その町はとてつもなく静かだった。
______[變醜町]。
『日本一治安の良い町』と言う肩書きを持った町。
小規模ながら空港や地下鉄と言った公共交通機関や様々な遊び場がある事から、變醜町の外に住んでいた人間はその肩書きを鵜呑みにしてここへ引っ越してくる。
実際、その肩書きが本当なのかは誰も知らない。變醜町の住民さえも。
特定の場所で奇妙な噂が立ったり、児童が連続で行方不明になる。
最近變醜町ではそういった事ばかりだった。
建物の窓から光はチラホラと見えるのに対し、道を見渡しても住民の姿はほぼ見えない。
まるで町自身が『出歩くな』と警告している様にさえ感じ取れた。
住民達が外を出歩いていないのには訳があった。
_____『化け物』が出た。
こんな子供じみた嘘に思える理由が、真実であり、住民達が外へと出ない理由だった。
いつもと変わらぬ日常の中、いきなり道路に現れた『化け物』は人の首を斬り落とし、姿を消したらしい。
当然、道端に人は大勢いた為目撃者は多数居た。
ネットにも少数だが動画がアップロードされている。
そんな肩書きだけは一人前の町にポツンと建っている送電塔をジッと見つめ続けている二人の記者が居た。
「里上しぇんぱぁい......。」
「......。」
「里上しぇんぱいってばぁ.....。」
「あによ!?」
今年で28歳になる記者、里上(さとがみ)は神経を逆撫でする様な声で呼びかける後輩記者、石田(せきた)に腹を立てた。
「まだ張り込むんですかぁ?」
「あったり前よ!!!ここで何件かの『化け物』の目撃情報があがってんだから!!」
「本当に現れるんですかねぇ、化け物なんてぇ。それよりぃ、『連続児童行方不明事件』の方を追った方がいいんじゃあないですかぁ?」
石田がそう言うと里上は得意げに口を開いた。
「アタシはネ、この『化け物』とその事件には関連性が......。」
「なんだかんだ言ってぇ、結局はカネの為なんでしょお?」
何も言い返せなくなった里中は、図星を突かれた事を誤魔化す様にメガネをくいっと上げた。
「し、仕事なんてみんな金の為にやるもんでしょ!!なんか文句ある!?」
石田からの返事は返って来なかった。里上はその事に眉をひそめながら口を開いた。
「アンタ返事位したらどーよ?アンタの取り柄は返事が早い事だけなん......。」
里上が口を閉じる前にゴトンっと言う不可解な音が静寂に包まれた道の中に響いた。
「へ?ゴトンっ......?」
里上が振り向いた先に見えたのは____________石田の生首と目が膨張し、鎌の様な腕を持った二足歩行で歩くカマキリの化け物だった。
「ひぃ......!?ば、化け物......!?てか虫、虫じゃない......!!!」
化け物は石田のモノであろう返り血を付けた鎌を里上に向けた。
「ひっ......!」
里上は動揺して構えていたカメラを落としてしまった。
写真どころではなかった。身体が震え、足のすくんで動かない。
________『助けて』。
脳裏に浮かぶ言葉はそれだけだった。
その言葉を嘲笑うかの様にカマキリの化け物は里上へと飛びかかった。
里中は叫び声を上げる訳でもなく、うずくまる様に自分の身体を庇った。
それは最早『死』を確信していたからだった。
逃げてもどうにもならない。このまま殺される。
最早里上に残された選択肢は身体を庇う事だけだった。
「......あ......、れ?」
死んでいない。生きている。確実に意識もある。
目を閉じて目蓋に包まれた視界からは何も見えないが、何かの唸り声が聞こえる。
カマキリの化け物の物ではない。明らかに別の何かの声。里上には何故かそう思えた。
里上は恐る恐る、目を開いた。
自身の目に映るのはカマキリの化け物と_______その化け物を取り押さえる黒い化け物だった。
〜仮面ライダーパラノイア 序章 END〜