短編置き場   作:ぱぱパパイヤー

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「俺」:男。真っ白い犬のマスクを被っている。鶏マスク男の親友、馬マスク女の兄。薬中。


他人を傷つけるのは好きか?:マイアミ

 極彩色の世界が目の前に広がっている。自分がどこにいるのかわからない。感覚がなかった。

 

「なあ、この馬鹿野郎」

 

 黄色いライトが正面を照らしている。光を浴びている覆面の男が、俺を罵倒した。

 

「もう何度言っても無駄だろうが……。ああ、お前はそういうやつだからな。俺はよく知ってる」

 

 すぐにわかった。目の前の男は、俺を哀れんでいるのだと。安っぽいゴムマスクを被って、表情を伺わせない癖して――声から、仕草から、俺を哀れんでいると主張している。

 露悪的な面持ちの、真っ白の犬のマスク。その向こうの黒々とした目が、俺を見ている。

 

「短けぇ人生の残りぐらい有意義に使わねぇと、あんまりにも哀れだろ。無駄に迷わないよう、決まってることの手助けくらいはしてやるよ、よく聞け……」

 

 犬マスクの男が指を三本立てた。

 

「一つ、お前はもう何も考えるな。考えたって同じなんだから、動物みてぇに思うまま動くといいさ」

 

 指が一つ折り曲げられた。頭が回らない。これは夢だと何処かで気づく自分が居た。

 

「二つ、上着は脱ぐな。特に腕は見ない方が良い。自分でもドン引きしちまうぞ」

 

 意図の読み取れない指示だと感じる。だが声を出せないので、黙って二本目の指が曲がるのを見ていた。

 

「三つ……。もうどん底だ。とっとと地獄に落ちちまえ」

 

 男は拳を作ると、正面の俺へ向かってそれを勢いよく叩きつけた。感覚はないが、間違いなく俺を殴ろうとしていたように思えた。

 すると視界が暗転し、スポットライトが左横を照らす。そこには馬のマスクを被った女が居た。

 

「疲れてるでしょう……少しは休んで。そうしたらきっと、良い考えも浮かぶわ。少し眠るだけでいいの」

 

 柔らかな声は俺を気遣っていると分かる。ただ安寧とした気持ちが湧いて、心地よいと感じた。

 視界がまた暗転する。次に照らされたのは右の椅子だ。そこに座っているのは、鶏のマスクを被り、ジャケットを着た男だった。

 

「馬鹿なやつだ。自分でも分かっているだろう……だが止まれない。お前はそうだった。オレもそうだ」

 

 肩を竦めた鶏マスクは、俺を見て――多分、笑っていたと思う。

 

 

*Bad trip*

 

 

 ジリリリ……と目覚ましの音がする。

 ベッドから起き上がりスイッチを切る。猛烈な吐き気がしていた。

 口元を抑えそれを耐えると、寝室を出て、冷蔵庫の中のミネラルウォーターを飲んだ。冷たい水が喉を通る。冷蔵庫には他に何も入っておらず、ミネラルウォーターが六本だけ冷えていた。

 頭がぐるぐるとミキシングされている。気持ち悪い。

 

 頭を抑えると、その動きでジャンパーのチャックが擦りあった。その微かな音さえも不快だった。ジャンパーを脱ごうとして、止める。そうしない方が良い気がした。

 目眩に耐えかねてリビングの机に手をつくと、ぬめりを帯びたものが手に付着する。ピザだった。チーズの油とケチャップが手についてしまった。

 いつ頼んだのだっけ。いくつかピースが欠けているが、食べた覚えもない。

 ぼんやりと思考してみるが、考えた端からすべてが霧散していく。脳が溶けているみたいだ。

 

――……電話が鳴る。

 

 ふとそう思った途端、本当に着信の音が鳴り響いた。煩いベルを止めようと黒電話を目指すと、くしゃりと何かを踏む。

 集中が耳から足へ逸れたからか、ベルの音が急に遠く感じる。電話を放置して紙を拾い上げると、それは新聞だった。

『50 blessings』……中身は右翼的な記事だ。アメリカ国民として存在くらいは知っていた記憶がある。日付はかなり前のものだが、どうして取ってあるのだろうか。

 

 頭が痛くてとても読めそうもない。それに、ベルの音がまた大きくなって、無視できなかった。髪をかきむしりながら電話に出ると、事務的な口調の営業電話だった。

 

『どうも、フリント建築会社です。お客様がかねてより検討されていらっしゃった物件に、どうやら瑕疵があったようで……。先方が事情を説明したいそうです。件のビルにてミーティングを希望しています。弊社といたしましては、出席はオススメできませんが、もし可能でしたら解体工事の提案をお願いいたします』

 

*ガチャッ*

 

(ああ――行かねぇと)

 

 なぜ? どうして? と考えるよりも早く、結論だけが弾き出された。体はそれに追いつくように身支度を整え、ドアノブを捻る。利き腕でドアを開きながら気付く。

 ピザで汚れたはずの手は、まるでそんなことなどなかったかのように、清潔なままだった。

 振り返るとリビングの机には、そもそもピザなんて置かれていなかった。

 

 

***

 

 

 日本車は静かに走るし、ガス臭くなくて良い。特にエンジン音が小さいのが便利で、"こんなこと"になってからは特に重宝していた。フォードのお株を奪ったアジア人には思うところがあるが、結局のところ俺はロシア野郎が特別に大嫌いなので、他は殆どどうでもよかった。

 

 車を降りてビルを見上げる。ガラス張りのエントランスに、白い猛犬のマスクをつけた男が映っていら。それが俺だと、遅れて気がついた。

 ズカズカと踏み入ろうとすると、銃を持ったロシア人が出てくる。懐に手を突っ込んで銃を握るより早く、「ボスがお呼びだ」と道を開かれた。

 

 その場には二十人ほどがおり、全員が俺を見ている。虐殺は流石に現実的ではない。苛々と腕をかきむしりながら、誘導されてエレベータに乗った。体のあちこちに銃口が向けられていたが、俺はそれよりも頭痛にムカついていた。

 

 エレベータを降りて長い回廊を進む内、ガラス張りの壁に誰かが映る。俺ではないもの。

 

――ジャケットを着て鶏のマスクを被った男と、ガラスの中ですれ違う。

 

 俺はその異様な光景にも関わらず、懐かしさに堪らなくなって思わず手を伸ばしたが、指先が壁にぶつかって正気に戻った。ガラスの中に映るのは、当然ながら俺と銃を持ったロシアンマフィアのみだ。

 

「は、早く行け!! 殺されたいのか!?」

 

 震える声で銃を突きつけられ、舌打ちをこぼしながらも従う。視界の端がグラグラ歪んでいた。車の中で打った薬が悪さをしている。ろくに食べていないせいか、幻覚症状が酷かった。

 

 突き当りから立派な扉を抜けると、そこには良いスーツを着た男が待っていた。側には秘書と思しき女が居る。マスクの中で鼻を引くつかせる。火薬の匂いがする。この男も何か銃を持っているようだ。

 

「よく来たな」

 

「……」

 

「取引の内容は聞いているか? お前がウチのを殺しまわったのは勿論知ってる。その依頼人共のこともな。ここ最近似たようなハエがブンブン飛び回っているから、早晩、原因元の生ゴミを焼却処分するつもりだ」

 

「……」

 

 ぐり、と下っ端マフィアに背に銃を押し込まれたが、返答はしなかった。実のところ、目の前のロシアアンマフィアのボスが何を言っているのか、沸騰して蕩けた薬漬けの脳では咀嚼できていなかった。

 しかし問題はない。どうでもよかった。

 

「言いたいことが分かるか? こちら側につけってことだ。うちの鉄砲玉でも、今のお前の依頼元にいるよりは、生還率が高いぞ。なんせ銃の配給があるからな」

 

 笑う男に返答せず、グルルと唸り声を出す。懐に手を突っ込んで、銃を取り出した。後ろで引き金を引く音がしたが、それより俺の方が早かった。こうして薬で引き出された身体能力で、これまでだってこいつらを殺してきた。

 

 殺した。殺した。殺した。こいつらは仇だ。妹の。友の。二人の。

 

「GYaaaAAAAAAAAAA!!」

 

 ボスの首に飛び乗りながら、机の下に身を潜めて銃弾を凌ぐ。ボスの腹を撃ち痛めつけてから、首元を抱えて盾にして、一人ずつ丁寧に撃ち殺していく。

 

「おいよせ!! こんなことして何になる!? 鶏マスク野郎ももう来ない!! 残ってるのはお前くらいだぞッ!!」

 

「GaaAAAA! AOOO――OOoo!!」

 

 秘書の女が的確に俺を狙って飛ばす刃物を避け、ボスの顔の横に銃を構えて撃った。フロアが一時静かになるが、ややもあってエレベータが動く音がした。銃声と遠吠えにつられて上がってきた構成員たちを、撃って撃って撃って撃って撃って撃って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殺した。全員。1人残らず。

 

「ころした」

 

 ぽつりと呟き、馬乗りになっていた死体から立ち上がる。

 ガラス片に映った鶏のマスクが俺を見て笑っている。親友が笑っている。

 

「殺したぞ……殺してやったぞ」

 

 自分に何度も言い聞かせて、馬鹿になった頭はようやっと理解できた。暑くて脱いだジャンパーの下、腕にはうんざりするほどの注射痕があって、思わずえづいてしまった。

 

 ポケットから写真を取り出す。妹とジャケットを着た親友が笑う写真だ。妹が殺されたのが初め。次に俺がロシアンマフィアのクソ野郎にヤクを盛られてリンチに遭った。最後に気の良い友人が死んだ。三段構えの絶望である。

 

 妹の彼氏であり、俺にとっての親友であり、また共通の友人の親友でもあった彼はおかしくなってしまったのか、鶏頭のマスクを被り、片っ端からロシアンマフィアをぶち殺し始めて復讐に狂った。

 

 当時、励まそうとしてか、大切な人を失った傷を舐め合おうと思ってか、なんとか薬中から社会復帰した俺が手土産を持って訪れたマンションで、鶏のマスクを被った親友が血塗れで帰ってきた時は言葉を失った。

 

 俺はヒヤヒヤしながら親友の家へ泊まり込んだし、世間を騒がせ続ける彼の行動に気を揉んだ。何か俺も手伝うと言おうと、彼は黙って首を振った。

 

 やがて彼も戦う内、頭部に銃弾を受けて入院。経過観察中に警察署へ脱走、内部で暴れまくって、再び病院の中だ。

 命があるのがおかしなほどで、もう数カ月眠っている。残された最後の大切な人である親友が死ぬかもしれないと思うと、俺は何もせずにはいられず、彼が殺しの指示を受けていた新聞社に自ら連絡を取り……そして、今。ここでこうして、復讐を成し遂げた。

 

 栄光ある復讐者俺は、バッドトリップによって立ち上がれず、死体の中に混じって倒れている。

 

 横向きになりながらゲロを吐き、歯を噛み締めて荒い息を吐く。気持ち悪い。一度は禁断症状に耐えて社会復帰出来たのが嘘のようだ。自ら復讐のために薬を打ったと知れば、親友は俺を怒るだろうか……。

 

 ぴりりりり、と手持ちの携帯電話が鳴る。震える手で応答すると、"いつもの"奴からだった。

 

『フリント建築会社です。お疲れのことでしょう。いつものように清掃員がお迎えに上がりますので、持病のお薬を受け取ってお休みくださ、』

 

「いらねぇ」

 

『……。……おい?』

 

 ぶるぶる震える手で地面を突き、なんとか立ち上がる。無様に前傾姿勢なのは、吐き気で今にも座り込みそうだからだ。

 

「今朝、ニュースを見たんだ……アイツ、訴訟されたんだってな……ハハッ、いつ目覚めてたんだよ……ちっとも、気付かなかった、な」

 

『そこから動くなよ。まさか死んだりしないだろうな、勿体ない。いいか、祖国のために動け』

 

「――もう顔も思い出せねぇ。写真見ても、一秒後には、忘れてんだもんなァ」

 

 親友も目覚めた今、もう、心配すべきことは何もない。親友に恨みのあるロシアンマフィアは、覆面の中身が違うことなんて当然知らない。それに、あいつ自身強い上に、訴訟されたということは警察の庇護下に居るはずだ。どうせ死刑だろうが……ロシア野郎共に殺されるよりずっと良い最後だ。

 

 一方、俺。まともな思考能力はなく、薬がなければ――まああってもだけど――立ち上がることもできない。ロシアンマフィアから恨みを山ほど買っているが、俺を保護する者は居ない。『50 blessings』は電話の通り、俺を薬漬けにして使い潰す気満々だ。

 

 俺がゲロを吐いたボスの死体の胸元には、ここより豪奢な建物でファミリー全員の写った写真があった。どうせここも末端に過ぎない。本部はロシアにあるのだろう。

 

「ロシア野郎、なんかに、殺されるのはゴメンだね……ここがどん底だ。もう落ちねぇし、上がれることは一生無ぇ。深すぎて穴登れねぇもんな……」

 

 薬の作用か、立っているだけだというのに浮遊感が体を襲っている。気が早いことだ。バルコニーまで牛歩の歩みで進んでいるが、ちっとも辿り着いて居ないというのに。

 

『――おい! ――待て』

 

 死体溜まりに取り残された電話が何事かを言っている。聞こえやしないし、どうでもいい。ムズかしいことは、もうりかいできない。

 歪んだ視界が弾けて光る。花火が眼球の中で打ち上がっているようだ。最後の戦いだからと気合を入れたせいか、効果が長く強く続いている。肌の表面の感覚が敏感で、服が擦れる感触はまるで猫の舌のようにザラザラして痛かった。

 

 バルコニーの手摺に腰掛け、手放さないように写真を口に咥える。見にくいが、震える指ではまともに掴めないので、これしかない。折角写真を見ても次の瞬間に忘れてしまうので、最期まで見ていなければならない。死後、地獄で親友と再会するために、目に焼き付けていたかった。

 

「ほんほほでいつはへもいきるひゅみねぇよ(どん底でいつまでも生きる趣味ねぇよ)」

 

 バタンッ! と手荒く開かれた扉の向こうに、丁度息を切らした清掃員が現れたところだった。中指を立てて見せつけ、バルコニーの手摺から身を投じる。

 

 愉快で笑い出しそうなのを、写真を噛み締めて堪えて、急速に遠のく空を見ていた。

 明日の新聞はきっと俺のニュースで持ちきりだ。親友も見てくれるだろう。なあ安心しろよ、俺ちゃんと、お前とお前の親友と妹と、ついでに俺自身の仇をとっ

 

――ぐちゃっ




「ホiッiトiラiイiンiマiイiアiミ」
死に覚えゲー。登場するキャラを撲殺銃殺絞殺するゲーム。

 まだ1しかやったことないけど何れは2もやりたいと思う。初めてやるタイプのゲームで面白かった。人をワンクリで殺せるのだが、投げるにしても殴るにしても撃つにしても、その手応えというか、ヒット感が良かった。
 あとモーションに人間感があってよかった。関節を意識してる動きがスッキ。暴力の描写が丁寧すぎて「はわわ…すごい…」と新感覚を味わえた。
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