アガリ間近の俺は、左遷させられた。   作:ジェスタ

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酒は飲んでも飲まれるなってあるけど、全部が俺のせいという訳でもない気がする

バギントン空軍基地の滑走路に一機の輸送機が着陸する。大型プロペラエンジンを機首と両翼に着けた鉄の固まりは、滑走路を走りながら減速していく。基地にいる兵士たちの注目が集まる。その輸送機に描かれた国旗はブリタニアではなく、最前線の国 カールスラントのものだ。

 

「カールスラントの輸送機?珍しいな」

竜也もまた、部屋の窓からカールスラント輸送機 Ju52が着陸するところを見ていた。服装はいつものブリタニア空軍パイロットの飛行服ではなく、白い扶桑海軍士官の制服だ。足元には焦げ茶の大型トランクが置かれている。ビューリングが去った後、自室の片付けをしていた。軍規で決められた大きさのトランクに私物を入れ、他は処分した。

 

(あの国から客か?だれだ?)

竜也は、カールスラントから誰か来るという話は聞いていない。増援の要請のために政府の九人でも来たのだろうか?国が滅亡の危機にあるあの国が兵士を派遣することはないだろう。

 

「カールスラント・・・・まさかな」

カールスラント帝国。前世のドイツに当たる国。領土は小さいが、高い技術力を持ち兵士の練度も高い。中でもカールスラントのウィッチは優秀な人間が多い。

 

(あの女がいるはずないか・・・・・)

かつて所属していたとある部隊。そこで竜也は一人のウィッチと出会った。いや、出会ってしまった。

戦うことだけを愉しむ戦闘狂。どんな傷を負っても、必ず生還する不死身の化け物。

彼女の苦痛はただ一つ、戦えないことだ。

医務室ベッドの上で出撃のサイレンとストライカーユニットのエンジン音を聞くたびに涙を流す。戦えないことに涙があふれる。彼女は戦いへの執着を捨てられない。故に竜也の力を求めた。

 

「もう時間か・・・・・・」

 

我に返り左手に巻かれた腕時計を見る。すでに出発予定時刻に迫っていた。竜也はトランクを左手で持ちとドアへと向かう。

ドアノブに手置掛ける前に振り返り、自身の部屋を見る。綺麗清掃された部屋には生活感が無く自分が初めて来たときと同じ状態になっていた。

まるで、『司波竜也』という人間が元々いなかったように。

 

竜也はそれを確認するとそのまま出て行った。

 

 

 

 

 

「シヴァ中尉!お会いできて光栄です!どうぞこちらへ!」

「・・・・・あぁ」

 

指定された基地内の飛行場に付いた竜也を出迎えたのは、飛行服を着た若い男のブリタニア軍人だった。既にエンジンに火が入った輸送機が滑走路近くで待機していた。男は竜也からバックを受け取ると先導して輸送機内に案内した。

 

(ボロボロじゃねぇか)

機体のボディは煤まみれで表面には凹凸が見られた。機種も今では退役間近の物だった。

機内にはコックピットのパイロット席が2席と簡素な席が数席かあるだけだった。後方には灰色なシートに包まれた大きな荷物が置かれていた。

竜也は何が入っているか確認するため『精霊の眼』を使う。

 

(ストライカーユニット。名称 ホーク ハリケーンMk.Ⅱ、ビューリングが使っている奴か。だが、使えないな。一つは片肺がやられている)

 

 

「どうかなさいましたか、中尉?」

席の近くで立ち尽くした竜也に声を掛ける若いパイロット。それに対し「いや、何でもない」と答え、革の薄い小さな席へと座った。

パイロットはそのまま機体の中心をとおる通路でコックピットへ向かう。竜也の席からはコックピット丸見えだった。機長と副機長の席の間からはレバーや他のインテリアが見える。パイロットは左側の機長の席に座りベルトを付ける。

(一人だけ?)

「すまない。この機には俺と君だけなのか?」

この時代、まだオートパイロットなんてものは開発されていない。パイロットは交代で長距離を飛行する。最低でもコックピットには二人はいるのが普通だ。もし一人が操縦不可能に陥った場合でも、もう一人が代わりを務めることが出来る。

 

「‥…申し訳ありません中尉。実は人員の不足でこの機体は自分だけで操縦します。しかしご安心ください!途中、カールスラントの補給基地に向かい、そこで中尉には機体を乗り換えてもらいます。あちらの最新鋭機が用意されているそうです。それまではこのオンボロと、小官にお付き合いください!」

 

一瞬、男の体が止まったように見えたが、男は竜也の方を笑顔で振り返り、問いに応えた。

「‥‥そうか。いや、ありがとう」

竜也はそれを勘違いと思い流しそのまま背もたれに体を預けた。

 

 

プロペラがさらに回転数を上げ、機体が進み始める。管制塔からの誘導で滑走路へと移動していく。滑走路の端で一時止まり、エンジン音とプロペラ音がさらに上がる。機体が滑走路を疾走し一気に加速、浮き始め、そして、地を離れた。

 

竜也は窓から基地が離れていくのをただ見ていた。

 

 

 

 

 

「中尉、お気分はどうですか?酔っていませんか?」

「・・・・・ああ、大丈夫だ」

基地を離れて約1時間、上昇しきった輸送機の高度は既に雲の上だった。操縦をしながら話しかけるパイロットに対して、竜也は窓の外を見ていた。

雲の上の青い世界は果てしなく続いていた。

 

(アイツのために買ったけど、飲んじまおうかな‥‥)

何もすることの無い竜也は、密かにトランクに忍ばせたビューリングへの土産の酒を飲むか飲まないか迷っていた。

 

「中尉、後ろのバックパックに酒があるのですがどうですか?私の故郷で作った酒です。よろしかったらどうぞ」

その時、パイロットからのまさかの申し出に竜也は驚いた。竜也の席の隣にはそのバックパックがあり、口のファスナーからはガラス瓶が飛び出していた。

「!‥‥いいのか?」

「はい!中尉は酒類が好きだとお聞きしたので、ぜひ!」

「そうか、じゃあ遠慮なく」

竜也はファスナーを開き酒の入ったボトルを取り出す。出てきたのはコルクで栓を閉じられたラベルの貼られていないガラス瓶に薄黄色の酒が入ったボトルだった。

 

「それ、メドヴーハって酒なんです」

「メ、メドブーハ?」

「メドヴーハです。元々オラーシャの一般家庭で作られるものです。母がオラーシャ出身で、実家でもよく作っていました。蜂蜜を発酵させて作るので甘いですが、家のは度数が高いので気を付けてください」

「グラスもあるので使ってください」という言葉を聞き、竜也はバックパックを手で探る。そして、ガラスの小さなグラスを見つけた。コルクを取る。すると、ほのかに蜂蜜の甘い香りがした。

(いいな。これ)

甘いものが好きな竜也はその匂いを気に入り、グラスに注ぐ。

蜂蜜と聞いて粘着質なものだと竜也は思っていたがサラサラした液体だった。注いだ蜂蜜酒の匂いをもう一度嗅ぎ、そして口に運んだ。

 

(甘いな、少し酸っぱくて)

 

「美味いな。こっ・・・・れッ・・・」

 

(アレ?)

 

口の中にメドヴーハの甘い香りと甘酸っぱい味が広がった直後、竜也の視界が歪んだ。脱力感と強烈な眠気が襲う。必死に意識を保とうとするが、頭が働かない。平衡感覚を失い、遂に席から落ちる。

 

「あーあ、だから言ったでしょ中尉。度数が高いって」

 

必死で閉じそうな目を何とか開ける。自分の頭の近くに誰かが立っているのが分かった。焦点が定まらずその姿を確認できない。

 

(じ、自己修復術式を!)

何とか正気に戻ろうと自己修復術式を起動しようとするが。

(発動しない!?なんで!?)

 

「無駄ですよー。中尉ー」

またしても倒れた自分の頭上にいる人物が言葉を続ける。

「この酒、魔法力を阻害する薬も入っているので。あなたお得意の『再成』も『分解』も使えません」

声の主は竜也が飲んだ酒を見せながら言う。

 

「あなたにはこのまま死んでもらいます。これ以上、扶桑に力を付けられるには厄介なので。『移動中、急なエンジントラブルで機体は山中に墜落。乗組員は全員死亡。パイロットの遺体は衝撃によりバラバラになり確認不能。即死により、魔法を使えず司波竜也中尉は殉職、二階級特進』これが、我々シナリオです」

 

自身の死のシナリオを淡々と述べる人間の声を聴き地に伏している竜也は気付いた。

 

あのパイロットだ。酒に薬を仕込んだのもコイツだと。

 

「オッ・・・マッ・・・エッ・・・・!」

『何者だ』と言おうしても口が動かない。意識は遠のく一方だ。

 

「あっ、まだ喋れたんですね。安心してください。意識が残っていたとしても、痛みは一瞬ですから」

その時、爆発と共に機体が大きく揺れる。更に、機体が傾き高度が落ちていく。

 

「もうそろそろか」とパイロットは呟くとパラシュートを背負い出入り口に向かう。緊急解放用のレバーは引きドアを開ける。

 

「では中尉。最期の良い旅を」

 

そう言い残し、男は飛び降り地表へと消えて行った。

 

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