に忠実で礼儀正しく、人格も良い少年兵に対して好印象を持っていた。が、数年たって再会し青年になった彼は酒に溺れ、軍規違反の常習者。戦地では薬物依存になっていた。それを知った時、司令はかなりショックだった。

そうしていると隣に立っている共犯者が声を出した。

 

「大陸で君が経験したものは確かに形容しがたいものだ。しかし、それは・・・・」

「司令、発言の許可をお願います」

ビューリングは手を挙げて、発言の許可を求めた。

「・・・・発言を許可するぞ、ビューリング少尉」

その言葉で竜也への説教を止めた司令官は、ビューリングの申し出を許可する。指令は再びパイプを口に咥え始める。

 

「ありがとうございます。サー。では、小官はもう関係がなさそうなので自室に戻ってもよろしいでしょうか?」

 

自分だけは帰らせろというその言葉の後、パイプのマウスピースが砕ける音が部屋に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「で、君のせいでいつもより二時間も絞られたんだけど、なんか言うことないか?」

「無いな。というより、二時間で終わらせた私に対して感謝の言葉は無いのか?あのままでは夜が明けていた」

竜也の自室。窓際の机でスコッチをついだグラスを片手に座っている竜也は、ベッドに腰掛け、タバコを吹かしているビューリングに謝罪の言葉を要求するが、彼女に感謝の言葉を求められた。

 

ビューリングの私は無関係です発言でいつもより長く絞られた二人は、指令室を退出後、いつも通り竜也の部屋に集まった。

竜也の部屋は他の士官の者よりも広く、別々のトイレとバスルーム、更には冷蔵庫も付いている。この時代では高級な電化製品があるのは、基地ではこの部屋と食堂、司令の個室くらいだ。何故ここまで高待遇かといえば、初めは竜也の冗談からだった。ブリタニアへの派遣が決まった際、リクエストで個別のトイレとバスルーム、更に小さくてもいいから冷蔵庫が欲しいと言ったのだ。竜也としてはそんな部屋があれば最高だなぁ~くらいにしか思っていなかった。しかし、ブリタニアとしては、世界を破壊してしまうウィザードが望んでいるのなら全て応えるつもりだった。それで、暴走の危険が減り、国が滅びないのであれば安いものだった。

 

「で、どうして転属を選んだんだ?」

「・・・・・・」

竜也の問いに対して、ビューリングは口から煙を噴き出した。彼女の傍らには私物をまとめたカーキ色の袋があった。

 

竜也の説教からビューリングの説教に変わった後、最後に二人に辞令が出された。ビューリングには中尉への昇格か転属、竜也には転属だけだった。竜也への命令は扶桑本国の軍本部からだ。次に貧乏くじを引かされたのは北の小国 スオムスだった。前世のフィンランドに当たる国だ。極寒の地で雪と森しかないと言われているらしい。だが、竜也はそれでもいいと思った。フィンランドはオーロラが見れるのだから、こちらでも見れるのではないかと考えた。実際、雲の無い晴れた日は見れるとのことだ。

 

オーロラ見ながら現地の名酒を愉しむ。悪くない。

 

そう考え至った竜也は、転属をすぐに受領した。元々、軍本部からの指令に対してどうこう言える訳でもないため命令には従わなければならない。それが公務員、軍人ということだ。

 

一方のビューリングには選択肢があった。新型のストライカーユニットの受領と中尉への昇格か、竜也と同じスオムスへの転属だった。世界各国から集まる義勇軍のブリタニア出身ウィッチとして行くことになった。竜也と同じ基地に集められる予定だ。既に転属を受諾した彼女は今夜中にスオムスに向け出発する。竜也以外に親しい兵士もウィッチもいないビューリングには荷物を片付ければもう転属準備は完璧だった。

竜也は明後日出発予定のため、現地入りは彼女より後になる。

 

「別に、ここに残っても良かったろ?というより、こっちの方がいいはずだ。君の好きなスコッチがあるかわからないぞ」

「安心しろ、無いなら作れば良い。こんな風にな」

ビューリングは立ち上がり、冷蔵庫の所まで行き扉を開ける。中には茶色の液体が入ったガラス瓶が何本もあった。手書きでのラベルが張られたそれらは、全て彼女が密造した酒だった。ビューリングが竜也の部屋に出入りしているのは、冷蔵庫にある密造酒の具合を確かめるためだった。竜也にも分けるという契約で彼女に冷蔵庫を貸していた。

見つかれば営倉入りだが、竜也の部屋には他人は入ってこない。皆、彼を恐れていた。世界を壊すかもしれない男は、兵士というより危険な兵器以上の存在だった。誰も彼には近づかなかった。

 

「私はもう行く。先に現地入りしているぞ」

「おい、酒は?」

「来るときに持ってきてくれ、なんなら年代物のスコッチでもいいぞ」

ビューリングはベッドにある荷物の入った袋を手に取るとそのまま扉へ向かった。

「じゃあ、またな」

「ああ、またな」

別れの挨拶を済ませると、ビューリングは部屋を出た。

 

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