「はぁっ......、はぁっ......。」
息を荒げながら、一人の男性は女から逃げていた。
乱れたワイシャツに、チャックの開いたズボン。
おまけにズボンはベルトが無い為ずり落ちる寸前。
だらしない服装の男はそれを気も止めず、町の中を一心不乱に走り回る。
何かから逃げる様に。
「たっ......たすけて......。お、女が......、女が化け物にっ、誰かっ......!」
男は必死に声を荒げる。
しかし現実はそう甘くない。
男を無視し歩き続ける者。蔑みの目で見る者。
ほとんどの人間がそうだった。
「誰かっ......!たすけっ、たすけて......!」
恐怖心に包まれながら、助けだけを求む。
男は無謀とわかっていても、声を荒げ助けを求め続けた。
背後から迫り来る『足音』をかき消す様に。
「一人」の女は男を見据えながら追いかけていた。
その女の表情は、鉄で出来た仮面の様に無表情だった。
美しい黒髪。
感情のない表情。
光のない目。
死体と見間違える程に白い肌。
_________生きた死体。
この女の姿にはその言葉がピタリと当てはまる。
「誰かっ......!たすけっ......!!!!」
男が声を張り上げ、助けを求める。
しかしそれに応える者は誰も居ない。
その現実を男に伝える様に、女の身体が変化し始めた。
眼球は膨張し、白一色に染まる。
大量の汗と共に全身の皮膚がドロドロに溶け出し、女は別の生物へと姿を変えていく。
そこにはもう「生きた死体」である女の姿はない。
触覚の無いバッタの顔を模した茶色の仮面、プロテクターの様なライダースーツ。
ヒーローの様な見た目の化け物がそこに居た。
「ひっ......!」
男は小石に躓き無様に転んだ。
体制を立て直す時間など無い。
無情にも男の助けに応えるヒーローなど居ない。
そんな残酷な現実を伝えるかの様に、化け物は男の方へと迫ってくる。
「くっ......くるなっ......くるなっ......。くるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!」
静かな町に、男の悲鳴だけが響いた。
[newpage]
通行人達の声。
赤子の泣き声。
車の走行音。
電光掲示板の音声。
その様々な音が銀髪の少女、嶋本忠治の神経を苛立てる。
嶋本は壁にもたれ掛かり、ため息をついた。
どれだけ神経を研ぎ澄ませようと、耳に入ってくるのは雑音のみ。
少年の気配もなければ、エミリの声も聞こえない。
存在しない物を追いかけ続けている。
そう思えてしまう程に、嶋本の心は虚無感で満たされていた。
「......、くそっ。」
再び少年を探そうとしたその時。
バイクの轟音と共に姿を現した化け物の姿に、嶋本は目を丸くした。
バッタの顔を模した仮面。
プロテクターの様なライダースーツ。
真紅のマフラー。
その姿はどう見ても__________
「......仮面、ライダー......?」
子供の頃憧れた、仮面ライダーそのものだ。
「いや、違う......。」
嶋本は即座にそれが、仮面ライダーなどではない事に気が付いた。
何も感じ取れないのだ。
感情も、声も、呼吸も、思考すらも感じ取る事が出来ない。
『仮面ライダーを模した人形』
その言葉がピタリと当てはまる。
仮面ライダーの姿をした化け物は、バイクのスピードを緩める事なく前輪で嶋本の身体を壁に押し付けた。
「がふっ......。」
壁と前輪に挟まれ逃げ場を失い、押し潰された内臓はぐちゃりと嫌な音を立て破裂する。
「はぁっ......、ぶふっ......、がはっ......。」
血を吐き出すと同時に、身体は再びあの黒い化け物へと変わっていく。
大きく、赤く光る目。
金色に輝く角。
手足から生える鋭い棘。
鋭く尖った爪。
黒く染まった肌。
嶋本は再び、黒い怪物へと変化した。
嶋本/怪物は咆哮をあげ、前輪を掴み化け物が乗ったバイクを持ち上げる。
『標的が『変化』しました。作戦を続行します』
化け物がようやく話した言葉は機械じみたモノだった。
『捕獲作戦を開始。』
化け物は低い女の様な声で、淡々と話す。
「何が......っ、捕獲だッ!!」
バイクを持ち上げ、化け物をバイクから振り落とした。
しかし化け物は何事もなかった様に体制を立て直し、嶋本/怪物へと拳を振り下ろす。
強く鋭い痛みが、嶋本/怪物の身体中を駆け巡る。
その痛みに耐えながら化け物の頭に腕を振り下ろし、腕の棘で仮面を顔ごと切り裂いた。
ぐちゃり、と嫌な音が響く。
同時に空になった化け物のライダースーツから溢れ出た茶色の液体が、再び頭を形成していく。
「なっ......!?」
液体は一瞬の内に元の化け物へと戻った。
ダメージが入った手応えすらない。
一瞬の内に再生し、動きも止めようにも液体と化す。
嶋本/怪物にとってそれは正に最悪の敵だった。
「っ......!」
それでも臆する事なく嶋本/怪物は構える。
『目標、完成品「黒」の精神疲労度23%、作戦を続行。』
化け物は再び嶋本/怪物へと殴りかかる。
嶋本/怪物はそれを避け、化け物の腹へ蹴りを入れた。
しかし手応えは全く感じない。
(くそっ、物理的には無理か......!?)
嶋本/怪物の視界の端には先程化け物が乗っていたバイクが見えた。
金色に輝く角。
紅く光る目(ランプ)。
バッタの足を連想させる巨大なマフラー。
黒く大柄なカウルとボディ。
巨大なタイヤ。
カウルの隙間から見える内臓の様なエンジン。
そのバイクの形は正に「異質」であり、今の嶋本/怪物の姿を模した物にも思える。
(あれだっ......!)
化け物を突き飛ばし、嶋本/怪物はバイクに跨った。
エンジンの右横に装着されているペダルを踏み込み、バイクのエンジンを始動させる。
更に左横に装着されたペダルを踏み込み発進可能な状態にしてアクセルを回し、化け物へと突っ込む。
『失敗作「黒の50番」を強奪されました、防御体制に入りま』
化け物が構える前に、バイクの前輪が身体へと直撃した。
同時に化け物のベルトが耳障りな音を立て砕け散る。
『......損壊率50%。「本体」の周辺でなくては戦闘不可。撤退します。』
その瞬間化け物はライダースーツごとドロドロに溶け出し、姿を消した。
「クソっ、何処行きやがった......!」
移動する音も姿を捉える事も出来ない。
ただ一つ、匂いだけを捉えた。
自身が吐き出した血の匂い。
壁に押し付けられ吐き出した時の血が化け物の身体に染み付いていたのだ。
その匂いがどんどん遠くへと離れていく。
「待てっ......!」
嶋本はその匂いだけを頼りにバイクで化け物の後を追う。
頬に当たる風を楽しむ事もなく、化け物を引き止める事だけを考え嶋本はアクセルを振り絞った。
[newpage]
男は化け物に対する恐怖で震えていた。
悲鳴をあげても、助けを求めても、答える者は誰一人居ない。
『恐れる事はないわ。』
「だ、誰だ......、俺を見てるのか?それとも目の前の化け物か?」
自身を見下ろす化け物。
その化け物以外には誰も見当たらない。
だと言うのに。
男の耳にははっきりと、女の声が聞こえている。
『貴方はこのコになるのよ。』
「な、なにをっ......。」
化け物は男へと顔を近づけた。
化け物が仮面の口元のパーツを外すと、唾液に塗れた長い舌が露わになる。
「ひっ......!」
化け物はそのまま男と唇を合わせ、自身の舌と男の舌を絡ませた。
「んぐぅっ!!!んっ......!!!んぅ......っ!!!!」
男が抵抗すればするほど、化け物の唾液は身体の中へと入っていく。
「んぅっ......!!!ん......。」
快楽が自身の思考を塗り潰す。
抵抗する事だけではなく、自分の名前、自分の家族、自分の記憶全てを忘れていく。
全てが真っ白に潰されていく。
男は自分から化け物に抱きつき、化け物の唾液を吸う様になっていた。
男にはもう逃げていた時の記憶も、恐怖も何もない。
目の前の快楽だけを考え、怪物の唾液を吸い続けるだけだった。
変化はついに男の身体にも及び始める。
骨が軋む音と共に骨格は女性の物へと変わっていく。
茶髪だった髪は黒くなり、背中まで伸びる。
筋肉質だった身体からは筋肉が消え失せ細くなり、肌は死体と見間違う程に色白く変色した。
男性器は縮み、女性器へと姿を変える。
胸と尻はゆっくりと膨らみ、美しい形の尻と乳が出来上がっていく。
瞳からは光が消え、黒一色に染まる。
「あ......う......?ひぐっ......。」
________美しい黒髪。
_________光のない目。
_______死体と見間違える程に白い肌。
__________男の面影を感じられない美しくも無機質で何処か不気味な女性らしい顔。
男は最初に自分を追っていた女性と全く同じ姿へと変貌した。
「えへっ、えへっ、へへ......。」
黒髪の女性へと変わった彼は快楽に溺れ、美しいその顔を歪ませている。
『対象の同族化98%完了。作戦を続行。』
化け物はそう言い放ち女性へと変わったばかりの彼女の腹をぐりぐりと踏みつけた。
「お"っ"あ"っ......?ゔっ......?あ"ぁ"っ"......?」
ぶかぶかになった彼女のズボンの股間部分からシミが広がっていく。
生暖かく、黄色の液体が彼女の秘部からじわじわと溢れ出す。
「あっ......、あっ......。」
黄色の液体を出すと同時に彼女から表情が消えていく。
あれ程快楽に溺れ酷く歪んだ表情を浮かべていた彼女から、表情が消えていく。
記憶。姿。思考。感情。
彼女からは全てが失われた。
先程まで化け物から逃げていた彼女は、一瞬で「自分」と言う存在を失ったのだ。
『同族化完了。試作品「白」。立ちなさい。』
『はい』
彼女は目の前の化け物と同じ機械じみた低い声で返事をし、立ち上がる。
かつての自分ではなく、「化け物」として。
[newpage]
砂利だらけの地面。
何処なのかも分からない道。
ガタガタと揺れる車体。
化け物に付着していた自分の血の匂い。
全てが嶋本/怪物を苛立たせた。
(走れっ......!もっと......!もっと早く......ッ!)
嶋本の思考に反応するかの様にタイヤからは小さな棘が無数に生え、アクセルを回さずともバイクの速度が上がっていく。
タイヤの小さな棘がスパイクとしての役割を果たし、一切揺れずに前へと進む。
「ちっ......!」
嶋本/怪物は軽く舌打ちをした。
バイクのスピードが上がると同時に見えた物。
____________コンクリートの壁。つまり行き止まりである。
ブレーキを掛ければ化け物に逃げられる。
ブレーキを掛けなければ壁へと正面衝突。
どちらも嶋本/怪物にとっては最悪の選択肢だ。
(......っ、壁を昇れれば......!)
そう考えた瞬間、前輪が宙に浮きバイクが平らの壁を重力を無視して登り出す。
嶋本/怪物の願いに応える様に。
「!?」
嶋本/怪物は何もしていない。
自分が前輪を宙に浮かせた訳ではなかったのだ。
ましてやウィリー走行などした事がない。
出来る訳もないのだ。
バイクなど高校時代に乗った原付が最後。
エンジンをかけ、アクセルを回し、ギアを変える。
それが嶋本に出来る最大限の操縦。
それ以外の運転技術などほぼ無いに等しかった。
「......。」
嶋本/怪物は試しにハンドルから手を放す。
_________走っている。
操縦をせずともバイクは自分の思う様に走っている。
あの怪物を追っている。
嶋本/怪物は少しずつ理解した。
これはバイクなどではない。
自身の思い通りに動く、自分の『脚』なのだと言う事を。
______人気のない路地裏。
嶋本/怪物はそこで『脚』の動きを止めた。
匂いがしない。
嗅覚を集中させても漂うのはラーメンの匂い、タバコの匂い、加齢臭、香水の匂い、ドブ川の匂い。
それだけだ。
存在している物を追っている筈なのに存在しない物を追っている様な錯覚に陥ってしまいそうになる。
「......やられた。」
化け物の狙いは匂いの多い場所に嶋本/怪物を誘い込み、逃げ切る事だったのだ。
嶋本はその罠にまんまとかかってしまった。
「......クソ。......。」
怪物の身体が蝋燭の様にどろりと溶け、銀髪の幼女へと戻る。
変身を解除した嶋本は、自分の頭を壁に打ちつけた。
思えば自分は昔からそうだった。
誰かの為にした事が空回りする。
無駄な事しかしない。
_______________『無能』。
上司からも高校時代に教師からも言われたこの言葉が嶋本の脳裏に浮かぶ。
今と似た様な状況を嶋本は思い出す。
嶋本には彼女が居た。
幼馴染の沢城 幸(さわしろ ゆき)。
忘れる筈がない、忘れられる訳がない。
綺麗で、ふんわりとした茶髪。
可愛らしい八重歯。
美しい赤色の瞳。
控えめな胸。
可愛らしい顔には合わない大人びた泣きぼくろが愛おしい。
嶋本と幸は互いを愛していた。
学校は違うが、帰宅路は必ず一緒だった。
しかし運命は二人の愛を許さない。
忌々しい記憶。
その記憶は現在も嶋本を縛り続けている。
中学時代。
嶋本は同級生に痛ぶられた後縄で縛られガムテープで口を塞がれ体育倉庫に閉じ込められていた。
それだけなら大した事はない。
いつもの光景。いつもと変わりない日常だ。
体育倉庫に連れて来られた『彼女』を見るまでは。
嶋本は自分の目を疑った。
沢城幸。彼女が同級生に強引に連れて来られていた。
学校は違う筈。彼女は何故ここにいる。
そんな事ばかりが脳に浮かぶ。
「っ......!アンタら、嶋本くんに何を......ッ!!」
幸は嶋本の同級生を睨みつけ、嶋本を助ける為に同級生の手を振り解こうと暴れる。
しかし、彼女の細く可愛らしい腕で振り解ける訳も無い。
嶋本の同級生はニヤリ、と気色悪い笑顔を浮かべる。
「コイツとお前が一緒に帰るとこをたまたま見たんだけどさぁ。コイツ可愛いね。胸はちっせーけど。」
同級生は見せつける様に幸を抱き寄せる。
嶋本は同級生を睨みつけた。
叫びたくてもガムテープのせいで叫べない。
手足は縄で縛られ動けない。
「このッ.....!」
幸は同級生の股間を後ろ蹴りで蹴り上げた。
油断しきっていた同級生の無防備な股間は幸の足によって押し潰される。
「ッ......、ッ......。」
幸の腕から手を放し悶絶する同級生。
幸は素早く嶋本の元へと走る。
「嶋本くん、今解くから......。」
幸が手足の縄を解こうとした時、後ろから鬼の形相をした同級生が迫っていた。
嶋本はガムテープで塞がれた口で必死に叫ぶ。
彼女に危険を使える為に。
「へ?」
幸が振り返ったと同時に、同級生の大きな拳が頭部へと直撃する。
か細く、か弱い身体の彼女にはあまりにも重い一撃だった。
彼女は倒れ、痙攣を起こし今にも気絶しそうになっている。
「あっ......う......う......。」
「このアマ......大人しくヤられときゃいいのによ。」
同級生は幸へと跨った。嶋本へと見せつける様に。
「大人しく俺とコイツのセックスでも眺めてろよ。へへへ......。」
嶋本は縄を自力で解こうとした。
勿論解ける訳などない。
嶋本は足で自身の身体を引きずり前に進み、同級生の身体に頭突きを当てた。
「うぜぇんだよ!!!」
同級生の裏拳が嶋本の顔面へと直撃する。
意識が少しずつ遠のいていく。
「嶋本くん......!嶋本くん......!」
最後に聴こえたのは自分の名前を呼びながら泣く幸の声だった。
三日後。
嶋本は病院で目を覚ました。
目の前には彼女_____________沢城幸が居る。
「ゆ......き?」
幸は偉く珍妙な格好をしていた。
いつもの黒いセーラ服。綺麗でふんわりとした茶髪。
そこまでは普通だ。
しかし彼女はお祭りで売っている様な仮面で自身の顔を隠していた。
クワガタの様な金色の角。赤く丸い目。
かつて嶋本がTVの中で見たヒーローの仮面。
その仮面の下で幸は自分の涙を見せまいとしている。
「嶋本くん......おはよう。」
「幸......、ごめん......。」
「大丈夫。......こっちこそ、ごめん。」
幸は嶋本に抱きつき、嶋本の胸の中で静かに泣き出した。
嶋本は小さな彼女の身体を抱きしめる。
彼女の身体は静かに震えている。
嶋本は自分を呪った。
手足を縛られ、何も出来ずに彼女を救えなかった。
その事実が、何よりも辛い。
二人はしばらく抱きしめ合い、心を落ち着かせる。
「......。」
仮面の事は何も聞かず、ただ幸を抱き寄せる。
幸が何も聞かれたくないのを嶋本はよくわかっていた。
幸のポケットから、チラリと何かが見えた。
一瞬自身の目を疑う。
信じられない。
信じたく無い。
赤い線の浮かんだ妊娠検査薬。
それが幸と嶋本に無慈悲な運命を突き付けていた。
「嶋本くん......ごめんね。嶋本くんに......あげる筈、だったのに......。」
「......。」
嶋本は幸を力強く抱きしめる。
それ位しか、出来る事はなかったのだ。
それから数日後。
TVには信じられない文字が表示されていた。
『沢城幸さん(15) 行方不明』
嶋本は寝巻きのまま家を飛び出す。
昨日までは普通に顔を合わせ、話をしていた。その筈だった。
その彼女が、唐突に消えた。
連絡も何も無く。
嶋本は必死に幸を探す。今までデートした場所。二人で遊んだ公園。
記憶にある限りの場所を隈無く探した。
それでも彼女は見つからない。
まるで今と一緒だった。
存在している人間を追っている筈なのに、存在しない人間を追っている様な虚無感。
今の虚無感と良く似ている。
『こんにちは完成品「黒」』
嶋本はその声で一気に現実へと引き戻された。
[newpage]
『こんにちは完成品「黒」』
嶋本の前へと現れた黒髪の美女。
顔は整っており、胸や尻は大きく綺麗な形をしている。
しかしその女性を一言で表すなら_____________
『無個性』。
その言葉がぴたりと当てはまった。
光の無い黒い目。
感情を一切感じない表情。
黒いライダースーツ。
それは正に『無個性』を具現化した様な存在だった。
「ッ......!」
構えを取ると同時に再び嶋本の姿が変わっていく。
身体は服ごと黒く染まり大柄な物へ。
皮膚を突き破り、額からは金色の角が生えていく。
目は赤く染まり、膨張する。
歯や爪が鋭く尖っていく。
腕やふくらはぎからは鋭く尖った棘が生える。
可愛らしい銀髪の幼女は一瞬にして醜い怪物へと姿を変えた。
『貴方は素』
女性が言葉を終える前に、嶋本/怪物は女性の腕を引きちぎり地面へと投げ捨てた。
「そっちから出てきてくれるとはな......?覚悟は出来てんだよな......。」
嶋本/怪物は女性を睨みつけ、威圧する。
しかし女性は痛がる素振りも見せず、再び口を開く。
『貴方は素晴らしい』
「......そりゃどうも。」
嶋本/怪物は女性を蹴り飛ばし、身体を踏みつけた。
『しかし欠陥がある。何故完成品に含まれるか理解出来ない。』
「あ?」
その時。
後ろから音が聴こえた。
水を掻き回した時の様な音が女性の腕を投げ捨てた辺りから聴こえてくる。
「......!?」
振り返るとそこには腕では無く、目の前の女性と全く同じ姿の女性が立っていた。
「増え......た......?」
『危機を察知する能力をまるで感じられない。素体に異常がある可能性あり。』
黒髪の女性達は嶋本/怪物______________ではなく、道を歩く一般人の方へと走っていく。
「......おい、何処行きやがる!!敵は俺だ!!!」
一般人に手を出させない為に追いかけながら自分へと注意を惹きつけようと叫ぶ。
しかし黒髪の女性達は一般人をへと迫っていく。
「くそっ」
嶋本/怪物は黒髪の女性に追いつくと同時に胸ぐらを掴み、遠くに居たもう一人の黒髪の女性へと投げつけた。
しかし女性達が衝突すると彼女達は液体となり飛び散る。
空中に飛び散った液体はまるで意思があるかの様に一般人の口や耳、鼻の穴。
あらゆる身体の穴から体内へと侵入した。
「なっ......。」
液体が身体の中に入った一般人達は急に悶え始める。
次第に苦しんでいた顔は気持ち良さそうな表情へと。
姿は黒髪の美女の物へと変わっていく。
彼女達は黄色の液体を秘部から垂れ流す。
同時に表情が消え失せ先程の黒髪の女性と全く同じ姿となった。
『『『『『増殖の協力を感謝します。完成品「黒」』』』』』
先程まで道を歩いていた一般人は、黒髪の女性_________化け物へと変わってしまった。
「あ......あ......。」
散歩をしていた老夫婦も。
幸せそうな顔をして歩いていた母親と子供も。
妻の為に帰りを急ぐ男性も。
誰もが自分のせいで化け物になってしまった。
彼らはただ普通の日常を送っていただけだと言うのに。
黒髪の女性達の皮膚は大量の汗と共に溶けていく。
バッタを模した仮面の様な顔。
深紅のマフラー。
プロテクターの様なライダースーツ。
ヒーローの様な異形の姿が女性達の皮膚の下から現れる。
「なんなんだよ......。」
かつて何度もTVで見ていたヒーローと同じ顔が、『無能』を見つめていた。
『『『『『捕獲作戦を再度開始します』』』』』
「なんなんだよォォォォォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
嶋本/怪物の悲痛な叫びだけが、町へと響き渡った。
〜仮面ライダーパラノイア 三話 END〜