短編置き場   作:ぱぱパパイヤー

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「僕」:ウルサス人。飛び級繰り返した天才。多分ショタ。知的欲求至上主義。


君に出会えた幸運を:アークナイツ

 ”あの”ロドスに入社してからどれほど経っただろう?

 ただ歳月を漫然と過ごす日々だった。あんなに苦しかった鉱石病の進行も止まって、まるで少しの時も過ぎていないようだ。

 転機があったのはある日のことだった。医療用ガジェットの開発担当になり、機械配線を弄っていた時のことだ。

 上役であるケルシー医師が、何処かふらついた様子でやってきた。その日メカニックは僕しかいなかった。

「頼みたい仕事がある。不具合が起きた。バイタル検査プログラムを組んだ君の手にかかればさほど時間もかからないだろうが、今の仕事を妨げるつもりもない。空いた時間ができ次第、このメモリの修復を頼む。多少の不備や問題が起きようと、責任の所在は君にはない。出来る限りで完全な状態を目指してくれ」

「分かりました」

 メモリが入った機材を受け取るなり、ケルシー医師は隣の医療室のベッドに横たわったようだった。

 その後、元々着手していた自分のガジェットの配線不良はまもなく解消されたので、割合すぐにそのメモリに取り掛かることになった。

 困難だった。

 筆舌に尽くしがたいほど、複雑なプログラムで構成されていた。

 しかも、機材にアーツだか崩壊体だか、とにかくなんらかの影響があったのか、一部狂った文字列や、崩れたコードが含まれていたため、難解なソースコードを想像で埋めねばならない瞬間もあった。

「わわわ……」

 突然刻まれた謎の文字化けに、思わず声をあげてしまうくらい四苦八苦しながら、なんとかプログラムの修正は終わった。

 だが、一体これは何だというのだろう?

 プログラムの難解さと見たことのないプログラミング言語は勿論のことだが……なんというか、現行の技術ではとても作れないような基盤だった。

「……■■■■? 固有名詞までは流石に分かんないな……。何かの起動コードなのは分かるけど……方向と、座標の入力……?」

「――! それに触れるな!」

 座標に何か数字でも入れてみようかと手を伸ばしたところ、ケルシー医師の鋭い制止と共に、Mon3trが目の前に現れる。

「は、はい……」

「……すまない。先ほど言ったようにすべての責は私にある。疲労による判断ミスにより、君に本意でない修復作業を指示してしまったという過程を鑑みれば、君に何の瑕疵もないことは明らかだ。だが……それがすべてを帳消しにできるほど、その端末の存在は軽いものではない」

「え、えっと……」

 困惑している内に、ケルシー医師はすいすいと端末のディスプレイを弄る。

「完璧な修復だ。一部表示に変更もあるが、動作に支障はないだろう」

「それは……良かった。本当に。その基盤は、明らかに現代と過去の至宝ですから」

 微笑みを零すと、ケルシー医師は暫く検討した後にMon3trを脊椎に戻るよう命令した。

「君は……理解している。いや、理解しようと努めれば出来てしまう、と形容するのがより正確だ。だがこの技術はあまりにも……先進的、いや、旧時代的すぎる。君にはおそらくそれも理解できている。だからこそ、残念だが私の一存で君の行い、その理解を見逃すことはできない。このテラには、多くの人々が生きている。彼らすべてが当事者足りえる」

 ケルシー医師は座り込んだままの僕に手を差し伸べた。

「今日から君を私の補佐として、監視下に置かせてもらう。行動の殆どを同じくすることとなる。到底飲み込める事態ではないだろうが、君の協力なくしては不可能だ。難しい判断を要求していることは理解しているが……建設的な意見を求める」

 自分が修復したものが、過去のオーパーツであることは理解できていた。

 それが世界を揺るがすほどとは思わなかったが、そんな劇物をずっと隠し、検閲してきただろうケルシー医師の立場からして、これはロドスのトップシークレットでもあるだろう。

 殺されたって文句は言えない。ただでさえ僕は感染者で、放っておけば野垂れ死にするんだから。

 意思の確認など不要なのだが、これが彼女なりの誠意なのだと、僕にもわかっていた。

「ありがとうございます、ケルシー医師。これからはあなたのそばに。僕にできることなら、なんなりと」

 

 

***

 

 

 サーミへの遠征に当たって、僕は勿論ケルシーさんと共に設備搬入を行っていた。

 毎日新しい研究成果が、不可解にねじ曲がった異常付きで運びこまれる。

「解析結果は出たか? モノがモノだ。不可能だと判断すれば私に差し戻しても問題ない。そもそもが使用の予定もない兵器や、可能性の低い暴走を懸念したマシンばかりだ。急ぐ必要もない。それに先日……例のメモリコアを置いてきた。いずれは……人手も増える。君のような天才と呼ばれる人間たちが」

「問題ありません、ケルシーさん。僕ができる範囲のことですから」

「疲れているように見える。実際に十分な休息を差し置いてまで、それは君の取り組む価値があるものと判断しているのか?」

「いいえ――ただ」

 口を閉じて、目を閉じる。

 鉱石病になる前から、ウルサスの学者として生きていた。天才と持て囃され、何不自由することもなかった。何に手こずることも、分からないこともなかった。時間さえかければ全てを適切に、正しく、真っすぐに間違いなく証明できた。

 なんて、つまらない人生なのだ、と――絶望して、軍部の目を盗んで、自死を目論んだ。

 その果てが今なのだ。分からないものに囲まれ、分からない人のそばにいられる。

 分からないこと、知りたいことがたくさんあった。

「昔と違って……今は、楽しいです。僕、ケルシーさんと出会えて、本当に幸運だと思っています。ありがとうございます、ケルシーさん」

 噛みしめるように告げると、ケルシーさんはほんの少しだけ口元を緩めると、暖かいコーヒーの入ったマグカップを寄越してくれた。

「こちらこそ感謝を述べさせてほしい。君という協力者と出会えたことは、ロドスにとっても、幸運と形容できることだろう。勿論――私個人にとっても、だ」

 僕は耳を疑って、勢いよく手元から顔を上げたが、もうケルシーさんはこちらを向いていなかった。

 窓の向こうで、希少なメモリコアを発見したと運び込む人々を――彼らが建てた文明を――テラという星に生きる人々を、見つめていた。




サーミ楽しい!
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